たったの一瞬の出来事だった。
あの侍は一回しか刀を振っていなかった。
二連続で斬りつけたわけではない。
だが、あの瞬間斬撃は確かに二つあった。
魔法の領域を俺はこの目で見てしまった。
胸の高ぶりが押さえられない。
魔術師として、アレを見せられて興奮しない方がどうかしている。
動かなくなった俺を不安に見つめる雫。
警戒を解くそぶりのないクラスメイト。
交渉をしているメルド団長。
それをよそに、俺は侍に話しかける。
「多重次元屈折現象。なあ、侍。もう一度さっきの一回で二回斬るその技を見せてくれないか?」
「ちょ、ちょっと光輝!何言っているの?今メルド団長が交渉しているのに、水を差す真似をしないの!いきなり動き出したかと思えば、意味分からないことを言い出して。さっきのは私達に見えない速度で二回斬ったのよ」
「雫、すまないが黙っていてくれないか?俺には、この侍の技は途轍もなく重要なことなんだ!」
「えっ」
そう言って、俺は雫が肩に乗っけた手をはね除ける。
「私の技を見抜いた者は皆それを聞く。そんなに珍しいのか私の技は?」
「珍しいなどと言うレベルでは無いさ。一生を費やして、その可能性に触れられるか触れられないか。そして、俺はようやく見つけたのだ。この機会を逃す訳にはいかない」
皆は何を言っているのか理解していないだろう。
メルド団長ですら顔には出していないが、疑問を抱いている。
「残念だが、私の技は見せ物ではないのだ。見返りも無く見せる物ではない。今のお前に私を満たす強さが備わっているようには見えない。そこにいる女のような花でもない。潔く諦めよ」
彼は強き者との競争に飢えているのだろう。
それと、欲を殺し武を極めた、という訳ではないようだ。
「俺たちに着いてきてくれれば、強者と戦闘出来ることを約束しよう。相手は槍の英雄だ」
「ほう」
考える素振りをし始める侍。
俺は後ろにいる雫に指を指す。
「それに、好きなだけ雫と話すことも出来る。強い所を見せればコロッと堕ちるかもしれんぞ」
「ちょっと!光輝!私を巻きk「その話、違えるなよ」私は良いって言ってないわよ!」
「すまない、雫。俺の、いやこれほどの強者が味方に付くんだ。皆のために犠牲になれ」
「ふ、巫山戯るのも大概にしなさいよね!いつも私が貧乏くじを引くんだからぁ」
危機を感じ取って剣に力を込めて、斬撃をギリギリで防ぐ。
防げなかったら、首が飛んでいただろう。
だが、頭に響く警告は激しいまま。
理由は分かる。
時差なく飛んできている二撃目だ。
右足で左足を払い、大きく体勢を崩す。
結果、鎧は砕ける。
腹から左肩へ向けて大きく斬られ、辺りに鮮血が飛び散る。
感覚的に臓器が飛び出ていると思う。
皆よりも後方の方まで飛ばされ、後ろに控えていた騎士の一人にキャッチされる。
「ほう。全力ではなかったとは言え、死なぬとはな。驚くしかない」
「てめぇよくも光輝を!」
侍の言葉に怒りをあらわにする龍太郎や前衛メンバー。
「嫌アァー!!」
悲鳴を上げパニックに陥る心の弱いメンバー
「不味い。傷口は深いし、臓器が足りない!ありったけの回復薬を使って延命しろ!治癒師は急いで詠唱を!」
指示を飛ばす精鋭の騎士達。
久しぶりに大量の出血と激痛に襲われる。
だが、それを理由に動かなくなることを俺は許さない。
剣を杖にして立ち上がる。
「光輝君!傷は深い。動くんじゃない!」
「忠告ありがとうございます。でも、止めないといけないので」
そう言って、前衛組まで跳んでいく。
「龍太郎、永山くんも落ち着け。俺は生きているし、斬るように頼んだのも俺だ。彼に怒りをぶつけるのは筋違いだ」
「でもよ、何も斬りつけることはないだろ!横で見せて貰うとか、寸止めとか、色々他にもあるだろうが!もっと自分を大切にしろよ!死んじまうと思っただろうが」
「坂上の言うとおりだ。お前は俺たちの中で一番強くて一番便りにしているんだ。お前がいないと、俺たちは大迷宮を攻略出来ない」
「それに、光輝。アンタが死んだら、私がリリィに報告しないといけないのよ...もう無茶しないで。親友に親友が死にましたなんて私は言いたくないわ」
「光輝くん。私が治せない傷を負ったら、ホントに死んじゃうんだよ!もう私に救えなかったっていう非力さを与えないで」
ここまで、ここまで皆の心は弱まるのか。
心配してくれるのは嬉しい。
でも、この調子で本当に戦えるのか?
逆だ。
戦わせてはいけないんだ。
少なくとも魔人や亜人とは戦わせてはいけない。
一緒に戦ってくれているから忘れていた。
彼等は戦士ではなく、守られるべき子供だということを。
守らないと。
護らないと。
マモラナイト。
「ああ、もうあんな無茶はしない。約束だ。それにほら!もう傷口は塞がりだしている。無くなった臓器も再生し始めている。あんまり心配するな」
そう言うと、皆ほっとし始める。
「良い友情だな。勇者殿?名乗るのが遅れた。アサシンの佐々木小次郎という。よろしく頼む」
「勇者の天之河光輝です。此方こそよろしくお願いします」
そう言って、俺はアサシン、佐々木小次郎と握手をした。
「嘘!佐々木小次郎って本物!?」
「いくら何でも、別人だろ雫。江戸時代の人間が生きてるわけ無いだろ!」
「どうであろうな~」
こうして、今回の大迷宮攻略は終わりを迎えた。
あと少しぐらいしたら、オリジナル展開が来ます。
感想お待ちしています。