ありふれてはない元守護者の異世界戦闘録   作:ギルオード

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これで恐らく第1巻分が完結しました。
正直この話は少し、これじゃ無い感がありますが、上手く求めきれなかった感じがします。


暴走

魔力を解放して、殺す気で相手の顔面を殴りに行く。

 

「なっ!」

 

相手は腕をクロスさせて致命傷を避けるが、腕がへし折れた音が響く。

後ずさりする相手に蹴りを叩き込む。

周りの声は聞こえない。

俺は目の前の男を目に据える。

 

「貴様が皇帝だと...巫山戯るなっ!」

 

更に魔力を回す。

向こうにも言い分はあるかもしれない。

だが、それでも、怒らずにはいかなかった。

冷静な判断が下せない。

 

「今の今まで国に引きこもって置いて、魔族に勝てず、助けを求めている立場で有りながら、気に入らない相手が来たので八つ当たりする。それが帝国のやり方か?ずいぶん時間が経つのに、俺たちのことを何も知らないのは興味が欠片も無かったんだろう?自分の職務怠慢によるミスを国柄の所為にでもするか?今まで凄く我慢したさ。あくまで相手は使者の護衛で腕っ節のみを判断基準にして、肝心の「学」の部分は使者殿に任せているはずだと、言い聞かせたさ。その舐めきった対応も水に流してお互い傷を負わずにこの場は流そうとした。だが!貴様が皇帝で、帝国の...一つの国の長か!なら、俺はこの対応が帝国の本心だと受け取った!相手のことを調べずに好き勝手やって適当にする、そんな無責任な大人に俺の友達は任せられない!長がこのザマでは帝国内部の高は知れた!貴様等と友好関係を結ぶメリットは無い!俺もお前等の流儀に従って好きにさせて貰う!先ずは、皇帝貴様の首を落とす!そして、此処にいる使者も皆殺す!そして、帝国を落とそう!逆らう全ての命を刈り取り、恐怖によって人類をまとめ上げて見せよう!」

「なっ、お前、何を言っているのか分かっているのか!?お前は勇者だろう!」

「ああ、勇者だ。俺は勇者だ。勇者は人類を守る物だ。そう、最終的な勝利に、人類が子孫を残せる状態にすれば良いのだろう?お前達の言う敵を全て殺せば良いのだろう?魔族も魔物も、亜人も皆殺し、最後の勝利に人間の男と女が一人ずつでも残れば、人類の勝利だ!それに協力をする気が心から無いのならば、内部崩壊する可能性が欠片でもあるのならば、摘み取ってしまうのは可笑しな事とでも言うのか?ああ、俺は勇者だ。勇者なんだ。貴様等を救う勇者なんだ。あらゆる魔物を殺し、魔人を超えて、数え切れないほどの屍の山を築くだろう!力尽くでな!こんなもの、人の形をした災害や怪物と何ら変わらないさ!数多の英雄達が、人を苦しめる怪物を倒しても、その民衆どもの手で殺されてきたのだ!皆が思っているのだ!人の形をしているだけで、アレも化け物だとな!」

 

自分の頭が熱を帯びている。

歯止めが効かない。

皆に見せている天之河光輝ではなく、俺だけが知っている天之河光輝になっているのだろう。

もう、皆は俺と距離を取るだろう。

誰も、俺の隣には立たないだろう。

だが、それで良いかもしれない。

どうせ、クラスの輪っかの中にはもう、戻れないのだから。

 

「勇者殿」

 

イシュタルの声が響く。

 

「貴方にも思う所があったのかも知れません。しかし、此度は友好を結ぶ場所。そのような例え話や王としての在り方を話す場所ではありますまい。しばし、頭を冷やされよ。今の怒りに捕われた貴方では冷静な判断は出来ておりますまい。ガハルド皇帝陛下、勇者殿の粗相を見逃して頂きたい。彼は、彼等は既に大切な友の命を失ってしまう経験をしているのです。それで気が立っているのです。どうか」

「あ、ああ。わかった」

 

少しだけ、落ち着く。

今のままでは、俺はともかく皆の印象も悪くなる。

 

「申し訳ありませんでした。皇帝陛下、血が上りすぎておりました。貴方の国と貴方を侮辱したことには謝罪を。国王陛下、情けない所をお目にかけました。また同じ過ちを繰り返す前に、頭を冷やしてきます。夜の晩餐会には出席致します。それでは...失礼致します」

 

 

 

 

 

部屋に戻り、一人ベッドに顔を埋める。

皆を守るはずが、危険に晒してしまった。

何をやってるんだろうと考える。

 

コンコン

 

扉がノックされる。

返事をするのもだるいぐらいだが、しっかりとする。

というよりも、此処まで接近されているのに気づかないのは相当参っているようだ。

 

「鍵は掛けない。入ってきてどうぞ」

「では、失礼します」

 

入ってきたのはリリアーナ王女殿下だった。

多分、会見は俺の所為で半ば強制的に終わったのだろう。

王国からしたら堪った物ではないはずだ。

俺に、文句の一つや二つはあるだろう。

向こうからしたら、人類存続のための大きな一歩が台無しにされたのだ。

勇者といえど許されはすまい。

 

「申し訳ありません、王女。私一人の身勝手な理由で貴女方の努力を水の泡にしてしまいました。人類が真に協力し合い敵を討つ千載一遇の機会を、個人的な恨みで奪ってしまいました。貴女に勝利をと言ったのにもかかわらず、自分自身にすら負けてしまいました。言い訳はしません。いかなる罰も受け入れましょう」

 

彼女の優しさにつけ込んでいる自覚はある。

王族の一人を味方に付ければ、最悪の判決は免れると。

 

「貴方は、天之河様は自分に凄く厳しいのですね。あの時の謁見の後も...私達では勇者を罰することは出来ません。天之河様自身が仰った通り、貴方の力に頼るしかない私達では、裁くことは出来ません。余程のことではない限りは。そして、貴方の言い分は至極まともなものですから。ですが、きっと貴方はそう言われても自分自身を許せないのでしょう。きっと他人から許されても自分を責め続ける。ですから、貴方に私から罰を与えます」

「如何様にも」

「私と友達になって下さい。雫や香織とも違う、初めての男の友人に。対等な男の人に、なって下さい。確かに、私は王女という立場で、貴方は勇者という立場です。きっとこの関係ですら周りにはより特別に映るでしょう。貴方が最初にしたように一定の距離を開けた方が良いのかも知れません。それでも、私は...もう、我慢できなくなったのです。対等な友人を得て、政治的な観点もなく笑い合える人を作ってからは、もう昔のようには割り切れないのです。きっと欲張りなんです」

 

彼女の本音だ。

例え、器であっても人なのだ。

どうしようもなく、彼女は人間だった。

システムとして皮を被っていたけれど、心は見た目相応の女の子だった。

それでも、俺は彼女を神か勇者に変えてしまうだろう。

だが、彼女の本音を聞いた者として、せめてその時が来るまでは、友であろう。

 

「わかったよ、えっと、リリィと呼んで良いかな?俺は光輝で良いよ。内緒にしている方が辛いと思うから、もう名前で呼んでくれて構わない」

「はい。光輝、よろしくお願いします。それに...」

 

リリアーナ王女が俺の胸に耳を当てる。

周り見られたら、言い訳できないぞ。

だが、ああ幼いなりに俺を説得しようと頑張っているんだろう。

 

「心音がしっかりしています。貴方は生きています。そして、明確な弱点もあります。貴方は人間です。怪物なんかではありません。この心音が途絶えたら貴方は死んでしまうのです。英雄というものはあまり分かりません。ですが、貴方が誰よりも優しくて強くて厳しい人なのは知っています。何より、この王女たるリリアーナの友人なのです。そんな人が怪物な訳ないですから。私の友達を貶すのならば、例え本人でも、もう許しませんよ?」

「肝に銘じておきます。リリィ」

 

恐れを知らずに、強大なる者にそっと寄り添う。

ああ、古い物語ではきっと攫われてしまうような人間だ。

弱々しいのに決して消えない。

けれども、いずれは自滅する危うい光に、俺は固執していたのかもしれない。

失った物の変わりを求めて...

 

 

 

 

 

その後、落ち着いた俺は、改めて皇帝陛下、並びに帝国の関係者に謝罪の後、お互いに足並みをそろえることを話し合い、帝国との会見は完全な終了を告げた。




次はサーヴァントマテリアルですね。
次回は、やや遅くなるかと思います。
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