隻脚少女のやりなおし   作:にゃあたいぷ。

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試合、できます!⑦

 継続高校戦車道、降り積もり雪に苦戦しながら練習を続けている。

 それは私達、Ⅲ号戦車J型を駆る長ぐつさんチームも同じだ。ちょっと降雪の目測を見誤ってしまって、戦車が雪に埋もれてしまうことが一度や二度、起きてしまうことも致し方ない。黒森峰では決してありえなかった遭難という危機、しかし私のメンバーは慣れているのかあんまり危機感を抱いていない様子だった。なんでも明日になれば捜索隊が派遣される、だとか。どうにも継続高校ではよくあることのようだ。

 そんな訳で私、茨城(いばらぎ)白兵衛(しろべえ)は現在、凍えるような戦車内でぬくぬくになっている。

 私は装填手の席に座るスオミの膝上に座らせられており、後ろから彼女の大きな体に包み込まれるように抱き締められている。そして前からは小柄な私よりも更に小さな体、子供と見間違えるような体躯の片瀬(かたせ)綾子(あやこ)が向き合う形で抱き締める。つまり前と後ろから抱き締められて、挟まれている。なんだこれ、なんだろこれ、助けを求めるように砲手席に座る子に目を向ける。ツインテイルの少女は、呆れるような目でジトッと見つめてくるだけで助けてくれる気はなさそうだった。

 新米の癖に生意気な。

 

(かおる)、助けて?」

「やだ、後が怖いもの」

 

 そういうと彼女は携帯ゲーム機を取り出して、FPSゲームをピコピコと遊び始めた。

 砲手席に座る彼女の名は、鬼瓦(おにがわら)(かおる)。新たに長ぐつさんチームのメンバーに加わった一人であり、砲手と通信手を兼任している。私も砲手を担うことはできるが片脚が義足で踏ん張りが効かない欠点があった。少なくとも行進間の射撃はできないし、戦車を停止した直後はどうしても態勢を崩してしまうのだ。それに、これでも私は西住流の流れを汲む者だ。キューポラから身を乗り出して、視野を広く取りながら指揮することは憧れに近い気持ちがあった。その為にキューポラには手摺りを付けて、片脚が動かなくても比較的簡単に身を乗り出せるようにして貰っている。

 ちなみに薫は綾子の友達であり、付き合いで仕方なく、といった感じでメンバーへの加入が決まった。

 

「温かい珈琲に紅茶を水筒に入れてきているわ、よろしければどうぞ」

 

 スオミの好意を私は遠慮しておいた。今、飲むと催してしまいそうだったから、そういえばトイレはどうすれば良いんだろ。

 

「携帯トイレも完備しています」

 

 スオミが微笑ましい笑顔で透明のペットボトル付きの携帯トイレを取り出す。

 私は心を無にして、じっと目を閉じる。そして、救助されるまでは頑張ろうと思った。

 結果、全員が一度ずつ携帯トイレを使用することになる。

 

 

 私、田篭(たごもり)茶子(ちゃこ)は頭を悩ませている。

 学園艦の廃艦を賭けた来年度戦車道全国大会、そこでは最低でも初戦は突破しなくてはならない。

 しかし掻き集めた戦車は全六輌、公式戦では初戦から最大十輌編成で行われる。二十輌を揃えている高校は少ないが、大半の高校は十輌の戦車を揃えている。数合わせでも良いなら戦車を増やすことはできる、現に今、オークションで売り出されていたヴィッカース6トン戦車を落札したところだ。ガレージにはニコイチした時に余ったT-26の砲塔が残っていたはずなので最低限の火力は確保できるはず。問題なのは搭乗員が不足していることであり、新しく購入した戦車もT-32も不足していた。

 来年度の新入生で戦車道の履修生がいなかったら終わりだな、とか苦笑する。まあ前年度までは初戦突破はする実績を持っているのだ、誰も入らないということはない。かといって楽観視するつもりもない。先ずはオリエンテーション、そこで戦車道に興味を持ってもらえるような方策を練る。できれば実力者を、と思いはするが、そうそう都合よく話が進むことはないはずだ。

 まあ考えていても仕方ない。こういうことはあんまりしたくはないが、今年の生徒会は戦車道を贔屓する。

 国家総動員体制を取る訳ではないので許して欲しい――権力とは罪深いものだと思った。

 

 

 それから時は流れること数ヶ月、

 降り積もる雪に苦戦しながら戦車道の練習を続けて、漸く雪解けの季節が訪れた。

 それは継続高校にとって、卒業式と入学式の季節を意味する。桜が咲き乱れないことに少し違和感を持ちながら新しく入学する生徒達を見守り、そしてクラスが変わることで今日から私達が二年生になったことを自覚する。

 まあ二年生になったと言っても、劇的になにかが変わるということはない。スオミは私を膝上に乗せて後ろから抱き締めてくるし、綾子(あやこ)は私の状況を気にも留めずに平然と話しかけてくる。その脇で(かおる)が気紛れに話に参加しながら携帯ゲームで遊んでいる。

 周囲の生徒達が若干、距離を置いていることも含めて、いつも通りだった。

 

「新しいメンバーが入ると良いにゃぁ〜」

 

 綾子が大きな溜息を零した。

 コスプレ喫茶のアルバイトで猫娘のコスプレを心を殺して続けていた後遺症で、気を抜くと彼女は語尾に猫の鳴き声を出てしまうようになっている。最近では開き直ったのか黒い猫耳のフードを被っていることが多く、安っぽい尻尾を振りながら歩いている姿がよく見られた。校舎内では基本的に私、兵衛(ひょうえ)とスオミ、綾子、薫の四人で居ることが多く、偶にエトナ先輩がちょっかいをかけてくる。

 ふと窓から外を見れば、新入生が通学してくるところだった。

 この中から、誰が戦車道に入るのだろうか。どれだけの者が戦車道に興味を持ってくれるだろうか。そう思って、ふと私が迎え入れる側になっていることに気付いた。もう継続高校の校舎は馴染んでしまったし、ここの田舎のような暮らしに物足りなく思うことはあっても苦痛に感じることはなくなった。当たり前だった、この学園艦の暮らしは私の日常になっていた。

 思えば継続高校に来てから半年以上が過ぎている、此処の一員になれたのかなって思うと少しだけ嬉しくなった。

 

「あら、どうか致しましたか?」

 

 背中越しに話しかけられたから「なんでもないよ」って答えた。

 にやける頰を隠しながら窓越しに空を見上げる。今から雪でも降りそうな灰色の雲空を見つめながら想う、私はここにいる、ここで頑張っている。黒森峰で別れてからまだ一度も顔を合わせていない戦友達を胸に思い浮かべる。皆も頑張っているのかな、頑張っているに決まっている。

 なぜって、みんな戦車道が大好きだからだ。

 

「おい、ヘイヘ!」

 

 ガラッと教室の扉が開け放たれる。そこには三年生の先輩であるエトナが立っており、ズカズカと下級生のクラスに上がり込んできた。

 

「スオミを貸せ! ……あと綾子もいるな、よし!」

「新学期、早々に騒がしいですね。どうしたんですか?」

「新入生を勧誘するんだよ! お前たちにとっても重要なことだろ? だから手伝え」

 

 そう言いながらエトナは手持ちの鞄からバサッと衣服を取り出した。

 そそくさと薫が距離を取る。身を強張らせるのは綾子、そしてスオミは口元を微笑ませたまま、笑っていない目でエトナを見つめている。エトナはにんまりとした顔で私達のことを見つめ返した。そして机の上に広げられたのは四着のメイド服だ。

 ふと何かに気付いたエトナは教室を見渡した。そして教室から出て行く薫の背中を見て、チッと舌打ちを零す。

 

「エトナ先輩、残念ながら私はそういうのは……」

「スオミ、実はあともう一着用意してある」と言いながら、もう一着のメイド服を取り出して「これはヘイヘ用に作らせたものだ、報酬としてくれてやる」

「わかりました、仕方ありませんね」

 

 はあっ、とエトナは大きく溜息を吐き捨てると膝上から私を名残惜しむように持ち上げる。

 

「先輩、スオミの扱い方が上手くなったね?」

 

 ジトッとした目でエトナを睨み付けると「むしろ扱いやすいくらいだよ」と笑い返してきた。

 

「えっとぉ、私は遠慮させて欲しいかな〜?」

「いや、お前はどれだけチームに迷惑かけているんだよ。一日一回はトラブル起こすとかおかしいだろ」

「それ、私のせいじゃないしーっ! それ以上の成果を挙げられるからトントンだしーっ!」

 

 綾子がフシャーッと猫のように威嚇するがエトナには通用しない。

 はいはい、と言いながら首ねっこを掴まれながら親猫に連れ去られる子猫のように綾子は連行されてしまった。そして、私は松葉杖を両脇に挟んで歩き出し、その一歩後ろをスオミが続いた。

 最強の黒森峰と全力で戦ってみたいな、とか、そんなことを思いながら歩みを進める。




兵衛「やっとメインだぁっ! 冬は乗り越えたんですね!」

 次話から違う高校の話を書きたいんだけど、どうしよ?

兵衛「ふえぇ……」

 読者のことを考えると、書くべきではない。でも書きたいから書きますかぁっ!

兵衛「ふえーん!」
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