鉄血もグリフィンも争わない平和な世界を死に損ないが満喫するだけ 作:葉桜さん
グリフィン・鉄血共同寮舎最上階。
この前の
今日は特に騒がしいわけでもなく、静かなプライベートの時間を満喫していた。
何せ、仕事が無いと思わせておきながら意外と仕事がある。実は修理以外にも人形たちの相談等に乗ることだってある。どうしたら強くなれるか、喜んでもらえるか。
逆に、自分の欠点をどうすればいいかなど……数えればキリがない。そんな人形たちの相談役ともなっている俺だった。
この前の騒ぎからは、何とか私室の平穏を守っている。
ソファーに座り込んでふんぞり返るような体制でぐだーっとだらけている。だっていつもが騒がしいんだもの。
まぁ、それが一番俺が望んでいたものだが。
そんな静かな部屋の中、インターホンが鳴り響いた。
……律儀にインターホンを鳴らすとは珍しい。
カメラのモニターを確認すると、そこには2人の人形。
どちらも落ち着いたお姉さんという印象の2人がいた。
片や鉄血所属、片やグリフィン所属で、意外にも珍しい組み合わせでやってきたものだ。
「……今鍵開けるから、入っていいぞ」
そういって扉の鍵を開ける。
……どうも、1人で落ち着ける時間は無いみたいだ。
「……すまない、唐突に押しかけてしまったな」
「本当にすみません、困っている所を放っては置けなくて……」
先程俺の部屋の前に現れた2人の人形。
鉄血のハイエンドのような……いや、ハイエンドそのものだが。そんなモノクロなカラーリングが特徴的な白く長い髪をしていて、鉄血達の中でも際立ってクールな印象を受ける人物……
もう片方はグリフィンの中でも名の知れている人物。その穏やかな物腰や魅力的な佇まいからは想像もつかないほどの実力者であると裏で囁かれているほどの人気者。
スプリングフィールドだ。
この2人が一緒にいるとは珍しい。
本当に何があったんだと思えるような状況だ。
さらに追い討ちにはいつものようなテンションじゃないのだ。アルケミストが妙に落ち込んでいる。
お前はそんな性格だったか……?
そんな風にさえ思う。
世界線が変わったと言えど、さすがにここまで大きくは変わらないだろ……と内心思った。
「……アルケミストがそこまで落ち込んでるって、明日は
「本人を目の前にして散々な言い様だな、首を斬られたいか?」
いや全然。滅相もございません。
冗談だ冗談と引きつった笑いでなんとか誤魔化す。
まぁ、こんな世界線な以上向こうも本気じゃないのだろうが、戦場でないところで武器持ち出されたらビビる。
普通にビビる。
だって怖いじゃん。
話を戻そう。
どうしてアルケミストはそこまで落ち込んでいるんだと直接的に聞いてみた。
回りくどく聞くのは性に合わない。
変に気を使うよりも、さっさと聞いてさっさと処置する。人形の修理と同じようなものだ。
普段はあまり弱音を吐かないコイツだ。
相当重い事があったのだろう。
……そう、覚悟して聞くつもりだったのだが。
「…………最近、
沈黙。
ただただ沈黙。
いや、どう答えていいんだこれと完全に言葉に詰まった。
隣にいるスプリングフィールドは完全に苦笑していた。
「……まぁ、とりあえず、事の経緯を聞かせてくれ」
アルケミスト曰く、最初に言った通りに最近デストロイヤーが彼女を頼ってくれなくなってしまったらしい。
なんでそういう風に思ったのかを聞いてみると、色々なことに対してアルケミストが手伝おうとすると、一人で出来ると突っぱねられてしまうようだ。
いつもの私生活に関してもそうだし、時々出る戦闘任務に関してもそうらしい。
言われてみれば、昔もアルケミストは姉のような感覚で皆の面倒を見ていたなと思い出した。特にデストロイヤーは良く懐いてくっついていたし、それを世話するアルケミストもどこか機嫌が良さそうだった。
それがここでも反映されてはいたが、ある日突然そうやってくっついたりしなくなったし、自分を頼ってくれなくなった……親離れならぬ、姉離れと言うやつだろうか?
「……確かに、突然よく後ろを付いてきていた子が急に離れると、寂しくなっちゃいますよね」
分かってくれるか……?と弱った目をスプリングフィールドの方に向けるアルケミスト。
スプリングフィールドもここでは人形の姉のような存在であり、その気持ちがわかる数少ない人形だった。
なぜ付いてきたか、それは自分にも分かるような感情での悩みだったから余計に放っておけずに来てしまったらしい。2人の人形は固く握手を交した。
「スプリングフィールド……!」
「アルケミストさん……!」
ここに、人形姉同盟が生まれた。
……本当の姉妹はどちらも居ないのだが。
まぁ、この光景も平和的で面白いからいいのだが。
で、なぜ俺に駆け込んできたのかが分からない。
俺はそういう感覚が分かるようなわからないような微妙な立ち位置だからそういうのはちょっと……となる。
「お前なら、私達の事をよく見ているから分かるかと思ったんだ……と言うより、皆の中では困ったらお前のところに行くといいと言われているぞ」
「グリフィンの子からもリオンさんの評判、結構いいんですよ?」
なんかもう、やっぱりとは思ったが。
相談役のような話が出回っているのか……
俺も万能ではない。
人の気持ちが読めるわけでもなければ、全てにおいての対処法を知っている訳でもない。
そんな俺になぜそんなにも相談が回ってくるのか。
理解出来なかったが、まぁ頼られた以上はしっかりと聞いてあげなくてはならない。
何度も言うが、それも俺の役目のひとつだと思っているからな。
「……デストロイヤーがねぇ。確かに、アイツは子供っぽいし、お前たちに甘えているところもよく見る。……こりゃあ、あいつの行動をよく見てみる必要があるかもな」
デストロイヤーは恐らく、鉄血ハイエンド勢の中で最もメンタルの年齢が低い。故に妹扱いや、子供扱いをされることが多い。本人はそんなことないと抗議しているが、なんだかんだ言ってもその甘やかしを享受している。
何回か俺の方にも縋り付いてきたこともあった。
そんななんだかんだで受け入れているデストロイヤーが急に変わる理由……あまり思いつきはしないが。
当の本人の動きを見るのが1番だろう。
かと言って、隠しカメラをつけるなんてしたら俺が犯罪者としてしょっぴかれてしまう。
折角こんな平和な世界線に来たというのに
となると……上手いこと動向を探って偶然居合わせたという体で話してみるくらいしかない。
「……まぁ、アイツのことだ。そんな悪いことは思ってないだろ。明日、ちょいと調べてみるよ」
その旨を伝えたら、アルケミストは静かにありがとうと礼を返してくれた。彼女らしくもない。普段一番礼を言わなさそうな奴筆頭だと言うのに。まぁ、意外に義理堅いやつというのも元々知っていたが。
スプリングフィールドのほうもお願いします、と丁寧に頭を下げる。ここまで頼まれては、こちらも引くわけには行かない。
次の日。
あの後、デストロイヤーを見たという人物を手当たり次第に当たってみたが、全員が全員色々なところで見ているようだ。だが、比較的多く見られているのは射撃演習場だそうだ。
彼女がアルケミストから距離を置く理由を聞くためにも、射撃場へと向かった。
最近はあまり使うことの少ない射撃演習場。
人気の少ないこの場所に目立ちやすい格好の少女が佇み、時に手に持つ大きな得物を持ってして演習ドローンに対して非常に強い衝撃を与えては吹き飛ばしていた。
「……よう。最近にしちゃ珍しく訓練か?」
「わぁ!?なーんだ、リオンさんかぁ……」
驚いてビクリとする一人の幼い少女。
恐らく、鉄血一可愛いと呼ばれるであろう彼女がデストロイヤーだ。いつ見ても可愛らしい人物ではあるが、1番の破壊力を持つ得物を使う、まさに破壊者の名に相応しい人形だ。
そんな彼女が情報通り、射撃演習場に来ているとは珍しい。
本来、彼女の役割は対人戦等ではなく、破壊工作がほとんどだ。それなのにも関わらずこんなところに来るとは、なにか理由があるのだろう……だからこそ、ここに踏み込んだ。
「随分と頑張ってんだな。……なんか、頑張るだけの理由が出来たか?」
「う……そういう訳じゃ、ないケド……」
なにか言えなさそうな雰囲気だ。
こりゃ当たりかもしれない。
もう少しだけ詰めてみるとしよう。
デストロイヤーはなんだかんだ言って素直で正直だ。嘘が上手い方ではない。
その証に既に俺が嘘だなと確信している。
「……言えないことなのか?……後ろめたいことでもないだろ」
そう言って近くのベンチに腰掛ける。
グリフィンの職員とは思えないような態度だが、これがいつもだ。偉そうだなと思われているかもしれないが、そのくらいの余裕を見せた方がいい。
優しい声色で唆してみる。
ちょっと悪いことをしている気分になってきた。
「そのー……アルケミストに、頼ってばかりもいけないかなって思ってて……それで、ちょっとはこういうこと頑張った方がいいかなって……」
なるほど。やっぱり正直だ。
すぐに心の内を明けてくれた。
曰く、デストロイヤーはアルケミストにいつも頼ったり、甘えてばかりいるから悪く思ったようだ。
その結果、アルケミストへの恩を返せるように頑張って訓練をしていたらしい。他のところで見かけたところも聞いてみたが、こういった戦闘訓練だけでなく、日常的なことも頑張って覚えようとしていたようだ。
「……全く、健気なやつだな。お前は」
自然と手が手頃な頭の上に乗っかっていた。
ちょっと荒っぽく、わしゃわしゃと頭を撫でる。
やめてよー!と聞こえるが、ちょっと丁寧にするだけ。
だって、あまりにもこの子がいい子なんだもの。
むー、と頬を膨らませてツンとしてしまう。
全く、アルケミストがつい世話を焼いてしまうのもわかる気がする。
「どこかで聞いたの。頼りすぎてると、その人がいなくなってしまった時にどうするの?って……だから……」
「……大丈夫だよ。お前にその意識があるなら、頼りがちなお前だって変えられる。……でもな、それはしっかりと本人に言ってやれよ。アルケミスト、嫌われちまったんじゃないかって心配してたぞ」
本人が心配していた事をバラしてみる。
そんなことを聞いたデストロイヤーは、アルケミストを嫌いになるわけないじゃん!と声を大にして言っていた。それはそうだ。自分の姉貴分が好きだからこそ、迷惑をかけないように頑張っていたのだ。
このことを聞いたら、アイツは喜ぶだろうな。
そう思った時だった。
「……デストロイヤー?」
「……あっ、アルケミスト……」
随分なタイミングだこと。
どうも、スプリングフィールドが協力してくれてここにいることを教えてくれたらしい。
途中からなにか気配がするなと思ったら、そういう事だったのか。
「……どこから聞いてたの?」
「お前が私に頼りすぎていると思っているというところからは聞いていたよ」
アルケミストは続ける。
私の事を思ってくれるのは嬉しい。
でも、急に距離を取られるのは辛いと。
それに……
「私は姉のような物だ。頼っても全然悪くは無い。妹の世話を焼くのも、姉の仕事だろう?」
その一言で、空気が変わった気がした。
詰まっていた空気が和らいだというか、温かい雰囲気に変わったというか。
当のアルケミストは、普段見せないような優しい顔をデストロイヤーに向けていた。その理由がわかって安心したからなのか、それとも、彼女にそんなことを思わせてしまっていたのかという罪悪感か。
どちらにせよ、その表情はあまりにも平和的だった。
そんな言葉を聞いたデストロイヤーは、思わずアルケミストに飛びつく。
「ありがとう、
全く。
ここの姉妹というのは、どうしてこうも微笑ましいのか。
良かったな、アルケミスト。
そう微笑みながら声をかけた。
そんな当の本人は、お前には感謝しなきゃならないなといつものクールな表情に戻っていた。
「スプリングフィールドにも感謝しとけよ」
「ああ。彼女も色々手を尽くしてくれた。……グリフィンの人形たちは、随分と協力的で助かるな」
冷徹な鉄血の戦術人形は、グリフィンの温かみをその身をもって味わった事だろう。今まで以上に、その顔が穏やかになっていた。
その後、アルケミストとスプリングフィールドはセットでよく
悩み相談とかではなく、かしましい妹分談議なのだが。
まぁ、それはそれで楽しそうなので良いとしよう。
……何時になったら、俺の部屋は集会所から脱却できるんだ?
・今回はアルケミストとデストロイヤーちゃんメインのお話でした。スプリングフィールドさんはお姉さんキャラだと思っているので今回のアルケミストと気が合うんじゃないかとセットで出演させることに。今回のキャラ紹介です。
アルケミスト:鉄血のドS人形……と言われるような面影が今回少なかった。鉄血の仲間をめちゃくちゃ大切にしてくれる姉貴分。おそらくデストロイヤーを1番甘やかしている。姉貴としてはめちゃくちゃ出来ててかっこいい。
デストロイヤー:鉄血ハイエンド勢の中でおそらく最年少扱いの子。この世界線では健気だけど空回りしがちな子のイメージで。アルケミスト大好き妹。恐らくこれからは色々な被害者になりそう←
スプリングフィールド:落ち込んでいる珍しいアルケミストの第1発見者。本当はカフェをやっているが偶然休みの時に居合わせた。この次元では色々な人形に対して大人の余裕で対応するお姉さんポジション。アルケミストと意気投合しちゃった。
・アイエエエ!?評価バー!評価バー増えてるのナンデ!?と評価数が妙に伸びていてビックリしました。感想をくれる方も増えてくださり、あっ、タノシイ……タノシイ……となり書く手が早くなっています。そろそろどころかもう粗が出てそう。
・近々、季節ネタの話もやりたいなぁと思っています。コラボもこちらから申し込んでやったりとかもしたいなぁ……とも。書きたい話はいっぱい。
次回もお楽しみに!