隻脚少女のやりなおし   作:にゃあたいぷ。

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番外編:イチから始める戦車道リナシッタ!⑨

 ペパロニは歓喜した。必ず、かの突撃馬鹿の敵を除かなければならぬと決意した。ペパロニには戦術がわからぬ。ペパロニは、補講の常連である。戦車を駆り、パスタを炒めて暮して来た。けれども喧嘩に対しては、人一倍に敏感であった。きょう試合中ペパロニは命令に従い、野を越え森越え、伏して待つべき此の坂の上にやって来た。ペパロニには父も、母もいる。恋人は無い。兄と姉、弟二人は実家暮らしだ。この弟はさておき、隘路に来た哀れな敵チームを、今から、獲物として迎える事になっていた。喧嘩も間近かなのである。ペパロニは、それゆえ、事前の作戦やら細かな戦術やらを忘れ、敵を蹴散らしに駆け下りたのだ。

 

 『走れ、ペパロニ』ペパロニの日記帳より抜粋。

 

 

 パラリラと心のホーンを吹き鳴らす。

 オラオラ系でノリノリ爆走行進曲。砂煙を上げながら坂を下る、エンジンはフルスロットルだ。勢いにノリを追加するツインターボ式、最早、私は誰にも止められない。止められたって止まらない。瞬間速度は、なんと驚け、時速80kmは超えている。その速度を維持し、()()()()()()()から敵に向けて突撃を開始する。

 作戦? 忘れた! 戦術? なんだっけ!? CV33型快速戦車が二輌、砂煙を舞い上げながら有効射程外だけど機関銃を撃ち鳴らした。これは行ける! って、なんとなく思っちゃったから行くしかない! 戦車二輌、 左右に交差させながら敵車輌に向かって突っ込んだ。砲撃なんて当たるものか、当たる気しないからたぶんきっと当たらない。アッハッハッハッと笑いながら全速前進、掠める砲撃、撃ち鳴らせ機関銃。ハッチから身を乗り出してからの仁王立ち、「当てられるものなら当ててみろ!」と腕を組みながら高笑いを上げている。その時、装甲が砲弾を弾く音と共にCV33型の軽い車体が大きく傾いた。あんれ〜、当たらないんじゃなかったっけ? 傾く車体に後ろからガンッと体当たりを受けて、乱暴に体勢を戻される。そのまま何食わぬ顔で高笑いを上げ直し、砲室の中へと戻る。

 さあ歌おう、こんな時こそ歌おう。声高らかに鬼のパンツは良いパンツ!

 距離を詰めて、敵二輌を回り込む形でドリフトしながら機関銃を撃ち続ける。逃げる奴は敵だ、逃げない奴はよく訓練された敵だ! ズガガガガガッと引き金を絞り続ける。当たったのは一、二発、撃ち切ると同時に前進開始だ。敵戦車の車体が転回、ついでに砲塔も回して、私達を捕捉しようとするが遅い遅い。隘路にある左右の傾斜も利用しながら至近距離に纏わり付いた。特に意味なく前進しながらの最速百八十度ターン。つまり、アンツィオ高校の秘技、ナポリターン。はい、見せたかっただけ! 戦車後部を撃ち抜かれて、またも転倒しそうになるけども――咄嗟に戦車から飛び降り、横に倒れる前に体当たりをぶちかましてから戦車に飛び乗った。その間、相方のCV33型が敵の注意を引いていたのは良い仕事。後で鉄板ナポリタンを奢ってやる、フゥーハッハァーッ!

 最高にハイッ! これって恋? パンツァーラブ! フォーリンラブ、ラブフォーユー! アイLikeラブ! HOTにKOOLに踊っちゃおうッ! 全身全霊マッハGoゴーッ!!

 車内でゲラゲラ笑いながら敵車輌を撃破する為に機関銃の引き金を絞る。 

 

 

 頭おかしい(辟易)。

 私、マイコは頭を抱えたくて仕方なかった。

 私達を撃破しておきたいのであれば坂上に布陣し続けるのが優位なはずなのに、何故か急斜面の坂を下りてきた。貧弱なCV33型の火力では至近距離でしか仕留められないので、まあ戦術的には悪手であっても近付いてくることは理解できる。それならどうして、わざわざ距離を空けた場所から駆け下りたのか。隘路の遠中距離ならば、機関銃を載せているCV33型よりも、戦車砲を載せているTP7単砲塔型の方が優位に決まっている。坂の上から降りてくるのであれば、せめて逆落としを仕掛けてくるべきだ。

 何故、相手は自ら苦境に立っているのか。何故、相手はあんなに楽しそうに笑っているのか。

 こんなの戦術云々以前の問題だ。

 そして、なによりも腹立たしいのは、戦術の「せ」の字、戦車の「せ」の字も知らないような奴の操縦技術だけは我らボンプル高校にも匹敵するということだ。いや、むしろ至近距離の白兵戦に限っていえば、私達よりも優れているかも知れない。

 認めたくない、認めたくないが――認めなくては翻弄され続けるだけだ。

 

「このど素人めぇ……ッ! 今だけは認めてあげるわ、貴方達の方が優れていることをッ!!」

 

 こんな馬鹿丸出しの相手に劣っていることを認めなくてはならない屈辱。

 だが、相手を同格以上と認めることで取れる手は増える。順当に行けば勝利、という条件が失われた以上、受け身になることに意味はない。攻勢に出る、勝負を仕掛ける。こんな奴らを認めることよりも、こんな奴らに負けることの方が屈辱的だ。

 過度の負荷によってズキリと痛む頭を抱えてCV33型を睨みつける。

 

「ぶちかませッ! こんな奴に負けるなんて人生の汚点よッ!!」

 

 蚊蜻蛉よりもうざったらしく動き回るCV33型の一輌に向けて体当たりする為に前進を指示する。

 じっくりと軌道を読んでからの行動であったが、しかしCV33型はぶちかますよりも早くに半回転(ナポリターン)し、反対方向に前進した――かと思えば、そこから更にUターンの要領でTP7単砲塔型の体当たりを完璧に躱して抜き去った。まるでアメフトのスピンのような躱し方だ。

 しかし策士マイコの策は二段構えだ、避けられることは読めている!

 私達を抜き去ったCV33型の横っ腹に目掛けて、TP7双砲塔型の体当たりが綺麗に決まった。側から聞いても強い衝撃音に私は僅かに身を縮こまらせて、一転、二転と横転するCV33型をハッチから身を乗り出すことで確認した。よし、これで一輌――と思ったのも束の間、もう一輌のCV33型が横から突っ込んでTP7双砲塔型の背面を取った。そのまま零距離からの機関銃連射にTP7双砲塔型の装甲は弾け飛び、パシュッと白旗が上がる。横転したCV33型も白旗が上がっているのを確認する。

 これで残るは互いに一輌ずつ、敵CV33型のハッチが開き、跳ね散らかした髪をした女性が顔を出した。

 

 こいつは確かアンツィオ高校の副隊長の一人、なぜか彼女は儚げな表情、悲しげな瞳で何処か遠くを眺めている。

 そんな彼女を静かに睨みつけていると、彼女はゆっくりと独り言を呟くように口を開いた。

 

「私、この戦いが終わったら総帥(ドゥーチェ)に鉄板ナポリタンの秘伝を教えて貰おうと思っているんすよ」

 

 ……何言ってんだ、こいつ。

 怖っ、ちょっと距離を取っとこ。

 悟られないように、そおっと。

 

 

 鉄板ナポリタンの秘伝をまだ教えて貰っていなかった。

 そのことに気づいた私は今、無性に悲しくって仕方なかった。それに試合が終わった後に食べようと思って冷蔵庫に残しておいたプリンがルームメイトに食べられていないか心配だ。そういえば妹とは今日の試合で勝って帰る約束をしていたっけな。相方のCV33型、そんなに不安そうに見つめるなよ。私なら大丈夫だぜ、さっさと総帥(ドゥーチェ)の応援に行くんだな。私はこいつを倒してからゆっくりと行くからな。へへっ、お前なんてウチの総帥(ドゥーチェ)が相手にするまでもないんすよ。こんな奴、真正面から戦っても怖くなんてない。

 勝てる計画はもう頭の中で出来ている、と私は指先で自らの頭を何度か小突いてみせる。

 

「あー、あれはッ!!」

 

 彼女の後ろ、鉄屑となった大量の戦車が積み重なる先を指で差した。

 しかしTP7単砲塔型は相手にせず、私は大きく溜息を吐いた後、オープン回線を使って呼びかける。

 

『なんですか、その幼稚な発想は。真面目にやらないんでしたらもう帰ってくれません?』

 

 反応した、その瞬間に私はアカデミー賞ものの演技力*1で驚愕の表情を浮かべてみせた。

 

「……ヤイカ、だと?」

『なんだってッ!?』

「かかったな、バカめッ!!」

 

 砲室の中に滑り込んでありったけの弾丸を敵戦車に浴びせた。

 

「見たか、これが策士っすよ! 戦車道はオツムでするもんっすからねえッ!? 騙して悪いが試合なんすよね、そのまま空っぽの頭と同じように蜂の巣になれっ! 折角の戦車もこの様では残念さんすねえッ!? 戦車の性能も活かせぬままやられていくんだよおッ!!」

 

 高笑いを上げながらDADADAと機関銃のトリガーを絞る。

 目標をセンターに入れてスイッチ、目標をセンターに入れてスイッチ。これだけの弾幕、流石にこんなに撃ち込めば敵もひと溜まりもないはずだ。やったか? と満点ドヤ顔、笑顔は花マルで敵戦車を見据えると――そこには、ほとんど無傷な戦車の姿があった。

 あれ〜? と首を傾げる。なんだか少し間合いが遠くなってる気がするな。

 

『ああ、良かった。本当に良かった……お前に負けるのは本当に人生の汚点だよッ!!』

 

 ズドン、と撃ち込まれた一撃は見事にCV33型を爆発四散させて、バシュッと白旗を上げさせる。

 ここに隘路の戦いの決着が付いた。

 横転した車体から、這う這うの体で抜け出した私は笑う膝に喝を入れて立ち上がる。

 最後に一言、どうしても奴には言っておきたい言葉があった。

 

「おぼえてろーッ!!」

『うっさい、満面の笑顔で言ってくんなッ!!』

「あーはっはっはっはっはっ!!」

 

 腹を抱えながら笑い声を上げて、そのまま仰向けに寝転がった。

 まあ充分な時間は稼げた。

 あとは姐さんズの勝利を信じるだけだ。私はなけなしの力を振り絞り空高くに拳を突き出した。

 

 

 

*1
個人の見解。




この子が一番楽しんでると思います(フラグ)。
今からローズヒップを書くのがめっちゃ楽しみです。

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