お待たせしました。無惨の最期です。
黒死牟がシリアスしすぎたので無惨はギャグマシマシです。
千年もの間、ろくに正体を見せることなく隠れ潜んできた鬼舞辻無惨だが、けっして弱いわけではない。むしろ並の鬼など比べものにならないほどの強敵だ。
本人が『限りなく完璧に近い生物』であると豪語する通り、人間などよりも一段も二段も生物としての格は上に数えられるだろう。
極端な話、その怪物的な身体能力に任せて鞭のように変化させた腕を振り回すだけでたいていの相手を瞬殺できてしまうのだ。
上弦の鬼以上の怪力と上弦の鬼以上の再生能力という不死性を兼ね備えた、冗談みたいな化物こそ、鬼舞辻無惨という生物である。
そんな化物が今、ついに追い詰められる時がきているのだ。
……主に猿と雉によって!
“猿の呼吸 壱ノ型・猿飛”
闘勝丸が跳躍と共に刀を振るい、無惨の触腕を斬り落とす。
目にもとまらぬほどの速さで振るわれ、当たれば細胞を破壊する毒血を流し込まれる恐ろしい無惨の攻撃も闘勝丸の前では形無しだった。
無惨をして仕留めきれなかった存在など、日の呼吸の剣士以来である。
……もしかして、この猿って縁壱並に強いのでは?
「貴様のような猿が何故この世にいる! 化物め!」
嫌な予感に無惨の背筋がゾッと寒くなる。
鬼の中の鬼である無惨が化物呼ばわりするっていったい?
「てめェがいうんじゃねェ!」“風の呼吸 伍ノ型・
ちょっと同意したくなりつつも、鬼のお前が言うなと斬りかかる実弥。
真っ直ぐに振り下ろされた赫刀は無惨の脳天を叩き斬って見せた。
普通の人間なら、いや、雑魚鬼ならば死んでいるような攻撃も無惨には数秒あれば治ってしまう傷でしかない。
怯む様子も見せず即座に反撃も可能だった。
刀の届くこの近距離では超高速の無惨の攻撃を躱すことなど不可能。このままでは実弥の死は確実。
そんな悲惨な未来を、実弥は突然現れた戸口に飛び込むことで回避する。
空間を繋ぐ血鬼術。そんな稀有な能力を使える存在はもはや彼だけしかいない。
「また貴様か! 忌々しい鳥め!」
「ウルセェ、丸カジリニスンゾ!」
無惨に睨みつけられても平然と返事をする雉・碧彦こそ実弥を危機を救った正体である。
……いや待て、こいつ本当に雉か?
普通に雉が人語を理解して喋っている時点でも頭がおかしくなりそうなのだが、鬼を喰いまくった影響で姿形が大きく変わってしまっているのがヤバい。
まずその体の大きさからしておかしい。
体長は約4メートル、体高は行冥と並ぶほどの約2メートルほどという元の雉からはありえないほど巨大化している。
また、嘴はより肉食に適した形に進化したのか牙の生えそろった口に変化し、脚も太く、鋭い鉤爪をそなえた攻撃的なフォルムに変わっていた。
まるで原鳥類を通り越して二足歩行の恐竜である獣脚類にまで先祖返りしたかのようで。
これが雉の姿か? 大正時代に白亜紀あたりの生物が紛れ込んだとかじゃないよな!?
こんな現実離れした存在が人語で話しかけてくるとか、下手したら
だが、ここにいるのは鬼なんてトンデモ生物と戦い続けてきた猛者たちばかりなわけで。
「助かったぜェ! 感謝してやる!」
「イイッテコトヨ!」
「ははっ! 派手に便利な奴だな!」
「うむ! さすがは結一郎のお供だけあるな!」
見るからにヤバい生物を相手に普通に会話を交わす実弥と天元、そして杏寿郎。
彼らの精神は鋼でできているのだろうか?
「なんで普通に話をしてるの? 絶対雉じゃないよね!?」
そう呟くのは最年少の柱である無一郎だ。
これは彼が未熟だからとかそういうわけじゃない。むしろ彼の感覚の方が一般であろう。
ただ、そういうことは口にしてしまったのは彼の未熟さゆえであろう。
「雉ダヨ?」
「えっ?」
耳聡くその呟きを拾った碧彦がクルッと突如首を向けて話しかけてきたのだ。
怪生物に話しかけられて心臓が跳ね上がる無一郎。
「ドウ見タッテ雉ダロ?」
「え、う、うん。ソウダネ?」
人とは違う無機質な瞳に見つめられて、ドギマギしてなおざりな返事をしてしまう。
だが、碧彦はそれで満足したようでまた戦闘に戻っていったのだった。
「ゆ、夢に出てきそう……」
災難だったね、無一郎君。
ヤバい生物になってしまった碧彦。だが、彼の行動原理は相変わらず食欲優先。
獲物はもちろん無惨だ。
「鬼ヲ喰ウノハ、オイシイ! オイシイ!」
「やめろ、そのような目で私を見るな!」
人間を自らの食料としてしか見てこなかった無惨が、怪生物からエサを見るような視線に晒されるという皮肉な事態。
あまりにもカオスだ。
「なんだ? 鬼って食えたのか?」
「やめて伊之助。そんなの食べようとしないで!」
カオスにさらに火を注ぐのが、割と食欲に忠実な伊之助であった。
慌ててカナヲがツッコミを入れていて、こんな時だけれど彼女の成長を感じられる一幕だ。
頑張れカナヲ。本来のツッコミ役である煩い金髪は不在なんだ。
「そうだぞ、伊之助。あんなの食べたらお腹を壊すぞ!」
「炭治郎炭治郎、気にするところそこじゃないよ。そもそも食べようとすることがおかしいと思って!?」
ついでとばかりに炭治郎が天然でボケてくるから困ったもので。
頑張れカナヲ! 本来のツッコミ役は不在なんだァ!
「貴様ら、いい加減にしろ!」
失礼を通り越して無礼な会話にキレる無惨。
自分のことを指して完全にゲテモノ食材扱いされればさもありなん。
「うまそう」とか「まずそう」とかそういうブラックなジョークはやめろ! えっ? 雉は冗談じゃない?
ちなみにだが、現場で治療行為を行っていた珠世がこの会話の流れ弾をくらってツボったらしく、腹を抱えて動けなくなる珍事があったとのこと。
珠世様が楽しそうで何よりです。
千年以上生きてきてここまでコケにしてきた相手に出会ったことなど初めての無惨は、当然のごとく怒り狂っていた。
それこそ、体力の消耗が激しい大技を後先考えずに使うほどにはプッツンしてしまっていた。
雷鳴のような轟音。そして衝撃波――
胴を丸ごと顎に変化させて放った正体不明の血鬼術は無惨を囲んでいた剣士たちを昏倒に追い込んだ。
ほぼ前兆も感じられないその術の効果は絶大で、その奇襲を逃れられたのはごくわずか。
鋭敏な肌感覚で危機をいち早く察せた伊之助。長年の勘でとっさに型を放ち相殺した行冥。そばにいた小芭内が身を挺して庇ったことで無事だった蜜璃。
この三人だけだ。鬼殺の猿すら行動不能に陥ってしまっている。
「おい、ハナオ。炭治郎! しっかりしやがれ!」
「また私のせいで……小芭内さん!」
「無一郎、大丈夫か?」
伊之助がカナヲと炭治郎を、蜜璃が小芭内を、行冥が近くにいた無一郎を抱え一時退避をする。
残る柱たちを助ける余裕がない。焦燥にかられる行冥であったが、その心配は杞憂に終わった。
「ええい、珠世様が動けない時にまとめてやられるんじゃない!」
「ご、ごめんなさいね。愈史郎。す、すぐおさまるから……フフッ!」
「いえ、問題ありません! 俺にお任せを!」
視線を移せばそこには碧彦の血鬼術によって回収され、ペイッと無造作に放り出されて積み重なっている風・音・炎の柱たちの姿があった。
命拾いしたのはいいが、図体のでかい男三人が積み重なっている光景はシュールすぎる。
真面目にやれ!
『おのれ、鳥風情が! まあいい。猿も動けなくなった今が好機だ』
柱を殺せなかったのは惜しいが、一時的に攻撃が止んだことは上々の成果と考え直した無惨。
周囲には戦いについていけず、せめて包囲網を敷いている鬼殺隊の剣士たちがいる。だが、そんなものは無惨からしてみればあってないようなもの。
『逃げ切れる!』
そんな無惨の確信は、しかし、またも碧彦によって打ち破られることとなる。
「ガッ!? コフッ……」
走り出そうとした無惨の胸を後ろから耳障りな高音をたてながら閃光が貫いた。
激痛に思わず膝を着く無惨。
“血鬼術 超音波
碧彦の口から放たれた光刃。
それは音叉状の骨格を形成し、その骨格から生み出される超高速振動を血鬼術の刃にのせて放つ異能。
月光やぶる鬼滅の音波。
「傷が……治らんだと!?」
鋼をも容易く切り裂く切れ味を持つのみならず、血鬼術の効果として鬼の細胞の再生を阻害する効果すら持っていた。
とうとう怪光線を吐くようになってしまった碧彦。
実は捕食を繰り返して進化していく生物兵器とかじゃあるまいな?
「イタダキマース!」
気味の悪い声を上げながら怪鳥・碧彦が無惨を捕食するべく走り迫る。
「ええい、寄るな化物!」
「危ネエナ!」
むろん黙って食われるような無惨ではなく、伸ばした腕を振り回し抵抗する。
その反撃は当たらず、碧彦は羽ばたいて宙に躱してしまった。
手の届かぬ空中から己を見下ろす碧彦を忌々しく見つめる無惨。
あまりにも存在感のあるこの怪鳥を相手にしていては無理な話なのかもしれないが、無惨はここでミスを犯した。
無惨は忘れていた。彼を先ほどまで追いつめていたのは碧彦ではないということを……
「ウキィ……」
深く息を吸い込み呼吸の精度を上げる。
体温がさらに上昇し、その熱は強く握りしめた刀に伝わって刀身を赫く、赫く染めていく。
そうやってため込んでいた力を開放するように、勢いよく飛び出していく闘勝丸。
その踏み込みは炎のように力強く、雷光のごとく駆け抜けていく。
荒れ狂う風のような激しさで、渦巻く水流のように回転する度に威力を上げていく。
やがてその斬撃は巨岩をも両断する威をもって――
“猿の呼吸 奥義・
――無惨を袈裟懸けに両断した!
『馬鹿な! これはまるであの男の……』
両断された無惨は驚愕に目を見開き、激痛にうめき声を上げる。
再生を許さず、己を焼き続けるこの傷を無惨は知っていた。
かつて耳飾りの剣士によって刻みつけられた恐怖がよみがえってくる。己の終焉を明確に意識させた死の恐怖が再び!
数百年前のあの時は自らを千八百もの肉片に弾けさせて逃げおおせることができた無惨。
だが、今はその時とは状況が違う。
「いまだ! たたみかけろ! 再生の隙を与えるな!」
行冥が自らも鉄球を振るいながら号令をかける。
「あなただけは絶対に許さないわ!」
遅れて蜜璃が愛する人を傷つけられた怒りをのせて刃を振るう。
「いい加減死になよ!」
「しつこいぞ、さっさと滅びろ!」
「さっきはよくもやってくれやがったなァ!」
「派手に死に果てろ!」
「無惨、覚悟!!」
無一郎が、小芭内が、実弥が、天元が、杏寿郎が。
治療を終えて復帰した柱たちが次々と刃を叩き込んでいく。
そのたびに腕が飛び、脚がもがれ、細切れにされ、そして頸が刎ねられていく無惨。
柱たちの猛攻で肉体を分割された無惨だが、彼を待ち受けるのはさらなる復讐の刃だった。
「死ね無惨! お前さえいなければ……」
「家族の仇だ! よくも、よくも!」
「俺はこのときのために、ずっと……」
バラバラにされた無惨の肉片に群がり、細胞の一つも残しはしないとでも言うように赫く染まった刀でめった刺しにし、なます切りにしていく隊士たち。
柱たちの戦いについていくことも出来ず肉の盾となることも許されなかった彼らだったが、それは今この時のためだったのだろう。
もはや全員が無惨を殺すために、全員が無惨を殺せる刃を手に、全員がその恨みをぶつけていく。
鬼舞辻無惨という鬼が積み上げてきた罪が業が、その背中に手を掛ける時がきたのだ。
彼は自覚するべきだった。無惨自身の行いによって無惨を滅ぼしたいと願う者を増やし続けてきたという恐ろしさを。
それがいつか己の命を脅かす危険を呼び込むかもしれぬと。
『私が、こんな雑魚共に!!』
彼は終ぞその傲慢さゆえに気づくことなくここまで来てしまった。
そんな無惨に待つ結末など、当然惨めなものと決まっている。
「ぐあっ! だ、誰だ!?」
刎ね飛ばされ地面を転がる無惨の頸を踏みつける何者か。
その脚は草鞋でもなく革靴でもなく。
鋭い鉤爪の突いた怪鳥の足が無惨の頸をがっちりと掴みとっていた。
「ヤア!」
「貴様ッ! 鳥ごときがこの私を足蹴に……待て。貴様何をしようとしている!?」
顔面を踏みつけにされるという屈辱に怒りの声を上げていた無惨だったが、碧彦の次の行動を見て表情を凍らせた。
目に映るのは牙の並ぶ口を大きく開けた碧彦。
無惨様、マジで食われる五秒前。
「待て待て待て! 私を喰ってただで済むと思っているのか! 私の血は猛毒だぞ!」
食ったら死ぬぞ。と、脅しをかける無惨。
生首がデカい鳥に食べられないように脅迫しているというのはシュールすぎる光景なのだが、本人は必死だ。
「オマエヲ食ウカドウカハ、オレガ決メルコトニスルヨ」
が、駄目。鳥に死ぬぞと脅したところでどうなろう。
「よく考えろ! 死んだらもうこれ以上食うことはできなくなるのだぞ! 鬼となった貴様なら永遠の時を生きていられるのだぞ!」
脅しの次は利益を提示して説得にあたる無惨。
鳥相手にと笑うなかれ。彼は必死なのだ。それはもう。
あまりに必死なので、少し迷った碧彦は周りに意見を聞いてみることに。
「コレ食ッテイイカナ?」
珠世の飼い猫・茶々丸の答えは?
「ニャア(喰ってよし!)」
では、お供仲間の闘勝丸の答えは?
「ウキ!(クッテイーヨ!)」
他に意見のある方は?
……いなさそうだね。
「クッテイーヨダッテサ」
「ま、待て! 畜生共の言葉など分かるはずが、あっ……」
許可が下りたのでガブッと一口に。
ああ、哀れ無惨の頸が雉の胃袋へ消えていく……
「~~ッ! 無惨、食べられッ! もうムリ、お腹痛い――」
「珠世様!?」
その結果、一部始終を見ていた珠世の腹筋が崩壊。大ダメージだ!
まぁ、幸せそうで何よりです。
頸を喰われた無惨だが、これがどっこい脳を複数持っているせいでまだ死んでなかったりする。
ゴキブリも両手を上げて降参するほどの呆れた生命力。
だが、それも終わりを迎える時がやってきた。
「見ろ……日の出だ」
空が白み始め、眩い日光が目を刺す。
待ちに待った夜明けは無惨に死をもたらした。
ぐずぐずと焼け落ちて消えていく無惨の肉片を見てようやく勝利を実感する鬼殺隊。
「やった! 勝ったんだ俺たち」
「終わったんだな。全部……」
「父さん、母さん……仇はとったよ」
徐々に歓声が広がっていく。
長い戦いの終止符に喜ぶもの、涙する者、様々だ。
そう、無惨はついに消滅したのだ。
「サヨナラー」
あとついでに碧彦も。
「ウキィ!?(碧彦ォ!?)」
闘勝丸が慌てて駆け寄るも既に塵となって消えてしまっている。
あっさりと退場していった鬼喰雉にみんな困惑が隠せなかった。
立つ鳥跡を濁さずとは言うけれど、インパクトだけは残していきやがったな。あいつ。
本当に、何だったんだ。あの雉……
オマケ「犬は?」
結一郎のお供である犬・猿・雉。
猿の闘勝丸は全集中の呼吸を使いこなす『鬼殺の猿』であり、雉の碧彦は血鬼術すら身に着けた『鬼喰雉』だ。
ぶっちゃけよくもまぁこんな特異個体ばっかりお供にしやがったものであるが、そこで気になってくるのが残っている犬の藤乃だ。
先に挙げた二匹を見ているとこの犬も実はヤバいんじゃないか不安になってくるところ。
だが、期待に背くようだが藤乃はいたって普通の犬だ。
鬼を殺す剣も使えないし、鬼も喰えないし、ましてや狼みたいに変身なんかもしない。
そんな彼女だが、結一郎からの信頼という意味ではお供の中で一番だったりする。
理由は単純。彼女はとても優秀なのである。
「助かりましたよ。藤乃」
「ワン!」
藤乃を撫でながらお礼を言う結一郎。
それもそのはず。彼女が運んできてくれた薬や包帯といった治療道具のおかげで命の危機にあった義勇の治療をすることができたからだ。
黒死牟の攻撃を受けた体で無理やり動いていた義勇は、出血多量で瀕死の状態になっており、すぐにでも止血の必要があった。
最悪傷口を焼くという荒療治を行う覚悟もしていたところに、さっそうと現れたのが藤乃である。
主が困っているときに、傍にいてしっかりと手助けをすることができる忠犬。
それが藤乃という犬なのである。
お供“最強”が猿で、お供“最凶”が雉ならば、彼女は言うなればお供“最優”なのだ。
いなくなった雉の代わりに亀がお供に……なりませんので悪しからず。
次回、最終話。エピローグですね。
その後は後日談です。