柱合会議の翻訳係   作:知ったか豆腐

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2021/02/23 投稿

遅くなりました。


その40(無限城・崩壊)

 鬼舞辻無惨という鬼にとって自らの生存は何よりも優先される事柄だ。

 そのためならばどんな物を失ってもかまうことはしないだろう。どんな屈辱も耐えてみせるだろう。

 彼の中には「潔く死ぬ」とか「生き恥を晒す」などという考えは全く存在しない。

 

「ウッキ―!」

「おのれぇ、この猿畜生め!」

 

 ゆえに、城の中を鬼殺の猿から逃げ回っているのはなにも不思議じゃないのである。

 恥も外聞もないとはこのことだが、あながちこの判断が間違っていると言えないのも難しいところ。

 なにせこの鬼殺の猿こと闘勝丸の実績を見れば、上弦の参・猗窩座を皮切りに上弦の陸の片割れである堕姫やその他強力な鬼たちが討伐されているのだから。

 決して侮れる存在などではない。

 

『痣を出し、刀を赫く染めて襲い掛かってくる猿など何の冗談だ!』

 

 内心毒づく無惨。いやはや、ごもっとも。

 見た目とか能力とか、無惨に数百年前の悪夢の夜を思い出させるには十分すぎる要素が詰まっているわけであるからして。

 ついでに言うと彼は現在、珠世によって投与された謎の薬の分解に力を削がれて実力を出し切れる状態になっていないのも逃亡を選択した理由の一つだ。

 吸収してしまった以上いまさら排出する方法もなく、かといって放置しておくのは恐ろしい。

 処方した薬の説明もまともにしてくれなかった藪医者(珠世)の効果覿面な嫌がらせによって身体機能の何割かを薬の分解に割かねばならなくなったところに襲い掛かってきたのがこの猿なんだからよっぽど普段の行いが悪かったに違いない。

 

 実を言うとこの鬼が逃げる鬼ごっこ。無限城に鬼殺隊を誘い込んでほどなくして鬼殺の猿が現れたせいで、割と早い段階から続いていたりする。

 自分の領域に入って、肉の繭みたいな状態になって「薬の分解に集中するぞー」と思っていたところに鬼殺の猿登場。

 「こんにちは死ね」とばかりに一刀両断されたところからこの逃亡劇が始まってるってんだから、もう最初からクライマックスである。

 

 この鬼ごっこは本当に最初からずっと一方的だ。

 逃げ出した先にたむろしていた雑魚鬼たちにあの猿を殺せ! と、駆け抜けざまに命令を下した無惨。

 

「これで少しは時間が稼げるはずだ」

 

 そう思ってチラッと後ろを見れば、「ウッキ―!」と、瞬殺された配下たちの姿が。

 十秒、いや、五秒も稼げたか分からん。

 

「何をしている役立たずども!!」

 

 雑魚では話にならんと、鳴女に指示を出し強い鬼を呼び寄せることを瞬時に判断した。

 呼び寄せたのは黒死牟と鳴女を除いた復活させた上弦の鬼たちだ。

 倒された上弦の鬼の再現を目的に合成された鬼たちは十や二十などでは足りず、完成度の高い成功作を作り出されるまでに多くの試作・失敗作の“上弦もどき”が生み出されていた。

 オリジナルと比べることもおこがましい“出来損ない”たちだが、上弦の鬼を目標に作られただけあって下弦の鬼以上のスペックを持ち合わせている。

 いうなれば量産型の上弦の鬼。ある程度の“質”を維持した上で“量”が確保されているという新たな鬼側の戦力だった。

 これが無限城の中で猛威を振るっていれば鬼殺隊の被害は甚大なものになったに違いない。

 

“猿の呼吸 肆ノ型・懲斬墓至(ちょうさんぼし)

 

 まぁ、全部猿に倒されてしまったんですけどね。

 無限城という閉鎖空間を猿の身体を活かして縦横無尽動き回りあっという間に量産型の上弦という戦力を消滅させて見せてたり。

 偽童磨、偽猗窩座、偽半天狗に偽妓夫太郎・偽堕姫。それぞれ二~三体ほどいたのだが、三分も持たずに全滅である。

 

「ええい、あの猿は化物か!?」

 

 本物の鬼である無惨にそう言わしめるほど圧倒的な猿。

 マジでなんなんだろう……?

 この結果から『やはり出来損ないの量産型では駄目だ』と、考えた無惨。

 本人としては完成度の高い成功作たる再生上弦をぶつけることを決断する。

 もはや異常と言っていい強さを持つ猿を相手に、中途半端に数をぶつけるよりも質の高い個体をぶつけたほうが効果的だという考えは確かに正しい。

 だがしかし、その決断は遅きに失したとしか言いようがない。

 

『鳴女、童磨を呼べ!』

 

 広範囲高威力の血鬼術を使うことで面による攻撃と全集中の呼吸に対するメタを張れる童磨ならば猿を足止めできるはず。

 

『……死にました』

『なにィ!?』

 

 が、駄目……ッ! とっととくたばった童磨……。地獄行き……ッ!

 

『ならば猗窩座を――』

 

 身体能力を極め、純粋な武力で戦う猗窩座ならばたとえあの猿と言えど簡単に突破は出来ないはず。

 

『既に死んでます』

 

 猗窩座、炎柱との一騎打ちの末死亡。

 偽者なので当然のことながら頸を斬られてから復活などするはずもなし。残念!

 

『役立たずが! ……半天狗はどうした!?』

 

 一体で四体の鬼、半天狗。質の低さを連携でカバーすればなんとか……

 

『四鬼揃って鬼狩りから逃げているところです。……あ、いま死にました』

『逃げるな臆病者!』

 

 現在進行形で逃亡している自分のことを棚に上げて半天狗を罵る無惨。

 残っている再生上弦は陸のみだ。

 

『妓夫太郎と堕姫は! よもや死んだなどと言うまいな!!』

『……頸になりました』

『死んでおるではないか!』

 

 残ってなかった。全滅である。

 せっかく復活させた上弦がことごとく全滅していた。

 無限城に入ってからそんなに時間が経ったわけでもないのに鬼側の戦力はもうボロボロである。

 しょせん再生された上弦などは敗北者。

 頼りになるのは十二鬼月最強の上弦の壱しかあるまい。

 

『黒死牟! 早く鬼狩りを片付けてこちらにこ……い?』

 

 鬼同士の脳内対話によって黒死牟に呼びかけた瞬間。それはまさに黒死牟の頸が刎ねられたその時だった。

 あまりのことに絶句してしまう無惨。

 よりによって頼りにしていた黒死牟がやられたのだからむべなるかな。

 さいわいと言っていいのか頸の弱点を克服しようとしている気配があるものの、上弦の壱を倒せる鬼狩りがそれを放っておくとは考えにくい。

 やはり黒死牟を動かすことは無理だろう。

 

『残っているのは鳴女だけか……』

 

 直接的な戦闘能力の低い鳴女に猿を倒せるかと言われれば不可能だろう。

 彼女の真価は戦闘能力とは別のところにあるのだから。

 その真髄は広範囲の索敵能力に汎用性の高い空間操作系の血鬼術だ。

 

『そうか! その手があったか!!』

 

 その時……無惨に電流が走る……!

 冷静に考えれば猿を倒す必要などない。鳴女の能力でこの戦場から追い出してしまえばそれで事足りる。

 

『なぜこんな簡単なことを思いつかなかった。忌々しい耳飾りの剣士め! 私から冷静さを奪うか!』

 

 解決策がすぐに思い浮かばなかったのは縁壱のせいだと責任転嫁しつつ、自らのナイスアイデアにウキウキで鳴女に指示を飛ばす彼であった。

 が、しかし――

 

『鳴女、鳴女!』

『はい。いかがしましたか無惨さ――』

 

 本日何度目か分からない上司からの鬼電を億劫そうに受け取った鳴女。

 それが彼女の最期の返事であった。

 また面倒ごとだろうなぁ、という彼女の憂鬱は鬼狩りの手によって永遠に断ち切られたのである。

 おかけになった電話番号はたった今使われなくなりました。

 

『な、鳴女ー!?』

 

 残る手段も消えてしまい絶体絶命の無惨。

 しかし、生き残ることに執念を燃やす彼はこの土壇場で悪魔的な生存への答えを導き出した。

 

「フッ。ならばこの城などくれてやる鬼狩り共。貴様らの墓場としてな!」

 

 鳴女が消滅しきる直前に彼女を操り目の前に出口を作って一人城の外に出た。

 彼が外に出た瞬間に、即座に消える出口。

 鳴女が消滅し、出口のない無限城の中で崩壊に巻き込まれて鬼狩りは死に絶えるしかない。

 

「フッ、ククク、クハハハハハ! やはり勝つのは私だったようだな!」

 

 己の生存を確信して喜ぶ無惨。

 人気のない郊外に彼の高笑いが響き渡っている。だが、それも長くは続かない。

 ガサゴソと草むらの揺れる音がする。

 

「む、誰だ!」

 

 誰もいないはずなのに気配を感じて振り返った。

 そこにいたのは……

 

「ウキ?」

「なんだ、猿か。驚かせるな…………猿だと!?」

 

 思わず二度見してしまったり。

 なんだ猿かじゃないんだよ。その猿がヤバいんだよ。

 脱出不可能のはずなのになぜここに猿がまたいるのか!

 

 混乱する無惨だが、さらに状況は悪くなっていく。

 

「見つけたぞ! 鬼舞辻無惨!!」

 

 現れたのは忌々しい耳飾りを付けた少年剣士・竈門炭治郎。

 いや、彼だけではない。

 

「南無阿弥陀仏……決着の時だ。無惨」

「鬼の親玉か。派手に殺してやろうじゃないか」

「悪鬼滅殺……てめェは絶対殺してやるぜェ」

「先祖代々の責務、ここで果たさせてもらう!」

「あなたを倒してみんなで幸せになるんだから!」

甘露寺のために……死ね」

「お前を倒せば、全部終わりなんだろ?」

 

 七人の柱が無惨を包囲していた。

 さらに柱に加えて次々と鬼殺隊の剣士たちが集まり始めている。

 鬼殺隊の残る総戦力が今、無惨の前に集結しようとしているのだ。

 

「何が、いったい何が起きている!?」

 


 

 崩壊する無限城。そこはわずかな油断が命取りとなる危険な場所へと変貌していた。

 足を踏み外せば奈落の底への自由落下が待っており、崩落する瓦礫は当たれば命に届く質量を伴って降り注いでくる。

 最悪なことに無惨の命令で死兵と化した鬼たちは相討ち上等とばかりに心中じみた攻撃を仕掛けてくる。

 出口も分からぬ絶望的な状況だが、しかし鬼殺隊の隊士たちは諦めることなく生存に向けてあがくのをやめていなかった。

 

「おい、みんな無事か?」

「ああ、なんとかな!」

「まだ生きてる!」

 

 崩れ落ちる足場から逃げつつ互いの安否を確認する隊士達。

 同じ釜の飯を食い、地獄の訓練を共に受けた仲間たちだけあって互いの名前と顔はしっかりと覚えていた。

 

「待て、村田の奴がいないぞ!?」

「いや、隣にいるんだけど」

 

 ゆえに誰かがいなくなればすぐに分かるようになっていた。

 先ほどまでいた仲間の一人が見当たらず慌てる一同。

 

「まさか、落ちたのか! あいつ」

「そんな……せっかく上弦を倒すなんて大金星を挙げたのに!」

 

 仲間を失ったと思い嘆く隊士二人に衝撃が走る。

 

「さっきからここにいるって言ってるだろ!」

「「痛て!?」」

 

 極めて物理的な衝撃が。具体的にはげんこつである。

 

「うわ! 驚かせるなよ、こんな時に気配消すなよな」

「消してねえ! 悪かったな、気配が薄くて!」

 

 ずっと隣にいたのに気付いてもらえなかった上に、幽霊でも見たような反応をされて地味に傷ついた村田であった。

 一方、もう一人の隊士はといえば涙目になって村田の生存を喜んでいた。

 

「良かった。てっきり俺はお前が死んだかと思って……」

「その、なんか悪かったな。影が薄くて」

 

 こう素直に謝られると逆に申し訳なくなる。罪悪感でちょっと傷ついた村田であった。

 そんなささやかなやり取りをしている間にも崩壊は進んでいく。

 逃げ場が無くなり窮地の三人だったが、そんな彼らの前に突如血鬼術による両開きの戸が出現した。

 

 罠か?

 

 そんな疑念が頭をよぎるがもはや迷う暇などは無かった。

 

「くっそぉ! もうどうにでもなれ!」

 

 半ばやけくそぎみに飛び込む三人。

 次に彼らが目にしたのは月明かりの照らす田舎道の上だった。

 

「外だ……助かったのか?」

 

 安堵のため息を吐く胸をなでおろす。

 しかし状況は彼らに束の間の休息も与えてはくれないようで、すぐそばに鎹鴉が舞い降りて伝令を伝えてきた。

 

『カアア! 闘勝丸、及ビ柱ガ鬼舞辻無残ト交戦中! 至急、援護ニ向カエ!』

 

 長年探し続けた宿敵がすぐ近くにいる。

 そう聞いて休んでいられるような者は鬼殺隊にはいるはずもない。

 

「……行こう」

 

 村田の言葉に無言で立ち上がる。

 今宵こそ、決着の時。

 


 

 鳴女の血鬼術を使い鬼殺隊を城の崩壊から救い、無惨のもとへ戦力を集めている何者かがいる。

 実のところこれはかなりの異常事態だ。

 そもそも血鬼術とは各鬼がそれぞれ独自に進化したことで身に着ける異能であるため、類似の能力はあってもまったく同一の能力は基本的に存在しない。

 死んだ鳴女と同じ血鬼術を使っているということ自体が普通ではありえないことなのだ。

 とはいえ同じ血鬼術を複数の存在が使えるようになる手段がないわけでもない。

 一つは血鬼術の主が意図的にその能力を分与する場合だ。

 例を挙げれば下弦の伍・累が擬似家族にしていた鬼に自らの能力を分け与えていたという事例がある。

 しかし、今回は鳴女が能力を分け与えていた鬼は存在せず、仮にいたとしても鬼殺隊に味方などするはずがない。

 

 考えられるのはもう一つの可能性。

 その鬼の一部を取り込むことで能力も一緒に取り込んだ場合だ。

 今回の場合は鳴女の一部を取り込んだ者、言い換えれば彼女の血肉を喰らった者が鬼殺隊を救った張本人だ。

 その正体とは――

 

「ケーン!」

 

 翼を広げ雄々しく羽ばたく一匹の雉。

 そう、結一郎がお供の一匹である碧彦だった。

 鳴女の分体をおやつに食いまくっていた彼は、鬼の血肉を摂取しまくったことで鬼化してしまった上に鳴女の血鬼術すらも身に着けてしまっていたのであった。

 

 余談だが、動物の鬼化は珠世が長年研究を続けてようやく実現できるようになっていたりする。

 その百年単位の研究をこの雉は鬼を喰いまくるというトンデモ行為によってあっさり成し遂げてしまっているのだ。

 ……やっぱりこいつが一番お供の中でヤベー奴では?

 

「ケンケン!(全員、脱出完了!)」

 

 雉の異常性は置いておくとして、ひとまず生き残っていた鬼殺隊の全員が脱出できた。

 城に残っているのは鬼だけだ。そして城は今や碧彦の領域になっている。

 つまり?

 

「ケーン!(食べ放題だー!)」

 

 残っている鬼は全員彼の晩御飯に成り果てた。

 鬼は全滅した(おのこしはなかった)

 

 


 

 黒死牟と対峙していた結一郎、善逸、冨岡の三人は無事に城から脱出することに成功していた。

 だが、彼らの表情は決して明るくない。

 

「嘘でしょ……」

 

 顔を青ざめさせながらも刀を握る善逸。

 

「しつこい! 嫌になりますね!」

 

 疲労から感情が荒れているのか、少々嫌気がさしたように吐き捨てる結一郎。

 

「……構えろ」

 

 傷の痛みに耐えながら冷静に刀を構える義勇。

 三者三様の彼らだが、見つめる先は同じだった。

 脱出した際に潜り抜けた血鬼術の開き戸。

 その奥に置き去りにしたと思った黒死牟は閉じたはずの戸をこじ開けながらこちらに姿を現そうとしていたのだ。

 

「鬼狩り共……決して……逃がさぬ!!」

 

 六眼六腕の異形の悪鬼が地上に這い出てくる。

 激闘はまだ終わりを告げてはいなかった。

 




仕事が繁忙期で執筆への気力がなかなかわかずにこんなに遅くなりました。
ちょっとは仕事が落ち着いたのでペースを上げていきたいところです。

今回は、ちょくちょく感想で話題になっていたお供の猿がメインでした。
無惨の頸を狙いにいっていたと予想しておられた方いましたね。正解です!

そして無限城からの脱出方法は雉による無限城のアカウント乗っ取りでした。
鳴女さんは泣いていいと思います。はい。

次回、黒死牟との決着。義手のギミックが活躍の予定です!
お楽しみに!

結一郎の左腕のギミックは?

  • 仕込み忍具
  • ロケットパンチ
  • イノセンス
  • サイコガン
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