柱合会議の翻訳係   作:知ったか豆腐

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2019/08/05投稿

そろそろ短編扱いも苦しくなってきた気がします(汗


その6(冨岡師匠の秘密編)

 “鬼殺隊最終選別”

 各地にいる育手(そだて)の下で鍛錬を終えた入隊希望者が、鬼殺隊に入隊するために越えなければならない最後の試練。

 一年中、鬼の嫌う藤の花が狂い咲く“藤襲山(ふじかさねやま)にて行われるそれは、捕えられた鬼が潜む中を七日間生き抜くという過酷な試練だ。

 毎回多くの入隊希望者が参加するものの、無事に試練を乗り越えて入隊できる者は少ない。

 そんな最終選別を、今回は五人も合格者がいたという。

 

『そうか。もうそんな時期なのか』

 

 最終選別の話を聞いた水柱・冨岡(とみおか) 義勇(ぎゆう)は感慨深そうに目を閉じる。

 昔、自分の力だけでは乗り越えられなかった試練を自力で乗り越えた剣士が五人もいるという事実は否応なく彼の心を熱くした。

 最終選別に関しては、以前は負い目があって後ろ暗い気持ちが前に出ていた。

 しかし、今の義勇は柱としての責務を自覚しており、新入隊士が一人でも多く長く生き残れるように努めなければと、前向きな気持ちで受け止めている。

 結一郎(ゆいいちろう)を継子として鍛え始めたことで、上に立つ者としての意識がさらに強まった結果だろう。

 良い師弟関係は弟子だけでなく、師匠も成長させるものだ。

 人間として一回り成長した義勇はより頼もしくなったといえる。

 ……それが会話能力の改善につながっているかは別問題だったりするのだけれど。

 

 そういうわけで部下へ対する関心が強くなっていたこともあり、最終選別についても興味を抱いた義勇。

 特に今回の選別には蟲柱・胡蝶(こちょう) しのぶの継子である栗花落(つゆり) カナヲの名前もあったため、わざわざ入隊者の名簿の写しを取り寄せていた。

 名簿を開いた義勇はその中に気になる名前を見つけて目を留める。

 『竈門(かまど) 炭治郎(たんじろう)

 義勇は彼の名前自体は知らなかったが、彼を鍛えた育手の名前に憶えがあった。

 鱗滝(うろこだき) 左近次(さこんじ)という彼の師は、義勇の恩師であり、炭治郎を鱗滝に紹介したのもまた義勇であった。

 約二年前に、雪山で数奇な出会いをした少年と鬼となった彼の妹のことを思い出す。

 鬼となった者は強い飢餓感に襲われて、たとえ家族であろうと喰い殺してしまうのが常だ。

 むしろ、血のつながったものほど高い栄養価を得られることから家族を喰い殺していることのほうが多い。

 そんな常識がある中で、兄を喰らおうともせず、むしろ刃を向けた義勇から兄を守ろうとした鬼の妹に新たな可能性を感じて見逃した。

 そして兄を育手に紹介し、鬼殺の剣士の道を示したという過去があったのだ。

 その時の少年が無事に鬼殺隊に入隊したということに喜びを感じると同時に、覚悟を決めなければならないと表情が険しくなる義勇。

 

 鬼を殺すための剣士が鬼を匿っている。

 もしその事実が明るみになれば、問題となることは間違いない。

 そうなれば炭治郎本人はもとより、鬼を見逃して育手に預けた義勇も、そうと知りながら剣士として育てた鱗滝も隊律違反として責を問われるだろう。

 

『あの少年が覚悟を見せて結果を見せたのならば、俺も命懸けで答えなければならない』

 

 一人の鬼殺の剣士として覚悟を決める義勇。

 その姿は何も知らない第三者の心を打つような気迫を醸し出していた。

 ――――我らが翻訳係がいなければ!

 

「師匠。新入隊士の名簿を見て、何故、命を懸ける覚悟を決めているのですか?」

 

 実は今回の新入隊士の名簿を義勇に頼まれて持ってきたのは結一郎だったりする。

 なので、義勇が名簿を見ているのを目の前で見ていたわけだ。

 心の機微に敏感な結一郎は義勇が突然、命の覚悟を決めはじめたことに疑念を抱き、問いを投げかける。

 心中を指摘された義勇は、体を一瞬だけ強張らせた。

 しかし、その一瞬の反応でさえ結一郎にとっては答えとして十分すぎる。

 

『……マズい。結一郎は俺の考えが読めるんだった』

「冨岡師匠、何がマズいんです? ねぇ?」

 

 結一郎の前で重大な考え事をしていた己のうかつさに焦りを覚えるも、その心理すらも読み取られて焦りが積み重なっていく悪循環。

 義勇は何とか心を落ち着かせて言い訳を口にする。

 

「……柱として若い隊士たちが生き残れるように命を懸ける必要がある。そう思っただけだ」

 

 嘘は言っていない。実際にそう思っているし。

 口下手な義勇にしてはうまく言い訳した方だろう。

 普通の相手ならば、疑問には思いつつも納得はしてくれそうな言葉だ。

 だが、相手は結一郎。そうは問屋が卸さない。

 

「冨岡師匠。嘘はついてないようですが、隠していることがありますね?」

 

 近くににじり寄り、義勇の手首を捉えて問い詰める結一郎。

 それは逃がさないという意思の表れだろうか? しかし、ここで振り払うのも不自然であり、自分の非を認めるようなものだ。

 義勇は腕に触れる結一郎からの圧を感じながら、ジッと耐えている。

 

「新入隊士の中に誰か訳ありでもいましたか? ……なるほど、当たりですね!」

『こいつ、脈拍から反応を見ているのか!?』

 

 核心を突く質問を投げかけられ、つい跳ね上がった心拍数から義勇の心情を読み取る。

 逃亡防止などではない。手首を掴んだのは読心の精度をさらに上げるためだった。

 一言も言葉を発していないにも関わらず、心の内を暴かれるような恐怖を感じて義勇は全集中の呼吸すら使って脈拍をコントロールしようと試み始めた。

 この水柱、必死である。

 

「冨岡師匠の関係者となれば、水の呼吸の使い手ですか? ……体温の上昇、発汗を確認。これも当たり、と」

『マズい。全身に、全集中の呼吸を使って体の隅々まで意識を張り巡らせろ! これ以上、こいつに何も悟らせるな!』

 

 ヒュッという義勇の口から洩れた呼吸音は果たして、恐怖に息をのんだ音だったのか。

 それとも水の呼吸独特の風の逆巻くような音だろうか?

 今現在、義勇は過去の鬼との激戦と変わらぬような緊張感に包まれている。

 

「冨岡師匠、あなたは――――」

「カアアア! (にぎ) 結一郎! オ館様ガオ呼ビデアリマス! タダチニ参上サレタシ!」

 

 結一郎がさらに問い質そうと口を開いたところへ、彼の鎹鴉が伝令を持ってきた。

 鬼殺隊の当主である産屋敷(うぶやしき) 輝哉(かがや)からの呼び出しとあれば待たせるわけにもいかない。

 仕方なく、義勇から手を放して席を立つ結一郎。

 その姿に義勇はホッと息を吐く。

 

『助かった。これ以上、問い詰められるのはキツい。本当に――』

「命拾いしましたね。師匠」

 

 義勇の心の声に被せるように言葉を告げて去っていく結一郎。

 残された義勇は先程とは違い、重く息を吐く。

 

「結一郎。心の声まで読むのはやめてくれないだろうか」

 

 義勇の独白を聞いていた鎹鴉(かすがいがらす)は思った。

 

 それ、お前のせいじゃね? と。

 


 

 ――産屋敷邸

 

輝利哉(きりや)、起こしてくれるかい?」

「はい」

 

 鬼殺隊当主・産屋敷 耀哉は息子の輝利哉の手を借りて病床から身を起こした。

 病魔に侵された体を起こしたのは、そろそろ呼び出した人物が来るだろう時刻が近づいているからだ。

 先ほど鎹鴉で呼び出した、結一郎のことである。

 彼の予測した通り、ほどなくしてふすまの向こうに人の気配がして声を掛けられる。

 

「和 結一郎です! お呼びにあずかり参上致しました!」

「うん。よく来てくれたね。入っておいで」

「ハッ!」

 

 短く返事をして音もなく部屋に入った結一郎は、頭を下げて耀哉の言葉を待つ。

 その忍びを思わせるような隙の無い動作を、もはや見えぬ目で感じ取った耀哉は結一郎の成長具合に笑みを浮かべて言葉を告げた。

 

「他の柱たちからもいろいろと頼まれて忙しいところに呼び出してすまないね、結一郎」

「とんでもございません! お館様のお呼びをどうして断りましょうか! なんなりとお申し付けください!」

 

 柱でもない自分に礼を尽くしてくれる当主に、精いっぱいの敬意をもって答える結一郎。

 彼だけではない。多くの鬼殺隊士にとって耀哉は尊敬に値する人物なのだ。

 

「ありがとう。そう言ってくれて助かるよ。結一郎には二つ、頼みたいことがあるんだ」

「はい、どのようなことでございましょうか?」

 

 そんな耀哉から結一郎に頼みごとがあるという。

 結一郎は真剣な表情で耀哉の言葉を待つ。

 

「まず、一つ目だけれど……以前、君と一緒に柱と稽古をつけてもらった隊士たちがいたことを覚えているかい?」

「はい! 佐藤隊士・鈴木隊士・高橋隊士の三名ですね」

「うん。彼らから面白い話が上がってきていてね」

 

 結一郎が下弦の肆を取り逃がすという失態を犯した際に、ともに責任を取る形で柱たちとの稽古に付き合った三名の剣士。

 その彼らが言う面白い話とは?

 

「彼らが言うには、柱たちの稽古は当然成長の役に立ったそうなのだけれど、一番成長を実感できたのは結一郎、君の指導だったそうだよ」

「自分の、ですか?」

 

 思わぬ事実を告げられ、目を丸くして驚く結一郎に耀哉は首を縦に振る。

 まだ信じられない様子の結一郎に言い聞かせるように丁寧に説明をしていく。

 

「彼らが言うには、君の指導は分かりやすく、また一緒に個人的な成長だけでなく仲間同士での連携も上手くなったそうだよ。素晴らしいね」

「か、過分な評価です。彼らが優秀であっただけで……」

「私はそうは思わないよ、結一郎。いや、彼らが優秀でないと言ってるわけじゃない。ただ、彼らを成長させたのは君の力が大きいと思っている」

 

 結一郎の指導能力を高評価する耀哉。

 事実、結一郎に指導された三人の剣士はその後実力が一回りも二回りも大きく成長していたのだから。

 壊滅的会話能力の某柱の心の機微を読み取るために鍛えられた結一郎の観察眼は、仲間の抱える問題点や課題、癖などを見抜くことができた。

 そこに習得した全集中の呼吸の五つの基本の流派の知識を加えて指導ができるのだから、教えを受ける側としてはありがたいものだろう。

 さらに言えば、柱複数人を相手にした打ち込み稽古や真剣を用いた稽古により、否応なく戦術眼を鍛えざるをなかった結一郎。

 そのため、彼の頭の中では複数人を相手にすることは当たり前であり、ひいては逆に複数人で攻めかかることの熟知にもつながっていた。

 つまり、彼の指導には最初から“連携”ということが組み込まれていたのである。

 

 その結果がもたらしたものは、その三人の剣士の成長だけではない。彼らが関わった任務における隊士の生存率の上昇というものだった。

 当然、この成果を無視するような鬼殺隊当主などいない。

 

「結一郎、鬼は強力で脅威的だ。我々はそんな存在と人の身で戦わなければならない。打ち勝つためには皆の力を合わせなければならない」

 

 そのためには君の力が必要だ。と、耀哉は結一郎に告げる。

 そうまで言われて応えないはずもない。結一郎は覚悟を決めた。

 

「ありがとうございます、お館様。では、自分は何をすればよろしいでしょうか?」

 

 話の核心を尋ねる結一郎に、耀哉は力強く答えた。

 

「鬼殺隊の目的は全ての元凶である鬼舞辻(きぶつじ) 無惨(むざん)を倒すことだ。そのためには彼直属の精鋭である十二鬼月(じゅうにきづき)を倒す必要があるだろう。だが、上弦の鬼は柱といえども勝てる確率は低い」

 

 過去百年近く、鬼殺隊は上弦の鬼に敗北し続けてきた。

 

「上弦の鬼と柱が対峙したならば、柱たちを助けるための力が必要だと思う」

「お館様、つまり――」

「結一郎、君には新たな部隊を率いてほしいと思っているんだ」

 

 鬼殺隊の精鋭である“柱”

 それとはまた別の精鋭を作り出すというのだ。

 “個”として鬼殺隊最強の柱とは違い、“集団”としての最強戦力。

 多忙な柱の手が回らない部分や柱が上弦と遭遇した際の支援といった遊撃に、剣士たちの教導を目的とする。

 いうなれば、『鬼殺隊選抜打撃部隊』といったところだろうか。

 

「人員の選抜や指揮系統の調整はこちらで行っておくから、準備が整ったあかつきには君にその部隊の隊長を務めてほしい」

「御意!」

 

 頭を深く下げ、強く返事をする結一郎に頼もしさを覚える耀哉。

 任せるよ。と、告げた後に少し苦笑交じりに言葉を告げる。

 

「本当なら君を柱にしてあげるのが良いのだろうけれど、嬉しいことに今柱は誰も欠けていないからこういう形で報いる形になってしまった。苦労を掛けるね」

「柱の皆さまの誰かが欠けることに比べれば、自分のことなど……大任を全うできるよう、精進いたします!」

 

 耀哉からの言葉に身を震わせながら受けた一つ目の依頼。

 二つ目の依頼とはなんだろうか?

 

「ありがとう。もう一つの頼み事なんだけれど……少し難しい問題があるんだ」

「と、いいますと?」

「今回の最終選別に合格した隊士に“竈門 炭治郎”という隊士がいるんだ」

 

 とある新入隊士について語りだす耀哉。

 

 曰く、とある柱の紹介で育手の下で修業を積んだ。

 曰く、家族を鬼に殺され、妹も鬼になってしまった。しかし、その妹は人を襲わずにいるという。

 曰く、その鬼の妹は今までの鬼とは何か違う、新たな可能性を感じるという。

 曰く、その鬼殺隊士は鬼の妹を連れて任務にあたっている。

 

 などなど、詳しく情報を聞いた結一郎は何となく察した。

 あっ、あの水柱、やりやがった。と。

 

「鬼を連れた鬼殺の剣士なんて明らかな隊律違反だ。だけれども、その柱と育手が何かあったときには腹を切って責任を取るとまで言っているんだ。無視はできない。それに私の勘も何かあると告げているんだ」

 

 柱と育手からの報告と今現在も鎹鴉から報告を受けているらしい。

 が、しかし、やはりそれだけでは不安でもあるわけで。

 

「結一郎。先ほど言った部隊編成の準備が整うまで、彼のお目付け役をお願いできるかな」

「承知いたしました!」

 

 誰か信頼できる人に実際に見てきてもらう方が安心。

 じゃあ、信頼できる人って誰だろう?

 柱は忙しくてそれどころじゃない。柱並に強くて信頼出来て、柱ほど多忙じゃない人物って誰だろう?

 そう、結一郎である。

 

 二つの大任を任されて、耀哉のいる部屋から退室した結一郎。

 先のことを考えると気が重くなった。

 

『鬼を連れた鬼殺剣士……事と場合によれば柱合会議、いや、柱合裁判になりますね』

 

 隊律違反を犯した隊士など斬首が当然だが、今回は柱一人と育手、お館様の関与があるのだ。

 柱合裁判となる可能性は高いだろう。

 そうなってくると、関与した柱の責任を問う声が上がるに決まっている。

 そして、結一郎は将来の被告人の関係者になる未来が決まっていた。しかも高い確率で弁護側の立場だろう。

 

 新入隊士はともかく、被告側になるだろうあの柱が上手く自己弁護してくれるだろうか? いや、ないな!

 むしろ余計なことを言ってこじれさせる可能性すらある。

 

『今から考えるだけで、柱の方々の反応が怖いです! あああ、一部の方が激怒しているのが目に浮かぶ!!』

 

 傷だらけのあの人とか! ネチネチしてるあの人とか!

 もー胃が痛い!!

 

 




というわけで、そろそろ原作と接触します。
次回あたりで原作主人公登場予定です。

翻訳係コソコソ話
 実は選抜部隊の名称を決めてないんです……最初に候補になったの『暁』なんだけど、なんか駄目な気がします!

ミニ次回予告

結一郎「骨折してるんだから無理は駄目ですよ?」
炭治郎『なんで分かるんだ? すごいな』
結一郎「傷を庇って少し体の動きが不自然なので」
炭治郎「なるほど!」
善逸「ねぇ、今、炭治郎の心の声に返事してなかった!?」
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