混乱された読者が居たかもしれません。
本当に申し訳ありません。
「おお、最後の一人が現れましたか。トータスへようこそ勇者様。ご同胞の皆様には紹介しましたが、改めて自己紹介を。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いております、イシュタル・ランゴバルドと申します。以後、よろしくお願い致しますぞ」
そう言ってイシュタルと名乗った老人が黒い感情を胸に押し止めながら微笑みかけてきた。
聖教教会...それはマスター、エヒトルジュエを主神とするこの世界の宗教だ。
つまり、今の俺にとってはとても都合の良い相手でもある。
「ご丁寧にありがとうございます。お、私は天之河光輝と言います。確かに私は、神エヒトに世界を救ってくれと言われました。出来る限りのことはしますが、具体的に何をすれば良いのでしょうか?」
言われなくても分かるが、俺はここに来たばかりだ。
それに、間抜けを演じた方が、向こうも警戒心を高めて行動はしてこない。
「うむ、分かりました。ですが、話は長くなりますので、場所を移しましょう」
そう言って、イシュタルが移動し始める。
皆がそれに恐る恐るとついて行く。
案内された場所はいくつもの長テーブルと椅子が用意された場所だった。
一人ずつ椅子に座らされ、全員に飲み物が行き渡ると、イシュタルは語り出す。
その内容は、物語にはありふれるような内容だった。
この世界には、人間、魔人、亜人の三種族がいて、長い間人間と魔人は争い続けた。
しっかし、魔人が魔物を使役できるようになり、数的有利も無くなった人類に勝機は無くなってしまった。
そこで、神エヒトが人類を救うために、勇者召喚を促した。
「あなた方を召喚したのは”エヒト様”です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方はこの世界よりも上位の世界の人間です。あなた方はこの世界の人間よりも優れた力を有しているのです」
そこで一度言葉を切り、イシュタルが力強く言い放つ。
しかし、その声に待ったをかける人がいた。
「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」
愛子先生だ。
二十五と教師としては若いが、生徒一人一人に真剣に付き合う、その姿勢はとても好ましい先生だ。
体も小さく、経験も浅いため、よく努力が空回っているが、生徒と同じように一歩ずつ成長して行っている。
校内の先生方の評価も高い。
人として、本当に尊敬している人だ。
そんな先生が、一人で子供達のために立ち向かった。
しかし、次の一言で、皆が絶望に陥る。
「お気持ちはお察しします。しかし...あなた方の帰還は現状では不可能です」
場に静寂が満ちる。重く冷たい空気が全身に押しかかっているようだ。誰もが何を言われたのか分からないという表情でイシュタルを見る。
「ふ、不可能って...ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」
先生が叫ぶ。
当然だろう。
あまりに理不尽で仕方がない。
「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」
「そ、そんな...」
先生が脱力したようにストンと椅子に腰を落とす。周りの生徒達も口々に騒ぎ始めた。
「うそだろ? 帰れないってなんだよ!」
「いやよ! なんでもいいから帰してよ!」
「戦争なんて冗談じゃねぇ! ふざけんなよ!」
「なんで、なんで、なんで……」
パニックになる生徒達。
だが、それは当然のことだろう。
自由に呼べて還せるのなら、人類はここまで追い詰められることは無い。
呼びつけて、都合よく魔力が足りないと言い、戦わせて、軌道に乗ったあたりで還せるが、と問う。
そうやって使い続けることが出来るからだ。
それをしないで、こんな状況になっているのなら、当然還す方法などない。
イシュタルの方を見ると、イシュタルは特に口を挟むでもなく静かにその様子を眺めていた。
このままでは、エヒトルジュエからの任務が遂行できない。
カリスマスキルを使った芝居を打つとしよう。
「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。...俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。...イシュタルさん?どうなんでしょうか?」
「そうですな。エヒト様も救世主の願いは無下にはしますまい」
「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」
「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」
「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」
拳を握りしめ、天井に向かって突き上げる。
言葉には出せないが、安心して欲しい。
■■の名において地球の子らは誰も死なせないと。
エヒトルジュエも、器に入らない魂の生死には興味は抱くまい。
「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。...俺もやるぜ?」
「龍太郎...」
「今のところ、それしかないわよね。...気に食わないけど...私もやるわ」
「雫...」
「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」
「香織...」
彼等が着いてきてくれるのなら、芝居は成功と言えるだろう。
これで、エヒトルジュエの願いに一歩近づけるだろう。
所々伏せ字が出ますが、まだまだ不明なままです。
作中で露出イベントがありますので、それが終わりましたら、皆様の予想が合っているかの答え合わせをするのも良いでしょう。
合っていた人は、直感持ってますよ。Dランクぐらいの。