ありふれてはない元守護者の異世界戦闘録   作:ギルオード

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スランプに入っていたのと、このご時世の忙しさで遅れました。
憶えている人いるかなぁ。
少々、プロットを弄ったりもしていました。
リアルがまた忙しくなるので、不定期にはなりますが、投稿していきたいです。


神々の試練

夢の世界で、俺はローブを羽織りしわくちゃな老人になっている。

この世のあらゆる知恵を身に付けた賢者としての面を強調した姿。

夢の世界だから出来る芸当だ。

意識自体も天之河光輝だけでなく、大神(オーディン)の面も出てきている。

それを無理矢理押し止めている。

そうでもしなければ、条件が厳しくなると言うより、高確率で死ぬからだ。

夢を見ている人間(玉井淳史)が。

 

 

夢の世界は、何気ない日常の繰り返し。

今、地球からトータスに送られた人間なら誰もが見ている夢だ。

帰りたいという願いからこの夢を見ている。

それは悪いことではないし、被害者である彼等には当然の権利でもある。

だが、玉井淳史は違う。

彼は、誓ってしまったのだ。

状況に流されて、リーダーに流されて戦う事を選んだのではない。

今、前線で戦うメンバーの多くは場違いとも取れるレベルの差がある相手に、危機感を覚えただろうし、死ぬ覚悟もあっただろう。

だが、彼等はなまじ優秀な故に知性の持たぬ獣の攻撃に傷を負ったことがない。

互いにサポートし合っているとは言え、傷を負っていない。

流れる血の生暖かさを知らない。

故に、ベヒモスとの戦いでも心が折れず、強くなって攻撃を防げて、躱せる、庇い合える。

絶対的な死に対する当事者としての感覚が足りていない。

そうなるように、俺自身で誘導しているとはいえ、死に甘いのだ。

だが、他の者はそうではない。

他のメンバーは傷を負っていた。

だが、重傷と言うわけではなかった。

回復役や傷薬を使えば傷は癒やせた。

だが、血を流す経験があったからこそ、ベヒモスとの戦いで、落ち行く南雲や恐怖に陥る友を見て明日は我が身に感じ、閉じこもった。

そして、そこから這い上がったのだ。

玉井淳史以外にも立ち上がった者はいたが、無力と死に嘆き怯えながらも、自身の死を待ち望む戦場へ向かうと啖呵を切ったのは玉井淳史だけだった。

俺の内に秘められた、大神と戦神が喜びに震えるのだ。

戦士・戦士・戦士・戦士・戦士・戦士・戦士・戦士・戦士・戦士・戦士・戦士・戦士・戦士!

エリュシオン、ヴァルハラ、楽園へと導けと頭に響く。

神は決して乗り越えられない試練は与えない。

だが、絶対に乗り越えられる試練もまた与えない。

死ねばそこまで、全てを尽くして乗り越えろという。

俺にそれを止めることは出来ない。

 

 

 

 

 

神が玉井を認識した瞬間に、夢が壊れる。

町に死が溢れる。

屍の兵士が生れる。

骸骨が動き出し、人に襲いかかる。

そして、魔猪が都市を蹂躙する。

玉井は多くの人を避難場所に誘導している。

夢とはいえ、余りにも地球の姿をしていたからこそ、自分を無力と思っているのだろう。

その選択は決して間違いではない。

だが、この試練にその選択は取ってはいけない。

戦わなければ、無謀(勇気)臆病(冷静)さを飲み干して挑まねばならない。

屍の兵士が、母親と思わしき女性に襲いかかる。

その瞬間、玉井がトータスの服装に替わり、雄叫びを上げ、屍の兵士を殴りつける。

女性を逃がした後の玉井は攻勢に出た。

失うことの恐ろしさと、敵を倒せた事による自身の強さの実感。

何よりも、現状を好転させられる希望を見出していた。

腐れた死体を切り裂き、骸骨は力任せに剣を振るって砕いていく。

そこに、魔猪が現れる。

ある程度のルーンを食べて成長している。

神代の強力な力を持つ人間...謂わば英雄の雛がある程度の力を出せば倒せる程度にはなっている。

大分弱い個体を送ったのだろう。

だが、それでも玉井の恐怖したベヒモスより強い。

どれ程弱かろうが、上位世界と定められた地球。

その神代の頃の存在だ。

戦車でも使わなければ倒せる相手ではないだろう。

自身を雄叫びで奮わせて殴りかかるも、魔猪の咆哮であっさりと吹き飛ばされる。

玉井は突進を寸でで躱すも、魔猪が自身の頭をハンマーのように横に振るう一撃を躱せず防御するも、腕を折られて吹き飛ばされる。

咆哮のときとは違い、建物をつきぬける。

ここまでか。

例え、神々に気に入られようと、本人の現状の力が向上するわけではない。

あの一撃をまともに食らえば、気絶もしているだろう。

逃げずに戦う選択を選んだ時点で、神々もまたそれ以上は求めていないだろう。

そう思った瞬間だった。

 

一人の戦士(玉井淳史)が立ち上がる。

 

闘志を失っていない。

それどころか、敵を確実に仕留める目を持っていた。

神はこれを見抜いていたのだろうか。

玉井淳史は俺の想像を遙かに超える『強者』だった。

降りかかる嘘のような現実に挫折し、自身の放った言葉に後悔した。

そんな自分の過ちを清算して、やり直したいと願った言葉に嘘はなかった。

だが、ここまで命をかけているとは思っていなかった。

玉井の覚悟は理解できた。

それを嬉しく思う反面、命を投げ捨てていく様は虚しい。

だから、玉井淳史という少年が死なないように、手を貸そうと自然に思えた。

試練は玉井自身の力で乗り越えなければいけない。

だが、この試練は玉井には不相応だ。

玉井はそのステージに立つべきレベルではない。

神話にも不相応な試練はある。

だが、英雄になる者はそれを乗り越えてきた。

神や妖精といった手助けを得て。

手を貸して貰えることもまた、本人の資質だ。

だから、これは違反ではない。

黒と白の夫婦剣を持つ。

見守っていた高層ビルの屋上から飛び出し、魔猪の牙を切り飛ばす。

玉井と向き合い、声をかける。

 

「ずっと見ていた。助けるつもりはなかったんだけど、玉井が自分の手で決着を付けようとしていたから、力を貸す気になってな。まあ、玉井からすれば、今更って思うかもだけど、俺にも事情があってね」

 

玉井は息を吐くだけだ。

よく見ると、喉が潰されている。

怪我を先ず治すために、治療の魔術で傷を治す。

 

「深くは聞かない。天之河は意味のないことはしないって俺は信じているから。でも、愚痴ぐらいは言わせろ。もう少し早く来てもよかっただろ」

「ごめん。でも、手を貸すっていっただろ。まあ、あのイノシシは玉井に殺して貰うけど」

「どうやってだよ。アレ絶対にベヒモスより強いだろ?」

「これを使いな」

 

そう言って夫婦剣を投げ渡す。

玉井は「危なっ」と言いつつその剣を受け取り握る。

 

「それは、干将・莫耶という。まあ、俺にとってはもう要らなくなってしまった武器だ。それは、退魔の剣で怪物に対して、凄く強く斬りやすい剣と思ってくれて構わない。一言『神翼撃』と言えば凄まじい一撃を放てるが、まあ、今は使えないだろう」

 

何かを言い出す前に、玉井を掴み魔猪へ向かって投げ飛ばす。

掴みながら、強化の魔術を付与させる。

十分は持つだろうし、その間には勝てる確信がある。

 

「勝ってこい!玉井。この試練を乗り越えろ」

 

 

 

 

 

戦闘を始めた玉井は最初の方は、動くスピードの速さに慣れず、幾分かの攻撃を受けていたが、動きになれ出すと反撃に移った。

四肢から攻撃し、一本ずつ切り落とす。

動けなくなったところを、電柱を蹴り、自身を弾丸のように弾き飛ばす。

尻の部分から頭に向けて突き進み、抉り殺した。

ここに魔猪狩りは終わった。

 

「お疲れのところ、悪いけど、もう一つ問題があってね」

「はぁ、はぁ。問題?」

「今から、玉井が目覚めるても、三日は時間が過ぎているんだ」

「へっ」

「まあ、寧ろ三日で済んだって言えば良いかな?送り出したときに言ったように、これは試練なんだ。乗り越えたことで、玉井。君は次のステージへと上がれる。そして、この経験を生身と結び合わせるのに時間がいるんだ。まあ、言い訳は此方でしておくから。安心していてくれ」

 

そう言って、俺と玉井は透けていくも、俺の方が透ける速度は速い。

俺の方が起きるのは早いとはいえ、目覚めに一日二日はかかるだろう。

それに、玉井もこの試練を乗り越えたことで、ある程度の加護は受けている。

俺の修行はもう必要ないだろう。

前線にいる皆の下へ合流して問題ないだろう。

それに、凄く嫌な予感がする。

誰も死んでいないことを願うことしか今は出来ない。




今回登場した、干将・莫耶は本物です。
家の天之河光輝は中国とも縁がありますので、その伝で持っていました。

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