今回は凄く長くなりました。
いきなり、玉井淳史くんが大活躍です。
この作品で珍しく勇者組以外でキャラが動いたと思います。
森は燃え、大地は赤く染まり、怒号や悲鳴により空が震える
獣の骸が無惨に広がる大地に、涙を流すことも無く、勇者は歩く。
多くの兵士は畏怖し、歓喜の声を出す。
兵士達よりも後ろにいる少年少女等は悲痛な表情を浮かべ、泣き出し、吐く者もいた。
真っ直ぐに突っ込んでくる獣を、勇者は斬り捨てた。
エヒトルジュエに着物を献上することを条件に、俺は暇な時間を作り次第、リリィへのプレゼントにする着物を作り始めた。
いきなり、織機が現れると皆が驚くだろう。
だが、そこはエヒトルジュエが最初に手を打っていた。
イシュタルを通して、俺に送り届けてくれた。
俺は、送り届けられた織機を自分好みに改造して使っている。
機織をしている時間は凄く幸せだ。
先祖の血が関係しているからだろう。
帯より上の部分は白をメインに据えて、帯より下は黒を強調としたデザインにしている。
その着物は今完成した。
「綺麗だね~。今時の魔術師はこんな物も作れるのかい?」
「いや、ヘクトール。それは違う。恐らく作り方を教えればお前達の時代の人間の方が上手に作れるだろう。俺の場合は血筋が特別なだけだ」
「にしても、下手すればそれは宝具に届きうる。信用していないわけでは無いんだがね。教えてくれる気は無いんだろう?」
「織姫と彦星その血筋だ」
そう答えると、ヘクトールは驚きを隠せずにいた。
魔術師にとっては知られたくない物だろう。
だが、俺にとっては血筋は別段問題では無い。
「別に隠しているわけでは無い。それに、知られた所でなんの問題にもならない」
そう、血筋以上にやっかいな物を抱えてしまえば、こんな物はちっぽけな物だ。
先祖返りと親戚一同から言われてはいたが、それでも血は薄く神性を持っていない。
「だから、天之河か。そう言われると、隠してはいないな。寧ろ堂々とアピールをしているぐらいか」
「これでも、そこそこ有名だったらしいぞ。今は没落しているけどな」
こっちの世界に来て、中国の親戚に会っていないから分からない。
だが、両親が親戚付き合いをしていない現状、余り良い状態では無いだろう。
それに、父はお祖父様の魔術刻印を継いでいなかったのを見ると、もしかしたら、数代前に滅んでいるかもしれない。
本家であるはずの我が実家は滅びた家系と言っても等しいだろう。
それに、日本にいた叔父さんも叔母さんも、俺の知らない職に就いていたのを見ると、今生でも祖父が魔術師だったのが異例なのかも知れない。
「とりあえず、俺はリリィに着物を渡してくる。まだ部屋にいるなら構わないが、出るときは霊体化して窓から出て行ってくれ。扉は鍵を掛けていく」
「ほいほい。まあ、おじさんも若い子達とちょっくら遊んでくるかね」
「...ある程度、ある程度で良い。少し、実戦形式の技を叩き込んでくれないか?多分状況がそろそろ動き出すだろうから」
「その感は、多分当たるだろうな。話し合いの段階だからなんとも言えないがな。まあ、任されたよ」
そう言ってヘクトールと共に部屋を出た。
皆が訓練に勤しんでいるなか、俺はリリィとお茶会をしていた。
「光輝。訓練に参加しなくてもよろしいのですか?その、光輝が強いのは分かっているのですが、皆からやっかみを買ったりすると思いますし、今からでも切り上げて訓練に参加しに行かれましても、私は構いませんけど」
当然リリィは心配してきた。
普通に考えれば、訓練に参加するべきなんだろう。
だが、ヘクトールに佐々木小次郎と訓練は絶対にやり過ぎる。
人の居ない所でやるのは構わないが、あまり人に見せられる光景では無くなるだろう。
故に、お互い日中の訓練では相手をし合わないように避けている。
「大丈夫だ。それに、今日の訓練には参加しないことはあらかじめ伝えているしね。訓練のときぐらい、僕のいない状況でどう動くかを想定して置いた方が良いだろうし。まあ、何も知らない人に何を言われても、俺は痛くも痒くも無いからね」
事実、訓練に参加することもなく、死への恐怖に支配され、夢から覚めた瞬間に戦う事を辞めた相手に何を言われても、俺は悔しいとも思わない。
今あの場で訓練している仲間から文句を言われない間は、なんの問題もない。
「さてと、今日はリリィに渡す物があってね」
「完成したんですか!」
「その通り。じゃあ、今から着付けの仕方を教えるよ。信頼の出来る女性を数人連れて更衣室に向かおうか」
「そうですね。...光輝も来るんですか!」
「そりゃあ、そうでしょ。初めての着物を着られるの?ぐちゃぐちゃにしてしまって、俺に脱がされるよりはマシだと思うけど」
「でっでも!み、未婚の男性と女性でそんな、はっ、はしたない事は!」
「俺は妹とかで慣れているし、仕事モードに切り替えれば別段問題は...」
「~~~~っ!」
「あー、だったら、雫借りますか?雫も着物着付けは出来るので」
「そちらで、お願いします」
訓練に参加しないのに、訓練場に入るのは正直嫌なんだが、リリィが恥をかかないためにも雫を呼びますか。
専属の侍女が何やら耳打ちをしているが、絶対に異性関連の事なので聞かないようにする。
更に顔を赤くしているので助け船を出すついでに、リリィに話しかけた。
「雫とは、まだ仲が良いんだな」
「どういう事ですか?光輝」
「いや、雫によって近衛騎士の一部を切り抜かれたから、怒っていないのかなとね。正直、俺は少し怒るべきだと思うがな。雫にも、あの娘どもにも」
「それは───」
「リリィ、優しさと甘さは別だ。怒らなければいけない事をを怒れないのは、優しさとは違う。確かに、雫自体に落ち度はないかも知れない。と言うより、アレは事故だし落ち度はないだろう。だが、それはそれとして、雫が原因でリリィ、お前に突き入られる隙が生まれているのも事実だ。お前も気づいているだろうが、敢えて言うぞリリィ。人は汚く醜い面を持つ。稀に持たない人間も生まれるが、大抵そういった人間は他の所で壊れている。まあ、大体の人間は弱さにつけ込んでくる。こういうことは言いたくないが、王位継承の背景の中で貴族は争っているはずだ。減った人員を確保も出来てない現状、王子派の人間にいつ狙われているかも分からないぞ」
「その、通りです。私は」
少し、言い過ぎたな。
現実はしっかり見えているだろうし、今の自分のいけない所はしっかり見えている。
それとは別で、初めて出来た友達に強く当たれないだろう。
「そういえば、最近は香織もだが、雫も少しオーバーワーク気味な気がするな。佐々木小次郎に刺激を受けているからかな?早めに寝ろって言わないといけないかな?鎧が届いたら直ぐにでもオルクス大迷宮攻略を再開したいけど、今連れて行ったら倒れるかもしれないな。寝不足による過労で」
「教えてくれてありがとうございます、光輝。着物の事も含めて、自分で話してきます」
「そうかい。俺は、自分がこれから言わなきゃいけない事を確認していただけだよ。行っておいで」
「はい!」
そう言って、リリィは駆けだした。
年相応の姿が見られて、俺は満足した。
「っ!!今まで、眠っていたのに都合よく起きるな、我が神は。こんなのを教えられたら、世間話に口出す程度には割り込みに行くか」
周りに誰もいなくて良かった。
独り言が聞かれていたら、正直恥ずかしい。
そうして、俺はサロンへと向かった。
軍神の化身として存在する■■■とは違い、天之河光輝はその力を借りている。
その神性は本来低い。
だが、化身である■■■とは違い、天之河光輝には稀に軍神より啓示が下る。
『光輝。なんか居残りしているクラスメイトと現地の住民がぶつかるかもよ~』
基本的にある人物が絡まない限りは、狸寝入りを決めている軍神が何故、啓示を今回出したかは分からない。
可能性の状態とは言え、最悪の事態にはしたくないので、向かったのだ。
流石に、俺がいきなり出るのも良くないだろう。
此処は一端様子見をする。
それに、ぶつかり合ったとしても、最悪を回避出来れば良い。
余程の事にならなければ、俺は出なくても良いだろう。
「なあ、聞いたか?天之河達、遂に七十階層に到達したって」
「マジかよ。でも、天之河も死にかけたって聞いたぜ」
「でも、その死闘を繰り広げた相手を連れてきたんだろ?やっぱ、やる事が違うね!凡人とは違うって事かい」
「そうだよね。やっぱ香織ちゃんとか雫っちとか、ああいう特別っぽい子じゃないとねぇ」
「そうそう。雫とかマジ格好良かったもんね。私、うっかり惚れちゃいそうになったよ~」
「あはは、なにそれ~。百合は鈴だけで十分だって!」
「えっ!鈴ちゃんてガチなの!?」
「いや、アレは前世おっさんでしょ、絶対」
最低限働いているはずだ。
そういう契約をしたから。
さて、言動は置いておくとして、別に彼等彼女等の行動を批判する気は無い。
そもそも、死を恐怖するのは、生きる物にとって必要な事だ。
理性がある以上、そこに縛られる事をとやかく言う気は無い。
むしろ、生存本能が高い事は俺にとっては嬉しい限りだ。
そもそも、現代社会に入り浸っていた人間がちょっとのことで戦えるようになれる方が異質とも言えるだろう。
彼等の反応は必然だ。
自分一人だけなら、生きるために変れるだろうが、群れていれば変わる事は難しいだろう。
しかし、周りの侍従達の目線は嫌な物だな。
冷ややか、憐れみ、同情、無関心。
どれも神経を逆撫でさせるかのような物だ。
むしろ、よく怒らないと思う。
お前達の世界の事ぐらいお前達で解決しろと、罵っても罰は当たらない。
まあ、これが日常的なら大丈夫か。
そう思った矢先に...
「...雫様とて、女の子である事に変わりはないでしょうに...」
その呟きは、会話が途切れた直後に発せられた。
皆が一斉に雫の侍従、二アに視線を向けた。
二アは直ぐさま頭を下げる。
語ってしまった時点でそれは逆効果だ。
堂々と言った方が、相手も傷つかなかったかもな。
「なんか文句あんのかよ」
周りからやっかみな視線を受けて過ごしている中、あの絶望の時間の中にいなかった他人にあんなことを言われれば、当事者としては八つ当たりとは言え怒りたくなる。
「いえ。文句などありません。申し訳ありませんでした」
特に触れる所のない謝罪。
出方としては、悪くない。
まあ、相手がどの部分で怒っているかを知らないと、適切な謝罪は出来ないからな。
「誰も、謝れなんて言ってねぇ!八重樫さんだって変わらない、それは戦えない、いや戦おうとしない俺たちが情けないって事だろうが!そうならハッキリ言えよ!」
「お、おい淳史。それくらいにしとけって」
「メイドさんに当たってどうするんだよ」
「うるせぇ!あんた、八重樫さんは普通だって言ってたな。俺たちと変わらないって言うんだろう!でもな!一度も死にかけた恐怖を覚えた事のない奴の言葉なんて聞かねえよ。アンタだって、あの場にいたら同じ事を言うさ!メイドとして生きてきたアンタだってな!あいつらは特別だって...そもそも、お前等があいつらを特別って言い出したんだろうが!お前等にだけは言われたくない」
「淳史...」
「玉井くん...」
その悲痛な叫びは、今まで我慢してきた物だろう。
「俺だって、分かってるさ。あいつらだって人間だ。お互い支え合わなきゃいけないって。完璧な人間なんていないって事ぐらい。こんだけ生きてりゃな!大人だって問題起こす奴がいるんだ。でもな、でもな!俺たちはあいつらにすがらなきゃ家に帰れないんだ!お前等は此処に生きてて、時間が経てば勝手に救われるかも知れねぇ。でも、俺たちは向こうに家族残してんだよ。親より先に死にたくねぇよ。そう思うと、あいつらを助けたいって思っても、立ち上がりたいけど、足が震えて動けないんだよ!極めつきには、帰れる保証自体は無いんだ。無視しないだろうってだけで、確約じゃないんだ。こんなんで必死になれるわけがないだろう。だから寄生虫みたいに縋っているんだよ。あそこで戦っている罵られるんだったら甘んじて受け入れるさ!害悪だからな!今の俺たちは!でもなぁ、あんたらにだけは、あんたらにだけは普通の人間って言って欲しくないんだよ!」
もう、ここにはいられない。
これ以上は、俺の戦いを鈍らせてしまう。
願うなら、彼のこの悲痛な思いに、この世界に住んでいる誰かが正面から受け止めて欲しい。
その奇跡は直ぐに起きた。
二アは玉井くんを抱きしめた。
それを見て、俺はサロンを去って行った。
夜
俺は、イシュタルに呼ばれて、教会の地下室に向かった。
そこには、イシュタルと教会の騎士数名、そして、愛子先生がいた。
早く着いてしまったといった所か。
「イシュタルさん。もう少し遅くに来た方が良かったですか」
「いえ、此方が話を長引かせすぎました。申し訳ありません。光輝殿」
「天之河くん!どうしてここに」
「呼ばれたからですよ。先生。イシュタルさん要件は?この際仕方ありません。何を言われても、先生は情報を仕入れて此方に来ますよ。生徒のためなら何でも出来る人ですよ。先生は」
「分かりました。単刀直入に言いましょう。ヘクトール殿、佐々木殿と共にヘルシャー帝国に行ってもらいたい」
「亜人族との戦争ですか。まあ、時期的には丁度良いのかも知れませんね。分かりました。勇者パーティーの中から大丈夫そうなのを連れていきましょう。ただ、出来れば連れて行くメンバーは後方で支援をさせていたいのですが」
「良いでしょう。元々は戦場を知る事を目的にしてますので」
この王国で俺の一番の味方はイシュタルしかいない。
「待って、待って下さい!生徒には無理をさせないと言っていたではありませんか!」
「ええ。ですから前線にいる勇者様方にお願いをしているのです」
「そんな!駄目です!そんなこと。生徒に人を殺せだなんて!いけません!私は絶対に認めません!」
「先生。悪いけど、俺たちは魔人族と殺し合いをしなければ、帰る事は出来ない。その為にもぶっつけ本番よりは慣れる機会が欲しいのが現状です。このままでは土壇場で犬死にですから」
「ですけど!天之河くんも嫌ですよね!人殺しなんて」
優しい先生。
きっと、俺が人を殺した事はないと思ってるんだろう。
貴女の考えは尊い。
それを無くさないで欲しい。
そして、それとは別に、勇者として無理を押し通す。
「先生。もう、俺は生徒では無く、人類最強の兵士なんです。人類の兵士なんです。兵士は嫌だからやらないは通用しないんです。やらければいけないんです。そうしないと、皆が...居残り組も危なくなりますから。先生。護る事も良いですけど、ちゃんと救って下さい。先生は、最近生徒とちゃんと対話出来ましたか?」
「えっ」
「イシュタルさん。数日以内には出発します。お互いに神の加護を」
「神の加護を」
すかさず、喋れない事を念話する。
『王国の守が手薄になるでしょう。ノイントとその兄弟たちを数名送ります』
『ありがたい。帝国には黒い騎士の狂戦士がいるそうです。敵は分かりませんが、エヒト様は貴方を使ってまでして、あそこを人間に与えたいのだと思います。セイバー殿、武運を』
そして、戦争が始まる。
玉井淳史くんは第二の主人公ですわぁ。
冗談抜きで、王国関連の話だと大分出番が増えそうですね。
多分原作とバタフライして愛ちゃん組に行かない可能性が高いんで。
そして、オリジナルの展開に入ります。
サーヴァントを出した時点で薄々こうなるかなぁって思ったんですよね。
でも、制圧出来る力が合ったら帝国は動かない通りはないし...
苦肉の策です。
マジで何人生き残るんだろう。
帝国側も亜人側も。
バーサーカーがどの位暴れるかが問題ですね。
光輝君の癒やしはイシュタルさん。
まあ、王国は完全な味方ではないのでね、仕方ないね。