隻脚少女のやりなおし   作:にゃあたいぷ。

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久しぶりにメインです。メインです(念押し)


本編
副隊長、頑張ってます!①


 継続高校の冬は長い。

 雪解けの季節は春先のことで、入学式の季節を迎える頃に漸く気温がプラスになる。

 ここって本当に日本の領海なのかな、なんだかシベリアの風を感じるな、とかそんなことを感じながら餡饅を咥える。Ⅲ号戦車J型の車内、その戦車長席でハフハフッとしているとコンビニまで買い出しに行ってくれたスオミが、装填手席で熱っぽい視線を私に向けながらコーンポタージュを口にする。砲手席では(かおる)が白けた顔でタピオカミルクティーを啜っており、操縦手席ではおしるこの缶ジュースで両手を温める綾子の姿があった。

 近頃は、よく四人で行動することが多い。黒森峰では、あまりこういうことはなかった。

 あそこでは実力に合わせた配置転換を頻繁に行う為、戦車チームが固定されるレギュラーなら兎も角、二軍ではチームが長続きする事は少ない。その為、家族ぐるみならぬ戦車ぐるみでの付き合いが少ない。だから、こういうアットホームな感じは、なんとなく新鮮で心地よかった。

 それに黒森峰では、戦車内での間食は御法度だ。謹慎三日間くらいは言い渡される。

 

 家族ぐるみと云えば、新入生が入ってきたことで余っていた戦車の乗員も決まった。

 例えば今、目の前を拙い動きで走っているのはエトナ率いるT-34中戦車。入学式から一週間後のこと、何処からか新入生を三人も連行してきた彼女は、そのままT-34の車内に詰め込んで戦車メンバーに加えた。それとは別にヴィッカース6トン戦車、もといT-26Eにも一年生のみで構成されたチームが入っている。

 全国大会に向けて、今日も今日とて訓練を続けており――

 

『もしもし、えっとヘイヘ先輩! パッパがもうすぐ始めるぞって』

 

 今は休憩中。通信機越しに伝えられる言葉を聞いて、車内の皆を見渡した。彼女達が頷き返すのを見てから答える。

 

「あと三分待って、急いで準備するから」

 

 そう告げて、残った飲料物を飲み干し、車内のゴミ箱に放り投げた。

 

 

 入学式当日、暴走族に絡まれている新入生を助けたら懐かれた。

 とても可愛い子だったので、ここでの遊び方を教えてあげると都合の良いことを云って、部屋に連れ込んで堪能した。そのついでに戦車道に誘ってみると二つ返事で快諾してくれたので俺って勧誘の素質があるかもしれないって思った。その翌日、路地裏で暴走族にカツアゲされている新入生が居たので、この前と同じように助けたら懐かれた。この前の子とは違って、胸が大きくておっとりとした感じの子だったので、つい部屋に連れ込んで遊んだ。事のついでに戦車道に誘ってみると二つ返事で快諾してくれたので、やっぱり私は勧誘の才能があるんだなと思って良い気になった。更に翌日、体育館裏で虐められている子が居たので颯爽と助けてあげた。勝ち気が強い子だったのが新鮮だったので言い包めて、部屋に連れ込んでたっぷりと泣かせてあげた。それから流れ作業のように戦車道に誘ってみると二つ返事で快諾してくれたので、私の勧誘の腕前は神がかっていると思った。

 そして本日、初めて戦車に乗ったのだが――私、エトナですが戦車内の空気が最悪です。

 戦車内で凄いギスギスしている。よくわからないけども、凄い睨み合ったり、足を踏んづけて牽制しあったりしていた。流石に仲間内で仲が悪いのは不味いだろうと声をかければ、「なんでしょう、パッパ!」と凄い笑顔を向けてくれるのだ。それはもう凄い、爽やかすぎて逆に怖いくらいだ。「みんな、仲良くしないといけないぞ☆」と茶目っ気たっぷりに告げると「はーい!」と後輩達は良い返事を返してくれる。三人が肩を組む後ろで背中を抓りあったりしていることを除けば、素敵な光景だなあと思います、はい。おかげですっごい肩身の狭い思いをしている。

 なんでこうなったのかわからない、気持ちよかった記憶しかない。

 三者三様、皆違って皆良い。

 

 今日の朝に三人娘と一緒に通学している時、偶然、出会わせたミカがとても冷めた目で俺のことを見つめてきた。

 

 さて新しく戦車仲間になってくれた三人娘を軽く観察する。

 まず砲手を務める俺の隣で装填手を担ってくれているのはまひるだ。なんとなしに臆病な雰囲気を持つ彼女ではあるが、これでいて働き者であり、砲弾を担ぎ上げては砲身に叩き込むことを一生懸命繰り返してくれる。その健気なところが可愛らしくて愛くるしく、ついつい彼女のショートカットの髪に手を伸びて頭を撫でてしまうのだ。嬉しそうな顔で頭を手に押し付けてくる様は、なんだか犬っぽいと思った。ちょっと汗っかきなところもあり、練習後は下着までぐっしょりと濡らしていることが多い。そういう時に恥じらう彼女と一緒に寝ると、とっても興奮する。恥ずかしいことは何度繰り返しても慣れず、ずっと飽きずに虐めることができた。

 次は通信手の遥香(はるか)、小柄な体に不釣り合いの大きな胸、それでいておっとりとした雰囲気を持つ少女。ウェーブかかった長い髪が特徴的な子で、それを柔らかく揺らしながら歩く姿は見る度に美人だと思い知らされる。全体的にもっちりとした肌触りで抱き心地がよく、何時までも抱き締め続けることができた。彼女の柔らかで豊満な胸に顔を埋めると濃厚な甘い香りがする。

 最後に操縦手の未来(みき)について語る。ツインテイルで勝ち気の強そうな目付き、口を開けば棘の強い言葉ばかりが吐き出される。しかし決して彼女は気が強い訳ではなく、むしろ押しに弱い臆病者だ。気の弱い犬ほどキャンキャン吠えるものだが、彼女がそれに当て嵌まると言っても良い。部屋に連れ込んだ後もなし崩し、俺に流されるままで気が強いとはとても言えない。それでいて口先だけは罵声と罵倒を浴びせ続けるものだから、黙らせてやろうと張り切り外が明るくなるまで虐めに虐めて、息絶え絶えで口の端から泡を吹き出し、顔を涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしても、まだ掠れた声で悪口を言っていたから根性はあるのかも知れない。拷問染みた調教をしても心を折ることがないから思う存分に可愛がれる、たぶん三人の中で最も取り返しが付かないことになっている。

 ちなみに皆、戦車を操縦する腕前はそれほどでもない。妹のマリや綾子を知っている分、どうしても見劣りする。しかし手を出してしまった手前、下手に捨てるとまた退学沙汰に発展しそうだな、と思えば下手に縁を切ることもできない。幸いなのは三人共、まだ飽きが来ないということだ。

 正直な話、仲が悪いのは勘弁して欲しいが、個人的には今暫く楽しみたいと思っている。

 

「パッパ、今日は私と一緒だよね!」

「えー、駄目だよ。まひるちゃん、今日は私がたっぷりと甘やかせてあげるんだよ?」

「残念だったわね! パッパは今日、私と約束してるのよ!」

「私もだけど?」

「私もー」

「パッパ、どういうことなの! 説明しなさい!」

 

 もう三人一緒で良いんじゃないかなあ、そんなことを思いながら休憩時間中はずっと肩身の狭い思いをし続けることになる。

 練習時間が恋しくなるのは、この三人による尋問から逃れる為だった。なんだかもう段々と面倒になってきたので、俺のことを好きにしても良いから三人で一緒に寝てみようか、と三人が仲良くなるきっかけとして駄目元で誘ってみると「好きにしても良い!?」と三人は目を輝かせて問い返してきた。あっ、まずったかな。と思った時にはもう手遅れ。

 その日の夜は色々と取り返しが付かないことになった。

 

 

 ピロリン♪ とスマホの着信音がなる。

 私、マリは姉エトナから送られてきた画像を開いた。そして、ソッと閉じる。まあ何時かこんな目に合うんじゃないかなとは思っていたので驚きはない。とりあえず三人の新入生には、姉を社会的に殺せる画像を他の人には送らないように返信し、もうちょっと懲らしめても良いよと付け加えておいた。

 それから必死に助けを請う姉の着信を既読スルーし、これで少しは懲りるといいな、とか考えながら布団に潜り込んだ。

 

 

 ヴィッカース6トン戦車の車体にT-26の砲塔を乗っけるとフィンランドの独自戦車であるT-26Eに様変わりする。

 その戦車に乗せて貰っているのが私達、新入生によるトナカイさんチームだ。戦車道を始めたのは、なんとなしに格好良く感じたからだ。今は人数が少ないからすぐに戦車に乗れると聞いたのも決め手の一つで、私、茉莉亜は、中学生からの親友である愛乃とソフィアを誘って戦車道を履修することになった。

 戦車が前進して振動する音だけでもドキドキで、体の奥まで響く砲撃音にはワクワクだった。

 そうやって稼働する戦車に目を奪われていると、親友二人が私のことを見つめていた。愛乃は少し困ったように笑って、ソフィアは私に優しい笑みを浮かべている。私はもう居ても立ってもいられなくって、私達の相棒になるT-26Eの戦車に駆け寄ろうと二人の手を引いた。

 後ろ向きに走り出したせいで、ドンと背中に誰かとぶつかってしまった。

 慌てて振り返ると先輩の姿、確かエトナ先輩だ。ごめんなさい、って慌てて謝るとエトナ先輩は構わないって疲れたように笑顔を浮かべながら答える。なんだか妙にやつれており、目の下には隈が浮かんでいた。心配になって声をかけようとして、ゾッと背筋に冷たいものを感じる。

 顔を上げると妙に肌がテカテカした三人組が私のことを満面の笑顔を浮かべながら無言で見つめていた。

 あまりの怖さに「ピャッ!」と私が悲鳴を上げると笑みを深めてみせる。

 

「姉さんのことは心配しなくても良いよ、自業自得だからね」

 

 私の手を引いてくれたのはマリ先輩だ、確か名字が違うけどもエトナ先輩の妹さん。そうして連れられて行ったのはT-26Eの前であり、お礼を言おうとした私の口元にマリ先輩の人差し指を当てられた。

 

「自分の体が大切なら姉さんに近づかない方が良いよ。綺麗なままでいたいならね」

 

 その言葉に私は首を傾げる。するとマリ先輩は呆れた顔で私の後ろ、親友二人に視線を向けた。愛乃とソフィアは力強く頷き返してみせる。意味がよくわからない。それからマリ先輩と別れた後、「どうしてエトナ先輩に近付いたら駄目なんだろ、ねー?」と後ろの親友に話しかけると何故だか二人とも少し頰を赤くして困ったような曖昧な笑顔を浮かべてみせるだけだった。

 

「エトナ先輩って格好良いのに、私もあんな風になりたいな!」

「あんな風に!?」

 

 二人が盛大に咳き込んだ。

 愛乃は鼻まで覆い隠すように口元を抑えながら身を屈めて、ソフィアは鼻を摘みながら空を仰ぎ見て、首の後ろをトントンと叩いている。共に耳まで顔を真っ赤にしており、なんだか二人の変な反応に首を傾げる。

 まあ二人のこういった反応は珍しいことではない。いつものことだと考えて、一人、先に戦車に乗り込もうと足を上げる。

 

「パンツ、見えてる! パンツ!」

「恥じらいヲお願いシマス!」

「別に女の子同士だから恥ずかしくないじゃん」

 

 減るものでもあるまいし、そう思いながら車内に潜り込んだ。




更新された面々、名前は全員覚えなくても構わない気がします。
適当に折り合いを付けてください。

・長ぐつさんチーム
使用戦車:Ⅲ号戦車J型
戦車長兼通信手:茨城(いばらぎ)白兵衛(しろべえ)(二年生)
砲手:鬼瓦(おにがわら)(かおる)(二年生)
装填手:水森(みずもり)スオミ(二年生)
操縦手:片瀬(かたせ)綾子(あやこ)(二年生)

・ヒグマさんチーム
使用戦車:T-34中戦車
戦車長兼砲手:川内エトナ(三年生)
装填手:まひる(一年生)
操縦手:未来(みき)(一年生)
通信手:遥香(はるか)(一年生)

・トナカイさんチーム
使用戦車:T-26E軽戦車
戦車長兼通信手:茉莉亜(まりあ)(一年生)
砲手兼装填手:ソフィア(一年生)
操縦手:愛乃(あいの)(一年生)

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