地図に導かれて辿り着いた場所は、何もない草原だった。
遮るものが何もない空間は、決戦の舞台に向いてそうだと感じ取る。しかし、と辺りを見渡した。地図に書いてある場所は此処で間違いない。しかし高地でもないこの場所は観戦するには不向きで、何処かに見張り台のようなものがあるかと思えば、そうでもない。印を付ける場所を間違えてしまったのだろうか、それとも何か目的があって此処に呼び込んだのか。
とりあえず辺りを散策していると「おい」と後ろから声を掛けられた。
「此処はもうじき合戦場となる。巻き込まれたくなくば、早々に避難した方が良い」
振り返る、渦巻状に巻いた前髪に赤色の大きなリボン。制服は、大洗女子学園のものではないことだけは分かった。
「うん、友達から此処に来るように誘われたのだけど……」
そう言いながら地図を取り出せば、ふむ、と少女はそれを食い入るように見つめる。
「此の者は此度の戦を知っているようだな。何故、此処を指定したのか意図を図りかねるが……」
「場所は合ってると思うんだけど……貴女はどうして此処に?」
「視察よ。戦とは天の利、地の利、人の利を得て勝つものである。故に、こうした入念な下調べこそが勝利への第一歩となるのだ」
貴女も戦車道をやってるの? という問いかけに対して、否。と彼女は首を横に振る。
「道と名の付くものは好かぬ。我らがやるは
して、と少女は品定めをするように私のことを睨みつけた。
「そういう其方は戦車道を嗜んでおられるのかな? いや、今にして思えば、其方の目は戦場を見渡すものであった。無意識に身に付いたものは拭えぬからな。それとも我らと同じ強襲戦車競技を嗜む者であるか?」
獲物を見つけた獣のように獰猛な笑みを彼女に、私はあやふやに笑ってみせる。
「戦車道の方を、ちょっと前までやってたよ」
「ほう、今はもうしておらぬと?」
「うん、戦車に乗れなくなっちゃったから……」
彼女から視線を外す。「怪我をしている様子はなさそうだが?」と呟く少女に私は何も答えられなかった。
「あれ、姫! その子は?」
栗色の髪をした長駆の子が二本のペットボトルを両手に駆け寄って来た。
「ん、ああ。つい先程、会ってな。えっと……」
「みほと言います」
あえて、名前だけを告げる。
「ふむ、私の名は
「はいはい!
赤いリボンの少女に続き、長駆の子が栗色の長髪を振り撒きながら元気よく答えた。
そんな感じで自己紹介を終えた私達に、更に少女が一人、今までずっとそこに居たのか、切り株の脇からムクリと体を起こして告げる。
「……うるさい」
その子は今朝、通学時に出会った遅刻少女だった。
「あ、冷泉さん」
「ん〜? 西住か、うっす」
「西住とな?」と横で鶴姫さんが食い付いた。その事に若干の面倒臭さを感じ取りながら「なんのことかな?」と笑顔で惚けてみたが「なるほど、確かに面影はある」とじっくりと見聞されてしまった。
「確か西住流の後継者、現黒森峰女学院隊長の西住まほには妹が居たと聞く。其方がそうか?」
「お姉ちゃんが凄いだけで、私なんて、そんなに……」
「一年生で副隊長を務めていたと聞くが? どうして此処に?」
ああ、うん。これはもう逃れられない感じのやつだ。
私は空を仰げば「すまない」と冷泉さんが申し訳なさそうに零した。