また、しばらくの間更新は難しいと思います。
九月中旬頃には次回を出せるかと思います。
あの日から、俺を見る目が変わりだした。
恐怖や畏怖の感情を孕みだして、遠巻きに見るようになった多くのクラスメイト。
また、過剰に俺を讃えだし、自身の勢力に取り入れようとする貴族も出てきた。
変わらずに接してくれる人は、そういない。
そんな状況を見かねたのか、国王は俺に王女の相手を頼んだ。
訓練に参加をせずに、王女を相手にしろと。
皆の訓練の妨げにもならないし、貴族達の牽制も兼ねている。
俺はそれを呑み込んだ。
俺がいる所為で、皆のやる気が削がれて、強くならず死にやすくなるぐらいなら、王の策略に乗るのも構わないと思ったからだ。
そして、今日から俺はリリィの相手を始めた。
たわいもない世間話をしながら、茶菓子を食べて紅茶を飲む。
リリィが言っていたが、この茶菓子も紅茶も彼女が作った物だそうだ。
「光輝は何か得意な事ってありますか。あっ、戦いに関すること以外でですよ?」
「そうだね...」
得意なこと...何かあっただろうか?
高校生になってからやっていないけど、自慢できる特技を思い出した。
「最近は出来ませんでしたが、織物を少し。そうだな、そちらで言うドレスとかは簡単な物なら少し時間をくれれば作れると思う。まあ、やるにしても久々にやるから腕が鈍っていそうだけど」
「それは素敵ですね。でしたら、私のドレスを作ってくれませんか」
「良いのか?正直、あまり良い出来になるとは思わないけど、本当に?」
「はい。私には貴方が織った物という事実が重要なのです。無論、王女にも。それに、私の手作りを食べさせたのです。少々不公平ではありませんか?」
「確かにそうですね。年下の可愛い子が手作りのお菓子を振る舞ったのに、返礼がないのは、頂けませんね。分かりました。この天之河光輝、全力を尽くしましょう。ただ、少しだけ時間を下さいね?」
「はい」
機材は、投影してエヒトにでも力を借りて再現しよう。
きっと、彼女はその作られたドレスを着て舞踏会に出るのだろう。
恥ずかしくない出来にしないといけない。
「ところで、光輝。貴方に夢はありますか」
「夢?」
リリィが語りかけてくる。
「私は、夢という物を抱いたことがないのです。私にとって立派な王女になること、国の歯車になることは使命であり、役割でもあります。そうでなければいけないのです。私にとってはそれが普通のことでした。ですが、側近や専属の侍女が付いてから、彼女たちは言うのです。夢でしたと。ですが、対等ではない彼女たちには、夢のことを聞けないのです。王族である私が、こんな子供じみたことも分からないのかと失望されたくないのです。彼女たちはそのようなことを抱くはずがないと思っても確信出来なくて、聞けませんでした。ですが、今の私には、対等に話し合える友人が出来ました。雫や香織にも聞こうと思っているんです。ですが、男性の意見も聞きたいと思いまして...貴方を頼ったのです。光輝、私に夢を教えて下さい」
普通なら、辺り触りのないことを言って切り抜けるだろう。
自分の夢を語って終わるだろう。
だが、彼女を納得させるには、それではいけない。
リリィは夢に対して、無垢な少女なのだ。
考え方その物がないんだ。
だからといって、夢を自身の経験から得た答えだけで教えて良い物だろうか?
だが、俺は俺でしかないから、教えられることは一つぐらいだ。
「俺が、貴女に教えられるのは、考え方の一つに過ぎない。それでもよろしいですか?」
「はい。よろしくお願いします」
でも、彼女の真剣な瞳を見れば、答えてしまう。
彼女だけではない。
追究する者として、学びたいと意欲のある人間を邪険に出来ない。
「俺にとって、夢は呪いでした。あの日に誓った夢は、自分自身の手で壊してしまいました。夢を叶えられなくなったからこそ、理想と現状の差を明鶴に感じてしまう。そう、諦めきれない、割り切れないからこそ、それに縛られ続けるんだ。リリィ、夢を持っていないと言っていたけれど、俺から言えばそのままの方が良い。理想と現実の差を糧にして自身を奮いあげて磨き上げる。その原動力へと変えられるのならば良い。だが、それが出来る人間はそういない。俺は出来なかった。だから、俺としては夢によって叩き潰されるぐらいなら、夢は見ない方が良いんだ」
そう、これは俺の後悔でもある。
本当に夢を諦めていれば、また違った道を歩めたかもしれない。
最初から星に命が捧げられている身であるため、抑止の守護者になることは変わらないだろう。
でも、それでも、あの日まで戦う事はなかったのかも知れない。
幼き日の戦いの日々を否定するわけではない。
だが、二度目の生を得て、一般的な人間の生活を、遅れた時間を取り戻そうとすればするほど、別の道を歩んだ姿を思い描く。
「では、光輝の夢は何だったのですか?」
リリィが少し俯きながら問いかけてくる。
予想していた内容だった。
ここまで、彼女が見てきた景色とは真逆の物を教えた。
気になるのも当然だろう。
これで問いを投げかけるなと言うのが無茶な話だろう。
「俺は昔、
だが、それは不可能なことだった。
自分の正しさに従って行動すれば良かった。
あの時こぼれ落ちた願いを自身の物にすれば良かった。
だが、俺は、他者の正しさを、千差万別のそれを纏っていった。
だからこそ、誰かの正しさと正しさとの間に悩み、果てには自分の正しさも忘れていった。
気づいてときには、引き返せない所まで落ちきっていた。
自分で理想を汚してもいた。
「やはり、私には難しいです。でも、貴方がその事にだけは後悔があることは伝わりました」
お互いに紅茶を飲み、少し無言になる。
静寂を打ち破ったのはリリィだった。
「もし、その、よろしければ、私に夢が出来たら聞いてくれますか?」
こんな空気で会話を終わらせたくなかったのだろう。
少しでも、明るくしようと考えて動いただろう。
それが凄く微笑ましい。
「ええ、俺で良ければいつでも」
そうして、本日のリリィとの対談は終わった。
次回も遅くなりますが、これからもよろしくお願いします。
感想お待ちしています。