私は、久方ぶりに眠りについた。
ここに来た頃から、悪夢に悩まされて、遙か昔に眠ることを止めていた。
しかし、何故だろか。
彼と出会ってから、私は人間だった頃のようになっている。
彼に惹かれ始めている。
それをどうしても認められない。
弱い人間としての私を認めるのが凄く怖かった。
悪夢を見てもいいから、今は全てを忘れたかった。
故に眠りにつく。
いつもならば、あの頃の私が見えるはずだ。
しかし、私の目の前には、息が上がり、周りに汚物を吐き散らした後で気絶している少年と、少年を涙ながらに抱きかかえる老人の二人しか見えない。
周りを見渡して、ここが少年と老人が住んでいる屋敷の庭であることが分かった。
「すまん、すまんなぁ。光輝。お前には重いものを背負わせてしまう。儂は、家族を失いたくない余りにとんでもないことをしたのだ。儂で全てを終わらせたかったのに...すまんなぁ」
老人は謝り続けている。
ただ、一目で分かるのは、その老人は途方もない実力者だと言うことだ。
「儂は、お前を救う代わりに、お前に地獄を与えてしまった。お前を世界に売り渡してしまった。すまんなぁ。お前には多くの困難が巡り来る。世界がお前を愛して試練を課すだろう。この爺を恨んでも構わん。全ては儂が魔の道から遠ざけた所為だ。いずれ訪れる困難に立ち向かうために、お前を歴代最強の当主へと仕立て上げよう。儂の全てを、倅に一切教えなかった、天之河の全てを教え尽くそう」
そう言って、老人は恐らくこの世界の魔法を扱う自身の回路、その一部...いや、半分以上を少年、いや、気絶している光輝へ移植した。
「ッッッッ!!」
言葉を発することが出来ず、その場で痙攣し出す。
そして、場面が移り変わる。
この地球では魔術という、魔道を光輝が、光輝の祖父である天之河完治から教わっていた。
「光輝。お前は基本的な魔術をある程度の水準で収めた。ここからは、独力で伸ばしていくのだ」
「はい。お祖父様」
「よろしい。では、これより、我が一族その秘技の一つを教えよう」
「本当ですか!やった!」
少しだけ、少しだけ!...可愛いと思ってしまった。
いけない、いけない。
しっかりと見届けなければ。
「我ら天之河家は永き家系であるのは教えたな。本家が此方に流れたが、中華の国が本来の我らのルーツだ。天之河の名の通り、天ノ川、七夕に由来する家系だ」
「あっ、だから叔父さんのお家は牛を主に使う酪農家で、叔母さんは機織りをしてるんですね!」
「ああ、その通りだ。よく分かっているな。偉いぞ」
「えへへ」
あ、あっ、あう。
子に恵まれなかった私は一瞬だけ、この子を息子にしたいと思ってしまった。
「今回は、織物をしてもらう。儂の先代までは、その織物は概念礼装として、破格の価値を生み出しており、一財産を築き上げ、華族であった時期もあったのじゃぞ。無論、我らの腕は鈍ることはなかった。ただ、まあ、買い手が殆ど居なくなってしまったがな。だが、それでも定期的に色んな神社に奉納等はしておる。儂の代で終わらせると宣言したんじゃがなぁ。まさか、お前のような才能の塊が生まれてしまっては、重い腰を上げてしまったわい」
「っ!ありがとうございます。お祖父様。俺、お祖父様の期待を裏切らないように、頑張る!」
「おお。では、儂が手本を見せるから、光輝もやってみなさい」
「はい!」
織物を織っていく光輝と完治。
今度呼び出して、着物でも作ってもらおう。
初めての作品で、金を出しても良いと思える出来映えを見せつけるのだ。
今は、もっと凄いに違いない。
「おお、うまいぞ」
褒められた光輝は満面の笑みを浮かべていた。
その後の光輝の成長は凄まじかった。
叔父のところで、牛の戦車を見事に操り、中華の国と呼ばれる場所にいる親戚に武術を教わりメキメキと頭角を現す。
とくに、剣を用いた技や弓の腕前は大人をも圧倒していた。
この頃から、彼は強かった。
だが、上には上がいる世界でもあった。
大人達と模擬戦をすると、どうやっても経験の差で負けてしまう。
しかし、彼は何度も立ち上がった。
祖父に認められるために、挑戦することを止めなかった。
祖父の完治は偉大な男だった。
正義を体現したかのような男だった。
凄腕の弁護士としても活動していた。
かつては法政科と呼ばれる場所に所属もしていたようだ。
光輝に魔術師としての心構えを教えながらも、その魔術を使って多くの人を救っていた。
しかし、光輝が九つになる前に、完治は死んだ。
病に倒れ、自身の魔術回路を光輝に託して死んだ。
光輝の両親も小さい頃に亡くなっており、親戚が光輝を養子にした。
光輝は一月経った頃には家出をしていた。
律儀に義理の親に家出をしますと伝えてから出て行った。
人を救う正義の味方としての完治が、呪いになっていたのだ。
その後、光輝は単身海を渡り、時計塔なる所へ門を叩いた。
祖父のことを上の人間の何人かが知っていたためか、直ぐにその一員になれた。
順調に彼は、強くなっていった。
知恵を身につけた。
でも、彼は消耗していった。
魔術師としての心構えをしっかり持っていても、どうしようが無いほどに、光輝は正義感が強かった。
見て見ぬ振りをして、悲鳴に耳を塞ぎ、機械になった。
そして、光輝はある女を見つけて、見つめ合ってしまい、悲鳴を上げた。
そして、光輝はその女の子を連れ出して、行方をくらました。
正義のためにと光輝は呟いていた。
本当にこれは正しいことなのか?
私は疑問に思った瞬間に、目を覚ました。
「...ノイント?」
目を覚ますと最初に移ったのはノイントだった。
私の優秀な手駒。
私の手となり足となり働いてくれている。
「主は、魘されておりました。仮初めの肉体を作られて、初めて魘されました。私は、独断で主を看病致しました。主の美しき身体を布越しとはいえ、触れてしまいました。申し訳ありません。かつてならこのような不埒な真似はしなかったのですが、何故でしょう。胸の辺りがキュッてなりました。不快感とも違う何かに襲われて、行動せずにはいられませんでした。いかなる罰も承ります」
心が芽生えている。
彼女は人間へと近づいていっている。
それが我が子のようで嬉しく思う反面、必ず訪れる分かれを思うと、胸が痛む。
私は、この世界を滅ぼしてでも、私の故郷を救う。
世界が滅びるとき、彼女たちもその命運を世界と共にするだろう。
彼女たちの故郷は此処だから。
「ありがとう、ノイント。もう大丈夫よ。貴女にはこれからもっと動いて貰うわ。鍛錬に励みなさい」
「了解致しました。では、此方が替えの衣装です。それと、朝食も運んで貰っています。失礼しました」
感情を注いではいけない。
私は、私の幸せを、私の最愛の人を、故郷を取り戻す。
何を犠牲にしてでも、誰から罵られようと救ってみせる。
でも、どうしても、最近になって頭にちらつく。
愛しい故郷に大きな屋敷を建てて、愛しいあの人の隣には、あの頃の私がいて、周りには仲間達や親しい友人達に村の住民達もいる。
屋敷にノイントやその妹たちがメイドとして使えていて、そして...
「私は...何を考えて」
あれは理想だ。
いくつもの奇跡を使った所で叶うはずが無い。
多くの命を踏みにじった私には決して訪れない最果ての夢だ。
絶対の切り札と引き換えに、私はとっても弱くなってしまった。
あと一人でも、大切な身内が死んでしまったら...もう、私はエヒトルジュエの仮面も被れないのかも知れない。
「助けてよぉ、私を守って助けるって約束してくれたじゃない、■■■■■■■」
もういない最愛の人を呼んでしまう。
私はこんなにも弱い人間になってしまった。
ああ、私の名前は...!
お待たせしました。
オリジナルの設定がモリモリですが、よろしくお願いします。
感想お待ちしています。