俺と小咲が桐崎さんの家の前に到着すると、そこには、鶫さん、るり、楽、集と揃っていた。ともあれ、なぜ集が居るのか?というのはご愛敬というやつだろう。
つーか、俺も皆と同じように上を見上げたが、桐崎さんの家はかなり大きい。集英組もそれなりに大きいと思っていたが、ここはそれ以上だろう。
「ところで、なぜ貴様がいる?舞子集」
「あはは!水臭いな~、誠士郎ちゃん」
「帰れ」
鶫さんは集に冷たく言うが、集はそれを受け流している。
その時、門の向こう側で、此方に歩み寄る人影が映る。
その表情は唖然。というやつだろう。ということは、鶫さんのサプライズは成功ということだ。
「あ、千棘ちゃん。誕生日おめでとう――!」
扉越しに、小咲がそう言う。
だが桐崎さんは「な、な、な!」と開いた口が閉じていない。
「な、何で皆がここに……?」
「本日は、お嬢のお誕生日ということで、恐れながら私、お嬢に内緒で皆さんをご招待したのです」
すると門が開き、集の隣に立っていた楽の腕を掴んで、敷地内へと引き連れる。
これはあれだろう。自身の家がギャングと露見したら拙い。ということなのだろう。
「どうしたのかな、一条君と千棘ちゃん?」
「あれだな。桐崎さんの家のことだな」
「家?暗部さんってこと?」
キョトンと首を傾げる小咲。
小咲の言うように“暗部”ではないが、“ギャング”と“暗部”は裏世界でいえば同じようなものなのかも知れん、たぶん。
「お、おう。そうだけど、よく解ったな」
「千棘ちゃんの纏う空気と、歩夢君が纏う空気はほぼ一緒だったから」
「わたし、昔から直感と鼻がいいんだ」と、付け加える小咲。
いやいや、断言できちゃうとか、小咲の第六感は凄すぎでしょ。鍛えたら、危機管理能力とかを付属できたりするのかも知れない、たぶんだが。
「おーい皆―!こいつんちってさー」
楽が門の方に歩いて来ながら、俺たちに呼びかける。
「わ――!ち、ちょっと――!」
桐崎さんは慌てて楽を引き止めようとするが、楽が俺たちの事情を話すのだった。
「凄いなぁ~。わたし、お嬢様は憧れちゃうな~――あれ、どうしたの?」
小咲は感嘆な声を上げ、るりは無表情だ。
桐崎さんは、頭を抱えて俯いていたが、小咲たちの反応を見て「え?」と声を上げ、顔を上げる。
「え、えっと。小咲ちゃんは怖くないの?」
「へ?だって、歩夢君と同じってことでしょ?……あ、あれ。わたしが変なのかな?」
「いや、変じゃないぞ。あれだ、小咲は胆が坐ってるってことだ」
すると楽が、
「な。小野寺たちなら問題ないって言っただろ」
そんな事もあり、俺たちは鶫さんを先頭に、屋敷に向かって歩き出した。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
「ハッピーバースデ~~~!お嬢~~~!」
「お嬢、お誕生日おめでとうございます~~~!」
鶫さんが案内してくれた大きなドアを開けると、クラッカーの音が鳴り、パーティ会場にいる男たちが桐崎さんを祝う。
「これはこれは。お嬢のご学友の方たちもいらして下さったのですか。ようこそ、歓迎いたします」
桐崎さんが囲まれていた所から、白いスーツを着たクロードさんが歩み寄る。
「あ、はい!本日はお招きいただき、ありがとうございます!」
そう言って、小咲は感謝の言葉を述べる。
「あ、あなたもいらっしゃったんですか。まさか、歩夢坊ちゃんがあの“神速”でしたとは……あの殺気も納得です」
“神速”とは、師匠と組織を潰した時につけられた俺の二つ名である。
組織を数分で潰したので、この二つ名がつけられたとか。つか、“神速”とか恥ずかし過ぎる。……既に、裏世界には広まっているので、手遅れなのかも知れないけど。ちなみに、顔は上層部にしか露見していないので、俺の生活に被害はない筈。
「歩夢君って“神速”って言われてるんだ」
小咲は小悪魔な笑みを浮かべて「歩夢君を弄るネタができた」と言いたい表情である。てか小咲さん、若干羽さんに似てきた?
「こ、小咲さん。その二つ名は止めて、ホント、切実に」
「ふふ、わかりました」
そう言って、小咲は笑みを浮かべた。
ともあれ、プレゼント渡しになった所で、小咲が桐崎さんにプレゼントを渡す。
「千棘ちゃん。これ、私たちから」
ちなみに、プレゼントの中身はリボンと文房具である。
「ありがとう。大切に使わせてもらうね」
そう言って、プレゼントを受け取った桐崎さんは笑みを浮かべる。
「フフ。では、次は私から。楽お坊ちゃんのプレゼントに比べられば粗末かも知れませんが。――お受け取り下さい、お嬢!超高級車、マイバッハのオーダーメイドモデルです!」
クロードさんの言葉と共に、真ん中に鎮座されていた布が取られると、中からは黒く輝く車が現れる。見るからに、一億円以上の価値のある車だ。
「いや、免許とか持ってないし、いらないわ」
桐崎さんの言葉に、クロードさんは凍りつく。まあ確かに、高校1年で免許が取れる訳でもないし、車を貰っても、困るだけである。
ともあれ、クロードさんが固まっている中、楽のプレゼントが桐崎さんに渡す番である。
「ほ、ほれ。誕生日おめでとう」
桐崎さんが袋の中からプレゼントを取り出して、空気が凍りついた。
楽が桐崎さんにプレゼントしたのは、頭にリボンをつけたゴリラのぬいぐるみだったからだ。
会場の中からは、
「小僧、どういうつもりだ……?」
「こりゃあれか。お嬢がゴリラだとも言いてぇのか……?」
「い、いや、オレは真面目に考えて……!これを見た瞬間、びびってときたって言うか……」
男たちに詰め寄られてる中、必死に弁明する楽。
そんな中、楽を見つめていた桐崎さんが、不意に笑みを零す。
「あはは、嬉しいよ。ありがと、楽」
そう言って、笑みを浮かべる桐崎さん。
本当に喜んでいるのか、それとも期待外れなのかは、本人しか解らなかった。
ともあれ、プレゼントが渡し終えると、会場は祭りのような騒ぎである。そんな中、俺はシャンパンを受け取り、会場外のベランダに出た。頬に当たる風が、とても心地いい。
「久しぶりに騒いだな」
そんなことを呟きながら、月を眺めていたら隣に誰かが立つ。
「歩夢君。隣いいかな?」
「おう。構わないぞ」
「ありがと」と言い、小咲は笑みを浮かべる。
「千棘ちゃんの誕生日、いつも楽しそうにパーティするんだね」
「だな。でも俺は、特定の人が祝ってくれれば別にいいけど」
特定の人。それは、日本にいた時は小咲に、中国に居た時には羽さんから祝ってもらった。
「そっか」と小咲は呟く。
「そういえば、小咲の誕生日って6月15日だっけ?」
「お、覚えててくれたんだ」
「そりゃな。で、その日は遊びに行かないか?楽しくなるように頑張るからさ」
「う、うん!楽しみにしてるね。今から楽しみだなぁ」
小咲の嬉しそうな顔を見ると、なぜだか俺も嬉しくなる。
いつしか、俺たちの手は繋がれていた。そこからの温もりで、お互いの鼓動の音が聞こえてくるようだ。
「そろそろ戻るか。体も冷えてきたらいけないし」
「うん。戻ろう」
名残惜しそうに俺と小咲は、繋いだ手を解き、会場へ戻った。
今日と言う日は、思い出の一ページの刻まれた日になったのだった。
歩夢君の二つ名は“神速”です。
まあ、由来は組織を潰した時間(数分で)から取りました。数分で組織を一つ潰すとか、歩夢君はチート過ぎですね(笑)
では、次回(@^^)/~~~