隻脚少女のやりなおし   作:にゃあたいぷ。

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戦車道、再開します!①

 戦車道を続けると決めた私が選べる高校は少なかった。

 有名な高校は特待生が枠を埋めてしまっているし、隻脚の身で戦車道を続ける意志を伝えると顔を顰める相手も多い。もういっそのことで最初から部を発ち上げてやろうかと思って、高校の沿革を調べていた時だ。丁度、二十年前まで戦車道があったという大洗女子学園のパンフレットを机に広げていると、スマートフォンに連絡が入った。

 連絡先は事務課、電話を取ると私の転入先が決まったという報告だった。

 

 

 継続高校。規模は小さくて貧しい高校ではあるが、戦車道は盛んに行われている。

 ――という話なのだが、此処は何処の大正か。トタン屋根の物置とか生まれて初めて見た気がする。というよりも学園艦は最先端の技術が内包されているはずなのに街並みが寂れすぎている。此処は何処だ、県庁所在地を省いた東北か、それとも北海道か。流石に秋田南部とまでは云うつもりはない。しかし、まさか学園艦で時代錯誤を感じることになるとは思わなかった。

 まあ戦車道が続けられるのであれば、贅沢を言うつもりはない。先ずは校舎、ではなくてパンフレットの地図に書いてあった戦車道の敷地内に足を運んだ。

 継続高校は戦車道が盛んに行われているが決して実力が高い訳ではない。最近の十年間での戦績は初戦敗退を繰り返しており、去年は黒森峰が初戦で叩き潰している。統率や戦術が未熟だったこともあるが、連敗を重ねる最大の要因は他校に比べると戦車の質が圧倒的に劣っていることだ。

 まあ、その程度のことは覚悟してきている。

 黒森峰のような恵まれた環境は望まない。戦車の整備すらも儘ならないかもしれない、それでも戦えないことはない。戦車道の枠を特待生で埋めず、隻脚でも戦車に載せてくれる程度には人手が足りていない高校という条件に当てはまったのが継続高校しかなかった以上、後は与えられた環境で最善を尽くすだけだ。

 新しい戦車と巡り会えることは気分が高揚する、それが愛車になることを思えば尚のことだ。

 松葉杖を両脇に車庫に足を踏み入れた。

 腐っても戦車道、黒森峰と比べると決して多くはないが、十両の戦車が車庫に並んでいる。よく見ても、きちんと整備されているようで胸が踊った。此処から新しく私の戦車道は始まるのだ、悪くないではないか。そんな風に満足げに頷いていると、ヒラリと私の眼前に紙が落ちてきた。なんだろう、と思って目を向ける。

 今にして思えば、そこで気付くべきだった。此処には戦車道に関わっていそうな者が一人もいなかったことに、そして暫く大会がないにも関わらず、綺麗に塗装し直されていることに。

 その理由は全て、床に落ちている紙が雄弁に物語っていた。

 

 ――差し押さえ。

 

 ブロロロロン、という重厚なエンジン音が車庫の外から聞こえてきた。

 その数は一、二、三、四、合計十台。リーゼントやモヒカンをした女生徒達が「ヒャッハー、借金には現物徴収だァーッ!」という掛け声と共に十台の大型トラックが入り込み、そして、「それじゃあ確かに頂いたぁッ! ヒャッハーッ!! 完済証明書はこちらになりまぁーすッ!!」と完済証明書を置き去りに、戦車を全て持ち去ってしまった。

 後に残ったのは伽藍堂……と思えば、またしてもブロロロロンという重厚なエンジン音が響いてきた。

 その数は一、二、三、四、とにかく沢山の自動車が車庫に乗り込んできた。スタントマン顔負けの技術でズギャギャッとドリフトを決めながら次々と車が車庫入れされる。そして最後にはデコトラが乱入してきて、歌謡曲と共に荷台部分が左右に開かれる。中に詰め込まれたのは戦車道でもよく使う様々な整備道具や部品の数々であった。

 そして、デコトラでこぶしを効かせながら熱唱する和服の極道女が堂々と宣言する。

 

「ここを自動車部とするッ!!」

 

 イヤッフゥーッという歓声と共に車庫内は熱狂の渦に巻き込まれる。

 何が起きているのか理解できず、付いて行けず、ほんの数十分で戦車道部から自動車部に模様替えしてしまった車庫から、私は泣く泣く逃げ出すことしかできなかった。

 

 

 戦車道、私の戦車道は何処?

 もう夜更け近く、私は義足を引き摺り、松葉杖を突きながら学園艦を彷徨い歩いていた。

 戦車道を続ける為に遠路遥々継続高校まで転入してきたというのに、いざ来てみれば戦車は全て差し押さえられ、車庫は自動車部に占拠されてしまった。何がどうなっているのかわからない。戦車道部は確かにあると聞いて転入したのは、この仕打ちはあまりにもあんまりすぎる。片脚を失っても折れなかった心が挫けてしまいそうだ。こんなことになるならば、大洗女子学園に転入すれば良かった。

 ふらり、ゆらり、と路頭に迷い続けて、そしてバス停に腰を下ろした。なんとなしに時刻表を見ると朝と夕方の二本だけだった、ファッキン田舎め。黒森峰の学園艦だと三十分毎にバスが通ってたのに! そうして大きく溜息を吐いて項垂れる、そのままどれだけの時間が過ぎただろうか、地響きのような振動、聞き慣れた音に顔を上げる。

 その目に飛び込んできたのは、BT-42。

 嘗てフィンランド軍が新設される突撃砲部隊の為、ソ連軍のBT-7快速戦車を改修して完成させた機体だ。BT-7の持ち味だった快速はほとんど維持されており、履帯を装着時の最高速度は53km/h、履帯を外した時はなんと73km/hになる夢と浪漫の快速突撃砲だ。鹵獲した機体の改修品ということもあって、生産されたのは僅か18輌、内8輌が破壊されているので現存するのは10輌だけという幻の車輌でもある。

 まさか、こんな珍しい車体にこんなところでお目にかかれるとは――BT-42の中から誰かが顔を出したがそんなのを気にしている余裕はなかった。

 

「やあ、こんなところで――」

「クリスティぃぃぃぃんぅげほッごほッ!! まだ、まだ残ってたぁッ! うぁぁああんッ!!」

 

 泣いた、泣き喚いた。

 BT-42に搭乗していた三人組から引かれているが、それでも咽び泣くことを止められなかった。だってもう戦車道が続けられないかもしれないと思ったから、継続高校に転入したばかりで他の高校に行くことができる可能性は低かったから、私の心は戦車道と共にある。それを奪われることは片脚を失うことよりも辛かった。ふと空を見上げると満月が浮かんでいた。告白する時に、こんな言葉を選んだ人の気持ちがなんとなくわかった。

 BT-42を手で触れながら、うっとりと告げる。

 

「月が綺麗ですね」

 

 月が美しくて、それに照らされるBT-42があまりにも綺麗だったから、そう云うしかない。

 

「……ねえ、大丈夫かな、この子?」

「うーん、始めて見るタイプの子だね」

「うわっ、ミカが困ってるなんて珍しい」

 

 ひそひそと話し合う三人の事なんて気にせずにBT-42に頬擦りする。

 この冷んやりとした感触が最高だった。この感動的な出会いに死にそうになる。

 死んでもいいわ、と云う人の気持ちがなんとなくわかった気がした。




勢いで書けてしまったので、次回から真面目になるんじゃないかな。
全部、デコトラが悪い。
全国大会の時系列を大体、二十話程度を目処にしています。
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