ニセコイ~夢に紡ぐ物語~   作:舞翼

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シンガッキ

 入学式を終え、私は自分の席に着席し、机に覆い被さるように体を倒す。

 

「……入学初日から散々の目にあった。登校前からもう一度やり直したい」

 

「春は入学式(遅刻)でかなり目立ってもんね」

 

 私にそう言ったのは、中学時代からの友達である風ちゃん。本名は彩風涼ちゃんだ。

 風ちゃんは苦笑するが、私の高校デビューは前途多難だ。

 

「でも、春が遅れた理由が男の子と逢引だったとはね。それも年上の」

 

 当初は、風ちゃんと一緒に登校することになっていたのだが、今朝のナンパの件で約束を守ることが出来なかったのだ。

 風ちゃんはかなりの時間私を待っており、クラス分けの確認から入学式まで私をずっと気に掛けてくれたのだ。なので私は、凄まじい罪悪感で一杯だ。

 

「はうっ……。ごめんね風ちゃん!」

 

 私は背を正し申し訳ないと謝る。

 変わりと言ってはなんだが、風ちゃんの問いに正直に答えよう。

 

「それと逢引は完全な誤解だよ!確かに歩夢君は年上だけど、幼馴染だもん」

 

 風ちゃんは、私の言葉を聞き目を輝かせる。

 

「うそっ。春って幼馴染が居たんだっ」

 

「うん。歩夢君とは小学生からの付き合いかな。中学校から疎遠になっちゃったけど、今日久しぶりに再会したんだよ」

 

 まさか、本当に再会できるとは思ってなかった。偶然にしても、かなりの確率だろう。

 でも殆んど変わってなかったなぁ、歩夢君。

 

「で、幼馴染君がナンパから助けてくれたと」

 

「まさか、歩夢君が助けてくれたなんて予想外だったんだけどね」

 

 風ちゃんは頷き、

 

「でもそっか~。小野寺姉妹は歩夢君と幼馴染になるんだね」

 

「そうなるかな。でも付き合いの年数でいえば、お姉ちゃんの方が長いんだけどね」

 

 私は小学校低学年からだけど、お姉ちゃんと歩夢君は保育園からの付き合いだ。

 なので、時間。という面で見れば、一番はお姉ちゃんだろう。

 

「それにしても春、幼馴染君には敬語を使わないんだね。年上にはあれだけ気を使ってるのに」

 

 まあ確かに、風ちゃんの言う通り私は年上には必ず敬語を使う。

 でも歩夢君はもう友達感覚だ。もう私たちの間には、最低限の遠慮する(プライベート)位で、それ以外の遠慮は無いだろう。それは、お姉ちゃんにも言えることだ。

 

「うん。歩夢君とは、ほぼ遠慮がない感じかな」

 

「ふ~ん。そうなんだ」

 

 なんか風ちゃん、含みのある「ふ~ん」だ。

 

「あ……もう少しお話を聞きたかったけど、もうすぐチャイムがなるね」

 

 風ちゃんは「じゃあ、私席に戻るね~」と言って、自分の席に着く。

 ともあれ、学校も先生の必要事項を聞いて本日は終了らしい。……私としては、入学式をまともに出席していないので変な感覚なのだけれど。

 

「(さて、私の目的も果たさないとね。歩夢君がいるとはいえ、お姉ちゃんが危険だ)」

 

 私が聞いた噂で、凡矢理高校を “一条楽先輩”が牛耳ってるという噂だ。それから私は、膝の上に置いた両手をギュッと握り締めた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 そう意気込んでいた私ですが、帰り際に担任の先生から、職員室にプリントを運んで。と言われ、プリントを両手で持ち職員室へ向かう。

 

「きゃっ!」

 

「あ、悪ぃ」

 

 職員室までの道程の途中で、廊下の端から現れた男子とぶつかり、持っていたプリントを落しばら撒いてしまった。

 

「(も、もー!何なのよ、今の男子)」

 

 そう思いながら、私は溜息を吐く。てか、男子も悪いのにプリントを拾うのを手伝ってくれないとは……。

 私が散らばったプリントを拾い集めていると、

 

「春?」

 

 後ろを振り向くと、両手でプリントの束を持つ歩夢君。話によれば、入学式を遅刻した代償、らしい。

 ともあれ、歩夢君はプリントを廊下の端に下ろし、散らばったプリントを拾い集める。

 

「あ、歩夢君。私がやるからいいよ」

 

「気にすんな。俺も職員室に向かう次いでだし」

 

 そんなやり取りをした後、私と歩夢君はプリントを両手で持ち職員室に運び、私は歩夢君と並んで教室に向かう。

 

「そういえば歩夢君。凡矢理高校に“一条楽先輩”っているの?」

 

「居るぞ。てか、俺が居候してる家主だしな」

 

「へ?家主?」

 

 あ、あれ。一条先輩ってヤクザの息子だよね?……その場に居て、歩夢君平気なのかな?

 

「そ。両親はまだ海外に居て、俺が日本の高校に通ってるんだよ。んで、両親の知り合いの家に居候、ってことだ」

 

「な、なるほど」

 

 でも確かに、歩夢君は自分で“俺の両親はヤクザ見たいなもんだし”って言ったもんね。じゃあ、私が一条先輩に抱いてる疑問も思い込みだったり、所詮は噂だったするのかな?

 んー、自分の目で見てから決めた方が良いよね。……うん、決めつけは良くないし。

 

「お、いたいた。歩夢、帰るぞー。今日は野郎共が出てるから鍵が閉まってんだ」

 

「わかった。教室から荷物取ってくるわ」

 

「いや、荷物は持ってきたぞ」

 

 歩夢君の友達がそう言って、歩夢君の前までパタパタと歩いて来たのは小野寺小咲。――私の最愛のお姉ちゃんだ。

 

「はい、歩夢君。バック持って来たよ。皆で帰ろう」

 

 そう言ってから、お姉ちゃんは私を見る。

 

「春も今朝ぶりだね。ふふ、入学式目立ってたよ」

 

「お、お姉ちゃん。あれには理由があって」

 

 うぅ、お姉ちゃんにもからかわれるとは。

 でもきっとお姉ちゃんは、歩夢君から一連の流れを聞いているだろう。

 

「ん?小野寺がお姉ちゃん?」

 

 先輩が首を傾げる。

 

「自己紹介が遅れてすいません。私の名前は小野寺春。――小野寺小咲の妹です」

 

「あ、ご丁寧にどうも。オレの名前は一条楽。よろしくな」

 

「よろしくお願いします」

 

 私の第一印象だが、一条先輩が凡矢理を牛耳ってるとは考えにくい。所詮は噂だったのかも知れない。

 まあ第一印象がそう見えるだけかも知れないけど。

 

「てゆうか一条先輩、女の子を何人もキープしておくのはどうかと思います」

 

 そう。一条先輩の後方には金髪の超絶美人さんに、先輩に抱きつく美人さんが現れたからだ。てか歩夢君、何で肩を震わせたの?

 

「き、キープじゃねぇ。オレにはマイハニーがいるぞ。な、なあ、千棘」

 

「そ、そうね。ダーリン」

 

「……まあそういうことにしていきます」

 

 何か腑に落ちないけど、今はそういうことにしておこう。……まあ、お前は何様だ。って言われたらどうしようもないんだけど。

 

「んじゃ、皆で帰りますか」

 

 この場に居る皆が、うんと頷き、私は教室から鞄を持ち先輩たちが待つ場所に向かうのだった。

春ちゃん立ち位置アンケート

  • 幼馴染であり徐々にヒロイン
  • 幼馴染のみ継続

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