ありふれてはない元守護者の異世界戦闘録   作:ギルオード

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最新話です。


想い

佐々木が仲間に加わり、ハイリヒ王国に客将として招くために、大迷宮攻略を早めに切り上げハイリヒ王国へと帰還を急いでいた。

 

「メルドさん。すいません、ちょっといいですか?」

「どうした?光輝。何か心配事か?」

 

場所の中でメルド団長に話しかける。

聞きたいことは一つ、壊した鎧についてだ。

 

「今回で鎧を壊してしまったんですけど、これって怒られますかね?経緯を説明したら絶対怒られると思うんですけど...」

「正直、俺も怒りたい。だが、交渉がスムーズに言ったのも事実だしなぁ。まあ、その辺は小次郎殿とも口裏を合わせておこう。それに、鎧は多分作り直すからな。しばらく迷宮攻略には参加出来ないだろう。代わりの鎧もあるが、貸してくれんだろうな。勇者様には似合わないって理由でな」

 

メルド団長の口調がいつもより少し棘があるように感じる。

まあ、自殺しようとしているようにしか見えなかっただろうから、仕方の無いことだ。

 

「分かりました。士気向上のためにも、見栄えは大事ですよね。今回は本当にすいません。完全に私情を優先しました。牢に入れられても仕方ないと割り切れる位には」

「俺たちは、お前達の事情を詳しくは知らない。お前個人のことも余り分かってはいない。だが、お前が理由もなく無茶をする奴ではない事だけは分かる。それに、俺に怒られるよりも、昔からの付き合いがある者に怒られた方が堪えるだろう...それで、何か得られる物はあったか?」

 

メルド団長は言いながら冷静になっていき、自分たちと俺たちの間で埋めなければいけない問題を見据えつつ、返事を返す。

 

「ええ。自分には決して出来ないと諦めが付くぐらいには得られる物がありました」

「それは良いことに入るのか?」

「勿論。出来るかも知れないという淡い希望に身を委ねて、時間を無駄にするよりは。俺にとっては確かめることは重要なことでしたから。出来ないと分かれば諦めが付きますから」

「そうか...俺からは何を言えば良いかは分からん。ただ、泣けるときには泣いてくれ。今のお前は、無理矢理自身を押さえつけ締め付けているようにしか、見えない」

 

一組織のリーダーとして、メルド団長の人を見る目は確かだ。

人生経験も豊富なのも理由だろう。

俺は自分が想定している以上に、ショックを受けているのかも知れない。

自分自身の感情が、もう分からないのかも知れない。

自分自身のための感情は、あの日の憎悪の一撃と共に砕けただろう。

思えば、天之河光輝として再スタートをして、他者と自身を天秤に掛けて、自身を優先させたのは、今回が初めてだっただろう。

 

「ありがとうございます」

 

どう返せば良いかが分からなかった。

人に会いたいと相談は出来はしない。

相手が今生きているかも分からないし、仮に逢えたとして向こうとは初対面だろう。

そんな頓珍漢なことを、相談は出来はしない。

そして、馬車は走り続ける。

 

 

 

 

 

 

 

閉じていた目を開ける。

そこには、美しい白のドレスを着たお姫様がいた。

本当に王族かは分からないが、高貴な身分なのは違いないだろう。

金髪のお姫様は、夫と思われる者と話をしている。

内容は良く聞こえない。

だが、見れば見る程、疑問に思う。

彼女に俺は会ったことがある。

何故かそう確信が持ててしまう。

場面が急に変わり、庭園にいる夫婦の前を一人の子供が走っている。

その少年の造形に絶句する。

それは紛れもなく、幼き日の天之河光輝そのものだ。

つまり、この夢はマスターが見ている景色だろう。

本当かどうかは聞かなければ分からないが、イレギュラーとも言える俺の存在を除けば、これがマスターの故郷と言えるだろう。

俺がこうして、マスターの内側を覗けるのなら、向こうも同じ事になっているだろう。

だが、これは過去ではなく、願望だろう。

目の前の天之河光輝が地球の魔術を使ったことで、確信を持った。

マスター達の子供ではなく、過去の景色でもない。

ただ、マスターの故郷を土台にしているのは間違いないだろう。

だが、場面は急展開をしていく。

辺りを炎が焼き尽くす。

マスター以外の全てが焼き尽くされていく。

マスターの胸に刻み込まれた恐怖の存在は、夢や理想すらも呑み込んでいく。

未来へ向けて歩もうとしている者に、手を差し伸べることは出来る。

だが、過去に縛られている者に思いは通じない。

時間は一方向に進む。

流れに逆らうように進むのは無茶だろう。

マスターの願いは叶わない可能性の方が高いだろう。

世界から批判されるだろう。

それでも、俺だけはマスターの、彼女の味方をしよう。

いつの日か、その心に平穏を取り戻し、安らかに眠りにつけるその日までは。

 

 

 

 

 

バチン!

 

一瞬のことだった。

ハイリヒ王国について直ぐ、リリィが正面から迎えに来ていた。

此方に向かってまっすぐ走って来るから、怪我をしないようにと腕を広げて待った。

リリィはそのまま俺に泣きついた。

早馬によって知らされたのだろう。

どのような説明を受けたかは分からないが、俺が斬られて負けた事は伝わっているだろう。

どうした物かと思い、周りに助けを求めるも、無視される。

特に雫は自業自得という目線で刺してくる。

まあ、自業自得だし、雫がフォローに回ってくれない程のことをしたので、文句は言えない。

泣いている子供をあやすように、リリィの頭を撫でて、背中をさする。

どれだけ取り繕っても、リリィは十四歳の女の子だ。

それも、王族として生きてきた故に、友達の危機という物には一層敏感なのだろう。

 

「凄く、心配したんです。夢の中でも安心出来なくて、目が覚めたら、嫌なことを聞くんじゃないかと、不安で不安で」

 

顔を埋め込みながら、泣きじゃくる。

そして、周りには聞こえないような押し殺した声でリリィは心に秘めていた思いを語る。

 

「悲しいですけど、俺たちはこれからもっと傷つくでしょう。だからこそ、生きて貴女の元へ帰ってきましょう。ですから、泣かないで下さい。リリィ。貴女が悲しんでしまえば、俺たちは全力を出せない。王として、貴女は間違っていたとしても、何を犠牲にしても笑っていて下さい。兵の死を無駄にしないで下さい。今の貴女には重い荷でしょうが、どうか覚えていて欲しい。多くの兵士が貴女たちを護ろうとしていることを。そして、貴女たちに一家の命を懸けていることも。兵士が自分の選択に悔いを残さないためにも、貴女は笑って下さい」

 

そう、どんなに暗いことがあっても、自分たちの王が笑えば、民は希望を見出して笑うのだ。

 

「リリィ、少し疲れたので、紅茶が飲みたい。あと、スコーンも欲しい。用意してくれるかい?」

「はい。分かりました。少しだけ、待ってて下さい」

 

リリィは少し駆け足で去って行った。

すると、雫が隣にやってくる。

 

「ねぇ、光輝。先のやり取りって...いや、やっぱりなんでもないわ。いつもの事よね」

「そうか。何もないなら問題ないな」

 

雫がわざとって遠回しに聞いているが、気づかないふりをする。

リリィとゴシップ記事になるのは、リリィに申し訳ないし、俺に勇者としての実績も足りない。

まだまだ、戦わなきゃいけない現状、その立場は足枷になる。

それなら、とぼけて誤解させる方が良い。

 

「じゃあ、皆。そういうわけだから、俺は先に謁見の間に行かせてもらうよ。今回は時間掛かりそうだし」

 

そう言って、この場を去る。

皆が「待て~」と追いかけてくる。

辛いことが続いて、皆笑顔を忘れてきている。

だから、皆の笑顔が見られるこの一瞬が嬉しい。

そう思っていたんだ。




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