戦闘シーンは少ないですが、よろしくお願いします。
俺たちは再び、オルクス大迷宮を攻略していた。
だが、そこにはかつての仲間達の多くは居ない。
勇気を振り絞って戦っていて、俺が帰ってきたときも、炎を燃え上がらせてはいたが、それは、そうしなければ見捨てられると多くの人間が思っていたからだ。
愛子先生が戦えなくなった生徒を戦わせる事へ抗議していた。
周りの貴族は渋っていたが、食糧関係の生命線を失いたくないため、有耶無耶な対応をしていた。
そこに、国王やイシュタルが戦えない者は手厚く保護すると確約したため、貴族は手を引いた。
クラスの皆も、やはり自分は戦えないと思い一人が抜けると、次々に止めていった。
それに、仕事も渡されているため、戦う以外に役に立つことがあると自分たちの新たな価値を見出していった。
此処にいるのは、俺を含む十五人のクラスメイトとメルド団長だ。
先ずは、王国の多くの人...特に貴族からの人気が爆発的に高い、俺がリーダーに置かれている天之河チーム。
専ら勇者チームと呼ばれている。
俺、天之河光輝に龍太郎、雫が前衛を務め、香織、その親友の谷口鈴と中村恵里が後衛を務める。
バランスが良い人類最高戦力のチームだ。
次に、檜山大介、中野信治、斉藤良樹、近藤礼一の四人組。
南雲を虐めていたメインの人間だ。
前衛後衛のバランスも取れており、実際強い。
四人がかりなら、限界突破していない俺と良い勝負が出来るだろう。
次に永山重吾という柔道部主将がリーダーの永山チーム。
遠藤浩介、野村健太郎、辻綾子、吉野真央を率いている。
恐らく、クラスで一番リーダーシップのある人間だろう。
どのタイミングでかは分からないが、いずれクラスの下を離れる身としては永山には次のリーダーとして、とても期待している。
足を進めていき、現在六十層まで来た。
そこで皆の足が止まり、俺も足を止める。
皆の目の前には何時かのものとは異なるが、同じような断崖絶壁が広がっていた。
次の階層へ行くには崖にかかった吊り橋を進まなければならない。
それ自体は問題ないが、やはり思い出してしまうのだろう。
特に香織は、奈落へと続いているかのような崖下の闇を、ジッと見つめたまま動かなかった。
「香織...」
雫の心配そうな呼び掛けに、強い眼差しで眼下を眺めていた香織はゆっくりと頭を振ると、雫に微笑んだ。
「大丈夫だよ、雫ちゃん」
「そう...無理しないでね?私に遠慮することなんてないんだから」
「えへへ、ありがと、雫ちゃん」
受け答えをハッキリしている。
これなら、なんの心配もいらないだろう。
悲しみに打ちひしがれていたなら、道化になって怒らせようとしていたが、必要ないようだ。
「皆、怖いのは、分かる。だが、俺たちはそれを乗り越えなければいけない!先に進まなければ、未来はない!王国に残っている皆のためにも、戦う必要があるんだ!俺たちが人類の希望となって戦い抜いて、人類全体がいつの日か剣を取るその日まで、俺たちが剣であるために!こんな所で止まるわけにはいかない!皆、俺に続け!!」
味方の士気を高める。
初めの頃は恥ずかしがっていたが、何回もしている内に慣れた。
寧ろ、堂々として戦士に火を付けることに喜びを得た。
そして、先へ進み出す。
進み出したら、問題なく六十五層へたどり着いた。
「気を引き締めろ!ここのマップは不完全だ。何が起こるかわからんからな!」
メルド団長の声が響く。
そう、ここから先は未知の領域と言っても過言ではないだろう。
しばらく進むと大きな広間に出た。
広間に侵入すると同時に、部屋の中央に魔法陣が浮かび上がる。
赤黒い脈動する直径十メートル程の魔法陣。
それは、とても見覚えのある魔法陣だった。
「皆、来るぞ!!恐怖に打ち勝つためにも、過去の自分を超えるためにも!武器を取れ!奴も獣だ!痛みに怯み血を流す!彼奴は絶対に殺せる。俺が一度殺したんだ。お前らが勝てない相手じゃない!いくぞ!」
そう言って俺は駆け抜ける。
ベヒモスが姿を現すと同時に、剣で斬りつける。
右から左に斬り、そのまま勢いを殺さず斜めに回転斬り。
追撃で拳を放ち、ゼロ距離で魔法を放つ。
離脱した後に、技を放つ。
「万翔羽ばたき、天へと至れ〝天翔閃〟」
その光の一閃がベヒモスに傷を付けた。
「グゥルガァアア!?」
悲鳴を上げる。
「いける!俺達は確実に強くなってる!永山達は左側から、檜山達は背後を、メルド団長達は右側から!後衛は魔法準備!上級を頼む!」
このぐらいの指示ならば、メルド団長にも怪しまれず、問題ないだろう。
指揮官の訓練は始まって間もない。
やり過ぎると勘ぐられる可能性もある。
「ほぅ、迷いなくいい指示をする。聞いたな?総員、光輝の指揮で行くぞ!」
メルド団長が言い放つや、各々が動き出す。
龍太郎、永山がその力を生かしてベヒモスに動きを制限して、檜山達や雫、メルド団長が隙を突く。
そして、皆に危険が及ばないようにするためにも、俺は正面から戦う。
一秒毎に、傷が増えていき、あちらの攻撃は全て、俺によって逸らされる。
ままならない現状に苛立ち、ベヒモスは勝負を焦る。
ベヒモスが固有魔法を発動させた。
前衛組は多くが防御の態勢を取る中、俺は構える。
存在感を強める。
後衛組に攻撃を届かせる訳にはいかない。
敵意の大きい者に牙を向けるのが、誇りのある獣だからだ。
ベヒモスは恐らく此処の中でも強い魔獣だと俺は思う。
ならば、絶対に攻撃は俺に来る。
それに、ベヒモスが弱くても、構わなかった。
後衛組に攻撃するには、俺を退かすしかないからだ。
実際に俺に向かって突進してくる。
「
詠唱を、俺が最も力を出せる物へと変える。
それを放出せずに剣にため込む。
突っ込んできた相手を抜き胴を放つ要領で斬りつける。
狙いを逸らされて、真っ二つには出来なかったが、全ての足を切り飛ばした。
ベヒモスが墜落する。
その先には、魔法の詠唱が完了した後衛が待機していた。
「「「「「〝炎天〟」」」」」
ベヒモスは焔に包まれた。
そして、ベヒモスが力尽きる。
「か、勝ったのか?」
「勝ったんだろ...」
「勝っちまったよ...」
「マジか?」
「マジで?」
皆がマジマジとベヒモスの遺体を見たり触れたりする。
「そうだ!俺達の勝ちだ!」
聖剣を高らかに掲げて声を上げる。
男達は肩を抱き寄せ、女達は互いを抱き合い、喜びを表す。
メルド団長も感慨深そうだ。
特にそうだろう。
過去の偉人を超えた。
その瞬間に立ち会い、自身も戦ったのだから。
ただ、香織はボーッとしていた。
それに雫が構う。
そして、谷口や恵里と喜びを分かち合う。
それを素直に喜べない自分に嫌気を指しながら、いつもの笑顔を貼り付ける。
「皆、これからは、メルド団長すら理解の及ばない敵が出てくる!喜ぶのは良いが気を引き締めよう!まだ、百層までは長い。ただ、俺も今日は喜びを持ち帰りたいから、此処で地上へ帰ろう!...良いですか?メルドさん」
「ああ、良い判断だと俺は思う。疲れもあるだろうから、一旦地上へ戻り、明日の朝からまた攻略を開始しよう」
そして、地上へ向けて歩き出す。
光輝が強くなりすぎているので、パーティー全体がピンチに陥る回数が少ないため、結構危うい状況です。
感想お待ちしています。