オーバーロード~死の支配者と始祖の吸血鬼~   作:魔女っ子アルト姫

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終わりの始まり

連日の出張に加えて接待に次ぐ接待。好い加減に表情筋が攣りそうになっているのを感じつつも自宅のドアのキーを回して中へと入る。自分を出迎えてくれる家族などいないが家に入れただけで気分が安らぐのだから、我が家というのは素晴らしいと思うのであった。鉛のように体にへばり付くスーツを脱ぎ捨てながら、カバンを放り投げて座り込む。下着だけという自堕落な格好だがそれだけ疲れているんだからいいだろっと黙殺する。

 

「ぁぁぁっっっ……漸く帰ってこれた……。あのくそ社長、死ねよ」

 

と思わずそんな愚痴がこぼれる。元々自分は愛想の良い方ではないし誰かと話すのは好きだが自分で話題を振ったりするのは苦手なのだ。それなのになんで富裕層のお偉いさん方の機嫌取りなんざしなければならないのだ。それでも仕事に必要だからと努力したお陰で妙に気に入られてしまって出張期間が大幅に増えた上にブクブクに太ったマダム(ババア)に擦り寄られてどれだけ大変だったか……自分の至福の時間ともいえるゲームすらまともに出来ず、毎日毎日豪華な食事と絢爛豪華な娯楽にお偉いさんと興じなくてはならない。もはや地獄のそれと同じだ。

 

「あっそっか、プライベート用の事完全に忘れてたんだったんな……」

 

ベッドに腰かけていると不意に視線を巡らせた時に目に入った携帯端末。仕事用とプライベート用に分けている、仕事に行っていたのだから持っていかないのは当然とも思えるが自分にとっては大切な友人達との絆の橋渡しをしてくれるものを忘れるのは流石に皆に失礼だったなと思いながらそれを手に取ってホーム画面を開くと通知来ていることに気づいた。

 

「これは―――モモンガさんからか、何々……?」

 

大切な友人であり自分が所属している組織の盟友である人物からのメールに気づいてそれを見てみる。それを見ると顔を青くしながら身体にあった鉛のような疲労など忘れて飛び上がってPCを起動させてダイブマシンを起動させていく。

 

「ええい早くしろ日本製め!!」

 

 

「またどこかで会いましょう」

 

そう言って来てくれたギルドのメンバーの一人が退出、いやログアウトしていった。致し方ないのだろう、残業で身体がボロボロで時間の感覚すらおかしくなっていると言っていた。それならば自分の体を優先して貰うのが当然なのかもしれないが一緒にいてほしいという思いがあったのか、ログアウトして既にいない場所に向けて手を伸ばしてしまった。未練がましいと思いつつも手を戻す。このサービス終了、ユグドラシル終焉の日に来てくれただけでも感謝しなければならない。むしろ孤独に最後を終えることを覚悟していた身としては話せただけ嬉しさがあった。

 

「また、何処かで会いましょうか……どこで会うっていうんだよ、くそ……ふざけるなぁ!!」

 

分かっている。彼、ヘロヘロさんが悪意などもなく本当に再会を願っての言葉だというのは理解しているがそれでも嫌だった。この場所は自分たち、ギルドメンバーが作り上げた場所なのに何でそんな簡単に投げ捨てられるんだと憤慨してしまう。そんな激怒さえも分かっている、こんな虚構だらけの世界ではなく現実を優先するべきだろ言う事は。そんな時の事だった。

 

 

―――アーカードさんがログインしました。

 

 

「えっ」

「久しいな我が友よ」

 

ヘロヘロと入れ替わるかのように登場したのは一言で言うならば色気のある美青年だった。艶やかな髪に白蝋かのような白く透き通りそうな肌、鮮やかで宝石などよりも何倍も美しい赤いロングコートに赤いテンガロンハット、そして愛用のサングラスを掛けている男が優しい声色で慈しむように呟いた。そんな言葉に思わず腰を浮かせながらこう言った。

 

「来て、くれたんですねアーカードさん……」

「勿論だ。まあ君からの通知は先程確認して大急ぎで来たのだがね、無様な私を笑ってくれたまえ」

「笑ったりなんかしませんよ、本当に来てくれてありがとうございます」

 

心からの感謝と感情をむき出しにするかのようにしながら言葉を述べるのは様々な装飾品や禍々しくも見えるローブを纏う骸骨、死の支配者(オーバーロード)にして大切な友人であるこのギルド、<アインズ・ウール・ゴウン>のギルドの長のモモンガは、彼との再会を始祖の吸血鬼(オリジン・ヴァンパイア)であるアーカードも心から喜んでいる。

 

「本当に、お久しぶりです。もう療養はいいんですか、確か心臓の病気でしたよね」

「ああっそれについては問題ない。3度の手術で漸く完治したよ、どれも10時間超えの大手術だったがな」

「うわぁっ……」

 

元々アーカードというプレイヤーはこのギルドから脱退していた。その理由が心臓の重い病気が判明し病気の治療と療養に専念しなければならない上にユグドラシルのようなゲームでは心臓に負担がかかるからと完治するまでやってはいけないと医者に言われてしまったからだ。それを聞いた時、病気の事以上に絶望したアーカード。だが彼はメンバーから治療を受けてまた一緒に遊ぼうという言葉に押されて治療に勤しむ為にギルドを一時的に脱退した。

 

「あの時は本当に苦渋の決断だった、だが皆が背中を押してくれたお陰で今私は生きている」

「当然ですよ。確かに会えないのは寂しいですけど、それでも生きていてほしいですからね」

「死の支配者とは思えない程に優しい言葉だな」

「ちょっとやめてくださいよ~」

 

そして手術を何度も受け、術後の経過も良好で数年の月日をかけて漸く完治したのだがそんな時間脱退した自分が顔を出していいのかという不安もあった為に中々ログイン出来なかった。だが今日、ユグドラシルのサービス終了時にみんなで集まりませんかというモモンガからのメールを受けて決意を固め、こうしてやって来たのであった。

 

「折角だ我が友よ、王座の間で最後の時を共に迎えるというのはどうだ。このギルドで華々しい最後に相応しい場だと思うが」

「成程流石アーカードさん。それじゃあこれも持っていきますか」

「ああっ我がギルドの象徴(シンボル)だ」

 

二人が目を向ける先には一本のスタッフがある。数匹の蛇が絡み合いながらもそれぞれが違った色の宝石を加える黄金の錫杖、<アインズ・ウール・ゴウン>の象徴たるギルド武器。このギルドがギルドたらしめる誇り高き証明をギルド長のモモンガが手に取る。この武器を作る為にメンバーで様々なことをした、くだらない話をしたり真剣に会議をしたこともあった。そんな沢山の思い出と共にある象徴と共に二人は王座の間へと向かう。途中NPCのメイドたちや執事も仕事をさせるべきだなと同行させ、王座の間へと着く。ギルド長であるモモンガがその玉座に腰を下ろし、アーカードはその隣に立つ。

 

「折角ですからアーカードさんも一度座ってみませんか?」

「いや遠慮しておくよ。それは君が正式にギルド長である証なのだからな、私が座るには荷が重すぎる」

「そうですかね。それにしてもそろそろフラットな感じでもいいんですよ?ロールプレイしなくても」

「あっマジで?」

「マジです」

 

そんな言葉のやり取りの直後にアーカードは深いため息をしながら、首を鳴らすかのようにしながら草臥れたかのような声を出す。

 

「いやぁロールプレイガチ勢としてはしっかりしておいたほうがいいかなと思って」

「俺もアーカードさんの見てあっカッコいいなと思って始めましたからね」

「嬉しい事を言ってくれるなぁ~……にしても、NPC達もよくぞ今日までここを守ってくれましたね」

「そうですね、本当に」

 

セバス・チャン、ユリ・アルファ、ルプスレギナ・ベータ、ナーベラル・ガンマ、シズ・デルタ、ソリュシャン・イプシロン、エントマ・ヴァシリッサ・ゼータ。今この玉座にいる彼らには感謝しなければいけないかもしれない、言わば彼はプログラムでしかないのだがそれでも愛着は沸く。そして玉座の傍に使えるのは、このギルドの本拠地である<ナザリック地下大墳墓>を守護する守護者達の統括であるNPCのアルベドが控えている。

 

「結局ここまで攻めこんでくるプレイヤー居ませんでしたね」

「だな……そういえばアルベドをセッティングしたのってタブラさんだったっけ」

「ええそうですね。あの設定魔の」

「なんか気になりません?」

「なりますね」

 

という事で二人はアルベドの設定を見ることにした。あの設定魔が作ったんだからさぞかし凄い設定なんだろうなぁと思って覗くのだが、見た瞬間に軽く後悔するのであった。途中アルベドが何故か世界級アイテムの一つを所持していたりするのだが、それ以上に設定を開いた瞬間に情報が洪水のごとく溢れ出してくる物に圧倒された。

 

「「ながっ」」

「どんだけ書き込んでるんだこれ……うわっ文字数限界じゃないかこれ」

「流石タブラさん……というかあの人なんで勝手に持たせてるんですかね。しかもこれアーカードさんも一緒に取った奴じゃないですか」

「あ~……タブラさん的には、最後に娘にこの位してあげてもいいかなって気持ちだったんじゃないんですかね」

「まあ余り責める気はないですけど……」

 

気持ちは分からなくもないとも思う。NPCはこのギルドに所属しているプレイヤーが作り上げた存在達、言い換えれば子供のような存在。そんな子供に最後ぐらい持たせてもいいだろうというのは理解出来なくもない。そんな思いで余りにも膨大な設定を読み進めていくと最後に【因みにビッチである。】というのを見つける。

 

「ビッチって……まあサキュバスだし分からなくもない……のか?」

「いやでも守護者統括としてこれは……」

「ギル長特権で書き換えしちゃえば?最終日だし勝手に持ち出した罰って事にすればあの人も文句はないだろ」

「う~ん……まあそういう事にしておきますか」

 

アーカードに言われてその一文を消す。しかしこのままでは収まりも悪いかと思い何か入れるべきかと思ったモモンガは少し悩む。一瞬自分を愛しているという一文を思いつくがアーカードが居るのにそんな事は出来ないと踏み止まると一部を変えてこう入力してみた。【ギルメンを愛している。】

 

「なんだてっきりモモンガを愛している。っていれるのかと」

「何でバレたんですか!!?」

「男なら一度は思う。こんなスタイル抜群な美女に愛されたいと」

「そ、そりゃ思いますけど……アーカードさんもいるのに流石に出来ませんよ。それにこれならアーカードさんも愛されるんですから本望じゃないですか」

「おっとこれは一本取られたな」

 

思わず笑いあう。本当に二人は気心知れた友人同士なのだ、それ故にアーカードが脱退する時にモモンガは本当に悲しんでいた。だからこうしてまた話しあえるというのは嬉しい。だがそれも間もなく終わる、サーバーダウンが行われる午前0時が迫ってきている。

 

「アーカードさん、今日は本当に有難う御座いました。今日という日を俺は忘れません」

「俺だって忘れないさ。そうだモモンガさん、これ俺のメアドだから今度リアルで会おうよ。飯でも奢るから一緒に出掛けようぜ」

「良いですねぇ」

 

そんな風な会話をしながらも最後は互いに感謝と敬意をこめて挨拶をした後に静かに目を閉じながら終わりの時を待つ。今度は現実の世界で会う事を決めながら―――

 

そして一つの世界が終わり、新しい冒険の扉が開く。


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