「小咲。小父さんは帰ってくる予定はないのか?」
「うん。お父さんも今日は用事で帰って来なくて。どっちにしろ、この天候で帰宅は難しいと思う。それに、妹は寮生活だから」
「な、なるほど」
……ってそうじゃなくて、小母さんも居ない、小父さんも居ない、妹も居ないとなると、現状この家には俺と小咲しか居ないということになる。――2人きり、ということだ。
「やっぱり駄目だ。さすがに、女の子一人の家に泊まったり出来ないって」
でも、よくよく考えると俺が帰ったら、小咲はこの家に1人になるということ。
もし、小咲の身に何かあったら、小母さんと小父さんに締められるんじゃないか……何、この板挟み状態は。
――そして、数秒の葛藤の上、俺は、
「……んじゃ、今日1日お世話になってもいいか?」
「う、うん。よろしくお願いします」
ペコリとお辞儀をする小咲。
いや、小咲の家なんだし、畏まる必要は無いと思うんだが。まあ、客も来ないし店の片付けを手伝おう。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
わたしは、両頬に両手を当て内心で頭を抱えた。
「(な、なんでこんなことに。――歩夢君と2人きりとか、心臓がもたない。でも、ニヤニヤが止まらないよ)」
「小咲?百面相してるけど、大丈夫か?」
わたしは、ハッとして、誤魔化す為に笑みを浮かべる。
でも、引き攣った笑みだと思うので、わたしが内心で何かに葛藤してることを、歩夢君は見破っているだろう。――でも歩夢君は、土足で心の中を覗こうとしない。そこには、彼の優しさを感じる。
「じゃ、じゃあ。お店の片付けしようか」
「了解だ」
わたしたちは、そう言ってからお店の片付けを始める。
それから、片付けが終わった所で、わたしの隣に立った歩夢君が口を開く。
「んで、これからどうするか?」
「とりあえず、わたしの部屋に行く?」
言った後に、ハッと気づく。
いきなり部屋に上がって。は、些か問題があるよね……。
「あ、ああ。でも、小咲の部屋に上がって大丈夫なのか?ほら、女の子の事情があるだろ」
「う、うん。大丈夫だよ」
そして、わたしは思った。
今、自分の部屋はどうなってる?綺麗にしてあるよね、大丈夫だよね。という不安があります。
「あ、ちょっと待って。少しだけ部屋を片付けさせて、着替えもしたいから」
「あ、ああ。落ち着くまで待ってるから、ゆっくり――」
わたしは、歩夢君の言葉を最後まで聞かず、かなりの速さで自室に向かう。
自室に入った所で、わたしは部屋を片付ける。そして、机の上に立て掛けられている写真立に目をやる。
その写真立てには、小学生の時の別れ際、両親が撮ってくれた写真が額の中に入っています。
「歩夢君、写真のことは覚えてるのかな」
でもまあ、覚えていなくても、10年越しに再会できたので何も寂しくないけど。
わたしは、引き出しから部屋着を取り出し、白いワンピースを着ることに決める。
「これで大丈夫かな」
それから「もういいよー!」と言って、部屋に作業着から着替えた歩夢君を呼び寄せます。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
「適当に寛いでくれていいよ」
「お、おう」
失礼だと思ったが、俺は部屋を見回した。
部屋の中には、ぬいぐるみと、可愛らしい家具。そして、回りの装飾品が備え付けられている。
「わたし、お茶を入れてくるね」
「いや、別に大丈夫だぞ」
だが、小咲は部屋から出て、足音が遠ざかっていく。
俺が、ボーっとしていると、机に立て掛けられてる写真立てに目がいく。
そこには、笑顔で映る小咲と、少々仏頂面の俺が映っていた。俺も同じ写真を持っているが、それは実家に置いてきてしまった。
「お待たせ、お茶持ってきたよ」
「わ、悪いな。そこまでして貰って」
「うんん。好きでしてることだから、気にしないで」
といって、小咲は俺の隣に腰を下ろした。
それから、俺は写真立てを指差す。
「なあ小咲。あれって――」
「うん。気づいてくれたんだ」
「まあな。別れ際に撮った写真だろ。でも俺、仏頂面だな」
「そうだね」と、小咲は微笑んだ。
それから数分談笑し、立ち上がりカーテンを開けた所、雨、風が止んでいた。
「雨、止んだね」
「そうだなぁ。でも、小咲を1人にできないよ。予定通り、お世話になります」
小咲に向かい合い、俺はペコリと頭を下げる。
「んじゃ、夕食を作りますか」
「だね。メニューは、和風ハンバーグとかどうかな?」
「そうするか。じゃあ、キッチンに行くか」
小咲の案内の元1階にあるキッチンに到着し、エプロンを掛け、冷蔵庫から取り出した食材を用意した器具の上に並べて包丁で食材を切っていく。
「ふふ。さっきも言ったけど、わたしたち夫婦みたいだね」
「まあな。将来の予行練習ってことでいいんじゃないか」
ともあれ、和風ハンバーグが完成した所で箸で用意した皿に乗せ、お盆にそれを乗せてから白米をよそった茶碗も乗せテーブルに着席する。
それから、お盆から皿を取り、眼前に置いていく。
「「いただきます」」
音頭を取り、用意した箸で一口してから、白米も口に含み咀嚼して喉に通す。んで、「美味い」と内心で呟く俺。
俺と小咲は、一言も喋らずご飯を間食した所で手を合わせ、
「「ごちそうさまでした」」
と、呟く。
食器をシンクまで持って行き、俺と小咲は用意されているタワシ等で皿を洗い、用具の上に乗せていく。
ともあれ、食器が片付け終わった所で、小咲が口を開く。
「歩夢君、お風呂どうする?先に入る?」
「いや、風呂まで世話になる訳にはいかないよ。1日位どうってことないし」
「そ、それは駄目!歩夢君、バイトで汗も流したでしょ。遠慮しないでお風呂に入って、ね?」
「いや、それは………………わかった」
俺は僅かに沈黙したが、小咲の真剣な顔を見て折れました、はい。
「小咲が先に入れ。男の後は嫌だろ」
「わたしはどっちでも構わなかったんだけど。でも、お言葉に甘えるね。……何なら一緒に入る?時間が短縮できるから」
「いや駄目だろ。つか、年頃の女の子がそういうことを言うんじゃない」
俺は小咲の額を右手人差す指で小突き、小咲は「あう!」と声を洩らす。
「……わたしは別に構わないんだけどなぁ」
と、小咲は小声で呟いていたが、俺はそれを聞こえない振りをする。なんつーか、理性が警報を鳴らしていたからだ。
そんなこんなで、小咲は着替えを取りに行き、パタパタと風呂場に歩いて行った。
「……引っ込み思案な小咲は、何処に行ったんだよ」
羽さんの影響を受け過ぎだな。と呟き、俺は大きな溜息を吐く。
それから1時間程立っただろうか、居間に移動しテレビを見てた所で、
「歩夢君、お風呂上がったよー」
俺の視線の先には、風呂上がりで、頬を若干紅く染めた小咲の姿。
また、シャンプーの香りや、石鹸の匂いが鼻を擽り、俺の理性という壁を崩そうとする。
ともあれ、俺はそれを悟られないように、
「おう。じゃあ、お風呂いただくわ」
「うん。着替え何だけど、お父さんの使って、洗面所に用意したから」
「了解だ」
そう言ってから、座っていたソファから立ち上がり風呂場に向かう俺。
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風呂をもらった所で、俺と小咲はテレビを見ながら居間のソファに座っていた。
「歩夢君、寝る場所だけど、わたしの部屋でもいいかな?」
「いや、俺はソファでも構わないよ。さすがに、寝床まで一緒は拙い気がするし」
「ダメだよ。ソファじゃ疲れは取れません。ちゃんとした所で寝よう」
「そう言われてもなぁ」と俺は内心で呟く。
「それじゃあ、居間に布団を敷くのはどうだ?」
小咲は「うーん」と考えてから頷いた。
「わかった。そうしよっか」
そこからは何事も無く時間が過ぎていった。
ともあれ、22時になった所で布団を敷き、俺と小咲は布団の中に入り、「おやすみなさい」と言ってから、眠りに着いたのだった。
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~翌日~
現在俺は、私服に着替え、小野寺家玄関前に居た。
「じゃあ、俺は帰るな」
「お母さんも帰って来たことだし、皆で朝ご飯をと食べていっても良かったのに」
「いや、これ以上迷惑は居座る訳にはいかない。楽も『飯を作ってあるからな』って言ってたし、集英組で摂るよ」
「そっか。じゃあ、また遊びに来てね」
「機会があったらな」
そう言って、俺は苦笑した。
「お世話になりました。またな」と言って、俺は踵を返し歩き出す。歩いている途中で後ろを振り返ると、小咲が小さく手を振ってくれていた。
このようにして、俺の思い出に刻まれた1日になったのだった。
いつも思うが、小説を書くのって難しい……。
余談ですが、小咲ちゃんは歩夢君の前ではほぼ羞恥心がありません(羽姉も)
では、また次回(@^^)/~~~
追記。
お泊りの夜に、事情は楽に伝えてあります。