冒険者学校の授業終わりに廊下で、セイラとファイが立ち話をしていた。
「買い物に行こうって言ったユーシャが居なくちゃ、行けないじゃない」
ユーシャは授業中の居眠りで怒られて、罰としてマオちゃん先生のお手伝いをさせられている。
ユーシャが先に行ってていいよと言っていたが、誘った本人が居ないとダメでしょと待っているのはセイラらしかった。
そんな内心は怒っていないセイラの背後から、何者かが勢いよく近づいてくる足音が聞こえてくる。
「セイラちゃん!ファイちゃん!」
「きゃっ!」
背後から突然ユーシャに声をかけられたせいで、セイラは驚きかわいい声を発した。
「もお、いきなりどうしたのよ。びっくりしたじゃない」
ごめんごめんと謝るユーシャに、セイラは怒る気を無くし、いつものことだと軽くため息をつく。
「ユーちゃんお疲れ様。マオちゃん先生の手伝いは、もう終わったの?」
「誕生日会をしよう!」
「「・・・」」
セイラもファイも理解不能なユーシャの返答に、対応することができず言葉が出てこない。
「どうしたの二人とも?あのね、誕生日会をしようと思うの」
二人から返事がなかったためか、もう一度ユーシャはよくわからない発言をする。
「…ユーちゃんもしかして、自分の誕生日を祝ってほしいの?」
「違うよ!私の誕生日会じゃないよ。メイちゃんの誕生日会だよ」
「初めからわかるようにしゃべりなさいよ。それで、メイの誕生日会をしたいって、いきなりどうしたの」
ユーシャに一旦落ち着てもらい話を聞くと、マオちゃん先生の手伝いをしていた時に、机に置いてあった書類をばらまいてしまったらしい。
それでまたマオちゃん先生に怒られてしまったが、その書類を集めているときに偶然メイの誕生日の情報が目に入ったらしい。
「それで、メイちゃんの誕生日がもうすぐだから、みんなでメイちゃんをお祝いしてあげようと思うの」
2人はようやく話を理解することができ、その誕生日会の開催に異論はなかった。
「それならメイを盛大にお祝いしてあげないと」
「ファイもおいしい料理をいっぱい作って、メイちゃんをお祝いするよ」
誕生日会で出る美味しい料理を思い浮かべたのか、ファイはよだれを垂らしている。
「それで誕生日会のことを当日まで内緒にして、メイちゃんをどっきりさせてあげようと思うの」
「サプライズパーティーってこと?いいとは思うけど、ちゃんと誕生日当日まで内緒にできるの?」
「大丈夫だよ、メイちゃんに気付かれないように頑張って準備するよー!」
こうは言っているが、当日まで本当に隠しきれるのか不安いっぱいのセイラであった。
しかし、何とかなるだろうと特に理由は無いが自分で自分を納得させ、それ以上深く考えないことにした。
「それで、メイの誕生日プレゼントは何にするか、考えているの?」
「特にまだ決めてないから、みんなでこれから考えよう」
3人が廊下で考え込み始めて数分後、セイラはある重要なことに気付いた。
「そういえば、メイの誕生日会をやるにしても、食材や装飾、プレゼントを買うお金ってあるの?」
3人は持っているお金を出し合うが、そこに集まったのは悲しいものだった。
「えへへ。ちびちゃんが寝ぼけてベットを食べちゃって、新しくベットを買ったら他にもいろいろ買い替え始めちゃってね。いつの間にかお金が無くなっちゃたよ」
「ファイも最近高級食材フェスタが開催されてて、そこでいっぱい食べたからね」
「最近はクエストも全然やって無かったし、私も本をいろいろ買ってたからな…」
3人の持ち合わせたお金ででは心もとないので、まずはどうにかしてお金を稼がなければということになった。
「宿舎にいないから捜しまわったすよ。こんなところで何してるんすか」
「きゃっ!」
またしても背後から声を掛けられ、本日2度目のかわいい声を発するセイラ。
「あ、メイちゃん。今お誕生ぅぅぅ」
言ってたそばから失言をしたユーシャを、寸のところでセイラが口を塞ぎとめる。
「メイちゃんがカルタードを買いに出かけちゃったから、3人で買い物に行こうとしてたんだけど、お金が全然無いねって話になっていたんだよ」
「それは奇遇っすね。自分もカルタード収集をしていたら、懐が空になってしまったっす。だから、皆さんとクエストに行きたいと思って、捜していたところっす」
「ぶはっ。いいね、それじゃークエストに行こう!」
セイラの拘束を解き、ユーシャはメイの提案に賛成する。
ユーシャ達とメイの金欠事情がちょうど合致し、4人は冒険者ギルドへと向かう事になった。
「すみません、何か見習い冒険者用のクエストはありませんか?」
「討伐や採集とか、特にクエスト内容に希望は無いのか」
「金欠でお金が欲しいから、報酬が一番高いクエストでお願いします」
なんとも酷いクエストの要望だったが、受付の人がちょっと待っていてくれと言うと、クエストの束を漁って捜し始めてくれた。
数分後クエストが見つかったのか、1つのクエストを読み上げる。
「そうだな、君たちのクエストは、猫探しだ」
報酬が高いクエストを希望したため、モンスターの討伐や秘境の探索だと心うきうきに待っていた4人だったが、予想外のクエストに言葉を失った。
「あの…、猫探しが本当に、一番報酬の高いクエストなんですか」
クエスト実習で散々猫探しのクエストをこなしたため、何の問題もないがそれが一番報酬の高いクエストとは思えなかった。
だが、このクエストは普通の猫探しとは違うらしい。
なんでも、大富豪カネアリーノ伯爵の愛猫が逃げ出してしまったらしく、報酬を通常の3倍にははずむそうだ。
それならと猫探しのプロであるユーシャパーティーは、そのクエストを受注することに決めた。
「まさか、また猫探しのクエストやるとは思ってなかったよ」
「あの後猫関係のカルタードをもう少し調べたら、マタタビのカルタード以外にねこじゃらしのカルタードも見つけたっす。まだまだカルタードの世界は広いっすね」
「そんなのもあるのね。というか、それは使い道あるの」
「多分見つけるのには意味ないっす。ただ猫にモテモテになるだけっすね」
探せば捜すほど変なカルタードが見つかるなら、どんなカルタードがあってもおかしくない気がしてきた。
「新しいカルタードもあるし、張り切って猫を捜すよ!」
ユーシャはメイの誕生日のことを思ってか、いつも以上にテンションが高い。
「頑張るっす!」
ユーシャにつられてか、メイのテンションもいつも以上に高かった。
いつも通り、町の人に聞き込み調査を行っていくが、今回は有力な情報がなかなか集まらない。
日が落ち始めたが、それでも情報は集まらず、なぜ報酬がこんなに高いのか分かった気がした。
「自分たちは猫探しのプロだと思っていたっすが、まだまだみたいっすね」
先ほどまでのテンションの高さはどこへ行ったのか、今まで以上の難易度に不安がよぎっていた。
「まだ時間はあるから、もう一度気合を入れていくよー!」
ユーシャはみんなの気持ちを察したのか、気持ちを戻すため声をかける。
「そうっすね、自分あっちの方で聞き込みをしてくるっす」
メイはそう言うと、1人向こうのほうへ聞き込みに行ってしまった。
「…ユーちゃん、セイちゃん。今メイちゃんに欲しいものを聞くのはどうかな?」
メイが向こうに行ったころを確認してから、ファイがユーシャとセイラに尋ねてきた。
「そうだね、悟られないように、メイに聞いてみましょうか」
「それなら、私に任せてよ。メイちゃんから、欲しいものを聞き出してみせるよ」
自信満々のユーシャに対し、セイラには不安しか感じられなかった。
それでも、ユーシャがやると言っているので、2人はユーシャに任せることにする。
「頼んだよ、ユーシャ」
3人が密かに話し込んでいると、村の人から情報を集めていたメイが、こちらに駆け寄ってきた。
「皆さん、いい情報が入ったっす。猫さんはどうやら、森の中に入っていったみたいっす。そして、その奥には猫たちが集う広場があるみたいっすから、多分そこに居るはずっす」
「やったねメイちゃん。それじゃあ早速、その猫たちの集う広場に行こう」
その森はここから1時間あれば着く場所であっため、特に装備を整えずそのまま向かった。
「メイちゃんは今、何か欲しいものってある?」
「…ユーシャ、ちょっと率直すぎよ!」
第一声からやらかしたユーシャ。
恐る恐るメイの方に振り替えると、そんな心配がいらないほど瞳の奥をキラキラさせて語りだした。
「今一番欲しいのは、やっぱりカルタードっすね。今日も新カルタードを集めに店に行ったんですが、一つだけめちゃくちゃ高くて買えなかったす。これが空中浮遊のカルタードで、なんでも空を飛ぶことが出来るっすよ。ああ、一度でいいから…」
カルタードを語らせると我を忘れたかのごとく、言葉の弾丸をユーシャに止まることなく連射する。
「メイちゃん、早く猫さん見つけないと日が暮れちゃうよ」
「は、カルタードの話になると、つい熱くなってしまうっす」
何とか誕生日のことについては気付かれている様子はなく、一安心をするセイラであった。
その後もモンスターに何度か遭遇するが、4人の連係プレーで難なく進んでいき、無事目的の猫を連れて帰ることが出来た。
「クエスト達成おめだとう。これが報酬だ」
手にしたことで改めて実感したが、やはり今までの猫探しとは違い報酬がすごかった。
「メイちゃん。あと何匹猫を見つければ、そのカルタードを買えるの?」
「そうすっね、この報酬をすべてカルタードを買うために使えるとしたら、ざっと30匹ぐらいっす」
「町中のねこを全員捕まえれば、買えそうだね」
「だったら、町中のねこを逃がして、依頼が来るようにすればいんじゃない」
「ファイちゃん天才だ」
「ファイさんそれは名案っす」
話が段々変な方向へ進んでいるため、そろそろセイラが止めに入った。
「馬鹿なことを考えてないで、モンスター退治とか、まともな依頼を受注すればいいじゃない」
「セイラさん、一緒に楽して稼ぎましょうよ」
「…マオちゃん先生に言いつけるわよ」
「そ、それだけは勘弁してくださいっす~」
3人はメイと別れた後、再びユーシャの部屋に集まり、メイの誕生日プレゼントについて話し始めた。
「結局メイの欲しいものは、カルタード以外なさそうね」
「まだ時間はあるし、ゆっくり考えていこうよ」
「そんな悠長な考えでいたら、メイの誕生日に間に合わないじゃない。一年に一回の誕生日なんだから、ちゃんと計画をしっかり立ててお祝いしてあげましょう」
「でも、考えてばかりだとお腹が空いちゃうし、ユーちゃんの言う通りゆっくり行こうよ」
時間が多く残されているわけではないため、焦るセイラに対し、楽観的な二人。
まあ、焦っても仕方いのも確かなので、ここは二人の言う通り今日はセイラも考えることをやめた。
それからは、現実問題から目を反らし猫探しや探索クエストをこなして行くうちに、いつの間にか誕生日が明日になっていた。
「ど、どうするのよユーシャ!明日はもうメイの誕生日になっちゃたわよ。今日中に大まかな準備を終わらせないと間に合わなくなっちゃう」
「ど、どうしようセイラちゃん、ファイちゃん。た、大変だよ!」
現実を突きつけられ慌てふためくユーシャとセイラ。
「落ち着いて2人とも。この数日でクエストをこなしてお金も貯まったし、これで誕生日プレゼントや食べ物などを買いに行こう」
ファイの言う通り、ここで慌てても何もならないので、一旦落ち着いて深呼吸をする。
「そ、そうね。ファイの言う通りまずは、カルタードショップに行ってみましょう」
善は急げとカルタードショップに出向いた3人だが、店から出てきた3人の顔は芳しくなかった。
「結構お金を貯めたと思ったけど、メイが持ってなさそうなレアカルタードとなるとあんなにするとはね」
3人はカルタードショップにあまり寄らないため、レアカルタードの値段については無知も同然だった。
カルタードの種類の豊富さと値段に驚きを隠せず、なすすべなく店を後にするしかなかった。
「お金全然足りないし、メイちゃんにはカルタード以外の物をプレゼントするしかないね」
流石にあと一日では稼げる値段ではなく、カルタード以外の贈り物にしようとユーシャは提案する。
しかし、セイラに火がついてしまったらしく、それには納得がいかないらしい。
1年に1回の大切な誕生日には、やはりメイが一番喜ぶ物を上げたい。
それはユーシャもファイも同じ気持ちで、今日精一杯頑張ることにした。
「今日メイはカルタードショップ巡りをしてるから、3人でクエストを受注してお金を稼ぐしかないわ」
やる気満々のセイラに続いて、ユーシャとファイも“おー”と掛け声を上げる。
新しく追加されたクエストを確認していると、カルタードが報酬のクエストが目についた。
なんとそこには、メイが欲しがっていた空中浮遊のカルタードが書いてある。
「セイラちゃん、ファイちゃん見て見て!これメイちゃんが欲しがっていたカルタードだよ」
そんな都合の良いクエストがあるわけないでしょと、セイラが言いかけたが。
「ほ、本当に都合よくこんなクエストがあるなんて、ユーシャの勇者体質のせいなのか」
願ったり叶ったりのクエストに呆れ返るセイラに対し、ユーシャとファイは大喜びで騒いでいた。
「それじゃあ、クエストを受注してくるね」
「ま、待ってユーシャ。ちゃんとクエスト内容を確認しないと…って、もう受付してるし」
セイラの静止を聞かず、ユーシャは一目散に受付に向かっていた。
多少の不安もあったが、ユーシャの勇者体質があるから何とかなるだろうと考えることをやめた。
「このクエストをお願いしまーす」
「おや、今日は3人か。魔法使いの子はどうしたんだ?」
「今日は訳があって3人でクエストを受けたいのですが、大丈夫ですか」
「ああ、問題はないが、喧嘩でもしたのか」
「いえ、彼女は今日カルタードショップ巡りをしているので、今は3人なだけです」
「そうなのか。パーティーは家族みたいなものだから、仲良く互いを思いやっていくようにな。それで、本題のクエストだが、西の森に住む灰色スライムが落とす“ねばねばの溶液”を手に入れろだ。難しいクエストだが、頑張って来いよ」
なんでも、そのモンスターは森の中に生息しているらしいが、冒険者が7日間そこで寝泊まりしてやっと見つかるか見つからないかの珍しいモンスターらしい。
だから、高価なレアカルタードが報酬になっているのもわかる気がする。
楽観的に見ていたセイラだが、流石に今回のクエストは無理そうな気がしてきた。
「どうするセイちゃん。このまま出かける?それとも野営の準備をしてから出かける?」
「いや、明日はメイの誕生日会の準備をしなくてはいけないから、このまま行って今日中に倒すよ」
今は1分1秒も惜しいので、簡単な準備を済ませ大きな森へすぐに向かうのであった。
西の森へはそう遠くはなく、昼前には到着することができた。
道中はモンスターに襲われるも、それほど強くはなく3人で簡単に倒してきた。
「さあ2人とも、ここからは気合を入れて行くよ。今日中にクエストを達成させて、メイの誕生日プレゼントを手に入れるよ」
「メイちゃんのためにも、頑張らないとね」
「森の中ならファイに任せてよ」
3人は気合十分で、いざ森の中へと向かうのであった。
森は木が生い茂っているせいか、昼間だというに薄暗く不気味な空気を醸し出している。
しかし、日差しが届きにくいためか、森の中は涼しく長時間動き回るには良い環境であった。
ユーシャとファイはどんどん森の奥へ進んでいくのに対し、セイラは風で揺れる葉っぱの音や動物の鳴き声に反応して怯えている。
怖がっているセイラに、ユーシャは手を繋いで進もうと提案する。
恥ずかしいがって断るセイラだったが、ユーシャは無理やり手を握る。
顔を赤く染めるセイラだったが、言葉とは裏腹にその手をほどくことせず、握りかえしてきた。
「えへへ」
「は、はぐれると危ないから、手を繋いでいるだけよ」
「大好きだよ、セイラちゃん」
「突然何を言い出すのよ…」
「私もセイラちゃんのこと大好きだよ」
ファイもセイラの空いている片方の手を握り、ユーシャとセイラのイチャイチャに混ざる。
「2人ともうれしいけど、これじゃ危ないよ」
顔を真っ赤にして照れ隠しをするセイラに、2人は強く握りしめ進んでいくのであった。
森の中を進むにつれ道中で遭遇するモンスターが強くなっていき、3人の顔にも疲れが見えてきた。
「そろそろ日も落ちてくるし、諦めるしかないかな」
森の中は入ってきた頃より薄暗さを増し、このままでは辺り一面真っ暗になるのも時間の問題になってくる。
ファイは暗くても大丈夫だよと意気込むが、帰る時間と明日の準備を考えると、そろそろ帰らないと間に合わなくなってきた。
ユーシャもまだ頑張ろうと諦めきれてなかったが、セイラが危険だと説得し森の出口を目指すことにした。
「こんだけ探しても見つからないなんて、どんなモンスターなんだろうね」
「きっと臆病なモンスターなんだよ。今度セイちゃんにモンスターを見つけるカルタードがないか聞いてみようよ」
「そんなカルタードがあったら、このクエスト自体ないんじゃない」
話しながら3人が歩いていると、奥の茂みがかすかに動いた。
「ちょっと待って2人とも。さっきそこの茂みが動いたような気がする」
ユーシャとファイは気付いてないようだが、確かに何かがそこで動いたのをセイラは見逃していなかった。
セイラは静かにユーシャとファイに指示して、その茂みを取り囲むように3人は移動する。
2人が移動し終わったのを確認すると、眼鏡をかけて弓矢を取り出す。
狙いをさっき動いた茂みに合わせ、そこにいるであろう何かに向かって射る。
正確に打たれた矢は茂みに吸い込まれるように飛んでいき、茂みを射抜く寸前、何かがそこから飛び出してきた。
なんと、飛び出してきた何かは、3人が今日1日捜しまわっていた灰色のスライムであったのだ。
「ユーシャ!ファイ!」
2人もセイラの呼びかけに答えるように、スライムへ向かって攻撃を叩き込む。
いつものスライムより動きは速いが、追えない速さでもなく2人の攻撃はスライムへとヒットしていく。
最初は逃げ回っていたスライムだったが、何度も攻撃を受け怒ってしまったのか、逃げるのをやめ反撃をしてきた。
持ち前のスピードを突進の勢いに乗せて攻撃してくるため、一撃が重たい。
一日中モンスターと戦っていたため、体力も削られており、スライムの攻撃に応戦するのに手一杯になってきた。
それでも攻撃の手を緩めず何度か攻撃を当てていくが、こちらの攻撃が効いているように見えない。
攻撃を当てても、硬い金属を叩いているようようだった。
「何かこの敵おかしくない?さっきから攻撃を当てても、ダメージを受けている気がしないんだけど」
「私に任せて。セイラちゃん、ファイちゃん、スライムの足止めをお願い」
「わかった、ユーシャ!」
「任せてユーちゃん!」
ファイは地面を大きく蹴り上げ、スライムと距離を一気に縮めラッシュを叩きこむ。
スライムは素早く回避するも、すべてかわし切れずその攻撃を何発か受ける。
ファイのラッシュから逃げるようにスライムが後方へ移動するが、逃がすまいとセイラが進路を塞ぐよう、正確に矢が空から降り注がれる。
「今だよ、ユーちゃん!」
「私たちの全力全開をくらえー!」
ファイとセイラによって追い詰められたスライムに向けて、光り輝く剣を振りかざす。
幾多のモンスターや邪神さえも切り裂いてきた剣は、スライムさせも切り裂くと一同は確信していたが、その考えは甘かった。
「ど、どうして効かないの」
剣は確かにスライムに直撃しているが、切り裂くことは無く、傷一つさえつけることが出来ていなかった。
「ユーちゃん!早くそこから逃げて!」
スライムは本気で怒ったのか、表情を読み取ることが出来ないが、感じることができた。
軟体な体を利用し、体をハリセンボンのようにして、ハリを全方向に伸ばしてきた。
ユーシャは危険をいち早く察知し、寸のところで後方へ回避する。
先ほどまで逃げるそぶりをしていたスライムだったが、もうその気はないようだ。
「これはなんだかまずそうね」
「ユーちゃんの攻撃も効かなかったし、もう逃げるしかないの」
「でも、メイちゃんのためにも倒さないと・・・」
「そんなこと言っている場合じゃないでしょ。私たちには手に負えない敵だよ」
今までにない強敵にユーシャ達は初めて遭遇し、判断力は欠け焦りだす。
そんなユーシャ達にスライムはここぞとばかりに、素早い動きで攻撃を仕掛けてきた。
混乱と焦りにより注意力が散乱していたユーシャは、先ほどより早さの増したスライムの攻撃を避ける事ができず、剣を盾代わりにして直撃を受け止めることしかできなかった。
直撃は免れたもののスライムの突進によって、後方へ大きく飛ばされていく。
「大丈夫!ユーシャ!」
あまりにも強い衝撃だったのか、倒れ込んだユーシャが立ち上がってこない。
危険を感じ、スライムに攻撃をさせないようセイラとファイは攻撃を仕掛けるが、すべてをかわされてしまう。
2人の攻撃の合間を縫って、スライムは再び起き上がってこないユーシャに向かって突進して行く。
止めることが出来なかった2人は、ユーシャを起こすために声を上げることしかもう出来ることが無かった。
「ユーシャ!早く立ち上がって!
「ユーちゃん!」
2人の声が届いたのか、ユーシャの体が動き出す。
だが、その声が届くのは遅く、立ち上がる前にスライムの攻撃が届いてしまう。
声を荒げても意味ないと分かっていても、セイラとファイはそれしかやれることが無かった。
今まで味わったことない絶望感が込み上げていくが、遠くから聞こえた彼女の一言で打ち消された。
「…風のカルタード、三枚重ね掛けの攻撃っす!」
ユーシャの背後から聞きなれた声と共に、勢いよく風の塊が通り過ぎて行く。
その風は寸分たがわず、素早いスライムに直撃をした。
あまりにも唐突に起きた出来事で、今起きたことがすぐに理解することができなかったが、この声とカルタードの使い手には見覚えがあった。
「大丈夫っすか、ユーシャさん」
そうユーシャパーティーの一員にして、カルタードを使わせれば右に出るものはいないメイであった。
「メイちゃん!どうしてこんなところにいるの」
「そんなことはこのスライムを倒してからっす。今のスライムはカルタードを打ち込んだことで物理障壁が消えったっすから、ユーシャさんの剣も効くっすよ」
見た目は先ほどと変わらないが、メイが言ったことを信じてユーシャはスライムに向かって駆け出す。
スライムも不意打ちを食らい一瞬ひるんだが、再びユーシャに向かって突っ込んでいく。
「くらえーー!」
光り輝く勇者の剣は、再びスライムに向かって振り下ろされる。
先ほどは一切効かなかった攻撃だったが、この一撃はスライムを二つに切り裂いた。
スライムは消え去り、そのあとには宝箱が現れる。
「や、やったのね」
「もうお腹が空いて動けないよ」
セイラとファイは戦い緊張が解けたせいか、力が抜け地面に座り込んでしまった。
「硬度なスライムを一撃で倒すとは、流石ユーシャさんの勇者の剣っす」
「なんかいろいろ聞きたいんだけど、なんで今の攻撃は通じたの?さっきまで何度も攻撃していたのに、少しも効かなかったんだよ」
ユーシャが放った最後の一撃の威力が格段に上がったわけではないのに、なぜスライムに効いたのか3人にはまだ分からなかった。
「あのスライムは超強力な物理衝撃を持っているため、物理攻撃が一切効かないっす。だから、強力な魔法で物理障壁を先に破る必要があったっす。でも、その障壁を破っても次に素の防御力があったため、ユーシャさんの一撃が必要だったわけっす」
「それじゃあ、もしメイちゃんが来てくれなかったら、一生攻撃が通じなかったんだね。ありがとう、メイちゃ~ん」
ユーシャは涙を浮かべながらメイに勢いよく抱き着く。
「は、恥ずかしいっすよ」
それを見たセイラとファイもメイに勢いよく抱き着いた。
「セイラさんとファイさんまで、抱き着かないでくださいっすよ」
「あと、もう一つ聞きたいんだけど、どうしてメイちゃんはこんなところに来たの?」
「そうっすよ、自分に内緒でカルタードが報酬のクエストに行くなんて酷いっすよ!行きつけのカルタードショップの店長さんがクエストを発注してるのを聞いて、一目散に冒険者ギルドに向かえばもうクエストが無かったんですよ。それで受付の人に聞いたら、3人がそのクエストを受注したと聞いて、急いでこの森に向かったっすよ」
メイは怒った表情を見せながら、抱き着いている3人をぽこすかと、殴りつける。
「それは…」
セイラが何か言いかけたが、次の言葉を言うか躊躇っていた。
ユーシャはセイラとファイに目線を送ると、セイラの続きの言葉を紡いだ。
「ごめんねメイちゃん。それには言えなかった理由があったんだ。みんな、いっせーのっせ!」
「「誕生日おめでとう!」」
こうなっては仕方ないと、1日早いメイの誕生日を祝うことにした。
「本当は明日メイちゃんに内緒で誕生日をお祝いしようと思っていてね。その誕生日プレゼントでメイちゃんが欲しがっていたカルタードがあったから、3人でそれをプレゼントしようと思ってたんだよ」
予想もしなかった返答にメイはびっくりし、すぐに言葉が出てこなかった。
「い、いきなりでびっくりしたっす。そういえば、明日は自分の誕生日だったことをすっかり忘れていたっす」
「自分の誕生日を忘れるなんて、なんだかメイらしい」
みんなが笑っていると、ファイのお腹がかわいく鳴った。
「ファイもうお腹空いたから、早く帰って1日早いけどメイちゃんの誕生日会しちゃおうよ。今日まで貯めたお金でお肉に魚にケーキに、いーっぱい美味しいもの買って帰ろう」
「もお、ファイは食べ物のことばかりなんだから。でも、ファイの言う通り私もお腹ペコペコだし、早く帰ってメイの誕生日会をしましょう」
今日一日中戦って疲れた体を動かし、4人は森の出口に向かって歩き出す。
「それでも、カルタードが報酬のクエストなら呼んで欲しかったすよ。でも、とてもうれしいっす…」
顔を赤く染め上げたメイは可愛く、3人は再び抱き着いた。
「もう、みなさんまた抱き着かないでくださいよ!これじゃあいつまでたっても帰れないっすよ」
こうして、4人は手をつなぎながら帰宅し、いっぱいの料理を作ってメイの誕生日を盛大に祝いしましたとさ。