《人気の少ない路地》
「………へっ?い、一体何が…」
「オイッ、そこのお前、こっちを向け」
「………」
「何をしてる!早くこっちを向け!」
茨郎が自分の身の回りで唐突に起きた事柄に驚いて、身体を固まらせていると、茨郎の後ろから少し掠れ気味の男性の声が聞こえてきた
茨郎がその声に言われるがままに振り返ると、其処には左目に眼帯を付け、その下には痛々しい傷跡が付いている男が立っていた
「お前、あのアザゼルの家に出入りしているだろう」
「あ、アザゼルオジサンのお知り合い……ですか?」
「いいやぁ、向こうが有名人だからな、俺が一方的に知ってるだけだ」
「へ、へぇ~……そうなんですかぁ……」
茨郎は男に質問をしながら逃げるための隙を伺いつつ、男にバレないように摺り足でゆっくり、ゆっくりと後ろに後退し、頭の中で必死に逃げる算段を企てていた
(この人と対面してると、冷や汗が止まらない……今すぐにでも逃げないと……)
「オイッ、何かさっきよりお前が遠くねぇか?」
「き、気のせいじゃないですかねぇ?」
「オイオイ、人と話すときはちゃんと目を見て話せよ!オイッ!」
「ひっ!」
茨郎がゆっくりと後退している事を男に気づかれかけている、と思った茨郎が目を逸らしながら必死に嘘をついていると、それが気に食わなかったのか男は茨郎に向けて右手の人差し指を向けてきた
すると、その指の先に小さな魔法陣が現れ、茨郎が持っていたビニール袋を突き破ったものと同じ光が茨郎の頬を掠めて飛んでいった
「っとぉ、外れちまったかぁ」
「た……助けて……助けてぇぇぇ!!」
「オイオイ、逃げてんじゃねぇよ!」
「イ゛ッヅッッ!アァァァ!!足がァァ!!」
頬を掠めて飛んでいった光に恐怖を抱いた茨郎は一目散に逃げようと男に背を向け、一心不乱に走り出した
しかし、それを見た男はすぐさま人差し指を茨郎の太腿に向けてきて、今度は茨郎の太腿に向けて光を放ち、放たれた光はやすやすと茨郎の足を穿ち、鮮血吹き出す風穴が空いてしまった
茨郎は足を撃ち抜かれた痛みで転倒し、その際に胸ポケットに仕舞い込んでいたお守りを落っことしてしまった、が、茨郎は足を穿たれた痛みでそれどころではなく、必死に足を抑えていた
「ハハハッ!これでお前はもう逃げられない!お前を捕まえて人質にして、アザゼルをぶっ殺してやる!」
「嫌だ……死にたくない……来るなぁぁ!!」
「うるせぇなぁ!人質は黙って捕まってろ!」
「あぐぅ……」
必死に涙を堪えて茨郎が足を抑えていると襲ってきた男はニタニタと笑みを浮かべながら茨郎に近づいてきていた、それを察知した茨郎は足の痛みも堪えて、這ってでも逃げようとし続けていた
すると、それにも腹を立てたのか襲ってきた男は茨郎の腹に蹴りを叩き込み、茨郎の身体はゴキィッ、という音を奏でながら2m程吹き飛んだ
「さぁて、これでようやく大人しくなったなぁ」
(……僕はこのまま死ぬのか?……嫌だ…死にたくない!もっと生きたい!オジサンに恩返しもせずに死ぬなんて嫌だ!)
「まっ、保険も兼ねてもう二、三本骨を叩き折っておくか!」
(嫌だぁぁ!!)
骨を叩き折られ、身体を蹴り飛ばされ、仰向けに倒れていた茨郎は死にたくないと、もっと生きていたい、アザゼルに恩返しをしたいと心の中で叫んでいた
だが、心の中で幾ら叫ぼうと誰も助けには来ず、襲ってきた男は茨郎のすぐ近くまで歩いてきて、茨郎の腕に向けて拳を振り下ろしてきた
「これで俺も上級の仲間入りだぁ……あ?」
「あ……れ?痛く…ない?」
「何だぁこりゃぁ!!」
「茨の…蔦?」
が、襲ってきた男の拳は茨郎の腕に当たる事はなく、突如として茨郎の腕を保護するかのように現れた茨の蔦にぶつかっていた
そして、茨の蔦は襲ってきた男の拳に絡みつくと、そのまま男の全身を包み込み、その身に生えている棘でゴリゴリと男の体を削り取っていった
「イデぇぇ!出じでぐれぇ!俺は…こんな…ところで…死ぬ…様…な…男…じ…ゃ」
「一体…何が起きてるんだ…」
「あーぁ、覚醒しちまったか」
「アザゼル……オジサン?これは一体……」
「そこら辺は帰ってから説明してやるから、ほれ、おぶってやるから来いっ」
茨郎が突然起きた事柄に困惑していると、周囲に大量の黒い羽が舞い降りてき始め、茨郎の後ろにアザゼルが舞い降りてきた
そして、アザゼルは茨郎の今の状態を把握したのか茨郎を連れて帰ろうとし始め、茨郎はアザゼルに言われたとおりにアザゼルの背におぶさった、すると、腕から現れていた茨も何時のまにか消え去っていた
茨郎をおぶさると、アザゼルは茨郎が買ったものが入ったビニール袋を全て拾ってから天高く舞い上がり、自分たちが住んでいる家へと飛び去って行った
《アザゼルの自宅》
自宅の前の廊下に帰り付くと茨郎はアザゼルの肩を借りながら自宅の中へと入っていき、悪魔に穿たれた足や骨を折られた横腹、他にも傷を負った各所に薬を塗ったり包帯を巻き付けたりされていった
「……ねぇ、オジサン」
「どうした?茨郎」
「オジサン、さっき翼生えてたよね?それに何だったの?僕から出てきたあの茨は一体」
「あぁ、それは順番に説明してやるよ」
茨郎の体に薬を塗り込み、包帯を巻き終えるとアザゼルは茨郎の正面に座り込み、茨郎の質問への説明をし始めた
「先ず、俺は人間じゃねぇ、堕天使だ」
「堕天使って……あの神話とかに出てくる…あの堕天使?」
「良く知ってるな、その堕天使だ、で、俺はその堕天使の中で総督をやってんだよ」
「そ……そうだったんだ…」
茨郎がアザゼルが自分に告げたアザゼルの正体に驚きを隠せずに居ると、アザゼルは茨郎から投げかけられていたもう一つの質問への返答もし始めた
「で、お前さんの身体から出たあの茨、ありゃあお前が持ってる神器(セイクリッド・ギア)ってもんの力だな」
「神…器?」
「あぁ、俺が研究してるもんでもある」
「オジサンの研究物……つまり、僕を拾ったのは研究のついでだった…とか?」
茨郎は自分に知らない内に備わっていた神器についての事柄や、アザゼルがそれを研究している、という事柄を聞き、自分は研究材料として拾われたのではないかと思い始めた
「最初はそのつもりだったんだがな……まっ、今では本当の息子みたいに思ってるがな」
「本当の……息子?」
「あぁ、そうじゃなきゃ今頃お前を部下に押し付けてただろうしな」
アザゼルがそうやって喋っていると茨郎はポロポロと涙を流し始め、それを見たアザゼルは慌てた様子になっていた
「どした!?俺が親じゃ嫌だったか?」
「うぅん……僕…オジサンに拾われて良かったって思って……そしたら涙が…」
「そうか……まぁ、何だ、これからも宜しくな?」
「うん!」
アザゼルが自分の頭の後ろを掻きながら右手を出し、それを見た茨郎はアザゼルの手を握り、そのまま自分の頭を押し付けていた
「そういや、これからはお前に神器を使った戦い方とか教えてやらねぇとな」
「戦い方?」
「おう、これからも多分今日みたいな厄介なやつが出てくるだろうから、一応な」
「分かった、それで、どうしたら良いんだろ?」
「……あんまり俺は戦うのは得意じゃねぇからな、お前の傷が治ってから部下の所に連れて行ってやるからそいつ等に聞いてみたりしてみろ。取り敢えず、今は傷の治療が先決だ」
「うん、分かった」
アザゼルは茨郎に傷の治癒に専念するように言うと、茨郎の部屋に入り、茨郎の寝具を敷いた後に茨郎の体をその上で寝かせ、部屋の電気を消し、部屋を後にした