《駒王町:アザゼルの居るマンション》
《12年後》
「行ってきまーす」
「おう、頑張って来いよ~」
茨郎がアザゼルに拾われ、育てられ始めてから十数年が経過し、茨郎も少年から青年へと成長を遂げた、そして今は駒王学園と呼ばれる学校の二年生として健やかに過ごしていた
(去年はビックリしたなぁ……いきなり「駒王学園に行って来い!」って言ってくるんだもんなぁオジサン、まぁ、勉強とかはオジサンに教えてもらったりしてたから難なく合格できたけど)
茨郎はアザゼルの元に引き取られてから死亡者になってしまっていて戸籍がなかった為、学校には行けてはいなかったが、アザゼルが度々勉強を教えていたりしていた為何の問題もなく駒王学園へ入学し、そのまま流れるように一年を経過し、二年生となり、平凡な日常を送っていた
そして、この日も何事もなく授業を受けて、何時も通り家路に茨郎がつこうとしていると、少し離れた位置からヒソヒソとした話し声が茨郎の耳に微かに聞こえてきた
「今の声……もしかして」
茨郎はその声に聞き覚えがあった為に片手で持っていた手提げ鞄の持ち手に腕を通すと、声が聞こえた場所へ向かって行った
「オイッ、二人占めすんなよ…俺にも見せろよ」
茨郎が聞き取った声の主らしき人物は尻を振りながら壁に顔を押し付けている駒王学園の男子生徒と思われる人物の尻を引っ張り、壁から引き剥がそうとしていた
「はぁー……何というか、嘆かわしいって感じるなぁ」
「あぁ?ってお前は石頭の!」
「声が聞こえたからもしかしてと思って来てみたら…案の定だったかぁ、変態三人集さん」
「男はすべからく変態なものだ!変態で何が悪い!」
「変態だの何だのはどうでもいいとして、覗きは人としてどうなのかなぁ?って僕は思うかな」
茨郎が声を掛けると壁に顔を押し付けていた二人と、それを退けようとしていたもう一人が茨郎の居る方向を向き、茨郎の存在を確認すると同時に敵意丸出しの表情を見せてきた
「蛇垣茨郎(へびがきしろう)、ちょっと女子から優しくされるからと調子に乗っている嫌味なやつだ!」
「わざわざ説明有難う、訂正すると調子には乗ってないし、僕はあくまでも自分で正しいと思った事をしてるまでだ」
「くぅぅー!そういう発言一つ一つが我々の精神を逆撫でするんだ!」
「そうだそうだ!それに覗きは男のロマンだろうがー!」
「そうは言われてもね……僕は正しい事が大切だと思うんだよね、ついでに言うと、男のロマンって一括りにするの辞めてくれないかな?俺は少なくともそういうのはロマンじゃないと思うし」
「このロマンが分からないだなんて、人生損してるぞ!」
「一誠の言う通りだ!お前は人生の損をしている!」
「いや、そんな風に言われたところで、悪いんだけど僕は覗きは犯罪だと思うんだよね、その辺り被害者の女子の皆さんはどう思う?」
茨郎は自分に向けられて来る敵意のような物とその言葉に対して気にも止めていないかのような様子を見せつつ会話を行ない、そして、少し前に覗かれていた女子達の到着を待ってからその場を離れていった
「覗きなんてサイテー!!」
「そうよそうよ!茨郎君の言う通りよ!」
「それじゃ、そういう事で」
茨郎が離れて行った覗きの現場では先程茨郎に向けて敵意を向けてきていたのであろう男子生徒たちの悲鳴のようなものと竹刀で何かを叩く音が鳴り響いて聞こえてきていた
(あ~ぁ、何であんな事する人が度々居るんだろうなぁ……あんなのバレたら自分が不利になるだけなのに)
茨郎は空を仰ぎ見ながらはぁーと溜め息をつきつつまた家路につき、退屈そうな表情を浮かべて歩いて正門へと向かっていき、正門から出ると同時に茨郎は足を止め、自分の胸ポケットから小さな巾着袋を取り出した
そして、左の掌を上に向けて開き、その左手に向けて巾着袋の口を開いて傾け、巾着袋の中に入っている物を取り出した、巾着袋に入っていた物は小さい時にアザゼルから渡された茨の意匠が特徴的な指輪で、茨郎はその指輪を中指に嵌めると、自宅に向かって歩を進め、帰って行った
(明日もこんな平和な日々が続くのかなぁ…)
そんな事を考えていた茨郎を少し後ろから誰かがじっと見つめて、ついてくるかのように歩いてきていたが、茨郎が気付く様子は無かった