柱合会議の翻訳係   作:知ったか豆腐

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2021/3/2 投稿


その41(決着)

 鬼殺隊にとっての勝利とは一体何だろうか?

 それは鬼舞辻無惨の討伐にほかならない。

 たとえどれだけの配下の鬼を倒そうとも、無惨に逃げられてしまえばすべてが水の泡となってしまう。

 その絶対の勝利条件を達成するために、結一郎たちは困難な試練に挑むこととなった。

 

『カアア! 鬼舞辻無惨ト柱タチガ交戦開始! 交戦開始ィ!』

 

 鎹鴉が告げる仲間たちの最終決戦の報告を聞いた三人の役目は定まった。

 それは黒死牟と無惨の合流の阻止だ。

 この目の前にいる恐るべき上弦の壱が鬼の始祖と合流することになれば、無惨討伐という勝利条件は限りなく遠くなるに違いない。

 三人は黒死牟をここで足止めしなければならない。つまりはヤツを相手に積極的な攻勢をかける必要が出てきたということだ。

 先ほどまで防戦一方だった相手。しかも無尽蔵の体力と驚異的な再生能力を持ち、頸の弱点すら克服したこの凶悪な鬼をたった三人で日の出まで攻撃し続けなければならないのだから困難極まる事態と言えよう。

 

「もはや出し惜しみはなしです!」

 

 この無理難題を前にして、結一郎はついに切り札を使うことを決断した。

 

『無惨は皆が、仲間たちが必ず倒してくれます!』

 

 対無惨のためにひたすら温存しておいた切り札を、仲間を信じて、仲間のために使うことを決めた結一郎。

 左腕の義手を弄り、仕掛けを作動させた。

 それは一度きりしか使えない上に、使用時間も限られており、使った後は義手が機能停止するという使い勝手の悪いもの。しかし、それでいて一度使用すれば一気に形成を逆転できる可能性を持ったシロモノだった。

 

 義手の仕掛けが起動し、指の関節が軋みをたてながら刀の柄を万力のごとく締めあげる。

 その過負荷によって内部機構に発熱が生じ、潤滑油などの可燃物に着火して火の粉が舞い始めた。

 加圧と加熱。その二つの効果によって、結一郎の日輪刀が赤く、否、(あか)く染まる。

 

 それはかつて日の呼吸の剣士が使い、鬼の再生能力を阻害し、無惨すらも追い詰めたとされる赫刀と呼ばれる現象だ。

 日の呼吸に関するものであると考えられてはいたものの、日の呼吸の剣士以外に使えた者はおらず、記録も残っていないという長らく詳細不明であったもの。

 それを結一郎は義手の機能として実装することに成功していたのだった。

 ほとんど伝説上のものと言ってもいい赫刀を結一郎が発見できたのはまさに偶然の産物。それも義手の試作が失敗したことが原因で見つけたものだったりする。

 刀鍛冶の里で小鉄と試作品を試していた時に、刀を握る強さの設定を間違えたことで加熱と加圧が日輪刀に加えられ、たまたま赫刀が発現することを発見したことが発端だ。

 その偶然を、幸いと言うべきか当代の絡繰り職人である小鉄はふいにすることなく自らの知識として吸収することに成功。

 状況から条件を仮定し、幾度かの実験を経て実装に至ったのだった。

 その効果は既に結一郎が発現させ、炭治郎の手に渡った赫刀が半天狗を両断したことで実証されている。

 まさしく再生能力という鬼の優位を消し去る切り札だ。

 

 だが、赫刀の原理も知らない黒死牟にとっては赫く染まったその刀は認めがたいものでしかない。

 

『日の呼吸の剣士でもない者が刀を赫く染めるだと!? 絡繰りに頼ったソレが縁壱と同じもののはずがない!』

 

 赫刀は日の呼吸の剣士の御業の一つだと、そう信仰している黒死牟にとって仕掛けで発現したソレは同一のものとは認められなかった。

 そんなものは贋物だ。

 黒死牟のそんな思いは、あくまで願望や妄執でしかない。彼はそれを身をもって思い知ることとなる。

 

「セアッ!」

「……馬鹿な!?」

 

 真っ直ぐ踏み込んできた結一郎の攻撃が、防御した黒死牟の刀ごと左脇部の副腕ごと断ち切る。

 焼け付くような激痛と一向に再生しない傷口がその効果が本物であることを物語っていた。

 

『ふざけるな! 何故、貴様がそれを使える!』

 

 怒り、憎悪、そして嫉妬。

 瞬間、黒死牟に湧き上がったのは暗い感情だった。

 ついぞ己が使うことができなかった、縁壱の刀。それを己よりも才の劣る後の時代のものが使っているのだ。

 心乱れる黒死牟だが、さらに彼を動揺させる現実が畳みかけてくる。

 

「シイィィ!」“雷の呼吸 壱ノ型・霹靂一閃”

「ウオオオオ!」“水の呼吸 肆ノ型・打ち潮(うちしお)

 

 結一郎の後に続くように斬りかかる善逸と義勇の日輪刀もまた赫く染まっていた。

 なんのことはない。赫刀の発現条件は既に判明しており、そのための絡繰りも作られている。

 ならばその絡繰りが量産されていても何の不思議でもないだろう。

 

 善逸と義勇が走り去った後に転がる筒状の絡繰り。それこそが、量産された赫刀発現装置だ。

 柄に取り付けて使う、加熱と加圧のみの機能を備えた使い捨ての装備は剣士たちに一人一つ与えられており、各自の判断で使うことができるようになっている。

 もう赫刀は神の御技などではない。鬼殺隊の剣士が一人一度使える切り札になったのだ。

 

 結一郎と同じく今が使い時とした二人の判断は正しく、動揺する黒死牟に見事手傷を与えた。

 善逸の神速の一太刀は黒死牟の右肩部の副腕を断ち切り、義勇の流れるような攻撃は黒死牟の得物の大太刀を半ばから叩き折って再生不能にしてみせた。

 再生阻害により戦闘能力を削られる黒死牟。

 赫刀により跳ね上がった攻撃力は、鬼側に傾いていた戦局を鬼狩り側に一気に押し返すことに成功する。

 だが、それも拮抗状態に持ち込むまでが限界だったが。

 

「ガアアアア!!」

 

 咆哮と共に斬撃が四方八方に放たれ、見境なしに周囲を切り刻む。

 防御も出来ず、再生能力も封じられた黒死牟の取った手段は攻めの一手。

 圧倒的な間合いと範囲を誇る血鬼術で三人が接近することすら許さない。

 頸の弱点を克服した黒死牟すらも殺しうる可能性を持った赫刀だが、当てることができなければどうしようもないのだから。

 

 黒死牟の攻撃をかいくぐり攻撃を当てる。

 

 言葉にすれば簡単だが、それはとても至難の道だ。

 副腕を二本失い、主力となる得物も半ばに折られたことで、一時よりは攻撃の激しさは落ちたものの、それでも回避に全力を注がねば瞬殺されるであろう猛攻だった。

 結一郎たちはその猛攻に攻めあぐね、黒死牟は攻撃の手を緩めれば三人が再生不能の傷を与えてくるという拮抗状態。

 その拮抗を打破したのは、やはりと言うべきか結一郎だった。

 

『ようやく、掴めてきました』

 

 強敵と戦う中で研ぎ澄まされる感覚が結一郎を一つ上の境地に導いていく。

 多くの師から教えを受け、多くの戦いの経験を積んだ先にある自分だけの極み。到達点。

 結一郎はそこに今届く確信を得た。

 

 

 

『愚かな……焦りか?』

 

 回避から一転して踏み込んでくる挙動を結一郎から察知した黒死牟は、その不用意さを蔑んだ。

 他人の筋骨の動きから血流の動きにいたるまで透かし見るように把握することのできる境地“透き通る世界”を習得している黒死牟の先読みは常に相手の先の先を取り続けるほどのもの。

 そんな彼からすれば結一郎の動きは無謀なものでしかない。

 命の奪い合いの圧力に耐えきれず、迂闊に動いて死んでいった者など飽きるほど見てきた。

 結一郎もその一人。そうとしか感じられなかった。

 

“月の呼吸 拾陸ノ型・月虹・片割れ月(げっこう かたわれづき)

 

()った』

 

 結一郎を殺したという確信。しかし、それは次の瞬間に裏切られることとなる。

 

「な……にッ!?」

 

 焼けるような激痛。

 斬られた! そう認識したときには左肩部の副腕が地面に転がっていた。

 それを成したのは当然、結一郎だ。

 

 確実に殺したと思ったはずの結一郎が生きていて、あまつさえ己に反撃すらしてみせた異常事態。

 黒死牟が思い浮かんだのは結一郎が己と同じ境地に至ったという可能性。

 だが、それはありえないはずだった。

 痣を発現させ、身体能力を極めた先にのみたどり着ける境地が“透き通る世界”だ。

 黒死牟の目に映る結一郎には痣など出ていなかった。

 

「痣者でもない貴様がなぜ“透き通る世界”に入れる!」

「知りませんよ、そんな世界」

 

 怒号と共に振り下ろした一刀はまたも空を裂き、逆に残っていた副腕が斬り飛ばされている。

 強者の中でも一握りしか入ることのできない領域である“透き通る世界”を凌駕しているように見える結一郎。

 

『何故だ。なぜこやつのいないところを斬ってしまう? いや、斬らされたのか!?』

 

 長年の戦闘経験から、その仕組みに感付く黒死牟。

 看破した事実は彼を驚愕させるに足るものであった。

 

『ヤツは私に動きを読まれることを前提とした上で、無駄な攻撃を誘ったというのか!?』

 

 結一郎がやったことは己の動きによって相手の行動を縛るというもの。

 相手の意識を誘導することで無駄な行動を起こさせ、その隙を捉えるというものだ。

 まさに心を読むことを極めた結一郎の境地。

 心を誘導し、相手の攻撃の機を奪う戦い方。“天の時”を自在にする境地だ。

 

『その上で、やつが攻撃する時に私は認識することができなかった……!』

 

 それだけではない。

 結一郎は相手の意識の向いていない部分、いうなれば『意識の隙』を認識できるようになっていた。

 相手の意識の向いていないところに常に位置取り、意識の外から回避不能の攻撃を行う“地の利”の剣だ。

 

 この天と地を味方にしたことで黒死牟のすべてを見透かす目を凌駕した結一郎。

 それは黒死牟にとって絶殺すべき存在に他ならない。

 

『認められぬ! 縁壱(最強)の境地を超える存在などあってはならない!!』

 

 己が最強に執着する鬼は、目の前の人間の境地をまた凌駕せんとすべての意識を集中させた。

 もはや意地というよりも執念に等しい。

 

「捉えたぞ、小童!」

 

 結一郎の仕掛ける虚を見破り、ついに実像を捉える黒死牟。

 その行為そのものが間違いだったと知ることもなく。

 

“水の呼吸 捌ノ型・滝壷(たきつぼ)

“雷の呼吸 漆ノ型・火雷神(ほのいかづちのかみ)

 

「ガッ……!?」

 

 黒死牟を水と雷が切り裂いた。

 

「迂闊ですね。僕だけしか見ていないとは」

 

 二人の作った隙を逃すはずもなく、結一郎もまた刃を振るう。

 三人の刃はそれぞれ黒死牟の胴を割り、右足と左腕を奪う成果を上げてみせた。

 

 これこそが結一郎の境地の真髄だ。

 敵の意識が否応なく自分に向くことで、味方を最大限に活かすこと。

 仲間の存在を、協力・団結を前提とした立ち回りこそが真の強みであった。

 

 孟子曰く、『天の時は地の利に如かず。地の利は人の和に如かず』

 天地の剣をその手に納めながらも仲間の力に頼った結一郎の境地こそ“人の和”。

 そんな“人”の剣を前に、人を捨てた鬼は敗れ去ろうとしている。

 

 

『まだだ! これ以上、目の前で仲間を失ってたまるか!』

 

 三人の中で一番重傷である義勇が動けている理由。

 それは過去の後悔と今抱く誇り、そして未来への希望だ。

 姉と親友を自らの前で失った後悔を繰り返さないために鍛え上げ築いた水柱としての立場と誇りにかけて仲間が戦っているうちは倒れるわけにはいかなかった。

 それでもくじけそうになる心をを奮い立たせてくれているのは、未来で待つ希望のため。

 

“水の呼吸 拾ノ型・生生流転(せいせいるてん)

 

 

 

 

 黒死牟の猛攻を回避するために全力で走り続けた善逸の限界は近かった。

 酷使し続けている脚もそうだが、彼の居合にも陰りが見えていた。

 というのも、少なからず刀身に変化をもたらす赫刀での居合は、普段との感覚のズレを引き起こしていたのだ。

 一瞬の隙が命取りとなるこの戦いにおいて、善逸はついに抜き身の刀を振るうことを決意する。

 

『獪岳! 今だけでいい、俺に力を貸してくれ!』

 

 兄弟子を思い出し、その刀を振るう。

 

“雷の呼吸 陸ノ型・電轟雷轟(でんごうらいごう)

 

 

 

 

『マズい。思ったよりも限界が近い!』

 

 内心で焦りの声を上げる結一郎。

 過負荷をかけ続けている義手の動きが鈍ってきている。

 もうすぐこの左腕は刀を握り、熱を加えるだけの木偶と化すだろう。

 

『動けるうちに一太刀でも!』

 

 もはや型もなく、真っ直ぐに刀を突き立てる。

 

 

 

 かくして黒死牟は体を水の龍に削られ、鳴り響く雷鳴に断ち切られ、最後にただの愚直な突きによって心臓を刺し貫かれる。

 太陽の熱を帯びた刀によって再生を妨げられた鬼の身体は、ついに限界を迎えた。

 

「私の……負け、か?」

 

 体は崩壊をはじめ、地に立つ足も刀を振るう腕も失い、心臓に突きつけられた赫刀が残りの力を奪っていく。

 ことここに至っては黒死牟も敗北を認めざるを得なかった。

 己の求めた最強とはまた違う別の最強を見せつけられ、彼の心は折れてしまっている。

 

「ええ、あなたの負けです!」

「ぐふっ」

 

 なおも油断なく動かなくなった左腕の代わりに右手で柄の頭を押し込み、さらに黒死牟に刃を深く突き立てて結一郎は宣言する。

 血を吐く黒死牟は嘆くように問う。

 

「何故、だ。家を捨て、妻子を捨て、人を捨てた……なのになぜ私はたどりつけない」

 

 なぜ何者にもなれないのかと嘆く黒死牟。

 その言葉を聞いた結一郎は何を思うのだろうか。

 

「道を極めた者が行きつく先は同じだと……あやつは私に言ったのだ……なのに、何故……」

「お前と一緒にするな。外道」

 

 それは冷徹な一言だった。

 人の道を踏み外しておいて、道を極めたなどと笑わせる。

 黒死牟の身勝手な願望に対して、結一郎はわずかに憎悪を滲ませて言う。

 

「最強なんてただの言葉でしょうに。そんなもののために、よくもまぁ人を殺し続けてくれたものです!」

 

 結一郎にとって剣など握ることなく過ごしていたかったのだ。

 その剣のためにすべてを捨てた黒死牟とは、わかり合えるはずもなかった。

 

「そう……か」

 

 黒死牟も互いの価値観の違いを察して口を閉じる。

 もはや何を言っても平行線でしかないのだろう。

 そこにあるのは勝者と敗者という立場だけだ。

 

「せめてもの慈悲です。最後に言い残す言葉は?」

 

 あくまで勝者の立場から敗者に向けて言葉を放つ結一郎。

 黒死牟の最期の心残り。それは――――

 

「……あの日記は消してくれ」

 

 そう言い残し塵と消える黒死牟。

 思わず肩の力が抜ける結一郎だったり。

 

「そんな恥があるなら……最初から鬼なんかになるな馬鹿野郎!!」

 

 地獄に落ちろ。

 珍しく悪態をつく結一郎であった。

 

 

 

 

オマケ「アンケート結果」

 

 結一郎が左腕に手を掛け引き抜く。

 中から現れたのは黒く鈍色に光る銃身。

 彼の精神エネルギーを弾丸として放つ銃は、その意思を引き金に光線を迸らせた。

 

「これで、どうだ!!」

「ぐっ!」

 

 黒死牟に熱量を持った精神エネルギーが直撃し、彼の肉体を激しく燃え上がらせる。

 これで黒死牟も終わりだ。

 

 ――とはならなかった。

 

「な、なんです。その体は!?」

 

 驚愕の声を上げる結一郎。

 皮膚と肉が焼け落ちてその下から現れた黒死牟の姿。

 それは内部の金色に輝く骨格が丸見えになっている透明なボディの恐ろしい姿だった。

 

「無駄だ……私の身体は特殊偏光ガラスでできている。貴様のその銃は効かん!」

 

 十二鬼月。上弦の壱。

 その正体、その真の名は『クリスタル・黒死牟』!?

 

抜かねば無作法 → そんなことより

 

 結一郎の左腕がサイコガン。 ⇒結一郎の左腕を奪った男 ⇒ 黒死牟

 じゃあ、黒死牟をクリスタルボーイにするしかないじゃん!

 なお、決着の付け方的に左腕のロケットパンチも回収出来たり?




黒死牟戦決着です。
割とシリアスばっかりでやりづらいことこの上なかったです。
とりあえず、結一郎の名前的に最後は“人の和”で締めたかったのでいろいろと理屈をこねくり回しました。
無理やり感がありますが、まぁ、個人的には満足です。

オマケは圧倒的に宇宙海賊の勝利で笑ってました。


次回で無惨の最期。
次々回でエピローグの予定です。
もう暫くお付き合いください。
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