時期は7月下旬。
終業式が終わり、俺たちクラスはキョーコ先生からの注意事項を終え、立ち上がって挨拶を終えると各々談笑しながら教室から出て行く。
「歩夢君、帰ろっか」
小咲の話によると、いつものメンバーは飼育係や日直の仕事があり、一緒に帰れないということ。
「おう。帰るか」
そう言ってから、俺と小咲は教室から出て、下駄箱で靴に履き替え学校を後にした。
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~通学路~
談笑しながら歩いていたら、小咲は口ごもったように、
「あ、歩夢君。週末って空いてるかな……?」
「予定は入ってないはず。どうかしたのか?」
小咲は、少し困ったように笑みを浮かべながら説明する。
「実はね、バイトをお願いしたいの」
「バイト?“和菓子屋おのでら”のか?」
「う、うん。従業員さんが、急用で来れなくなっちゃって……」
俺は「なるほどな」と頷く。
ちなみに、その日は人手が足りなくなるので、小咲も店に顔を出すそうだ。
「でも俺、和菓子を作ったことないけど、大丈夫なのか?」
一応、俺は料理ができるが、
「だ、大丈夫。歩夢君、料理するの上手だもんっ!」
「お、おう」
バイトを“了承”と答え、小咲から時間等を聞く俺。
ともあれ、週末にバイトが決定したのだった。
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~週末~
“和菓子屋おのでら”の扉の前に到着し、俺が足を踏み出すと自動扉が開く。
「お邪魔しま……」
俺が店内に入った所で、怒鳴り声が俺の耳に届く。……間違いない、小母さんの声である。
「んだとぉ~~!?仕入れが一品も来ないだぁ~~!?」
声が聞こえた方を見ると、其処では丸椅子に座って受話器を耳に当てながら、メモ帳とボールペンを持った小母さんの姿。
「いい!?夕方には間に合わせて!後でそっちに取りに行くから、わかった!?」
そう言ってから、電話を一方的に切る小母さん。
小母さんは、受話器を乱暴に元に戻し、額に手を当て呟く。
「……ん?」
小母さんは俺を見て、何かを確信したように、
「……お前、歩夢の坊やか?」
「あ、はい。ご無沙汰してます、小母さん」
「ああ。でかくなったなお前」
確かに、小母さんの中では、俺の背丈は小学生で止まっている。
「てか、何でウチにいるんだ?」
「えーと……」
邪魔になるから帰れ、いう風に小母さんが立ち上がると、小咲が姿を現し、小母さんの腕にしがみ付く。
「お母さん!歩夢君は、今日のバイトの人!」
「……歩夢の坊やが?」
「そ、そう。歩夢君、料理がとっても上手なの!」
「……うーん。そこまで小咲が言うなら。じゃ、何か作ってもらいましょうか。駄目だったら帰ってもらうよ」
……何か、話が勝手に進んでるんだが。
まあ、和菓子のことは勉強してきたので、基本知識ぐらいは大丈夫だと思うが…………たぶん。
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~調理場~
調理着に着替え、俺は和菓子を作る為に調理器具を用意していき、準備したボウルの水気を取りながら調理を進めていく。
「(かなり料理慣れしてるね。まあ、和菓子のことはよく解ってないようだけど。……この子、昔からスペックが高かったけど、今でも上がり続けてるのね……)」
小母さんはこのように思っていたらしいが、俺が知る由もない。
ともあれ、俺は牡丹餅を皿の上で完成させ、小母さんはそれを手に取り、口に入れ咀嚼する。
「……ほー」
咀嚼し、牡丹餅を飲み込んだ小母さんがそう呟く。なんつーか、かなり緊張するんだが……。
そして、小母さんはにっこり笑い、
「歩夢の坊や。ウチにお婿に来なさい」
「いや、話が飛び過ぎてません!?つか、小咲と俺――
「――“まだ”、ねぇ」
小母さんは、意味深にニヤリと笑う。
そして、顔を真っ赤に染める、俺と小咲。
「ま、その様子だったら、小咲の貰い先は決まってるものよね」
お婿は無理ね。と呟く小母さん。
「お母さん!!!」
そこへ、小咲が声を上げる。
ともあれ、俺は落ち着きと取り戻し息を吐くのだった。
「まあそれよりも、これなら少しは任せられそうね。小咲、一番簡単なやつと、餡の作り方を教えてやんな。私は午後まで店番してるから」
先程とは打って変わって、真面目な様子で小咲にそう呟く小母さん。
ともあれ、小母さんはレジに向かう。
「それにしても、あんたらはホント仲が良いのね~~。――私が孫の顔を見るのは、そう遠くないのかしら♡」
「お母さん!!!」
にょほほほほ。と笑いながら、小母さんは調理場を後にする。
「……小母さん、まるで台風みたいだな」
「ご、ごめんね、歩夢君。気にしなくていいから」
「お、おう。でも、俺も先のことを考えるよ。だらだらしてたら、小咲たちが不安になっちゃうしな」
「そっか」といい、小咲は微笑んだ。ともあれ、俺は小咲の指示通りに簡単な作業を進めていく。
作業としては、俺が下準備を整え、小咲が和菓子の飾り付けをして完成させる。
「一緒になったら、これが日常の一部になるのかな」
「たぶんな。羽さんも加わりそうな感じもするけど」
「ふふ、そうだと嬉しいな」
このように会話に花を咲かせながら、俺たちは作業を進めていくのだった。
『小咲―。ちょっと出てくるから店番よろしくー』
「あ、はーい」
作業を終えた時、店番をしていた小母さんがそう呟いた。
それから、俺と小咲はレジに向かい、二人並んでお客さんを待つ。すると、一人の老人が店の中に入って来た。
「「いらっしゃいませー」」
「おおー、今日は小咲ちゃんが店番かい。こりゃツイとるのぉー」
「こんにちは、吉野さん。毎度ありがとうございます」
「いやいや……えーと、隣の坊やは――」
「えっと。未来の旦那さまです」
……うん、その切り返しは予想してなかった。
「なんと!?」
老人は目を丸くする。
まあ確かに、婚約者です。って言ってるものなんだから。ともあれ、老人がショーケースの中から商品を選び、それを俺が専用のトングで取り箱に詰めてから手渡し、老人から代金を受け取る。
「どうじゃ?よかったら今度、儂とデートでも」
「もー、またまたご冗談を~」
そう言って老人は、小咲にデートを申し込んでいた。つか、婚約者(偽)が居ると言ったのに、デートを申し込む老人はある意味猛者やね。
「お爺さん、小咲を口説くのはその辺にして下さい。お釣りの、615円です」
「お、ありがとよ、坊主」
老人は「またよろしくなー」と言って、店を後にする。
「随分色気づいたお爺さんだな」
「あはは。吉野さんは、いつもああなの。……歩夢君、嫉妬してくれた」
「……まあ、そうだな」
「ふふ、そっか」
順調に店番をし、バイトが終わりに差しかかった所で、店のドアがガタガタと音を鳴らす。それだけでは無く、外の方からは、強い風の音。その数分後には、大雨が降りつける。
「風も強いし、降ってきたね、雨」
「だな。そういえば、台風が接近してるってニュースでやっていたような」
また、雨だけでは無く雷の音まで響く。俺もバイトが終わったら、すぐにお暇しよう。
すると、レジ横の電話が鳴り、小咲が受話器を耳に当てる。
「お電話ありがとうございます。和菓子屋おのでらです。……え、お母さん?」
電話の主は小母さんだ。
この天候だ。交通機関でトラブルがあったのかも知れない。小母さんは大丈夫だろうか?
「え!?え、お母さん!待って!」
小咲が、慌てたように声を上げる。
小咲は、そっと受話器を戻して、俺を見る。
「小母さん、どうかしたのか?」
「う、うん。お母さん、台風が危なくて帰れないって……」
「まあ、そりゃ仕方ないよ」
やはり、小母さんは帰ってくるのは難しいそうだ。
たぶん、近場のビジネスホテルを取るなどで一時的に凌ぐだろう。と、俺は根拠のない結論に至る。
「あ、あとね……」
「お、おう。あと、どうした?」
次の小咲の言葉で、俺は驚愕することになる。
「――帰るのは危ないから、歩夢君には泊まってもらえって……」
「………………………………はい?」
俺と小咲は沈黙し、店内に備え付けられている針時計の音が響く。
こうして、俺のお泊りが決定したのだった。
次回お泊まり会。
では、次回もよろしく(@^^)/~~~