鉄血もグリフィンも争わない平和な世界を死に損ないが満喫するだけ   作:葉桜さん

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温和日常IV:情報屋侵入者

鉄血工造、建物内……

 

 

 

暗く陽の当たらない場所に、蠢く影が2つ。

 

 

 

「……例の物は持ってきた?」

 

 

 

「……ええ。勿論、ご要望通りにね」

 

 

 

「……ありがと、これは報酬よ」

 

 

 

「ありがとう……これで取引完了、ですわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グリフィン建物内、指揮官の部屋。

あの指揮官のものとは思えないほど整っている室内。よく整理されたデスクに、様々な装飾品。

それだけのものがあると言うのに乱雑さを感じさせないしっかりとしたレイアウト。

ここに来る者は、上官の前だということを意識させられそうなほどの雰囲気を出している。

そんな中で、仕事をする1人の影と、息抜きに来た1人の影があった。

 

 

 

「……ねぇ、リオンさんや」

 

 

 

「なんだい、クラウスさんや」

 

 

 

今、仕事中なんだけど……

そんな声が聞こえた気がした。

そんなことは事知らず机の上に座っている。

仮にも指揮官の前だと言うのに大丈夫かと言われそうだが、俺とあの指揮官の仲だから許されている。

積まれた資料の山を見てうわぁ……と声が出るが、手伝うことはあまりない。何故か?この程度ならぱっぱと終わらせてしまうのがこのバケモノ指揮官だからだ。

 

 

 

「そう言えば……最近妙な噂があるんだよね……」

 

 

 

「なんだそれ」

 

 

 

クラウス曰く、その噂では

グリフィン内にある情報をグリフィン・鉄血内だけで売買するという恐ろしい人物がいるらしい。

と言っても、最重要な機密情報ではなく部屋のキーから個人個人のプロフィールや好きな物、趣味、隠し事やら何から何までを教えてくれると言うらしい。もちろん、対価は必要だそうだが。

自分のプライベートを知られることもあるらしい。

 

 

 

さらに指揮官は続けた。

最近自分の部下という扱いになっている戦術人形たちが夜這いを仕掛けてきそうになったり、いつの間にか待ち伏せをしていたり、妙なテンションになっていたりという変に恐ろしい未知の事象に鉢合っているようだ。

 

 

 

「9A-91が俺のベッドの中にいたり、TMPがいつの間にか俺の私室で日向ぼっこしていたり……なんというか、色々と不可思議なことが多すぎてね」

 

 

 

流石に彼は嘘はつかない。

だが、本当だとしたら色々危ない。

そんなことをする奴は早く止めなければ。

恐らく、指揮官が襲われる。

物理的ではなく、もっと別の意味でだ。

そんな指揮官の貞操を守るためにも、ある程度の調査をしなければならないだろう。

そういう風に2人で唸っているところに、一人の人形が入ってきた。

 

 

 

「入るわよ、指揮官」

 

 

 

高圧的な言葉使いで入ってきた人形……

自らを殺しのための道具と呼びながらも、人間のような一面をいつも見せる……いわゆる、ちょっとしたポンコツな人形。

自称エリートのツンデレこと、WA2000だ。

なぜ彼女がここにいるかと言うと……

 

 

 

「お、わーちゃん!ごめんね、今お客さんが来てるんだ」

 

 

 

指揮官は、わーちゃんと言う愛称で呼んでいる。

そんな呼び名で呼ばれたWA2000はわーちゃんって呼ぶな!と猛反抗している。眉間撃ち抜くわよ!という恐ろしいことも時々聞こえてくるのは何故だろうか。

 

 

相対する指揮官は、どこか楽しそうで嬉しそうだ。

まぁ、俺もこの光景は見慣れた。

つっけんどんなWA2000をからかってはその反応を楽しんでいるのが指揮官だ。悪い奴だなと思いながらも、当の本人も本気で嫌がっている訳ではなさそうなことから何も言わないでいることが多い。

 

 

そんなWA2000だが、追加の資料を持ってきたらしい。

ただでさえ多い仕事量にさらにプラスするのかと思っていたが、当のクラウス指揮官様は適当な話をしながらぱぱぱっと終わらせていく。

恐ろしい男だ。

 

 

 

「ありがとね、わーちゃん」

 

 

 

「べっ、別に……あんたが私を副官にしたからやってるだけであって……これは普通の仕事内容よ!勘違いしないでよね!」

 

 

 

笑顔で感謝を伝える指揮官。

そんな言葉についつい赤面してつっけんどんな態度を取ってしまうWA2000。甘い。……非常に甘ったるい。

コーヒーかなんかを飲んでいたらあからさまに苦さが消えるレベルだ。この2人、俺がいるという事を忘れているのではなかろうか。未だ遠慮せずに指揮官は、自然に口説いているし、そんな指揮官の言葉を受けてまた赤面する。

 

……だんだんとここにいるのが悪く思えてきた。

 

 

 

「……あっ、そうだ。……その、指揮官。これ、余ったから食べたければ食べていいわよ」

 

 

 

そう言って、WA2000はクッキーを机に置いた。

生地の中にはチョコが混ぜこまれており、オマケにチョコチップまで入っていた。

別にあんたの為に作った訳じゃないから、ただ余っただけよと素直じゃない声が聞こえる。

……たしかこれは、アイツの好物だったはずだ。

隣を見れば、もう完全に目を輝かせている。

食っていい?これ食っていいんだよね?と完全に腹を空かせた野生動物のような目をしている。

俺でも流石にそれは引く。

 

 

 

「それじゃあ……遠慮なく頂きます」

 

 

 

そう言って、クッキーを貪るアレの顔はもうだらしないだらしない。確かに、美味しいのは分かるがそんな顔をしては行けないだろう。

ちらっと横目でWA2000を見て見たが、こちらの方も指揮官が見てないことをいいことに喜んでるのが目に見える。

……よくコイツの好みを知っていたなと感心する。

 

 

 

「これ凄い!俺の好きな味的確に抑えてるよ!ありがとうわーちゃん!」

 

「わーちゃん言うな!……まぁ、その、喜んでるなら良かったわ」

 

 

 

なんというか、ここだけ空気が違う。

助けて。胃もたれ起こしそう。

と言うか、非常に邪魔者になっている気がして申し訳ない気持ちと何やらで滅茶苦茶潰れそう。

とりあえず、なんとか出てみよう。

 

 

 

「……そろそろ何か仕事が入りそうだと思うから、俺はそろそろ退散するわ。例の噂の件は気になったら調べてみるから」

 

「あら、そうか。まぁ無理しない程度にね」

 

 

 

例の噂、という単語が出た時にわーちゃんがピクリとした気がする。俺は見逃さなかったぞ。

……どうも唐突なやり取りと言い、急な行動といい。

こいつは何かある気がする。

謎の情報屋……色々な意味で恐ろしいやつだ。

必ず尻尾を掴んで正体を暴いてやろう。

そう思って執務室から出た……

 

 

 

矢先だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あら?貴方は……整備者(リオン)さんではありませんか」

 

「ん?あぁ、侵入者(イントゥルーダー)か。珍しいな、お前がこっちの方に来るなんて」

 

 

 

そこに居たのは、普段はここで見ない人物。

演劇の様な言葉の言い回しをする、いかにも胡散臭いと呼ばれそうな人形最上位のハイエンド人形、イントゥルーダー。

 

俺が知らなかった、数少ない人物のうちの一つだ。

彼女に関しては俺はここに来てからの全くの初見。

中身がどんな物かも分からないため、正直なところ接し方が他の鉄血ハイエンドたちとは勝手が違う。

さらに飄々とした態度だから扱いが難しいったらない。

 

 

 

「私がこちらへ来たのは偶然用事があったからでしてよ?」

 

「へぇ?……まぁ、そういう時もあるか」

 

 

 

彼女は偶然執務室の前を通りがかったらしい。

……にしては随分と扉に近かった気がするが。

……考えすぎか。

今執務室にはWA2000と指揮官。

あの甘い空間を見た奴はあそこに入ろうとは思わないだろう。いや、邪魔できるわけがない。

 

 

 

「そちらこそ、妙な足取りで執務室から出てきましたが。何かあったのですか?」

 

「……いいや?WA2000と指揮官が仲睦ましげだったんでね。邪魔者は退散したってことだ」

 

 

 

執務室から出てくる俺の姿が結構おかしかったらしい。

少し半笑いで言われた。

ちょっと腹立つぞ。

……でも、そんなにおかしい格好をしていただろうか。

まぁ、多少げっそりはしていたかもしれないが。

 

 

 

「……どうやら、役に立ってくれたようですわね」

 

 

 

おい。

あからさまに小声で絶対に怪しい事言っただろ今。

ボロを出すのが早すぎる。

今のも聞き逃さなかったからな。

リオンさんは地獄耳なんだぞ。

ちっちゃい事でも齧り付くんだぞ。

 

 

 

「……どういうことだ、イントゥルーダー?」

 

 

 

なんでもありませんわと何事も無かったかのように返しているが、絶対に何かを隠している。

いや、何かと言ってもほぼ確信だが。

……確か彼女は、セキュリティのハッキング等に長けていて、情報戦に関しても得手だった筈だ。

一番重要なのは、情報に強いということ。

さらにハッキング等にも長けているとなれば……

 

 

 

「まーさかとは思うけどさぁ……噂の正体はお前か?」

 

「な、何のことを言っているかわかりませんわ(棒読み)」

 

 

 

完全な棒読みだ。

あからさまにコレだ。

飄々な態度が早めに崩れてくれたのは助かったというところだが。

表情は変わらず薄ら笑いをうかべたままだが、確実に焦っている。……会ったばかりの頃の冷静なキレ者の1面はどこへ行ったのやら。それとも私生活ではスイッチを切りかえているのか?そんなことはどうでもいい。

 

 

 

「……ちょーっと来てもらいましょうかね、大きなネズミさんや」

 

「私何も知りません!何も知りませんから離して下さいませ!本当ですのよ?私無害なハッカーですので!」

 

 

 

見苦しい言い訳だ。

と言うより、ハッカーは広義で言うと悪い奴だ。

本当の意味は違うが、広く知れ渡った単語をここで使うのは悪かったな。

 

 

 

「……えっ!?ちょっ、イントゥルーダーさん!?」

 

「おろ、なんでリオンが引っ張ってきたのさ」

 

 

 

執務室にこのデカいネズミを連れて突きだした。

そりゃあプライベートの危機なんだ。

そうもする。

犯人は確実に彼女なのだ。

……あくまで持っているのは失言という名の言質であり、証拠と呼べるものはそれくらいしかないのだが。

 

 

 

WA2000は慌てふためき、指揮官はなぜここにイントゥルーダーがいるのかまだ理解できないまま思考停止していた。あまりにもわーちゃんの慌てようが異常だ。

これは……グルだな?

 

 

 

「……おそらく、こいつがその情報屋だ」

 

「え”っ、こんな近くにいるものなのかい!?」

 

 

 

口を尖らせるイントゥルーダー。

私は一切喋りませんと言わんばかりの態度だ。

もう容疑はかけられている、覚悟したまえ。

 

俺はイントゥルーダーがその情報屋だと思う根拠を述べた。彼女が性能的に電子戦特化であり、ハッキング等の情報に強い人形だということを主にして、ついさっきの失言の件も合わせながら説明した。

 

 

 

「ふむふむ……筋は通ってるんじゃないかな」

 

「で、ここにお客様が1人いらっしゃる」

 

 

 

そう言って、WA2000の方を向く。

確実に目を逸らした。

もう当たりだ。

確実に当たりだ。

……真偽の程は?とイントゥルーダーに問うが、答えない。私は知りませんよ〜と口笛を拭きながらごまかす。

今のお前、演出家じゃなくて道化師になってるからね。

 

 

 

「……そうだな、クラウス、教えたはずのない情報とか思い当たる節とかはあるか?」

 

「うーん……あ!」

 

 

思いついたように指揮官が言った。

 

 

俺、お菓子の好みは誰にも教えてなかったんだ。

 

 

と。

わーちゃんがくれたのドンピシャで、しかも味も全く持ってど真ん中だったから驚いちゃったんだよねと気の抜けた顔で話した。ああ、これは完全にトドメ入ったなと確信した。

 

つまり、わーちゃんはイントゥルーダーから、指揮官の好みについてを仕入れた。普段から仕事をしている指揮官への感謝か、それとも本人の指揮官への好意からかは分からない。

だが、結果として指揮官が喜ぶ結果になったから内心あんなに喜んでいた。

ここまで俺が見ていた出来事の辻褄が合った。

 

 

 

「……弁明はあるか?侵入者さん」

 

「わ、私は良かれと思ってやったのよ?だって、恋する乙女とかって応援したくなるじゃない?だから、少しでも力になろうと思って調べた訳で…… 」

 

 

 

……こいつも、悪意が無いタイプだった。

良かれと思ってやった事だと。

まぁ、その弁明の仕方からしても悪気は本当に無いのだろう。……仕方が無いなと一息つく。

こちら側は後で問い詰めようと思った。

が、まだ問題はあった。

思い切りネタばらしをされたわーちゃんだ。

 

 

 

「……そ、その……これは……」

 

「わーちゃん」

 

 

 

いつにもない真剣な表情、真剣な声。

WA2000は恐怖に震えた。

また怒られてしまう。

指揮官に嫌われてしまうと恐れた。

指揮官に気にいられたいからやった事なのにと自分のやったことを後悔した。

 

 

 

「わざわざ回りくどいことせずに聞いてくれた方が嬉しかったのにな〜、ほら、そしたら俺に興味を持ってくれてるかな〜とか、そういう方向でも自覚できて嬉しかったんだけど……」

 

 

 

……はずだったのだが。

どうやらこのほのぼの指揮官、全く持って自分の情報を買われたことに関して怒っていない。触れてすらいない。

なぜそこまで寛容なのか。むしろ寛容すぎて怖い。

 

 

 

「そ、そんなこと面と向かって聞けるわけないでしょ!バカ指揮官!アホ!朴念仁!」

 

「ちょっと!?すっごいひどい言われようなんだけど!?そりゃないよわーちゃん!」

 

「うるさい!私の気持ちなんてどーせわからないわよ!」

 

 

 

また始まった。

……正直な所、この話で仲が険悪になってしまったら後悔するにしきれなかったんだが。

だが、指揮官が指揮官なだけになんとかそういうことは回避出来たらしい。ひとまずは安心だ。

……イントゥルーダーにはまだ問うことがあるが。

 

 

 

「まだ余罪の疑いはあるぞ。……指揮官の部屋に侵入した人形がいるんだとさ。身に覚えは?」

 

 

 

 

そんな問いを投げかけられたイントゥルーダーだが……

 

 

 

「……?いえ、私が情報を渡したのはWA2000だけのはずよ」

 

 

 

全く動じず。

さっきの慌てようはどこへ行ったのだか。

聞いてみれば、部屋のキーは安全面の問題で厳重に守られるべき情報だから、そんなところをハックしたりはしないとのこと。故に部屋の解除コードなども知らないし、それを渡した覚えもないと言っている。

 

 

 

……?

待てよ?

 

 

 

 

「……じゃあ、9A-91やTMPはどうやって指揮官の私室へ……?」

 

 

 

悪寒が走った。

イントゥルーダーも同じだ。

もっと恐ろしい何かに勘づいてしまった。

 

……この話は、黙っておこう。

これ以上は、何も追求しない。

何も問わない。

お互い、暗黙の了解だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、9A-91やTMPの件に関しては、指揮官のロックのし忘れという件に気付いてイントゥルーダーが猛抗議していたのは、また別の話だ。

 

 

 

 

 

 




ーおまけー

クラウス指揮官の記憶解説コーナー
りたーんず。

「やあや、指揮官だよー。今回もリオンの記憶についての解説だ。今回はイントゥルーダーを知らなかった件についてだね」

これに関しては、この前言ったリオンの死亡時期とまた関わるよ。イントゥルーダーは設定によると、蝶事件以降に製造された人形ということらしいから、それ以前には生まれていない。だから蝶事件以前に鉄血を追われたリオンはイントゥルーダーのことを全く知らなかったんだ。

もしかしたら、第零戦役で会っていたかもしれないけれど、その可能性はかなり低いものだと思われるよ。
なのに性能や飄々としたところを知っているのは、こちらのグリフィンに来てから関わることがちょっとあるし、人形の整備の仕事上、性能確認をすることも多かったからだね。

こんな所かな。

それじゃあ、最後は作者の1言で締めるよ。





・本日2話目。
今回の話は長くなりがちになってしまった挙句駆け足で進んでしまった印象があります。整備士さんちょっと疑わしきは罰せずの精神知らないんですか。

今回のキャラ紹介です。


WA2000:みんな大好きわーちゃん。ここではかなりの頻度で副官をやっている。副官はシフト制らしく、そこに不満を漏らしているそうです。ツンデレ。本当は指揮官大好き。実はうちのグリフィンにはまだお迎え出来ていません!代わりに来たのはカルカノ妹でした()

イントゥルーダー:実はお話考えるのすごく難しかった。口調も被らないようにしつつ、キャラも立たせるような話となると上手くいかなかったんです……良かれと思って、色々な秘密を暴露しては影で見守るタイプの人。

・もっと……もっと評価と感想を……!お気に入り登録を……!と欲が丸出しになっています。未だにスピードは前後していますが、伸び続けていることに驚きを隠しきれません。まだまだ頑張ります。


・次回は……どうしようかなぁ……(いつも通りの未定)


次回もお楽しみに!
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