オーバーロード~死の支配者と始祖の吸血鬼~   作:魔女っ子アルト姫

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武人の心意気

リザードマンを配下へと置く計画は順調に進行している。既にザイトルクワエの出撃準備や回収の手順、どういった風でザイトルクワエの下へとやってきたのか、出来るだけ敵意ではなく好意を持たせるための準備が進められて行く。そしてザイトルクワエを倒しリザードマンを救う役目を務める事となったのは<凍河の支配者>である武人・コキュートスであった。この役目に据えるのを決めたのはモモンガであった。

 

守護者各位が何かしらの任務などに就いている中でコキュートスは目立った活躍が余り出来ていない印象があった。実直な武人であり至高の御方の剣として自らを考え振るわれる時を待ち続ける彼は自ら責務を全うする中で自らを鍛え上げる事に余念がなかった。そんな力を存分に発揮して貰おうと思い、コキュートスにその役目を任せる事にした。この役目を与えられたコキュートスは下顎を打ち鳴らしながら、大気が凍り付くほどの冷たい呼吸を漏らしながら興奮するように答えた。

 

「オ任セ下サイモモンガ様!!コノコキュートス、必ズヤ御期待ニ沿ウ働キヲスル事ヲ御約束致シマス!!!」

 

武人としての設定を与えられているコキュートスにとって戦いの役目を与えられる事は非常に喜ばしい事だったのか、鋭い尾を激しく床に叩きつけようにしながらも力強い声で活躍を誓う。そして張り切ったコキュートスはそれに見合うだけの働きをして見せた。ザイトルクワエの襲撃によって被害が大きく、別れた部族を一つとして団結したリザードマン。しかしそれでもこの世界では天災に等しい力をもってザイトルクワエには歯が立たなかった。それでも尚立ち上がろうとする一人のリザードマンがいた。

 

ザリュース・シャシャ。リザードマン全体で見ても間違いなく最強というべき戦士。多くの仲間がやられて行き、絶望と苦痛が身体を貫く中で彼は未だに膝を折らなかった。強大な災厄という驚異の中で奇跡的と言っても過言ではない出来事があった。緑爪(グリーンクロ―)小さき牙(スモール・ファング)鋭き尻尾(レイザー・テイル)朱の瞳(レッド・アイ)竜牙(ドラゴン・タスク)の五部族が一つに纏まって災厄に立ち向かおうとした。最初は戦えていた、ザイトルクワエの枝から枝分かれした小さな枝が波のように襲い掛かってくるのを食い止めていた。だが本体が迫り皆が勝てない事を悟った、だが少しでも時間を稼ぎ戦えない者を逃がす事が目的だった。多くの戦士たちが倒れていく中でザリュースは立ち続ける、迫る枝を切り払う。

 

「俺は、まだ戦える……!!!」

 

力を込めてリザードマンの四至宝の内の一つ、<凍牙の苦痛(フロスト・ペイン)>を握りしめる。自分には守りたい(メス)がいる。結婚など自分には出来ない、自分などには無理だと思っていた中で出会った朱の瞳のクルシュという白鱗の美女に一目惚れをした、本気で愛したいと思った彼女を守りたいと更に力を籠める。身体に走る激痛は努めて無視する。本能が危険を叫ぶが聞き流す。自分が出来る事など限られている、ならば出来る事を―――

 

「全力で剣を振り続ける―――!!来い、厄災!!!!」

 

叫びをあげる、龍の如き力強く猛々しい咆哮にザイトルクワエの意識が向く。そして同時にそれはこう思った、こいつはここで殺さなければならない。向けられるだけの枝を向けて一息に殺しにかかる、それも自分の役目も理解している。だがそうした方が良いと思うだけの迫力をザリュースは発揮していた、本当にリザードマンかなのかと疑いたくなる程の覇気。これは蜥蜴(リザード)ではない、(ドラゴン)だと思考させた。そして迫る枝がザリュースの身体を圧し潰そうとした時の事だった―――

 

「素晴ラシキ咆哮ト覚悟ダ。私ハオ前トイウ存在ニ敬意ヲ払オウ」

「あっ―――貴方はっ……!?」

「ムゥゥン!!!」

 

一閃。力強くも鋭い一閃が空気を、いや空間を薙いだ。迫ってきた枝の殆どが圧し折られるかのように斬られていく、その一撃は止まる事もなくザイトルクワエの頭部の一部を切り裂き苦痛に歪んだ悲鳴を上げさせた。ザリュースの目の前に一人の戦士が立っていた。手にした巨大な剣と巨大な身の丈と同じ長さのハルバートを持つ昆虫のような姿をした戦士が自分達が手も足も出なかった厄災を苦痛に歪ませていた。

 

「マダ、動ケルカ」

「……当然、まだ動ける……!!」

 

既に限界など越えている筈なのに身体を動かし武器を構えるザリュースにカチリ、と下顎を鳴らすコキュートス。武人として尊敬に値するとザリュースを褒める、意志が折れない精神力は称賛に値する。そしてそっと彼の武器に目を落とすと少し考えると言葉を口にする。

 

「冷気ヲ奴ノ頭部ニテ炸裂サセロ、奴ノ弱点ダ」

「冷気を……承知した。それでは道をお任せしてもいい、という事ですな」

「無論、奴ノ頭上ヘト飛バソウ」

 

初めて会った筈なのに不思議とザリュースとコキュートスは通じ合っていた。互いの意図を完璧に理解していた、身体を軽く丸めるとコキュートスの腕の一つに持ち上げられる。目で合図を送るとコキュートスは再び一閃。それによる再生し始めていた多くの枝が再び消え失せていく、そしてコキュートスは渾身の力でザリュースを投擲する。

 

「ッ……!!!」

 

凄まじい風圧と空気を切り裂くような速度が身体を殴りつける、冷たい空気も傷に染みていく。だが気にならなくなっていた、これがもう最後のチャンスなんだと理解が出来ていた。弾丸となったザリュースはザイトルクワエの頭部へと到達すると<凍牙の苦痛>を渾身の力を込めて、気迫を込めて振るった。

 

「<氷結爆散(アイシー・バースト)>ォォオオオオオ!!!!!」

 

剣が振るわれた先の大気が一気に凍結していく。極寒の冷気がザイトルクワエの頭部を支配していく、それこそ<凍牙の苦痛>の能力の一つ。一日に三度しか使用できない大技<氷結爆散(アイシー・バースト)>であった。

 

「<氷結爆散(アイシー・バースト)>!!!<氷結爆散(アイシー・バースト)>!!!!」

 

立て続けに全てをぶつけた、これが自分の全力だと全てを持って行けと言わんばかりの力が振るわれた。ザイトルクワエの頭部は絶対零度の氷河のような冷気に包まれていた。そしてザリュースはその苦痛に悶えるかのように身を捩るザイトルクワエによって振り落とされて落下する。だがそれを素早く移動したコキュートスが受け止め、優しく地面へと下す。

 

「無茶ヲスルモノダ」

「出せる、全力を出したまでの、事……」

 

そしてその全力が応えたかのように次第に厄災の全身へと氷が走っていく、絶対零度の冷気に包まれていくザイトルクワエ。だがそれでもまだ動けるのか巨大な枝をザリュースへと向けて伸ばすが、それはコキュートスが受け止める。

 

「最後ノ一撃ハ貰ウゾ」

 

一瞬だった。彼の剣がぶれたかと思うと、彼はその剣をしまっていた。何が起きたのか、刹那の夢。そして現実に起きるのは―――真っ二つになり崩れ落ち爆発を起こしたザイトルクワエの姿だった。ザリュースはそれを見つめる、そしてそれをやってのけたコキュートスを見つめる。彼は小さく、終ワッタナ。と言い残すとそのまま去ろうとする。

 

「お、お待ちください!!!何故、何故あなたは私を助けてくださったのですか!?貴方であれば私などの力がなくとも厄災を討てたはずでは!?」

 

全身に痛みが走る、それよりも知りたかった。如何して―――それにコキュートスは少し笑って応えた。

 

「敬意ヲ払ウベキ戦士ヨ、オ前ハ生キルベキダト思ッタマデダ」

「ッ―――」

 

その言葉を受けて、ザリュースは自然と座り込み地面に擦り付けように頭を下げた。素晴らしい方だと心の奥底から思った。そして沸き上がった思いをそのまま言葉にした。

 

「どうか……お名前をお聞かせください……」

「コキュートス」

 

その名を確かに耳にし、魂へと刻むとザリュースは疲労からか倒れこみ意識を手放した。そして目覚めた時、好いた女であるクルシュに抱き付かれて深い安堵の息を付いた。そしてクルシュから自分をここまで運んでくれたのがコキュートスであると知らされ、未だ集落にとどまってくれている彼にリザードマン全員で頭を下げて懇願した。

 

「どうか、我らを貴方様の配下に―――加えて頂きたい……!!」

 

この時より、ナザリックにリザードマンが加わった瞬間であった。


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