魔女集会でよろしく   作:はなぼくろ

2 / 5
魔女集会になんて絶対行くもんか

 突然ではあるが語らねばなるまい。私は転生者というやつである。

 

 といってもその事自体について話すことは多くない。

 前世なんていっても、珍しくもない平凡な青年の人生だ。特筆すべきことなんてない。普通の人よりもいくらか早死にしたくらいなんじゃないか、変わってるとこは。

 

 転生の理由?

 人間が生まれてきた意味とやらに答えが存在するのならそれがそうなんじゃないか。私は知らんが。気づいたら転生してたからなんとも言いようがない。

 このことから唯一分かることがあるとすれば、もし神という存在が居るとすればそいつは輪廻転生的なサイクル法を採用しているということだろう。サンプルが自分しかいないから断言できないし、再現しようにも色々と覚悟がいるので当分検証しないが。

 

 兎に角、言えることはうっかり死んでしまった私が特に理由もなく転生してしまったということだけ。記憶を保持したままなのは転生システムの不備とかそんなんなんじゃなかろうか、知らんけど。

 

 とまあ、ここまでは前提の話で。話したいのはここからなんだ。

 

 女の子に転生してましたと。まあ性別自体は単純に二分の一の確率だからそうなるのは分かる。転生といっても肉体の抽選は無作為だろうしね。最悪虫けらに生まれてた可能性すらあるんだから人間に生まれ直せたこと自体は僥倖だ。

 問題は私が前世じゃ童貞だったってことなんですわ。

 

 

 私は頑張った!

 死ぬほど頑張った!

 そりゃもう必死こいて、前世最大の汚点を払拭するために嘔心瀝血の思いで奔走した!

 

 だって、性の悦びも知らず死ぬなんて、あんまりにも惨めじゃないか。それも二代に渡って童貞なんて、私には耐えられない!

 え? でもお前女の子じゃんだって? 何言ってんだ私は男だ。身体の話? わたしゃ男色の趣味はないんじゃ!

 

 そんなわけで、だ。今生の世では科学技術の代わりに定着してた魔法とかいうクソ便利ツールを弄り回して、男に戻る為に必死こいて研究に励みましたとも。

 性転換の為に必要な分野には片っ端から手を出したし、未開拓の研究分野にも手を付けた。

 なんか想像よりも研究が難航して普通に生きてるだけじゃ時間が足らんということで研究の副産物を利用して寿命を克服したりした。

 

 そんなこんなで200年経った現在。私は未だに女の身体のままで、木製のデスクに突っ伏して頭を抱えていた。

 ここは王国の宮廷魔術師である私個人に宛てがわれた執務室兼研究室。取り敢えず魔女っぽくそれらしい雰囲気を出そうと色々と怪しげな物品を持ち込んだおかげでほの暗くジメジメした空気を醸し出している。秘密基地大好きっ子な私としてはそこそこ気に入っているが、弟子からは不評をいただいている。

 

 そう、弟子だ。あの馬鹿で阿呆でノロマな小便垂らしのアンポンタンスカし野郎!

 今なお私の頭の中をぐしゃぐしゃにする私史上最大の頭痛案件を投下しやがったクソ地雷野郎! 踏み抜いたのは私だけどな!

 

 奴のせいでここ数時間ばかりロクに頭が回らん。やらねばならんことは多いはずなのにいっこうに手が進まん。見飽きたはずのあの面が頭の中でチラつくもんだから落ち着けやしない。

 それもこれのあの野郎がよりによって私に告白をかましてきたからだ。

 

 あー、分からん。いくら考えても分からん。なぜ私なのか。

 あのすけこまし野郎の周りには奴のことを少なからず想っている女共がそこそこ居たはずだが、なぜそっちには目もくれずこっちに突っ走ってきたのか。これが分からない。

 嫁が選り取りみどりで我が弟子も安泰だなー羨ましいなーとか前世の自分と対比してもやっていたというのに、不意打ちかまされた気分だ。

 

 でもまあ、そこは重要じゃない。奴が私のどこに惚れたかなんて、どうでもいい訳じゃないが考えたって答えなんか出るわけが無いのだから考えるだけ無駄だ。

 大切なのは私がどうしたいかだが。

 

「おい、スキエンティア。この間の件で話があるんだが___何をしているんだお前は」

 

 そこまで思考を巡らせようとしたところで、執務室のドアが開いた。ノックもせず当然のごとく中に入ってきたその男は机に伏せて唸っている私を見て数秒固まるとそんなことを聞いてきた。

 ちなみにスキエンティアとは私の姓だ。フルネームはマーリン・スキエンティア。前世の世界の人間なら分かるだろうが本名じゃあない、偽名だ。一応偽名を名乗っている理由は色々とあるが今は置いておく。

 

「何をしているか、か。見れば分かるだろう戯け」

「見て分からないから聞いているんだろうが、そんなことも分からないお前の方が戯けだ。戯け」

「あの、ヨッドさん。扉の前で口喧嘩しないでくれませんか、私が入れないです」

 

 この一言多くて頭の中が幼稚園から成長していない早口のおっさんがヨッド・コクマー。この国の軍事担当宰相。こんな奴が宰相なんて世も末だ。

 そしてこいつにくっ付いて来た女の方がキーター・ステファノス。コクマーの護衛件介護担当。庇護欲を掻き立てるような可愛らしい顔をしたゴリラだ。体格自体は華奢だけどれっきとしたゴリラの一族だ。多分出る作品間違えてると思う。

 

「つーかノックぐらいしてから入ってこいっていつも言ってるだろうが。そこんとこしっかりしろよな、キーター」

「えっ」

「そうだぞキーター。一体何年僕の護衛をやっているんだ? しっかりしてくれ給え」

「えっ。あっ、もしかしてこれ私が悪い流れなんですか?」

 

 握り拳で手のひらを叩いて頭から豆電球を出しているキーターを無視して私はコクマーの方を向いて本題に入ることにした。

 

「コクマー。何やら相談事が有るらしいところ悪いが、今の私はかつてない難問に直面していて他のことに手が着かない。緊急の用なら聞くが、そうでないなら後にしてもらいたい」

 

 コクマーは腐っても宰相で、私は宮廷魔術師だ。国防という一点で、私とこの男の業務はある程度被るところが多い。だからこの男が私に用件を振りに来たということはつまりそういう事なのだ。

 国営の一端を担う者として、その公務に私個人の私情を挟んで事態を遅延してしまうことは出来ない。が、ある程度私のパフォーマンスが落ちていることも事実なのでその上で私を動かすべきかはコクマーに判断させることにした。

 コクマーはそのメンタリティこそガキみたいな奴だが、仕事は一流だ。政治事に疎い私よりもこいつの判断力の方が余っ程信頼できる。腹立つけど。

 

「いや、そこまで急いではいない。そういうことなら出直すが、一体何に手を焼いているかくらいは聞いておこうか」

「んにゃ、人に話すことでもないよ。まあ公務とかとは別の個人的悩みだ。早いこと片付けるから安心しろ」

「ほう、偏屈女が珍しいな。なんだ、自分の弟子にでも告られたか」

「ヴォェフゲハッゴッハゴッホゴッホ」

 

 思いっきり噎せた。か、完全に油断してた。この野郎、人が珍しくちょっとシリアスしようとしてたのに、意識外から予想だにしない変化球ぶち込んできやがった。つーかなんで知ってんだよ!

 

「お、お前。その話を一体どこで.........」

「は? 図星だったのか。とすればさしもの奴もとうとう腹を決めたと見える」

「え!? やっとエル君告白出来たんですか!? ヨッドさん、私ちょっと今から皆さんに言いふらしてくるんでお先に失礼させていただいてもよろしいですか?」

「待て待て待て待て色々と待て! は? どういうことだ? 説明しろコクマー!」

 

 なにその「やっとかよ、待ちくたびれぜ」感。え、なに。皆知ってたのか? 知らなかったのは私だけなのか?

 あ、ちなみにエルってのは我が弟子のことね。

 

「説明も何も奴さんの言った通りだが? というか、説明すべきなのはそっちでは?」

「マーリンさん! 詳しく! 告白の状況をもっと詳しく細部まで事細かに教えてください! シチュエーションはどんなだったんですか!? なんて言われたんですか!? もうキスとかはしちゃったんですか!?」

「ええいうるさい五月蝿い。もう帰れよお前ら!」

 

 なんなのこいつら。なんで揃いも揃って恋愛脳なの? キーターに至ってはノリがもううぜえんだけど。人の執務室で騒がないでください!

 

「いやいやいや。スキエンティア君、君は君の私的な事情で公務をふけようとしてるんだぞ? ならせめて事の顛末を話すくらいの説明責任はあるんじゃないのかと僕は思うんだけどね」

「お前、絶対面白がってるだけだろ」

「いやぁ、なんのことか分かりませんなあ」

 

 キレそう。地味に正論で突いてきて逃げ道潰してくんのほんと性格が悪い。こいつのこういうとこ嫌い。全部嫌いだけどな!

 

「で、実際のところどうなんだ。せめて返事はどうしたのかくらい教えてもらわねば僕も出るとこに出なきゃならなくなる」

「勿論OKしたに決まってるじゃあないですか! ね、マーリンさん。当然答えは『はい』ですよね!」

「もうお前黙らないと無理やり口を閉じさせるぞ」

「やれるもんならやってみてくださいよ。その程度じゃあ人の口に、それも私の口に戸を立てることなんて出来ないんですからね!」

 

 私の魔法じゃマジでこいつの口塞げないから困る。物理的に。

 この脳内お花畑パープリン女、頭の出来と実力が乖離してるから誰もこいつの横暴を止められないんで皆から嫌われてる自覚ないんだろうか。

 いつもはコクマーがストッパーになってるからまだいいが、今日はコクマーも止める気ないどころか一緒になって私を追い込もうとしてるからどうしようもない。あれ? もしかして私詰んでないか?

 

 結果的に言えば私は諦めた。ピンク頭二人の猛攻を前に私に出来ることは殆どなく。せめてもの抵抗も虚しく、職権を乱用した洒落にならない脅迫や圧倒的な物理的暴力の前に虚しく屈してしまった。

 

 それから私は判決が下されるのを粛々と待つ罪人のような気持ちで、二人にその時の状況の仔細を私の心情を交えながらポツポツと語ることになった。

 

 死にたくなった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。