もしかしたら、誰もが経験したことがあるかもしれない、そんなお話です。
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ひとりなんて、晴れ晴れするものだと思ってた。
今夜はツイてない、また目が覚めた。
これで二度目の目覚めだ。
ここで時間の確認をしたら、よけいに眠れなくなるかなとも思ったけど、部屋の暗さのせいか今は何時なのか気になって、スマホで時間を確かめた。
午前3時半すぎ。
顔の横にスマホをひっくり返しながら、二度あることは三度あるってなったらしんどいなぁ、なんてことを考えた。
「ヤバい、変な時間に起きてしまったかも。」
無意識に、天井に向かって声を出していた。
ポツリと言ったつもりが、自分以外の誰もいない、深夜のワンルームマンションに響くにはじゅうぶんなボリュームだった。
昨日はちょっとだけ疲れてたから、早めに寝ようとして時計を見たのが夜の11時すぎで。
部屋のすぐ前の通りを、パトカーがサイレンを鳴らして走って行ったのにビックリして目覚めたのが2時くらいだったかな。
こんな短時間に寝たり起きたりするのは、正直、気持ちが落ち着かない。
「明日は早起きしたいんだけどなぁ・・・」
独り言を言いながら、何気なく両手で顔を覆って、気がついた。
「・・・マジでか。」
ほっぺの手触りが、いつもと少し違う。
自慢できるほどの肌ではないけど、変にパリッとつっぱったような手触りのおかげで、鏡を見なくてもわかった。
涙が乾いた跡がある。
泣いた後の独特のつっぱり感を指先でなぞりながら、寝ながら泣いた理由を一生懸命考えてみた。
だけど、どうして泣いてたのか、さっぱりわからない。
夢を見たからなんだろうなぁって想像はつくけど、どんな夢を見たのかがわからなくって、記憶にあるはずの突破口を探ってみた。
真っ暗な部屋の天井を見上げ、目がこの暗闇に慣れてきて、おぼろげに部屋の様子が見えだしてきた。
初めての一人暮らしの部屋。
自分のお気に入りの部屋にしようと、財布とにらめっこしながら少しずつ物が増えてきた。
引っ越した当日、夕方になって薄暗くなってから、部屋の照明がひとつもないことにようやく気が付いて、慌てて買いに行ったっけ。
1か月くらいのほんの少し前の出来事なのに、新しい環境と初めての一人暮らしの毎日で、すごく前のことみたいな気がする。
そして、目が暗闇に完全に慣れる前に、再び眠気に襲われてきた。
なんでこんなに眠いんだろ?
その理由すらも思い出せないほどに眠かった。
なんて矛盾した睡魔。
普通、こういう場合は眠れないのが相場でしょ。
それでも、睡魔には勝てないまま、瞼を閉じた。
「・・・マジでか。」
ゆうべ布団の中に入った時は、冬の羽根布団をすっぽりかぶって寝たけど、三度目に目覚めると、羽根布団は両足の下敷きになっていて、すっかり足専用のクッションと化していた。
なるほど、どうりで肌寒いわけだ。
三度目の目覚めは、朝日特有の明るさに、なんとか寝坊することなく起きれたんだなとわかった。
今度は起きる時間だなと思って、スマホで三度目の時間確認をした。
午前5時55分。
こんな上手い話があるものかと自分でも思ってしまう、ぞろ目の時間。
何かいいことがあるかな、と思ってベッドから抜け出した。
カーテンを開けると、昇り始めてすぐのやわらかな朝日が差し込んできた。
朝日の中で見る部屋は、ゆうべとは全然違う部屋のようだ。
夜中にうっすらと、ぼんやりと見えた部屋は、なんだか寂しそうに見えた気がして、ハッとした。
そっか。
初めての一人暮らしに一生懸命になってて、無理してたことに気づかなかったんだ。
何もかもが初めてで新しい毎日は、ワクワクすることもあったら、落ち込むこともある忙しい時間だった。
昨日は、ちょっとだけ疲れたなんて思ってたけど、自分で思ってたよりもずっと無理してたんだ。
夜中に目が覚めて、余計なことを考えてたにも関わらず、すぐに眠れてしまうほど疲れてたなんて、よっぽどだったんだなぁ。
「何やってんだろ。」
なんでも一人でできるんだ!って考え方って、小さな子供の「はじめてのおつかい」みたい。
一人暮らしを始めて1か月、すっかり大人になったつもりでいたけど、大人として完成するにはまだまだみたい。
寝ながら泣いたなんて恥ずかしいから、一生モノの秘密にしておこう。
どんどん上る太陽は、部屋の中を明るくしていってくれる。
朝日に元気をわけてもらった気がして、久しぶりに連絡をとってみることにした。
だけど、電話じゃちょっと恥ずかしいから、朝早くに連絡するのは悪いと勝手に理由をつけて、メッセージだけにしてみた。
『肌掛け布団って、どこで買うのがいい?』
まだちょっとだけ意地を張って、大人になったアピール。
一緒に買いに行ってとは言わない。
自分の今の気持ちを受け入れられたおかげで、ひとりでやっていける気がしたから。
寝ながら泣いたのは、大人になるために必要な儀式だったのかもしれない。
儀式に必要な涙の跡は、真夜中に突然あらわれて。
儀式が成功した今、涙の跡はすっかり消えていた。