隻脚少女のやりなおし   作:にゃあたいぷ。

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戦車道、始めます!②

 これは卒業式を迎える数週間前の話だ。

 私達、生徒会役員の三人は、文部科学省の学園艦教育局に呼び出された。応接室に通された私達の向かい側には七三分けで眼鏡を掛けた如何にも役人面をした男が座っており、局長の辻廉太と事務的に名乗った上で呼び出した要件を簡潔に、単刀直入に、淡々と口にする。

 それは到底、許容できるものではなくって、思わず私、角谷杏は彼が口にした言葉を繰り返した。

 

「廃校!?」

「学園艦は維持費も運営費も掛かりますので、全体数を見直し、統廃合する事に決定しました」

 

 私に与えられた衝撃も露知らず、機械的に経緯と理由を述べられる。

 頭が驚きと困惑に満ちる中で私は今、置かれている状況を理解し、分析しようと無意識に思考を割いた。どの位置に立っているのか分からない時、立ち止まって地図を見る。方角が分からなければ、先ずはコンパスを取り出す。自分が今、どういう状況に置かれているのか理解できない時は判断すべき時ではない。そうしなくては今、自分が何をすべきかも分からない。先ずは情報を得ることだ、その為にはじっと相手を観察する必要がある。

 呆然とする中でも役人は「特に成果のない学校から廃止されます」と無表情で言葉を続ける。

 

「つまり私達の学校がなくなるということですか?」

 

 副会長の小山が困惑に口を開き、「納得できない」と広報の河嶋が役人の男に噛み付いた。

 

「今納得できずとも、今年度中に納得して頂ければこちらとしても結構です」

 

 この嫌味な言い回しは役人特有のものだろうか。苛立ちを抑え込みながら、ただじっと手元の資料を見つめる役人を観察する。

「じゃあ来年度には」という小山の言葉には「はい」と一言、「急すぎる!」という河嶋の怒りを込めた言葉にも顔色一つ変わらない。本当に典型的な役人面、良い面の皮をしている。お役所仕事も良いところだ。そのまま資料と照らし合わせながら大洗女子学園が廃統合の対象に選ばれた理由が述べられる。その姿を見ていると何を言っても無駄なような気がしてくる。たぶんきっと彼は私達のような一般的な生徒会や理事長、校長の相手を幾度となく繰り返してきたのだろう。感情に任せても受け流されるだけ、情を訴えても意味はない。必要なのは実績か、大洗女子学園では年々生徒数が減少しており、近頃は目覚ましい成果を出した活動もない。今すぐに廃校を取り消させる為の手札がなかった。

 考えろ、考えるんだ。なにも今すぐに出せるものじゃなくても良い、今年度中に実績として上げられるものを提出できれば良いのだ。

 

「昔は戦車道が盛んだったようですが――」

 

 その役人の言葉で「ああ」と私は口を開いた。

 

「じゃあ戦車道やろっか?」

 

 思い付きの言葉に、初めて役人の顔色が変わった。失言した、と云うよりも、不意を突かれた、といった感じの表情だ。

「ええ!?」と両隣に座る生徒会仲間の二人が驚きに声を上げ、「戦車道をですか?」と河嶋が続ける。私だって、こんなのが上手くいくかどうかなんて分からない。スポーツで優勝するっていうことがどれだけ大変なことかも知らないわけではない。でも突破口は見えた、ならば行くしかない。ここで立ち止まれば、大洗女子学園がなくなるかもしれないんだ。臆している暇はない、躊躇している余裕はない。此処から先、何が待ち受けているのかわからない。でも、今は進むべき時だ。ならば速やかな決断を。

 不敵に笑え、真っ直ぐに相手を見つめて言い放ってやれ。

 

「まさか優勝校を廃校にはしないよねえ?」

 

 役人の頰に冷や汗が伝うのが見えた。

 私は勝ち誇ったように深々と椅子に座り直す。まるでそれが既定路線のように話を進めて「ええ、まあ」と、どうにか私の言葉を飲み込ませることができた。しかし、攻勢もここまで「本当にそれが、できるなら考え直しましょう」と役人が中指で眼鏡の位置を直しつつ居座り直す。相手が態勢を持ち直したことを確認し、これ以上の言葉を引き出すのは無理そうだと私は判断した。

 この辺りが引き際と判断し、話が拗れる前に早々に応接室から退散する。

 

 学園艦に戻ってからも、慣れ親しんだ生徒会室で三人一緒に話し合った。

 戦車道で優勝できるのかどうか、本当に他に手はないのか。廃校を公表すべきかどうか。検討に検討を重ねて、やはり無謀だと結論が付けられる。生徒や学園艦の住民には早く知らせた方が良いのかもしれない、いやきっと良いに違いない。できるだけ早くに伝えて、身の振り方を考える時間や猶予を多く取らせるのが、きっと正しい選択に違いなかった。

 ふと目に付いて、なんとなしに取り出したアルバム。それを机の上に広げる、椅子に座ってパラパラと捲っていると小山と河嶋が横からアルバムを覗き込んできた。校門前で三人一緒に撮った写真、河嶋が珍しく笑っている。これは仮装大会、これは夏の水かけ祭り、泥んこプロレス大会。一年生の時から使っている生徒会室を見渡せば、小山が予算をやりくりして買った冷蔵庫や電子レンジやホットプレート。部屋の隅にはコタツが片付けられており、ビニール袋を被せた石油ストーブもあった。体育祭や学園祭や合唱祭の前には、この部屋でよく寝泊りをしていた。なんとなしに思い出話に花が咲いてしまって、あれがあった、こんなこともあった。と楽しい思い出ばかりが思い浮かんだ。生徒会をしている以上、相応の苦労もたくさんあったはずなんだけど、そんなこと全然思い浮かばなかった。いや、むしろ、それすらも楽しい思い出として記憶の中に残っている。ああ、本当に楽しかったなあ、と染み染みしながら言うと、ぽたり、とアルバムの上に水滴が落ちた。

 顔を上げると河嶋が両拳を握り締めながら身を震わせている。

 私は微笑み、小山も優しく笑みを浮かべて河嶋を見守った。大丈夫、分かってる、と声を掛けながら小山と私で彼女の背中と頭を撫でる。もう言葉はいらなかった。この判断が正しいのかどうか分からない、もしかしたら私達の決断のせいで多くの人が不幸になるかも知れない。大洗女子学園の為に戦った、なんて言い訳にはならない。これはエゴですらない。誰かの為に、ではなくて自分達の為に。ただのわがままだった。それでも学園で過ごす最後の一年間を涙で枕を濡らしながら過ごしたくない。

 私達はきっと悪党だ。それも結構、性質の悪い類の。私達三人は、この日から共犯者となった。

 秘密を共有するのは私達三人だけ、泣き寝入りすることよりも抗うことを選択した。大洗女子学園の廃校という重荷を、そして私達の決断に数多の人間を巻き込む罪を背負ってただ一つの希望に縋って戦い続けることを選び取った。

 明確な意志を以て、私達は私達の戦いを始める。

 

 

 現在、大洗女子学園の生徒会役員は三名。

 生徒会長の私こと角山杏、そして副会長の小山柚子、広報の河嶋桃の三人で仕事を回している。

 文科省の役人には戦車道全国大会優勝と大口を叩いてみたが、それを成すのは生半可なことではない。いくら他のスポーツと比べて小学生から中学生における競技人口が少ないと言っても、やる者は中等部から始めている。特に黒森峰女学園やサンダース大付属高校といった強豪校は中等部から戦車に乗せているので、素人目から見ても他とは練度が段違いだった。そして大洗女子学園で戦車道を始める上で最もネックになるのは、戦車道に精通した者が一人もいないことだ。それも当然といえば当然の話で、大洗女子学園の戦車道は二十年以上も前に廃止されており、今いる生徒の中に戦車道の経験者は一人もいなかった。戦車道で行くと決めた当日に片っ端からオファーを送ってみても空振りで、途方に暮れる。縋る思いで新入生全員の身元調査をする毎日を送っているが、これといった成果は上げられていない。それも当然の話だ、戦車道のない高校に戦車道経験者が好んで来るとは思えない。せめて廃校の通達が受験前であれば、大々的に戦車道復活を喧伝することもできたが……その場合だと廃校の噂で入学生が減っていたかな。それはまあ、さておき、受験シーズンが終わって受験生の入学先が決まった後に廃校の通達って酷い話だよねえ。

 何の成果も得られない毎日、無力感に苛まれている内に卒業式が訪れた。

 体育館、今年の卒業生達が整列する中で私は不眠続きの重たい体を引きずり壇上に登る。隈が酷い小山は裏方、体を張る仕事はまだ体力に余裕がある河嶋に投げた。それで校長先生の長話を耳に、必死になりながら目を開けていると――ドォン! と戦車の砲撃音が響き渡った。この音を瞬時に判別できたのは、つい先日まで戦車道に関する情報を集めていたからだ。しかし、戦車と縁のない我が校では爆発音と聞き間違えてもおかしくない。教員達は困惑し、卒業生達は騒めき立った。

 小山、とスマートホンで裏方の副会長に連絡を取る。

 

「疲れてるところ悪いけど、適当に誤魔化してもらっても良いかな?」

『会長、適当にって!?』

「頼んだよ」

 

 通話を切り、次は河嶋に混乱を収拾する為に動くように言い付ける。そして最後に風紀委員会の連中に連絡を取り、この砲撃音の正体を探るように指示を出した。真っ暗な画面に戻したスマートホンをポケットに入れ直し、壇上の小山が「一発だけなら誤射かもしれない!」と目をぐるぐる回しながら見苦しい言い訳をしているところを確認して、ああこれは本格的に頭が回ってないな、と溜息を零して私自ら壇上に登り、小山からマイクを受け取った。

 

「いや〜、ごめんごめん。先輩方に対して、新たなる門出を祝おうと思ったんだけども……ちょっと手違いがあったみたいでさ〜。祝砲を用意していたんだよ。でも間違えて今撃っちゃったみたいなんだよねえ。驚かせちゃってごめんね?」

 

 あっはっはっと軽い調子で笑って、全力で誤魔化すことにした。

 風紀委員会の話では今現在、艦上で目立った被害は出ていない。だから学校行事には何時も全力で楽しんできた私達の悪ふざけということで乗り切ることにした。これで住宅地とかに被害が出ていたら生徒会長の罷免は免れないなあ、とか内心ひやひやで顔も知らない人騒がせな連中を庇う選択を取る。まあ生徒会なら仕方ないか、みたいな雰囲気になって事態は収拾し、卒業式の後で「そういうことは先に知らせろ」と教員達に叱られる羽目となった。

 生徒指導室から三人一緒に出た後で、「どうして庇ったんですか!?」と無言を貫いていた河嶋が口を開いた。

 

「いやま〜、もしかしたら希望かも知れないし?」

 

 そう言って笑い返すと河嶋は首を傾げて、小山は困ったものを見るように苦笑いを浮かべてみせた。

 

 結論を話せば、問題児達は戦車道経験者ではなかった。

 問題児は二人、片や戦車が好きなだけのオタクであり、もう一人も少し戦車に精通しているだけで戦車道に詳しい訳ではない。

 そのことに少し落胆したが、しかし、何の成果もなかった訳ではない。後で二人が修理した戦車を見せて貰うことになるのだが、二十年以上も野晒しにされていたとは思えないほど綺麗に整備されていた。パッと見ただけでも、大事にされていたとわかる程度には、丁寧に修理されている。二人が言うには修理に費やした期間は半年以上、自動車部にも見せてみれば、素人が興味本位で本を読み齧っただけのレベルではないという答えが返ってきた。改造した車を自由に乗り回すことができるから、という理由だけで学園艦に受験した自動車部の面々に、この戦車を修理した者と是非とも話をしてみたい、と言わせる辺り、彼女達の本気度合いがよくわかる。

 さて、問題児二人組。生徒会室に呼び出した時の初見の印象だが、戦車オタクの秋山優花里は平凡だった。おどおどしており、少し頼りなさそうな感じがした。そして、もう一人。天江(あまえ)美理佳(みりか)は不思議な感じがする子だった。子供と見間違えるほどに小さな体躯、のんびりとしているようで意思は固く、不意に鋭く切れることを口にする。

 そして僅かな情報だけで大洗女子学園に迫る危機に勘付き、言い当てた。

 天江は理屈よりも先に結論が出る、そして結論に追従させるように理論を固めていくのだ。たぶん彼女は勘が良いと呼ばれる人間だ。ミステリー小説を読めば、事件が起きた段階で犯人が誰なのか分かるのに似ている。結論から逆算するように理論を導き出して、なるほど、と一人で勝手に納得して頷いている。

 天江とだけ話したいと言った時も、彼女はすぐ納得して、秋山に退室を促している。

 そして彼女の目的からして、それは正しい選択だった。

 

「優花里には、この話をしないで欲しいんだ」

 

 全てを話した後、私達に協力する条件として出されたのが上の言葉だった。

 どうして、と問い返せば、知ったら優花里が心の底から戦車道を楽しめなくなるじゃん、と肩を竦めて笑ってみせる。この時、理解したが――天江は秋山に依存している。自覚しているのか無自覚なのかは分からないが、彼女の行動は秋山優花里が中心となっていた。秋山に対する態度次第で天江は敵にも味方にもなる。逆に言えば、秋山に危害を加えなければ敵にはならない、ということだ。

 ……廃校を告げられて以来、自分の思考が損得を中心に回っていることに嫌気が差してくる。

 

「約束するよ」

「うん、ありがとう」

 

 私が誤魔化すように笑顔を浮かべると、彼女は応えるように頷き返してくれた。

 誰かを利用することばかりを考えている。そんな自分が嫌になる。でも、大洗女子学園を廃校にさせたくない。その想いに嘘はない。だから戦い続ける、戦うと決めたからには最後まで戦い続ける。その道程が生半可なものではないと知っているから打てる手は全て打つと決めた。

 そんな自分に、ろくでなしだな、と自嘲する私もいる。

 

 

 大洗女子学園の生徒数はおおよそ九千人。

 この数字だけを見ると、毎年約三千人の生徒が入学することになるが、今年は数を大きく減らして二千六百人となった。それを資料として改めて見た私は年々生徒数が減少していることを廃校の根拠に上げていた役員のことを思い出して自嘲した。生徒会に入った一年生の時から真面目に新入生を増やす案を講じていれば、こんなことにならなかったのかも知れないな。今となってはどうすることもできないことを考えてしまう辺り、結構、参っているのかも知れない。しかし、それも仕方ない。私達はまだ学園存続の為の光明を見つけられていなかった。

 新入生、約二千六百人の身元資料が生徒会室の床にぶち撒けられていた。

 卒業式を終えてから入学式までの約一ヶ月間、私と小山は今年度に入学してくる新入生全員分の経歴を洗っていたのだ。まるで殺人事件の捜査でもしているような地道な作業を一日で百人分、一ヶ月で三千人分という莫大な量を私と小山の二人でどうにか処理し終えた。ほとんど寝ずに行った身元調査で得たものは、新入生の中には戦車道の経験者が一人もいないという事実だけだ。

 この労力だけが費やされた悲惨な結果には溜息を抑えることもできず、大きく息を吐き捨てた。

 もう何日、お風呂に入ってないんだっけ? 小山も疲労を隠せないようであり、膨大な書類の山に囲まれながらソファーで船を漕いでしまっていた。部屋の隅には丸々太ったゴミ袋がひー、ふー、みー……たくさん積まれている。最初の一週間程度は、ちゃんとゴミ箱に捨てていたコンビニ弁当やインスタント食品の容器、それにペットボトルが突っ込んである。頭はベットリ、顔もヌルっとしている。とりあえず、お風呂に入らないとって思うけど、その気力が湧かなかった。

 もうこのまま寝よう、それからまた起きて考えよう。ああでも寝る前にトイレに行こうか、いや、なんかもうトイレに行くのも面倒だし、ペットボトルに用を足そうかな。

 もう女子力だとか、不潔だとか、今はどうでもよかった。 

 

「うわっ、また一段と酷い」

 

 書類が散乱した生徒会室に河嶋が驚いてみせる。小山はピクリとも動かず、私も呻くような声を上げるだけで限界だった。

 

「会長、臭いますよ」

 

 とか言われても、今はもう眠たいから無理だ。汚いのは気持ち悪いのだけども、それ以上に面倒で仕方ない。本格的にもう駄目だな、と思っている横で河嶋が大雑把に部屋を片付けていった。この一ヶ月、ずっと生徒会の雑務を押し付けていたから河嶋の顔にも疲れが見えている。とりあえず今日一日はもう休もう、明日から気を引き締め直す。でも今日はもう駄目だ。

 

「ん、この資料はシュレッダーにかけても?」

 

 そう言って河嶋が資料の束を私に見せつけてくる。

 億劫に思いながらも受け取ると、どうやら転校生の名簿だ。そういえば、まだ手を付けていなかった。でも、もういいや、明日にしようと机の上に突っ伏して「これは取っといて」と河嶋に告げる。頭がもう完全に休養モードに入ってしまっていた。

 河嶋は私から資料を受け取り、遠のく意識の中でペラペラとページを捲る音が聞こえた。

 

「この黒森峰女学園は確か、去年、戦車道で十連覇とか騒がれていたところでは?」

「へーすごいねー」

「西住……会長、西住って確か、戦車道の二大流派の一つですよね?」

「そだよー、たしかねー」

「西住みほ、これって間違いではありませんよね?」

 

 口の端から垂らした涎も厭わず、むくりと体を起こした。

 そして河嶋から見せつけられた資料には、西住、という文字が確かに書かれていた。それをひったくると、そのまま手元にあったパソコンを起動し、“西住みほ”と“戦車道”、“黒森峰女学園”という三つのキーワード検索する。すると情報が出てくる出てくる、湧いて出てくる。新聞サイトの記事にある写真と学生証に使われる写真を比較し、転校してくるのが本人であると確信した。

 ああ、やっと見つけた。それもとびきりのやつがいた。

 

「小山! 小山!」

 

 ソファーで丸まっている小山を呼び起こして、ポカンとした顔を浮かべる彼女に持っていた資料を押しつけるように見せた。

 

「見つけた! 見つけたよ、小山!」

「えっと、なにが……でしょうか? ……まさか!」

「そう! 戦車道の経験者! それもとびっきりの最高の子がだよ!」

 

 やった、と拳を握りしめる。これで僅かだけど、光明が見えてきた。こうしちゃいられない! と西住みほに関する詳しい情報を集めようとして「待ってください」と河嶋に止められる。

 

「まずは風呂に入る。それからきちんとした食事、睡眠、どれもしっかりとしなくては良い案も思い浮かびません! 柚子もだからな」

 

 人差し指を立てながら強い語気で言われる。

 少し呆気に取られて河嶋のことを見つめ返すと、ふんすと鼻息を彼女は荒くしてみせた。

 普段、抜けている彼女をよく見ているから、少しおかしく感じられる。

 

「かーしまー、なんだかお母さんみたいだねえ」

「急に何を言い出すんです!?」

「ママちゃん、私をお風呂場まで連れて行ってくれない?」

「ママちゃんって言うなーっ!! 自分の足で行けっ!」

 

 河嶋と小山の久しぶりのコントに、あっはっはっと声を上げて笑った。

 漸く、一歩前進だ。これでスタート地点に立つことができる。もし仮に運命の女神と呼ばれる存在があるならば、今はその存在を信じても良い。もういっそ誰でも良いからハグしてキスしてやりたいくらいの気持ちだ。その昂ぶったテンションのまま河嶋に飛び掛かろうとしたら、臭いから止めてください、と真顔で拒絶されてしまった。

 その日は念入りに体を洗った。

 

 

 




当作品の生徒会で最も女性の尊厳が保たれているのが桃ちゃんという事実。
ハーメルンで最も好きなガンダムSSは「コンスコンだけど二周目はなんとかしたい」。第三十二話の「政治のキシリア」で戦略、政治、経済、文明の四視線で会議が進められるのを読んでから、もうずっと追いかけてる。
あとがきで書くことがなくなってきたら、軽率に他の作品を紹介していくスタイル。

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