ありふれてはない元守護者の異世界戦闘録   作:ギルオード

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お待たせしました!
オリジナル編です。
とは言え、結構早く終わってしまうと思います。

最近、めちゃくちゃ寒くて、風邪を引きました。
手が震えて、執筆どころではなかったですが、何とか完成しました。
ただ、あんまり自信はないです。


戦火

馬を走らせる。

頬を撫でる風が気持ちいい。

皆が一定以上の緊張をその身に宿している。

そんな中、俺は戦場に赴ける事に、魂が昂ぶっている。

この身に宿す神性が、戦争を欲する。

ただの人間には、成れない定めだったのかもしれない。

生まれ直して、時間軸が違って尚、あの神との縁は切れなかった。

その事を喜ぶ日が来るとは思わなかった。

勇者としての振る舞いを完璧に抑えて、人類全体を鼓舞するのに、この神性は適している。

視界の端に魔獣が映る。

千里眼と騎士団から借りた弓を使い、早急に始末する。

遠くに向かって、矢を放つ俺を見て、騎士達は苦笑いをしたり、ほくそ笑んだりしていた。

だが、道中に矢に射貫かれた魔獣の死体を見ると、呆然としている。

 

「先を急ぎましょう。魔獣は見つけ次第、俺が始末します。ただ、一刻の早い到着にだけ皆さんは集中を」

 

そう告げた後、騎士団の多くは俺に畏れを抱く。

視界に映る魔獣を射殺し、射殺し、射殺し、射殺す。

帝国領付近に近づくと、俺の瞳には純粋な人間と、獣と混ざった人が争っているのが映り出す。

 

「ロイさん。恐らく亜人と思われる特徴を持つ団体が、帝国軍とが既に争いだしている!急いで助けに生きましょう!」

 

好青年の演技をする。

 

「勇者様、気持ちは分かりますが、落ち着きましょう。帝国軍は人類の中でも強い者達の集まりです。そう簡単にはやられません。先ずは、皇帝陛下に謁見した後に、指示を受けてから行動をするべきでしょう。帝国にも花を待たせねばなりません」

 

騎士ロイの言っている事は尤もだ。

俺自身、本来ならその意見に反対しない。

 

「花を持たせる?そんな事を言っている場合では!」

 

否定する素振りをする。

騎士ロイは俺を鋭い眼光で制する。

彼が言っていたように、此方の事情を知らないからそのように行動すると、言ってくるみたいだ。

騎士団の団員も騎士ロイに同調し、俺が意見を言えば、士気が下がるだろう事がうかがえる。

これなら、止まっても大丈夫だろう。

そこまで、話の流れに破綻はないはずだ。

 

「わかり、ました」

 

俺がそう告げると、騎士団は帝国へ向けて、今まで以上の速度で駆けだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

帝国の王城に入城した後、騎士ロイと俺は皇帝陛下のいる玉座に向かった。

 

「早い到着だな!勇者に騎士団達よ。俺の予想では到着には、あと三日は掛かると計算していたんだがな。早き到着に感謝感激だ」

「ガハルド皇帝陛下より、その言葉を承っただけでも、急いだ甲斐があります。歩兵部隊や志願があれば続くであろう異世界の戦士達は、皇帝陛下の思惑通り三日程で付く事でしょう。本題に入らせて貰いますが、我々は何処の部隊と共に戦えばよろしいでしょうか?」

「ああ、そうだな。自由にしてくれって普段なら言いたい所だが、俺たちがこれから先戦うべき相手は魔人族。互いの足並みを揃えなければ、戦いにすら成らないだろう。よし!騎士ロイ。お前達の騎士団は、俺と共に第一大隊と合流をする!その後は俺が随時指示を出す。天之河。すまないが、お前には別行動を頼みたい」

「別行動、で、ございますか?」

「ああ。今の俺たちの...人類の限界を知りたいのだ。魔人族の力を見てきた我らの目でな。お前は恐らくは短期終結のためにも、僅かな兵と共に本土への攻撃を行う事になるだろう。そして、俺たちは勇者のいない状態で、魔族達の攻撃を退けなければならない。その演習にもできる、絶好の機会だ。これを逃したくわねぇ」

「俺は何をすれば良いのですか?ここで待機という訳ではありませんよね?」

「天之河には、帝国の裏側から出て、フェアベルゲンに直接攻め入って欲しい。足並みを揃え、互いの連携を確認するのは当然だが、そこにこだわって敗北するのは馬鹿すぎる。此方の損害が沢山出る前に、ケリを付けたい」

「俺一人で、良いんですか?」

「皇帝陛下!彼は今回の戦争が、初陣でございます!せめて護衛を付けさせて頂きたい!」

「騎士ロイ。ベヒモスを倒せ、人類未到の地へと進み出している男が、そこの勇者だ。勇者の足を引っ張らない護衛は、悔しいがここにはいない。いざって時に、護衛が足を引っ張るわけにはいかねぇ。それに、これぐらい出来なきゃ、魔人族と戦争なんざ夢物語も良い所だ。それに、なにも亜人族を皆殺しにしろとは言ってねぇ。フェアベルゲンを突っついてくれれば、敵も混乱する。そこを俺たちで突くんだ。いいか?勇者だけに負担を負わせて勝つんじゃ、敵がいなくなるだけで、現状は変わらねぇ。俺たち人間が全員一致団結して、勝利をもぎ取らなければ、新しい敵が出たときに、人類は同じ過ちを繰り返す事になる。第二第三の天之河達が生まれるぜ。お前はそれでいいのか?騎士ロイ」

「それは...確かに、認めるわけにはいきません」

「他人任せで、全部を終わらせるわけにはいかない。この世界の人間は俺たちなんだからな。とは言え、俺たちが弱いのも事実だ。勝つためにも、互いに最大限の努力をしよう。その為にも、勇者・天之河光輝よ。俺たちに力を貸して欲しい」

 

皇帝が頭を下げる。

最大限の誠意と努力、そして覚悟。

いくら、俺が強くても、皇帝とは対等には成れない。

目上の存在などもってのほかだ。

だが、皇帝は対等な交渉相手として、俺を持ち上げた。

これを受け入れれば、何があっても人類の味方でなければいけない。

他のクラスメイトが、仮に人類側から離反した際には、俺が殺さなければいけないだろう。

エヒトルジュエからは連絡はなく、裏切るときは未だと言う事だろう。

 

「分かりました。互いの全力を尽くして、勝ちましょう。皇帝陛下」

 

きっと、この道はどこかで、分かれている。

そして、その分かれ道で、互いに殺し合うのだろう。

今の彼になら、殺されても構わない。

そう思えたからこそ、心の底から彼の手を取った。

 

 

 

 

 

 

 

アイリスを走らせる。

彼女なら、フェアベルゲンの樹海でも万全に走り抜けられる。

だがそれだけではない。

人類を勝たせる以上、圧倒的なまでの一撃を与えなければ、前線を崩す事は出来ない。

フェアベルゲンを攻撃している存在が、たった一人だと敵が認識してしまっては相手も冷静さを取り戻す。

大勢に攻め落とされているように、見せなければいけないのだ。

そうしていると、轟音が鳴り響く。

戦争が激しくなっている。

人間と亜人族が争う。

状況はそこまで、悪くはない。

一対一なら、亜人に押されるが、二人がかりで互角で、三人で掛かれば負ける事はなく安心して戦えている。

安心を覚えたのは束の間。

更に奥の方では、別次元の戦いが行われていた。

狂う黒い騎士が、人間もどきな馬と筋骨隆々とした二刀の戦士と戦っている。

激戦ではあるが、トドメは刺さないようにしているのがよく見える。

馬が隙を突こうとするのを、二刀の戦士は止めて、黒い騎士が放つ鋭い一撃を馬から逸らす。

馬が何かを喋っていて、それに対して二刀の戦士は何かを語っている。

黒い騎士が動く前に、矢が放たれていた。

ヒートアップしていく黒い騎士に対して、冷静に周りを見ている。

彼等は、立場が今は違うだけで、真の敵は同じ事に気づいているのだろう。

聖杯によって喚ばれたわけではない事を、ヘクトールも知っていた。

恐らく目に映っていないが、三騎のサーヴァントは異常に気づいており黒い騎士を殺しきらないように、そして、黒い騎士に殺されないように立ち回っているのだろう。

矢が放たれた場所から、逆算すれば弓兵は俺に近いだろう。

普通なら、俺の方に気づいた瞬間に俺を打ち抜くだろうが、それはないと俺は予想した。

理由は単純で、弓兵の一撃は亜人族と人間の戦場に一度も放たれていないのだ。

一騎当千の猛者達の隙を掻い潜る一撃を放てる英雄が、戦争を止める気配を感じないのだ。

トータスの世界情勢については深く干渉しないのが、フェアベルゲンに属するサーヴァント達のやり方なのだろう。

だからこそ、俺が亜人族の集落を襲撃しても、余程のやらかしをしない限りは大丈夫だろう。

敵は皆殺しの予定ではあったが、弓兵に直ぐに見つかる可能性がある限りは取り逃しが出ても仕方がない。

向かってくる戦士は殺すが、戦士ではない民を蹂躙する事を今回はしない。

 

「アイリス、俺の合図と共に空へ駆けよ!」

 

アイリスが頷く。

聖剣に魔力を集める。

本来ならば、軍神の剣で行うのだが、周りにサーヴァントがいる以上、宝具として発動するわけにはいけない。

 

軍神の剣よ燃えよ(フォティア・フォトンレイ)

 

軍神の剣を赤色に染め上げて放つ一撃。

それを聖剣にて再現する。

聖剣が燃え出す。

魔力が集まりきった証だ。

 

「アイリス!」

 

翼を生やし空へと駆け上がる。

千里眼で予め見ており、大きな集落は二つ。

戦場に遠い方は、女子供が多い。

集落の完成度から見て、戦争が始まって直ぐに作ったわけではない事がうかがえる。

恐らくと推察したいが、そんな時間はない。

戦士と密接に関わっている、前線付近の集落に火を放つ。

前線にいる、亜人の戦士達には絶望を、人間の兵士達には正義と士気向上の鼓舞を、サーヴァント達には此方側の戦争で問題だという拒絶の意思をもって、叫ぶ。

 

「人類の勝利のために、忌まわしき亜人どもに裁きの焔を!」

 

焔が墜ちる。

激しい爆発と共に、集落を中心に、樹海の三割程を呑み込みながら燃え上がっていく。

 

「アイリス。帝国へ戻っていて構わない。とにかく、煙のない所へ迎え。俺は下に降りる。血と名誉を勝ち取ってくる」

 

集落があった場所の中心部に速度を付けて降下する。

土煙を巻き上げながら着地する。

煙を風で払い、辺りを見渡す。

若すぎる戦士と、一線を引いたであろう老兵が主だったようだ。

老兵達は一部の若き戦士を引き連れて、俺を睨む。

リーダーシップを発揮している一際若い男と、尤も年を取っていた老人は木片をどけて救助と避難誘導を行っていた。

爆発の規模を少し抑えすぎたようで、死者が多くない。

前線の方は、敵の混乱を上手く利用出来ている事だろう。

向こうが最大の努力をしてくれている。

俺もそれに報いなければいけない。

 

「俺は【勇者】天之河光輝!逃げも隠れもしない。汚らわしい亜人どもよ。戦士としての誇りがあるのならばかかってこい!何人がかりでも、文句はない。まあ、抵抗なくむざむざと故郷を灼かれた無能共にそんな気概があるとは思えないが」

 

此方に交渉の余地がないことを宣言して、敵の戦意を焚きつける。

 

「舐めるなぁ!」

 

冷静さを欠き、獣へと堕ちた亜人の若者達が考えも無しに突っ込んでくる。

それらを聖剣で撫でるように斬り伏せていく。

力まず最低限の力で滑らかに。

老兵達も悲痛な顔になり、雄叫びを上げて戦士一同突っ込んでくる。

恐怖と絶望、怒りに呑まれた老兵達に落胆してしまう。

中途半端に獣と混じっているのが、仇になったのだろうか?

こういう時にこそ冷静になって、此方を削ってくれる猛者を、この世界で求めていたというのに。

一斉に襲いかかってくるも、彼等の動きは噛み合わない。

恐らく、いつもの冷静なときなら、司令官の下噛み合っていたのだろうが、本能に呑まれ獣になってしまった。

それにより、習性が合わせられない。

熊と狼と虎では、狩りの仕方は違うのだ。

仲間に攻撃が当たる畏れを察知して、やや冷静になり勢いのない攻撃が放たれる。

変に冷静になるのなら、いっそ獣のまま仲間ごと、殺しに来れば傷を負わせる可能性があったのに。

そうやって、油断をした頃に...

 

「グォオオオオァァァアアッ!」

 

仲間ごと喰らい付きに来る虎が現れる。

それと同時に、物音を立てずに此方の死角から狼が牙を突き立てに来る。

虎を魔眼で留め、剣を逆手に持ち変え狼に振り向かずに突き刺す。

剣を握り直して、虎ごとまとめて立てに斬り伏せる。

向かってきた敵は全て斬り殺した。

救助活動は未だ完了を仕切れておらず、焦りながら懸命に手を伸ばしていた。

その姿に嘗ての自分を重ねる。

だが、ここで立ち止まるわけにはいかない。

皇帝との約束もだが、エヒトルジュエの持っている聖杯を満たすには、この世界の住人の命と魂が必要だ。

エヒトルジュエの願いのためにも、トドメを刺さなければいけない。

木片の山を退けている、その背中を斬るために詰め寄ったその瞬間、大きく後ろに飛び退く。

その瞬間、刺さった矢が爆発を起こす。

土煙がはれると、先ほどまで俺がいた場所が大きく抉れている。

だが、それ以上に驚愕の事実が其処には合った。

 

「今のお前がどのような立場にいるかは確証は持てない。だが、この世界の人間のためならば、今のままでも十分だろう?これ以上は無駄な血を流す。そう私は判断しているが、光輝」

 

そこにいたのは、全てを救うと豪語して、希望を与えながら妥協を覚えた英霊がいた。

俺が友として兄として慕った正義の味方。

そして、俺の最も大切だったカノジョを殺した、仇。

衛宮士郎、否、英霊エミヤがそこにいた。

 

「エミヤ、お前が相手だ。取り繕うのはよそう。俺は今、抑止の守護者としてこの場にいるのではない。一人の人間、天之河光輝として生きていて、大切な友人達を護るため、連れて帰るために人類を勝たせなければいけないんだ。其処をどけ。お前達と違って、俺はこの世界を救う気は無い!」

(エヒトルジュエ。これから、サーヴァントと戦う事になる。霊器解放はまだ駄目か?)

(させたいのは山々だが、ランサーやアサシンに言い訳は出来まい。それに、裏切る際、周りからなんと言われるか。操られてから裏切るのとは訳が違うぞ)

(エヒトルジュエ、確認する。周りのサーヴァントはお前へのカウンターとして、【(トータス)】が喚んだのだろう?)

「光輝。本当にこの世界の人類の情報だけを鵜呑みして、戦うのか?」

「それ以外の方法をとったときに、殺される学生がどれほど出ると思っている?まさか、アレがある限り死んでも大丈夫などと思うなよ。お前達全員が此方側について、学生全員を守り切れる自信があるのなら、この刃を収めても良い。だが、出来ないだろう?数の怖さをお前は身をもって知っているはずだ」

(そのはずだ。私とそちらの星たるガイアに繋がりはない。強いて言えば、お前を呼ぶために穴を開けたぐらいだ。ガイアからの抑止ではないはずだ)

(俺に考えがある。詳しいことは、後で直接話す。今から簡潔に言う。俺が二人になれば問題ない)

(えっ、二人?どういう事?)

(兎に角、どうにか出来る方法がある。だが、此処を切り抜けなければいけない)

(分かった。貴方が戦いたい理由を知っているから、文句は言わない。ただ、私のサーヴァントとして、はいぼくは許しません)

(恩に着る)

 

カノジョの仇を討ちたかった。

だが、エミヤはその前に処刑台に立たされた。

愉快で、不愉快で、歓喜で、悲痛で、様々な感情を抱いた。

これは、戦わなくても良い戦いだ。

ただ、このまま睨み合っていれば、それで終わり。

だが、生前付けられなかった、決着を俺は望んだ。

聖杯にかける願いではない。

それは、救うために使いたい。

それでも、もし、殺すために使うなら、迷わず選ぶだろう。

 

『この手で英霊エミヤを殺すと』

 

「エミヤ!」

 

彼の持つ干将莫耶と、俺の握る神槍(・・)がぶつかり合う。




この戦闘を書くに当たって、サーヴァントとしての光輝君の強さを考えるのが中々楽しく、それでいて難しかったです。
そこそこ強いです。というよりも、設定を盛りすぎて強くしすぎました。めっちゃ反省してます。というより、落ち込んでます。
ただ、戦闘スタイル上、ランサーのディルムッドに完封されます。
上位のルーンの使い手達にも敗北確率は劇的に高いです。
ただ、それでも、弱いかと言われると、首をかしげることに。
俺は、粛正騎士レベルを目指していたはずなのに。
いっそのこと、粛正騎士の生まれ変わりにすれば良かったと思っています。
というよりも、Fateクロスの時に案がありました。
選ばれたのは、今の作品です。
当初は未だ弱かったのですが、ヒロインその一の設定を変えた結果、一気にインフレしました。
リメイクしようかとも考えたのですが、話がまるっきり違うので、現時点では悩みどころです。
リメイクの場合、サーヴァント多分出ないし。出すとしても、獣を狩るためにブラブラしている王様だけだと思いますし。

次回は光輝の過去回二回目です。
主にエミヤ辺りの話に触れるかと思います。
今回の話で分かると思いますが、エミヤと繋がりがあります。

感想お待ちしています。

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