隻脚少女のやりなおし   作:にゃあたいぷ。

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退屈な物語を目分量で


試合、できます!②

《ミカ・アキ・ミッコの場合》

 

 第一回継続学園戦車道会議を終えたことで、全国大会に向けた正式なチーム分けが行われることになった。

 ということで、メンバーが足りないチームが各自でメンバー集めを行う中、既にメンバーが揃っていて暇な私達はチーム名を考えるよう言いつけられることになった。なんでもAチーム、Bチームでは味気がないということだ。別にそれでも良いじゃないかなって私は思うんだけど、案外乗り気になったミカが「それじゃあアキ、良いのをお願いするよ」と丸投げしてきたのだ。そんな訳で目の前の机には今、適当に思いついた名前を書き込まれたカードが並べられている。

 オープンカフェで珈琲を啜りながら、ペン回しをしながら悩む素振りをする。

 

「えっと? ヒグマさんチーム、ハクチョウさんチーム、スズランさんチーム、長ぐつさんチーム、雪だるまさんチーム……なんだか随分と可愛いのが多いじゃないか」

 

 そんなことをしながら時間を潰しているとミッコが同じ席に座ってきた。手に持っているのは珈琲だろうか、ミルク増し増しのせいで薄茶色になっている。むしろ牛乳に珈琲を混ぜたと云えてしまえそうな代物をズズッと啜りながら、ケイタイさんチームや乳搾り椅子投げチームと書かれたカードを手に取る。

 

「迷走してそうなのが幾つかあるなあ、サウナさんチームとかよくわかんないし」

「命名なんてそんなもんだよ。最初にいくつか良いのが思い浮かんで残りはもうぐっちゃぐちゃ、それで偶に良いのが思い浮かぶの」

「まあ、そういうものかな」

 

 エアギターさんチームと書かれたカードを机の上に置いて、ミッコはにんまりとした笑みで私のことを見つめてきた。

 

「それで私達のチーム名はもう決まってるわけ?」

 

 わくわく、と言った感じに目を輝かせる。こういうのが意外と好きなんだねって思いながら私は手元に置いていたカードを一枚、彼女に手渡した。

 

「……えっと、妖精さんチーム?」

「そうだよ、次点でトロールさんチームかなって」

「ん〜、なんというか……」

 

 ミッコは少し言い澱むようにして「アキは可愛いやつだなあ」と零した。

 その言葉に私は首を傾げながら、余ったカードに小人さんチームと書き記す。

 のんびり日和の昼休み、私は大きく欠伸をしてペンを置いた。

 

 

 (ミッコ)がミカとアキの事をどう思っているのか、と問われると答えに困る。

 ただの友人と云うには素っ気ないと思うし、かといって親友と呼ぶほど知った仲でもない。趣味が違うから話が合う訳でもなくて、ただなんとなしに一緒に居ることが多い仲間と云うだけの話だ。私と彼女達を繋いでいるのは戦車道だ、もっとよく云えばBT-42の仲間と云うだけのことになる。たぶん今からでもBT-42の乗員から外されることがあれば、彼女達との関係はあっさりと崩れることになると思っている。それぐらいに彼女達との関係は希薄なものであり、そもそも私は二人が継続高校で戦車道を履修するまで何をしていたのかも知らなかった。

 BT-42が私達の仲を繋いでいる、だから私達は何時もBT-42の傍に居るのかも知れない。

 

 少し昔の話をする。

 私がBT-42の操縦手として選ばれた日から「好きな時間に自由に乗り回して貰っても構わないよ」と隊長のミカに言われていたので、気晴らしのつもりで毎日のようにBT-42の操縦桿を握っていた。それは戦車道を極めると云うよりも遊び倒すといった方が正しくて、ある時はドリフトしてみたりとか、ウィリー走行をしてみたりとか、おおよそ戦車と呼ぶには相応しくない走り方をしていたように思える。あの時は戦車道にはまだ興味がなかったし、今もだけど戦車についての知識もなかった。だから普通の乗り方ってのが分からなくて、こんなこともできるだろって感じで色んな技に挑戦しながら遊んでいた感じだ。

 おかげで仲間からは奇異な目で見られることも多かったし、そのせいで周りから浮いていたこともわかっていた。でも、できるのに周りとは違うからっていう理由でやってはいけない、と云うのはおかしいと思うし、面白くないことを平然と続けられる周りの方がおかしいとも感じていた。

 だから、浮いてしまっている。周りから浮くことは苦痛じゃなかった。それはきっと私は独りじゃなかったからだ。

 私には仲間がいた。ミカとアキ、二人が常に一緒に居たから私は周りから浮くことに苦痛を感じなかった。正直なことを言ってしまえば、試合の勝敗に関してもあんまり興味がなくて、戦車道に対しても強い情熱を持っている訳でもない。二人が居るから私はBT-42の操縦手をしている。もし二人がいなければ、今頃私は何をしていただろうか。よく分からない、想像もできない。今ある環境があまりにも当たり前過ぎて、今の私以外の私があんまり想像できなかった。

 二人と共にあることはとびきりに楽しい訳でもない、なにか刺激的と云う訳でもない。ただ当たり前だった、私とミカとアキが居て、そこにBT-42がある。それが私の当たり前だった、だから私は今も操縦桿を握りしめているのだと思っている。

 誰かに認められたい訳でもなく、なにかを為したいわけでもないのに。

 今ある日常を享受する為に私は操縦手を続けている。

 

 とある日のことだ。

 外が新雪で積もっていたから私はBT-42に乗り込んで走り出した。

 この時、朝が早かったのでミカはまだ寮の私室で寝ており、私と同じく早起きしたアキを乗せている。ミカを置いて、戦車を走らせるのは珍しいことではない。独りで走り出すことはよくあることだし、アキと二人になることも、ミカと二人になることも、決して多い訳じゃないが少なからずある。アキと二人でも、ミカと二人でも、あまり長い時間を走り続けていると遅れてきた側は不機嫌そうな態度を取るので程々に、一度、アキとミカの二人にBT-42を走らせる訳でもないのに立て篭もられたことがある。

 そんな訳で学園艦をぐるりと回ってからミカを迎えに行こうと考えていたのだが、思っていた以上に雪が降り積もり、それから更に吹雪いてしまったのでBT-42が雪に埋もれて動き出せなくなった。学園艦を一周するだけのつもりだったので、寒波に対する準備はなにもしていなくって、この時はBT-42の中でアキと二人で凍えていたのを覚えている。

 何も考えずに連れ出してしまって申し訳ないな、って思っていたけどもアキは特に私のことを責めることはせずに「誰か助けに来てくれるかな」と、そんなことをのんびりと呟いていた。吹雪が止む気配はなくて数十分が過ぎた頃合い、流石に寒くなってきたので仮眠する時なんかに使っている寝袋を取り出した。これでぬくぬくとしようと思ったが唇を青くして全身を震わせるアキの姿が目に入ったので「入る?」と聞くと無言で頷かれて、二人で同じ寝袋に入り込んだ。もちろん、一人用なので二人で寝袋に入るのは窮屈で横で並んで寝ることはできない。更には戦車内は窮屈なので二人で横になるスペースもなくて、互いに互いを抱き締め合うような体勢になる。私が下でアキが上だ、操縦席の後ろにあるコンテナ上でアキは震えながら私の胸元を抱き締めていた。

 私は幾分か余裕がある、こんな時に思い出されるのは寒いところでは肌と肌を重ねるのが良いという話だ。しかし、多少は意識しても、そんな気分にはならないし、今はただ身を震わせるアキのことが心配だった。窮屈な戦車の中では寝返りを打つこともできない、こんな時はさっさと寝てしまうのが良いのだろうが、遭難した時にドラマなんかでよくある「寝たら死ぬぞ」という台詞が思い返されていまいち寝付けなかった。熱を欲しているのか、アキが身を擦り付けるように身動ぎしながら足を絡めてくるのがやっぱり心配だった。

 こうして身を寄せ合ってみるとアキの体は思っていたよりも柔らかいということがわかった。華奢な割には、という程度であるが少し抱き心地が良い。手入れが良いのか髪も触り心地が良くて、匂いも悪くない。あとで使っているシャンプーとかリンスとか聞いてみようかな、とか、そこまで考えてみて私はアキのことについて何も知らないんだなと思った。ただ一緒に居るだけで心地良くて、ぬるま湯に浸かっているようで、だから今までなにも知らなくても問題なくって、でも今は少しアキのことが知りたく思っている。アキの腰に手を回す、落とさないように。それからゆっくりと瞼を閉じて、後は流れのままに身を委ねた。このまま死んじゃうのかな、とか、ちょっと思ったりする。でもまあアキの体は心地よかったので寝てしまうのは仕方ないと思った。今は冷たいけども温かかったらもっと気持ちいいのかな、とかそんなことを少し思ったり、もしも無事に寮に戻ることができたなら添い寝をお願いしようかな、とか思ってみたり、流石にそこまでいうと変なことを勘繰られてしまいそうか。

 まあ、後のことは後で考えてみよう。生きていられたならその時に、死んでしまったらこのままで。心持ち強く抱き寄せて、静かに意識を夢の世界へと落としていった。

 意識を閉ざす前、んっ、というなにかを堪えるような声が今も妙に耳にこびりついている。

 

「……アキ、ミッコ、生きてるかい?」

 

 目覚めると目の前にはミカの顔があった。

 私は体を起こそうとしたが、上からなにかが乗っかっているようで満足に身動ぎすることもできなかった。ふと視線を下に向けるとアキの顔があり、少し頰を赤くしながら、すやすやと可愛らしい寝息を立てている。「もうちょっと眠っているかな」とミカに問われたから、そうする、と返した。BT-42のエンジンが掛けられる。ある程度、雪は収まったのか、それとも除雪してくれたのか、なんだかとても眠たくて、抱き枕兼掛け布団なアキを抱き締め直して、もう一眠りする。肌寒さに目を覚ますと寮の前まで辿り着いていた。人肌の温もりと抱き心地の良さを少し名残惜しく思いながら寝袋から這い出る。それから食事を取り、水分を補給して、簡単にシャワーを浴びてからもう一眠り、やはり体力は消耗してしまっていたようで翌日は夕方過ぎまで眠りこけてしまった。

 それから数日間、あんなことがあった後だからか、アキは口を聞いてくれなかったけども一週間が過ぎた頃には元通りになった。

 やっぱり、ここは居心地が良い。アキがいて、ミカがいて、私がいる。それが当たり前で、それが私の日常で、たぶん一緒にいることには意味がない。だから私達を縛り付けるものはなく、ただ繋がりだけがあった。此処から誰か一人が欠けることは考えられなかったけど、きっといつの日かみんな別れ離れになるんだろうな、という漠然とした予感もあった。だから私はこんな日が少しでも続くように祈りながら、そして、こんな毎日を少しでも享受しようと身を委ねる。

 とりあえず今は通販で抱き枕を購入して、それを毎日抱き締めながら眠っている。

 

 これまたとある寒い日のこと、またアキと二人きりでBT-42の中にいた。

 少し雪が降り始めていたので「今日は止めておこうか」って言うとアキは無言のまま外を見つめている。話を聞いているのか、ただ外を眺め続けている。なんとなしに「二度寝する?」と聞いてみると頷かれて「あ、いや」と顔を赤くされて否定された。「部屋に行こうか」と言うと、俯くように頷かれて、彼女を部屋に連れ込んだ。それからお互いに上着を脱いで、私のベッドで横になる。あの時と同じように私が下で、アキが上で抱き締め合って、そのまま瞼を閉じる。翌朝はいつもよりも熟睡できたのか気分が良かった。

 なので今では寒い夜、偶にだけどアキに添い寝を頼んでいる。週一くらいで。

 

 

 正直、ミッコには迷惑している。

 ただの女友達としては度し難いことを平然と頼んでくることがあるのだ。ちょっとコンビニに行こうかって感じで添い寝をお願いしてきたり、時折、後ろから抱き締めてきたりと驚かされることは多い。胸を揉まれたこともあるし、太腿を撫でられた事だってある。妙にスキンシップが多い気がするのは気のせいだろうか、おかげでなにか気があるんじゃないかって勘繰っちゃうけどもミッコはなにも考えずに自然体でそうだった。そして、その事に慣れ始めている自分に少し呆れてもいる。

 私、アキにとってミッコは友達だ、それも親しい仲だから親友と呼べるかもしれない。心を許しているのは認めるし、彼女と一緒にいるのは居心地が良くて好きだった。いや胸を揉まれたりとかはどうなんだって思うけども、それを込みにしても彼女と近くにあることは嫌いじゃない。なんだか変なことを言っているような気がするが、つまりそういうことである。それでもやっぱり、スキンシップが過剰なことは少し気になる。そして、なによりミッコのことで理解ができないのは、あれで彼女はなんの意識もしていないことだった。背に腹を変えられないこともあって一緒の寝袋で寝た時もミッコは平然としていたし、その後でミカが迎えに来てくれた時も当たり前のことのように二度寝してくれやがった。おかげで狸寝入りを決め込むしかなくって、覚悟を決めるまで、ずっと運転するミカの後ろでミッコと抱き締め合いながら横になるという羞恥を受けることになったのだ。

 ミッコに部屋に連れ込まれた時は、遂に来たかと覚悟を決めたりしたが、こいつは何もせずに当たり前のように寝てくれやがった。それから味をしめたのか知らないが、週に一度くらいのペースで添い寝を頼みに来るのだ。

 こいつ調子に乗ってんな、と思って一度断ろうとしたことがある。するとミッコは「それじゃあミカに頼んでみようかな」と友達を遊びに誘うようなノリで言い出したのだ。それが嫌で、というかミッコとミカが二人で添い寝しているのを想像できなくて、それならまだ私が抱かれている方がましだと思って添い寝を続けている。

 なんでこうなっているのかわからない。いや本当に、なんでこうなったんだろう。

 大体、私のせいなんだろうけど。

 

「ねえミカ、これってどうにかなんないの?」

 

 ということで命名カードを持って、公園の机付きの椅子に座るミカに相談してみた。彼女はカードを見つめながら「いつも思うんだけどね、惚気を聞かされる方の気持ちにもなって欲しいかな」と言われる。

 

「付き合ってない!」

「惚れる相手を選ぶことはできないものだからね」

「だから、そっちの気はないってッ!」

 

 力任せにバンと机を叩くと広げたカードが小さく跳ねた。その中からミカは、妖精さんチームと書かれたカードを手に取って、「これが良いかな」と話をはぐらかされる。

 

「アキのおすすめみたいだしね」

「もうッ!」

 

 もう一度、机をバンと叩くとミカが苦笑しながらカンテレを奏でる。宥めているつもりだろうか?

 

「ミッコは友達がいなかったみたいだよ」

「友達がいない?」

 

 と私が問い返すとミカは頷くこともせずに目を伏せる。そして私ではなくて風に囁きかけるように口を開いた。

 

「彼女は周りとの付き合い方が下手なんだよ」

「そうなの?」

「自分の好きなことばかりやってるからね」

 

 私は首を傾げる、それが普通なんじゃないかって。

 

「……私達は巡り合うべくして巡り合ったのかな」

 

 風に導かれるままに、とミカがなにかを慈しむように目を細める。しなやかに奏でられるカンテレの音色が吹く風の中に染み込んでいくようだった。そして短い曲を一つ奏で終えるとミカは私に向かって微笑んだ。

 

「もし嫌だったら断ればいい」

「……嫌ではないんだけど?」

「好きなようにすると良いよ」

 

 そういう集まりだからね、私達は。

 そう言って、またミカはカンテレを奏で始める。身勝手で、気ままに、誰からも束縛されず、ただ弾きたいからと弦を弾いた。

 その隣で私は耳を傾ける、きっとミカの曲が好きなんだと思う。

 

 こんな自分勝手な私達だけど、いや、だからこそなのだろう。

 きっと私達は好きで同じ戦車に乗っている。

 だから、ここはとっても居心地が良いんだと、そう思った。




・妖精さんチーム
使用戦車:BT-42快速突撃砲。
戦車長:ミカ(二年生)
砲手兼装填手:アキ(二年生)
操縦手:ミッコ(二年生)
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