私がこれまで誰にも打ち明けたことのなかった真実の告白を聞いて弟子は呆然と私を見やり瞬きを二三度挟むと、顎に手をやり目を閉じて暫く沈思黙考にふけり、何やら頷いて手を叩くと私に鋭い視線を向けて言った。
「なるほど、さっぱり理解出来ないということが理解出来ました」
「だよねーそうなるよねー 仕方ねーよそらそうなるわ」
私もコクマーに「実は僕、女の子だったんだ」なんて突然言われてもロクな反応をしてやれる自信はない。つーかどうでもいい。
でも実際、コクマー云々は置いといて突然こんな真相を聞かされても困惑が勝つのは当たり前だ。何言ってんだこいつってなるよ、当然。
「あー、詳細については更なる混乱を招く恐れがあるから省くが。まあ要するに私のガワは女だが中身は男だという認識で構わん」
自分で言ってても訳分からんな。傍から見たらある意味精神的な病状を患ってるように見えんのかな。
「なんとなく分かってきましたが、それって遠回しに断ってるって認識でいいんですかね。そうならそうで直接そう言ってくれればよかったのに」
「えっ、いや、あの。そうじゃなくて」
えっ、あっ。もしかして断る為の方便だと思われてる? いや、でも普通はそう受け取っちゃうのか。ど、どうしよ。
「えっと、そういうんじゃなくて。その、私が男でお前は嫌なんじゃないかっていう」
「なんでですか?」
なんでって、なんで? なんでこいつこんなケロッとしてんの。もう少しこう、葛藤すべきことがあるんじゃないの。なんで私の方が追い詰められてるみたいになってんの?
わ、訳が分からない。
「いやだって、 私に、その、言ったじゃないか。女の子として、えー、見てますって。だから」
「あー、それでらしくも無くうじうじと悩んでたんですか。ありゃちょっとした方便みたいなもんですよ」
?????!?
ど、どういうことなの.........。弟子の考えてることが全く分からない。さっぱり微塵も理解が追いつかない。
なぜ稀代の魔法使いのこの私がよりにもよって自分の弟子にこうも良いように転がされてるんだ。おかしい、こんな世の中間違ってる.........。
「それってどういう___」
「昔親友に教えて貰ったんですよ、ガードの硬い女の人を口説くには自分がその人をちゃんと『女の子』として見てることをアピールするのが大事なんだって。それでそういう言葉を選んで使ったって訳です」
こ、こいつ。なんか手馴れてないか? 二百年+α生きてる私よりも恋愛経験が豊富そうに見える。なんだかそういう方面での話では絶対にこいつには勝てないだろうなと思ってしまいそうな風格すらある。
もしかしてどこぞの女が私の弟子に知らんうちに手ぇ出してたんじゃないだろうな。どこのどいつだ。結果的に私を追い詰めた遠因となったそいつを見つけ出して血祭りに___。
てか、こいつ何言ってんだ? 焦りすぎて半分近く聞き流してたけどよく聞いたらこいつの言葉は___。
「つまり、それって私が別に男だったとしても構わないってことなのか?」
「まあ、そうなるんですかね。結果的には」
「............お前もしかしてソッチの気が」
「違いますよッ!」
えぇ.........。いや、まあ私としてはこいつがゲイだろうがバイだろうが特に思うことは無いんだけどさ。そういうのも個人の持つ立派なポリシーだと思うし。
多少ショッキングな事実だが、そういうところも引っ括めて受け入れてやる寛大さくらいは私も持ち合わせて___。
「いや、ホント違いますからね。なんか黙りこくって妙な事考えてるんでしょうけど、マジで違いますからね。僕の性的趣向は至ってノーマルですから。第一、僕は男かどうかなんて分かっていないときに師匠に告白してたでしょ」
「なんか必死になって否定してるとこがガチっぽい」
「じゃあどうすりゃいいんですかッ!」
ははっ。なんかペース掴めてきたな。最近は会話のイニシアチブを取られることが多かったが、基本的に私は人を弄る方が好きなんだ。優越感に浸れるから。
まあ表情見るに本当に違うんだろうけど、前にこいつにガチ惚れしてた馬鹿な野郎が一人居たからなあ。割とホントなんじゃないかって疑ってしまうところもある。
とまあ、そんな風にからかっていたら突然「師匠」と呼びつけてきた。なんだ、開き直ったかつまらん。
「なんだ」
「俺は師匠のことが好きです。でもそれは性別がどうとかそういうのじゃあない。男だとか女だとかは二の次なんです。だって俺はあんたっていう人間に惚れたからです。マーリン・スキエンティアっていう一人の人間が好きなんです」
「お、おう」
あ、相変わらずなんちゅー小っ恥ずかしいセリフを吐けるんだこいつは。メンタルおかしいんじゃねーの。なんかまた顔が熱くなってきた。勘弁してくれ。
「そういう師匠こそどうなんですか」
「な、なんだよ」
「だってさっきから俺がどうとかで自分がどうしたいかなんて一言も言わないじゃないですか。師匠の気持ちを聞かせてくださいよ」
水を向けてきやがったな私に。でもまあ、こいつが問題ないってことならそういうことになるか。正直、私の一世一代の告白をサラッと流された気がせんでもないので釈然とせんが。
私がどうしたいか、か。難しい問題だ。私自身、それを把握出来ている訳では無い。だからいっその事さっきので弟子が諦めてくれた方が寧ろ気が楽だった。事の成り行きの意思決定を他人任せに出来るんだからな。
だが結果的に、私達の関係性の進退は私の一存にかかることになった。プレッシャーがやばい。
しかし私は___
「分からない」
弟子が眉を顰める気配を感じた。だが、それが私の本心だった。
「分からないんだ。いや。私は、お前がそうしたいんならそうしてやりたい。お前がそれを願うなら私もそれを叶えてやりたいとは思っている。だが___」
「だけど、それは師匠が自ら望んでいることじゃない」
私が今回の件を比較的前向きに検討しているのは馬鹿弟子がそれを望んでいるからだ。だけど、それを私が腹の底から望んでいるかっていうとそうじゃない。そこに私の意思は介在していない。
「確かに、ただ婚約するだけならそれでもいいでしょう。でも、俺が師匠に求めているのはそんなことじゃない」
「分かってるよ。だから、こうしようか」
言いながら近付いて、頬を撫でてやる。気付いたらいつの間にかこいつは私よりも大分デカくなっていた。こうして顔に手をやるだけでも足元までよって足を伸ばさなくちゃならん。成長を喜ぶべきか、忌まわしく思うべきか。前者か。
「お望み通りお前と式はあげてやる。それで納得出来ないと言うならお前が私を本心から惚れさせてみろ」
「俺が」
「ああ、だが私は手強いぞ? さっきも言ったが心は男だからな。野郎は対象外だ。それでも諦めないというのなら____お前が私に惚れたように、男の私が思わず惚れてしまうくらい立派な人間になれ。私を本気にさせてみろ。それでいいな?」
はっきり言って、こいつは今のところ頼りない。私より弱いし、守ってやらにゃならんという気持ちの方が強い。庇護対象としか思えん。
だから強くなって欲しい。私の手など要らないほど強くなって欲しい。心配をしなくてもいいようにして欲しい。
そんな私の想いが伝わったのか、馬鹿弟子は一度眼を閉じると、力強く頷いた。言葉はなかったが私は妙に安心した。
まだこいつがどうなるか分からないが、多分大丈夫だと思った。きっと強くなってくれるだろうと、漠然とだが確信した。
いつになるかは分からないが、いずれこいつは私が居なくても一人でやっていけるようになるだろう。
安心した。例え私が道半ばでくたばることになっても、この世にこいつ一人だけ残していくことにしまったとしても、きっと安心して逝ける。
次回以降から二人の馴れ初めや師匠の最後の独白に至るまでの顛末を書いていきます。
そこからこの話に到着するまではそこそこ時間がかかりますし、ここまでの四話に比べると雰囲気が一変してかなり殺伐としていて陰惨な描写が多々含まれるようになりますので一応の注意をここで促しておきます。