隻脚少女のやりなおし   作:にゃあたいぷ。

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戦車、乗ります!⑬

 初めて操縦する戦車は、想像以上に力強くて重厚感があった。

 振動する鉄塊は多少の障害物なら踏み潰し、踏み均し、道なき道を踏破する。確かに多少の窮屈感はあるが、しかし、乗っているだけでも感じる力強さ、これと対峙する歩兵は、さぞや戦車なる代物に畏怖と重圧を感じていたに違いない。どんな難敵であっても挑み続ける勇敢さ、勇猛さ、そして戦車に頼ることを軟弱者と批判する男児諸君の言い分に少なからず納得も抱いた。

 さておき、無事に初期地点に付いた我々、Ⅲ号突撃砲(さんとつ)チーム。戦車長のエルヴィンが配布された地図を開いて、簡易的に作戦会議を開く。その姿にアンツィオ高校の顧問は驚きの顔を浮かべる。尤も戦車道の知識に疎い我々が真っ当な作戦を立てられるとは思えない、しかしこういうのは考えることが楽しいのだ。あれやこれやと戦術論を展開し、それを打破し、対抗策を論じる。即ち、口論である。

 閑話休題、今回の作戦範囲は、川で南北を隔てた森林地帯。記載された初期配置を見るに、北と南に三輌ずつで分かれている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 配布された地図を見ると分かることだが、我らが戦車は南東に位置する。

 南側、我らのお隣にはⅣ号戦車D型(よんごう)。そのⅣ号戦車D型を挟んだ更に向こう側には八九式中戦車甲型(はちきゅーしき)、日本で最も有名な戦車である九七式中戦車(ちはたん)のお父さんが布陣している。河を挟んだ向こう側には、一年生が乗り込んだM3中戦車リー(えむさん)がおり、北側の中心には生徒会チームの38(t)戦車B/C型(さんじゅうはちてぃー)があった。

 試合形式はバトルロワイヤル、兎にも角にも最後の一輌になるまで生き残れば良いというものだ。

 

「先ずは西のⅣ号を叩くのが正道ではないか?」

 

 最初に発言したのはカエサルで「川を渡る手もあるぜよ」と私が議題を提出する。

 

「確かに」とエルヴィンが頷くと「戦車の性能だけで語るならば、最も厄介なのはM3という事になるな」と補足する。

 

「然り、然り、しかして、M3に乗っているのは一年生チームよ」

 

 左衛門佐が口を挟んだ後で「そもそもだ、古今東西の戦で渡河中は危険だと証明されている」とエルヴィンが更に付け加えた。「とりあえず我らが渡河を決行した時の流れを考えてみるぜよ」と私が言うと「そうだな」と三人が頷き返す。

 

「先ず一年生チームの度胸は如何か?」

 

 という左衛門佐の言葉に「ふむ、あいつらの顔は不安そうではあったな」とカエサルが答える。

「動かさないということもあるか」とエルヴィンは呟き、「生徒会チームの38tはどう動くと思う?」と皆に問いかける。「流石に初っ端から一年生を狙うような真似はするまいよ」とカエサルが答えたので「マークⅣを先に狙って撃破した方が挟み討ちの危険性も減るぜよ」と私も継ぎ足した。「その理屈でいうとⅣ号もまた西の八九式を狙う事になりそうだな」とエルヴィンが零す。

 この辺りで渡河案は一度置いておき、続いて西進案の考察を始める。

 西を攻める場合、先ず考えるべきはⅣ号戦車D型の動きだ。Ⅳ号戦車D型は現状、我らがⅢ号突撃砲と八九式中戦車甲型に挟まれる形だ。故に彼女達が最初に取るべき行動は挟撃の危機からの脱出になる。大雑把に考えて、彼女達が取れる行動は二つに一つ、戦車を隠してやり過ごすか、速攻で八九式中戦車甲型を撃破するか、だ。西進案を採用する時、我らが気を付けるべきは伏したⅣ号戦車D型に側面を取られぬこと――Ⅲ号突撃砲は砲塔がない為、側面に攻撃できない――、そして北の38(t)戦車B/C型が渡河案を採用した時の事だ。38(t)戦車B/C型が南下して河を渡った時、挟撃の脅威に晒されるのは我らになる。しかし彼女達、一年生チームが渡河案を採用する可能性は低い。未熟な腕では橋を渡るのも恐怖を感じるはずだ、そして彼女達には度胸があまりないように感じられる。少なくとも博打うちの性分ではない。彼女達が決断できずに立ち往生する可能性も考慮すると、低い可能性を追い求めて、萎縮するのも馬鹿らしいというものだ。良く云えば、慎重。悪く云えば、臆病。それで敗退した先達を我らはよく知っている。その逆もまた然りだ。

 ともあれ、戦車の経験者らしき人物が二人も所属するⅣ号戦車D型に楽をさせてやる義理はない。渡河案を採用し、八九式中戦車甲型を撃破したⅣ号戦車D型を自由にさせる方が厄介だと考えて、西進案を前提に作戦を組み立てる。

 

「もし仮にⅣ号が意表を突いて、我らに攻撃を仕掛けてきたらどうする?」

 

 そんなカエサルの問いに「Ⅲ突は待ち伏せに特化した車輌だ。幸いにも相手は短砲身の主砲を装備している事だし、有効射程もこちらの方が長いから有利だ」とエルヴィンが即答する。

 

「我らは西進案を採用する。ファルケンハウゼン殿、注意すべき点とか思いついたこととかはないか?」

 

 最後の締め括りとしてエルヴィンがアンツィオの顧問殿に問いかけると、彼女はぽけっとした顔を引き締めて告げる。

 

「あの、できればロルディ将軍の方が……」

「……確か空軍だったと思うが、本当にそれで良いかよ?」

「イタリアに陸軍顧問は居ないので……」

 

 なんとも締まりの悪い会話を最後に『そろそろ始めるわよ』と通信機から蝶野一尉の声が聞こえてきた。

 

 

 




地図はトレース。
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