柱合会議の翻訳係   作:知ったか豆腐

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2023/08/11投稿

とても遅くなりました。



最終話(最後の柱合会議)

――産屋敷邸 鬼殺隊本部

 鬼舞辻無惨の討伐からしばらく。

 

 産屋敷家の鬼殺隊本部には柱たちが最後の柱合会議に参加するべく一堂に会していた。

 

 最年長である岩柱・悲鳴嶼(ひめじま)行冥(ぎょうめい)を中心にして左右二列に柱たちが並んでいる。

 行冥の左後ろには音柱・宇髄(うずい)天元(てんげん)が派手な身なりとは相反するようにかしこまっており、その後ろに水柱・冨岡(とみおか)義勇(ぎゆう)、炎柱・煉獄(れんごく)杏寿郎(きょうじゅろう)と続き、最後にその背中に隠れるように霞柱・時透(ときとう)無一郎(むいちろう)が座していた。

 反対側の右列には風柱・不死川(しなずがわ)実弥(さねみ)、蛇柱・伊黒(いぐろ)小芭内(おばない)と並び、小芭内の背中を熱のある目で見つめる恋柱・甘露寺(かんろじ)蜜璃(みつり)の姿がある。

 その柱たちに、産屋敷家当主が言葉を投げかけた。

 

「皆、本日の、最後の柱合会議に来てくれてありがとう」

 

 大人びた口調で告げるのは新当主となった産屋敷輝利哉(きりや)だ。

 彼の父である耀哉(かがや)は病状の悪化のため、鬼の首魁・鬼舞辻(きぶつじ)無惨(むざん)を倒した最終決戦を機に当主の座を息子に譲っていた。

 そういうことで彼の最初の役目は、鬼殺隊の終わりを告げることである。

 

「皆の尽力のおかげで、鬼を滅ぼすことができた。鬼殺隊は今日で解散する」

「御意……」

 

 穏やかな表情で解散を告げる輝利哉に、柱たちを代表して行冥が返事をする。

 鬼を滅ぼした。

 その言葉を耳にして改めて事実を認識した行冥は感激に落涙している。……これで何度目だとは聞いてはいけないのだけれど。

 

 何はともあれ1000年以上にわたり続けられてきた鬼との戦いは終わりを告げた。

 その終焉をもたらしてくれたのは無惨を相手にした最終決戦を戦い抜き、誰一人死ぬことなく全員が五体満足で居並ぶ柱たちである。

 

「長きに渡り身命を賭して、世の為人の為に戦ってくれたことに、産屋敷一族一同、心より感謝申し上げます」

 

 一族の宿願を果たしてくれた勇敢な剣士たちに、鬼殺隊の当主として輝利哉は感謝を伝える輝利哉。

 当主の言葉に合わせ、彼の後ろに控えた産屋敷の一族合わせて深々と頭を下げていた。

 前当主の妻であるあまね。

 長女のひなき、次女のにちか。

 三女のくいなと末娘のかなた。

 

 そして、結一郎も輝利哉の左横に控えて同じように深く礼をしていた。

 そう、産屋敷一族の一員として……

 

『どうして、自分はこちらにいるんでしょうか!?』

 

 顔を伏せながら自問する結一郎。

 ほんのしばらく前の最終決戦まではちゃんと剣士として戦っていたはずなのに、この最後の柱合会議では当主の一族として参加しているという現実に心の中では頭を抱えていたりする。

 だって、絶対場違いなんですもの……

 

 結一郎が心の中で懊悩している間にも会議は進む。

 

「顔を上げてくださいませ……我らにそのような礼など不要…」

「鬼殺隊が鬼殺隊で在れたのは産屋敷家の尽力が第一!」

 

 行冥が輝利哉に礼などいらないと声をかけるのを皮切りに、実弥が歴代の産屋敷家の献身を口にする。

 

「その通り! 鬼を倒すことは我々の望みでもあります! その鬼殺を支えてくださった産屋敷家の方々にはむしろこちらが感謝を伝えねばなりますまい!」

「このたび御一族の宿願を果たされたこと慶び申し上げるとともに、我ら剣士たちを支え続けてくださったこと、心から感謝申し上げます」

 

 続けて杏寿郎が鬼を倒すことは剣士たちの望みでもあったと述べ、最後に天元が祝福と感謝の言葉を告げた。

 残りの柱たちも言葉にはしないが、気持ちを同じくしていることが表情からうかがえる。

 

「ありがとうございます……」

 

 柱たちの言葉を受け、思わず涙を流す輝利哉。

 彼の母も姉妹たちも感極まって同じく涙をこぼしている。

 戦うことのできない産屋敷一族にとって、最前線で戦う剣士たちからの感謝の言葉はそれほどまでに心を奮わせるものなのであろう。

 ……なんちゃって、産屋敷の結一郎には分からない気持である。

 

『あああああ、むず痒い! むず痒いです!! いまから自分、剣士(そっち)側に行きたいです!!』

 

 心情的には柱たちに近いのに、産屋敷一族として対応しなければならない結一郎。

 彼が産屋敷一族として扱われているのは、先日の最終決戦が原因だったりする。

 

 


 

「結一郎、君も家族だ」

 

 最後の柱合会議の数日前、病床の耀哉に呼び出され告げられた言葉。

 それは顔面を強打されたような衝撃的一言だった。

 

 

 

 柱たちよりも一足先に呼び出され、産屋敷家当主が交代になることを告げられた結一郎。

 彼が柱たちよりも先にこの重要事実を知らされたのは、ある大役を任せるためであった。

 

「結一郎、君には……輝利哉を当主代行として助けてあげてほしいんだ」

 

 耀哉から結一郎への“産屋敷家当主代行”の依頼。

 それが今回の会談の目的であった。

 突然の任命に一瞬あっけにとられた結一郎だったが、その内容を理解した彼はすぐさま首を横に振って返事をした。

 

「そのような大役、産屋敷の一族でもない自分が務めることなど!」

「いいや、結一郎。君はひなきの、私の娘の婚約者だろう?」

 

 部外者の自分が、と、否定したら即座に娘さんとの婚約のことを持ち出されてしまった。

 一応、部外者ではない。たしかに。

 

「うっ、し、しかしですね! たしかにひなきさんと婚約はさせていただいてますが、まだ結婚もしていないうちから親族面するのはいかがなものかと……」

「では、吉日を選んで近いうちに結婚式をしようか」

 

 まだ結婚していないという言い逃れに対して、「じゃあ、結婚させるね」という力業を見せるお館様。

 忘れているようだけど、婚約の話も結構強引に進めた方ですからね、この人。

 不用意な一言で人生の墓場行きが早まってしまった。

 ちなみに、ひなきお嬢様の気持ちを無視しているように見えるが、もともと産屋敷の女子は十三歳までに結婚して名字を変えないとどうやっても事故や病気で死ぬという家であったため、彼女としては結婚すること自体はいつでもオッケーだったりする。

 さすが産屋敷、覚悟ガン決まりである。

 

「大丈夫だよ、結一郎。周りの皆も君が当主代行になることに反対する子はいないさ。

 なにせ君はあの無惨相手に真正面から産屋敷を名乗って相対したのだからね」

「いや、あの、それは……!!」

 

 ダメ押しとばかりに周囲からの反対も問題ないと言う耀哉。

 鬼の首魁に対して一族の当主のように振舞っておいていまさらな話だと言われてしまうと二の句が継げなくなる。

 結一郎本人としては、産屋敷の一族へ無惨の敵意が向かないようにするための嘘、いわば方便だったのだが、見方を変えれば、

 

『病気の当主と幼い次期当主に代わり、婿養子(予定)がその責を全うした』

 

 ともとれるわけで。

 すでに当主代行の実績はあるのだ。

 

「ですが……最終決戦では自分は上弦の壱を相手にして肝心の無惨との戦いには参加できませんでした」

 

 当主の名前を名乗っておきながら重要な敵首魁との戦いに間に合わなかったと、自身の過失を挙げる結一郎。

 一応筋は通っているけれど、上弦の壱を無惨と合流させることなく見事討ち取ったことは充分すぎるほどの功績であるため、当主代行にふさわしくない理由としてはいささか以上に苦しい弁だ。

 ほら、関ヶ原に間に合わなくても天下を継いだ歴史があるわけですし。

 当然、そんな言い訳はお館様に通じるわけもなく。

 

「それを言ったら鬼との戦いに直接参加した産屋敷の当主は一人もいないね」

 

 歴史をさかのぼって見ても、代行とはいえ鬼と直接戦って頸を切った産屋敷はいないのだ。

 それだけで歴史的快挙であり、無惨と戦わなかったなど当主代行になるための瑕疵とは言い難い。

 ついでに言えば、結一郎が戦った上弦の壱こと黒死牟(こくしぼう)は産屋敷一族にとって因縁のある相手であった。

 

「戦国時代、上弦の壱は当時の当主の首を持って無惨に寝返った裏切り者だったね」

 

 見事に産屋敷家の無念の一つを晴らしてくれたと、耀哉ににこやかに言われてしまえば上弦の壱との戦いも当然のことのように聞こえてしまう。

 討ち取った鬼がこうも自分を追い詰めてくるとは……

 

『おのれ、あの裏切り者! 本当にろくなことしません!!』

 

 死んだ黒死牟に八つ当たり気味な怒りを燃やす結一郎。ヤツとはとことん相性が悪いというか因縁があるらしい。

 もっとも、黒死牟の人間時代のことを煉獄家の資料まであさって調べ上げ、お館様に報告したのはほかならぬ結一郎だったり。

 なんだ、自滅の刃じゃないか……

 

 功績十分、説得力十二分といった形にまで状況が整った現在。

 諦め悪く、いろいろと理屈を頭の中でこね回していた結一郎が心を決めたのは耀哉の次の言葉だった。

 

「私の命は……もう永くない。無惨を倒すという使命を果たせた今、命を繋ぎとめていた気力は失われてしまった。だから、せめて心残りがないようにしたいんだ……」

 

 大事な隊士(こども)たちのことを頼むという当主としての気持ち。

 

「まだ幼い輝利哉には、私ができなかった普通の子供としての生活を経験させてあげたいんだ」

 

 自らも四歳という幼さで当主になり重圧を背負うこととなった経験から、息子の輝利哉にはそのような思いをさせたくないという親心。

 

「結一郎、君がかつて言ってくれた『娘の嫁入りまで死ねない』。それを本当にしたいんだ……」

 

 そして、かつて結一郎本人が見せた未来への希望に最後に手を伸ばす言葉で。

 

「お館様はずるい言い方をなさいます……」

 

 大きくため息をつく結一郎。

 深々と頭を下げた彼ははっきりと告げた。

 

「そのお役目、しかとお受けいたします!」

 

 こうして結一郎は当主代行を引き受けることとなったのである。

 


 

 柱合会議当日、そんなわけで当主代行として輝利哉の隣に座る結一郎。

 ちゃんと納得して役目は引き受けたけれど、いざその場になるとやっぱり気まずさはぬぐえない。

 そんな彼の気持ちを考慮することなく会議は進んでいく。

 

 当主交代と鬼殺隊の解散はすでに通達し終わったため、次は今後の隊士たちの生活について議題が移る。

 

「鬼殺隊は解散しますが、剣士の皆の生活はこれまで通り我々産屋敷がお支えします」

「お心遣い、感謝いたします」

 

 輝利哉の今後も隊士たちの生活の面倒を見るという言葉に、行冥が代表して礼を述べる。

 いままで鬼を倒すために剣を振ることしかしてこなかった者も多い鬼殺隊だ。

 そのまま放り出されたら生活していけない者が多くいそうなのは想像に難くない。

 産屋敷家としても、一族の使命は果たせたのではい、さよなら――というのはあまりに不義理。頭無惨の所業というもの。

 隊士の階級、所属を問わず、今後の生活を保障するのは当然のことであった。

 

「詳細については自分、結一郎が対応いたします! 皆様、何かありましたら遠慮なくご相談ください!!」

 

 そう言って実務を担うことを申し出る結一郎。

 当主代行として最初の仕事は隊士たちの生活基盤を整えることになる。

 当然のことながら産屋敷家の莫大な資産の一部を管理することになるため、輝利哉たちの結一郎への信頼と彼が感じる重圧のほどが分かろうというもの。

 

 それはそれとして、立場が偉くなったとはいえ元弟子に生活の面倒を見てもらうことになる柱たち。

 その気持ちはいかなものなのだろうか?

 

「うむ! 結一郎ならば問題はないだろう!! 安心して任せていられるな!」

「お館様の代わりは大変だろうが、ま、お前なら派手に大丈夫だろうよ」

 

 杏寿郎と天元が太鼓判を押す言葉に、ほかの柱たちも頷いているのが見えた。

 こちらも結一郎への信頼が厚い。いや、それだけでなく実績もあるだろうか?

 

 よくよく考えてみればあれやこれやと結一郎が気をまわして便宜を図っていたことは数知れず。

 いまさら生活の保障を結一郎が担当するといったところで忌避を感じる柱はいるはずもない。

 むしろ今回の当主代行就任って、いままでやってきたことの追認および範囲拡大っていったところなような気もする。

 翻訳係じゃなくていつのまにかお世話係だった!?

 

 そんな結一郎にお世話されてきた柱たちだが、その筆頭といえばやはり冨岡義勇この人だろう。

 さんざん迷惑をかけてきた相手をこれからも頼りにすることが確定したわけだが、その反応は周りが驚くものだった。

 

「今後のこと諸々にお手数をおかけしますが、なにとぞよろしくお願い申し上げます」

 

 頭を下げ丁寧な対応をする義勇。

 一番付き合いが長いはずの義勇の丁寧、言い換えれば畏まった物言いに驚く周囲。

 

「ずいぶんと殊勝な態度じゃないか冨岡。今までの自らの言動を省みる機会でもあったのか?」

 

 小芭内がいつもの嫌味交じりにその意図を尋ねると、これまた驚くことに義勇はその意図をしっかりと語り始めた。

 

「結一郎は俺たちにとって弟子だが、(おおやけ)の立場は当主代行だ。そんな立場の人物に俺たち柱が気安い態度をとることは良いことにならないだろう」

 

 その主張は結一郎の立場を考えたものであった。

 ただでさえ産屋敷家の血族ではない、不安定な立場の結一郎だ。

 一般の隊士や隠たちにしてみればそんな人物が実質的なトップとして実務を動かすことに不安を覚える可能性はあるだろう。

 そんな中で剣士たちの頂点である柱が狎れた態度をとることは、結一郎にとって良い結果にはならない。

 上に立つ柱が産屋敷家当主だけでなくその代行にも敬意を示すことで、下もついてくるだろう。

 

 そう言ってほかの柱たちを諭す義勇の姿に、結一郎は半分感激し、半分怒りを覚えていた。

 何に感激したかって?

 そりゃあ、もちろんあの義勇が自分の言葉を他人になんの齟齬もなく正しく伝えられていることにである。

 彼が口を開くたびに毎度のごとくその意図を翻訳していた結一郎からすれば、まさに奇跡のようなもの。もしくは新手の血鬼術を疑う事態だった。

 よもや翻訳不要の日が来るとは……

 

 一方で義勇の語った内容は結一郎にしてみればうれしい内容ではなかったりする。

 というのも、今でさえ身にそぐわない大役でむず痒い立場だと感じているのに、柱たちにまで恭しい態度をされてしまった日には悶絶ものであった。

 

『冨岡師匠っ! 普通に会話できるようになったと思ったらどうしてこう……』

 

 内心涙を流す結一郎。

 こちらの立場を慮ってのことだとわかるだけにやり場のない怒りが積もっていく。

 ついでに言うと、こちらを見る義勇がいつもの無表情ながらに、『良いこと言ったな!』と、ばかりにドヤ顔している心の裡が読み取れてちょっとイラっとしてしまった。

 

『冨岡師匠……この借りはいつか必ず返します!!』

 

 密かに復讐を誓う結一郎。

 具体的には、義勇としのぶの結婚式を当主代行の権力を総動員して本人たちが引くくらいに盛大な式にしてやるつもりだ。

 それはもう派手派手だ。絶対に祝ってやる……ッ!

 のちに何も知らないしのぶが困惑しまくることが確定したのであった。

 

 

 こうして結一郎は柱合会議の翻訳係をお役御免に。

 代わりに鬼殺隊のお世話係としての日々を過ごしていくこととなる。

 つまり、彼の苦労はしばらく続くってことだ。

 

 

「義勇さんはなんで定期的に語彙力が旅に出るんです!? 翻訳不要になったはずですよねぇ!?」

「しのぶさん、うちは駆け込み寺じゃないんですよ? なんで喧嘩するたびに毎度来るんですか!?」

「実弥さん! いい加減、弟さんの心配よりもご自分の心配をですね……」

「小芭内さんはいつまでうじうじしてるんでしょうか……蜜璃さん待ってるんですよー?」

「杏寿郎さんのお見合いがまた失敗したぁ!? 何が、いったい何があったんです!?」

「なになに、無一郎君が炭治郎君たちとお山でズンビッパ? ……わけがわからない」

「えーっと。聞き間違いですかね? 行冥さんが旅先でまた悪党を成敗したって聞こえましたが……そう、ですか。事実ですかー。……事後処理してきますね」

 

 がんばれ、結一郎!




気が付けば約二年半も投稿できませんでした。
遅くなって申し訳ないです。

なんとか書き上げました。
これで一応完結となります。

後日談もいくつか投稿予定です。
あまり期待せずにお待ちいただければと思います。

後日談予定
1.地獄の無惨の運命
2.例の黒歴史の書あれこれ
3.しのぶさんと怪談
4.柱たちのその後

後日談に期待するのは?

  • 地獄の無惨の運命
  • 例の黒歴史の処分
  • しのぶさんと怪談
  • 柱たちのその後
  • 結婚・恋愛関連
  • 外伝:戦国時代の翻訳係
  • その他
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