書き直しではなくて、ギュッと詰めるだけなので文章そのものが変わることはないと思います。
沙織が秋山を誘ったことに深い意味はないだろう。
でも、これは丁度良い機会だと思った。天江の側には常に秋山が居る、秋山の側には何処かに天江が居る。その一年目の高校生活で築き上げられた不文律が破られる機会は極端に少なく、二人が理由もなしに互いの側を離れることはほとんどない。だから、いまいち信用し切れない天江のことを聞き出すのに丁度良い機会だと思ったのだ。
さて、どうやって話を聞き出しましょうか?
結論を云えば、話術を弄する必要もなければ、策を考える必要もなかった。
ちょろっと天江の名前を出せば、次から次に天江についての情報が語られる。早口でいきいきと語る秋山の様子に、話し好きの沙織ですらも気圧される有様だった。秋山の行きたいところがある。と言った場所に辿り着くまで、休みなしで語られる話の数々は総じて、「天江殿は凄いんですよ! 天江殿が居るから今の私が居ます!」に帰結する。そんな話の数々から読み取れるのは、秋山は天江のことを無条件に信頼しており、途方もない好意を胸に秘めているという事だ。天江が悪人ではないことは分かる、しかし胡散臭いのもまた事実だった。そもそもヨハネスブルクに戦車がある、と確信を持っていたようなのもまた彼女の事を信用できない一因だった。
さておき、秋山の案内で訪れるは「せんしゃ倶楽部」と書かれた看板を掲げる店だった。足を踏み入れると店名に違わず戦車関連のグッズが飾られている。秋山の話によると、この店は戦車グッズの専門店。二十年前までは戦車関連の備品を中心に取り扱っていたが、大洗女子学園から戦車道が失われて以来、戦車に関連するグッズをメインに売ることで生計を立てているらしい。今も店内に残っている戦車の備品は、その名残との話だ。
設立二十年以上の老舗という話を裏付けするように設置された古いゲーム筐体。生まれてこの方、ゲームセンターという空間に縁がなかった私が、その画面を興味深く眺める。どうやら戦車をモチーフにしたゲームの様だ。「プレイしてみますか?」と秋山に横から問われて「操作の仕方が分からないので」と断れば、秋山が慣れない私の代わりに硬貨を投入して席に座る。そして手慣れた様子で次々とステージをクリアする様子を後ろから眺める。それは見ているだけでも楽しいものだった。
ひと通り店内を眺めていた沙織も合流し、私の隣で一緒に秋山のプレイを観る。
「戦車ってみんな同じに見える」という沙織の言葉に「全然違うんです!」と秋山は口先を尖らせた。
「どの子もみんな個性というか特徴があって……動かす人によっても変わりますし!」
そう力説する秋山に、華道との共通点を見出したりしながら彼女のプレイを楽しんだ。
ふと店内に置かれたテレビから戦車道のニュースが流れた。前年度戦車道全国高校生大会のMVPとして紹介された少女が淡々とインタビューに答える様子が映し出される。戦車道を始めたばかりということもあって暫し眺めていると「黒森峰女学院。去年は惜しくも敗れましたが、一昨年まで全国大会九連覇を成し遂げた高校戦車道の覇者ですね」と丁度、ゲームをクリアしたばかりの秋山が告げる。
「へ〜、凄いんだね〜」と沙織が零せば「そりゃもう凄いってもんじゃありません!」と秋山が元気よく答えた。
「西住まほ。日本戦車道における二大流派、西住流の後継者として認められる程の人物で、国際強化選手にも選ばれているんです。去年こそ運悪く優勝を逃してしまいましたが、その実力は高校生の中で頭一つ分、抜けていると言わざる得ません。戦うだけなら聖グロのウバも負けていませんが、彼女は与えられた戦場で戦うことしかできませんからね。総合力として見れば、やはり西住まほが一番ですよ! 欧州と比べて戦車道後進国と呼ばれ続けてきた日本戦車道の希望の星なんです!」
撃てば必中、守りは固く、進む姿は乱れなし。鉄の掟、鋼の心。と秋山は何かの標語を誦んじてみせる。先程までキラキラと目を輝かせながら早口で語る彼女の姿に呆気に取られる沙織、同じく私も口を挟む事ができなかった。その温度差に彼女も気付いたのか、秋山は急に顔を赤くして「ごめんなさい」と尻込んだ。
「すっごくいきいきしてたよ」
真顔で語る沙織の言葉は、純粋な感想だったのか、もしくは何か言うべきだと思ったからなのか、はたして両方だったのか。それは秋山の身を更に縮こまらせる結果にしかならなかった。
『戦車道の勝利の秘訣とはなんですk?』
『諦めない事、そして、どんな状況でも逃げ出さない事ですね』
暫しの沈黙、テレビの音声が場に流れる。それを聞いた秋山がテレビを見上げた、戦車道のニュースが終わった後でも寂しく眺め続けていた。
「……どうして、西住殿は大洗に来たのでしょうか?」
「それってさっき出ていたテレビの人?」
沙織の問いかけに「いえ、妹の方です」と秋山は首を横に振る。
「凄かったんですよ。その戦い方は臨機応変で変幻自在、これまでの黒森峰では決して見られなかったものでした。新西住流とも呼べる戦術は戦車道に新しい可能性を見せるものでして……こんな凄い人が同じ年齢だなんて信じられなくて……それがちょっと嬉しいんです」
秋山は照れるように頰をポリポリと掻いてみせた。
その気持ちは、なんとなしにわかる。憧れではあるのだろうが、ただ純粋に憧れという言葉で片付けられる訳でもない。手が届かないからといって、その実力に嫉妬する訳でもない。ただ純粋に応援したい。その姿を見ているだけでも力を分け与えられるような、そんな感覚。憧れではある、でも決して目指したい訳ではない。支えたい、と思ってしまうのだ。
ありがとう、その感謝にも似た祈りはファンと呼ぶ他にない。
「……西住って、みぽりんのこと?」
「知っているんですか!?」
零した沙織の言葉に、秋山が勢いよく食いついた。
ああ、そういえば、同じ苗字でした。