鉄血もグリフィンも争わない平和な世界を死に損ないが満喫するだけ   作:葉桜さん

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今回はリクエスト板の方から引っ張ってきたネタです。
シリアス気味注意報。


温和日常IX:病弱な少女の聖者

グリフィン基地内、医務室。

 

 

 

少し前に404小隊所属の人形たちを検査していた部屋だ。

様々な検査機会が立ち並び、人間の眠るそれと同じような医療用の寝床が複数用意されている。

そのうちの一つは、この部屋の常連となってしまっている1人の人形によって占領のような状態だ。

少し言い方は悪いかもしれない。

 

 

 

頭には検査器具には繋がっていない電極が繋がれており、それがどこへ通っているかは分からない。

姿を見れば色素は薄く、所々に包帯が巻かれている。

見るからに痛々しい姿だ。

今日はそんな彼女の検査という訳だ。

 

 

 

「……どうかな。彼女の容態は酷くなったりはしてない?」

 

「大丈夫だ。悪くはなってない……ただ、改善もしてない」

 

 

 

クラウス……指揮官も、この少女が心配で珍しく職務を一時停止して様子を見に来ていた。我ながら煮え切らない答えしか出せないことに歯痒さを覚える。

彼女は、このグリフィンでもかなりの病弱だ。

戦場に出れば確かに心強くはあるが、体がエラーや不完全なメンタルモデルによって蝕まれている故にいつ倒れてしまうか分からない不安定さがあった。

まぁ、俺も指揮官も、そんなことの心配ではない。

一人の人間のように心配しているのだ。

 

 

 

そんな心配を受ける一人の少女は、ゆっくりと目を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっ、お目覚めかな?リベロールお嬢様」

 

「……終わったんですか……?」

 

 

 

場を和ませるかのように起きた眠り姫に声をかけるクラウス。向こう方の表情は相変わらずそんなに良いものではなかった。顔色も心無しか、あまり良くない。

検査の後に顔色が良い奴もそれはそれで不安になるから別にいいのだが。むしろそれが普通だ。

 

 

 

彼女の名前は『リベロール』。

医務室の常連であり、いつも医療ベッドで眠っている。

普通に眠っている訳ではなく、ほぼ昏睡のような状態だ。

それでも容態が悪化する可能性が無い訳では無い。

そのため定期的に検査をするようにしている。

 

 

 

「……期待はしていませんが、どうでしたか?」

 

「悪化はしてない。……かと言って、良くなった訳でもない。手は尽くしているはずなんだがな……済まん」

 

 

 

俺は前にも言った通り、人形の整備やメンテナンスを専門としている。故に彼女の面倒を見る役でもある。

普段は別の整備士が面倒を見ているが、俺の方が技術が高いらしく時々任されることが多い。

彼女は元々本体の性能があまりよく出来ていないらしい。さらにメンタルモデルは不安定。プログラムのエラーも少々起きることから人間で言う病弱の状態になっている。

 

 

 

これまでにプログラムの改善やメンタルモデルの安定化を図るなど、あらゆる手を尽くしている。

この人形の治療に関してはあの16Labのペルシカも手を貸しているが、彼女を持ってしてもなかなか治療が出来ない難敵だ。個人的に、思い当たる節がない訳では無いのだが……

そこを気にしていたところで改善が出来ないと言うのが現実だ。自分の技量不足に腹が立つ。

 

 

 

「整備士さんが謝ることでは……ワタシがいけないんです……」

 

 

 

彼女は自分の性質を誰よりもよく分かっている。

自分のことだから、当たり前といえば当たり前なのだが。それ故に自分が治らないことも薄々と感じているのだろうか。なにかに対して悲観的で、自己嫌悪が激しい。

正直な所を言うと、彼女の気持ちも分かる。

自分も似たようなところがある。

悪い事の連鎖を食らった者は、悲観的になりやすい。

それの直接的な証明ができる証拠が俺らだ。

 

 

 

「……いや。お前は悪くない。……治してやれない俺の腕が未熟すぎるだけだ。だから自分を責めないでくれ」

 

 

 

我ながら、大して響かない言葉だと思った。

真に自分を嫌悪する奴が、この程度の言葉で揺らぐわけがない。たかが俺の口から出た言葉など陳腐なものでしかない。

彼女の朽ちた心に響くほどの力はないだろう。

……いや、良くないな。

本来励ましてやらねばならない立場の人間が逆に悲観的になってどうする。それこそ本末転倒だ。

 

 

 

「ですが……ワタシは、どれだけ手を尽くされても治れずに……ワタシがいけないんです……ワタシは、きっと治りませんから」

 

 

 

遠い目をするリベロール。

見ていて、辛かった。

その苦しみが直に感じられる。

……だが、俺以上にもっと直に感じている人物が1人。

側で心配そうに見ていた指揮官……クラウスだ。

こいつもまた、人形を人間として見れる数少ない人間だ。

それ故に、生まれ持った病と戦う彼女をいつも元気づけようと頑張っている。時間の合間をみて、時々医務室に来ているのはそういう事だ。

 

 

 

「……リベロール……諦めたらいけない。現にこうやってリオンは手を尽くしてくれているし、ペルシカさんも今君を治す方法を探している。必要とあらば鉄血の技術者さんも君に手を貸してくれるはず。だから……」

 

「いいんです。……指揮官がワタシを元気づけようとしてくれていることは分かりますし、嬉しいです。ですが……それを聞いた所で、変わりはありませんから……」

 

 

 

辛い返答だ。

正直な事を言うと、彼女の言うことは正論だとは思う。

だが、本当にそれでいいのか?

事実は変わりえない。それでも、気分だけでも……

あいつは穏やかで明るく前向きだ。

特にそんなことは考えていないかもしれない。

それでも、アイツが彼女を元気づけようとしているのは確かだ。

 

 

 

「……俺は、どうするべきなんだろうね…………」

 

なにも答えられなかった。

下手なことを言えば、余計に彼女が辛くなるだけだ。

彼女だけじゃない。

突き放されたこいつもだ。

俺には分からない。こういう時に馬鹿な事を恨むばかりだ。あたまの出来がもう少し良ければ……そう考えてしまう。

 

 

 

そんな中、部屋の中に足音が響く。

扉が開く音と共に。

 

 

 

「……失礼致します。リベロール様のお見舞いに参りました」

 

 

 

そう言って姿を現したのは、代理人だった。

いつも通り丁寧な物腰で、丁重に見舞いのための品まで持ってきている。代理人はリベロールの事を知っているらしい。

故に今日予定が合ったために来たようだ。

 

 

 

「あ、代理人さん……」

 

「お取り込みのところ申し訳ありません。少し、真面目な雰囲気でしたので少し一息入れてもらおうと来たのですが」

 

 

 

なるほど。さすが代理人。

真面目な空気や暗い空気というのは連鎖して、時間が経てば経つほどもっと強くなってしまうものだ。

そうなる前に一旦一息ついてリセットしようということだった。と言うより、部屋の外からそんな雰囲気とかわかるものなのかと非常に疑問に思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し真面目な話はなしにして、休憩がてらお茶でも飲んでいた。ここは医務室だが、ある程度は許されるだろう。

最悪指揮官の責任になるだろうし、俺は知らないとばかりに立ち回れるから少しガサツな対応だ。

我ながら最低だなこの男と思った。

 

 

 

「……悲観的、ですか」

 

 

 

状況を聞いていた代理人が口を開いた。

リベロールを何とか元気づけようとしたり、自分を責めることはないと諭そうとしているが上手くいかないという話や悲観的な観点を上手く変えてやれないかという相談に対して唸ることしか出来なかったようだ。

私もそういうことには慣れていないので、どう言って励ましてあげたらいいか……と困っている。

 

 

 

「……済みません。ワタシなんかの為に」

 

「”なんか”じゃないっての。そんなに心配する価値のないやつならここまでしてない」

 

 

 

少しぶっきらぼう気味に返した。

ちょっと言い方がきついよとクラウスに注意されてしまう。確かに、こういう相手に厳しい返し方は逆効果だったなと思い出して、少し反省する。

 

 

 

「……ワタシはずっと、不良品だの、壊れかけの人形だの言われたんです。……実際、その通りなのですが。自分がだんだんと嫌になってきて、そのうち、そのまま消えてしまえればいいんじゃないかって……」

 

 

 

その経緯を聞いて、ふつふつと何かが湧き上がった。自分が劣っていると分かっているのにも関わらず頑張って役に立とうとしている相手に対して、その言い草があるものか。

そんな奴がいたとするならば、1発ほど殴らせて欲しいものだ。いや、1発と言わず2発。

いや、物が言えなくなるほどには打ちのめした方がいいだろう。

 

熱くなりすぎた。

……最近、考えが過激で困る。

 

 

 

「……少し劣っているというのは、どこにでもあるもの。ですがそれをどう生かすか、どうやって扱うか。それは本人次第です。それが分かれば、自ずと劣等感は無くなると思いますが……」

 

 

 

代理人が、静かに口を開いた。

普通のもの言わぬ道具ならまだしも、意志を持った人間に近い存在になっているのだ。

劣っているだのなんだのと言えど、それを生かす方法は星の数ほどあるはずだと。そんな言葉が出てきた。

けれど劣等感は、なかなか拭えなくて、自分への後ろ向きな暗示になりかねないとも。

そこをどうにかするのは、なかなか難しい。

……問題のそこを、どうにかしたかった。

 

 

 

 

「ねぇ、だったらさ……劣ってても良いって考えようか?別に不良品でもいいやと」

 

 

 

 

 

とんでもない発言をした。

この指揮官(バカ)は。

それは一番言ってはいけない言葉ではないかと俺は思っていたのに。それを何となしに言いやがった。

それが出来たら苦労などしない。

馬鹿野郎と怒号をあげそうになった。

だが、その声は代理人によって押し込められた。

そのまま、抑えていてくださいと小声で耳打ちされる。

 

 

 

 

「劣っていることは分かるし、考え方も変えられない。もうそれ以上の手の打ちようも無いって分かってるんだよね。じゃあ後は……」

 

 

 

 

指揮官は静かにリベロールの傍に歩いていった。

彼女は少し脅えている。

自分になにかされるという反射的な防衛本能が警笛を鳴らした。叩かれる。また虐げられる。また……

恐怖のあまり、目を閉じた。

しかし、やってきたのは痛みではなく……

 

 

 

「……しき、かん……?」

 

 

 

……この手に限るね。

そんな言葉が聞こえた。

そっと触れるようなほど丁寧で優しい抱擁だった。

穏やかに目を瞑るアイツは、笑ってしまうほどに温かな表情をしている。大丈夫、大丈夫。

そういう風に囁きながら温もりを分け与える。

……正直、茶化してやりたかった。

でも、あいつは……真面目に考えた上でこうした。

クラウスが何も考えていない訳などなかった。

忘れていた。指揮官(アレ)は、全てにおいて頭をフル回転させる男だったなと。

 

 

 

「いくら言葉で君を必要としていると言ったって、それは口先だけかもしれないと思うのは当然。……だから最後に必要だったのは、こうやってどんな理由だったとしても君を必要としているという証明だと思ったんだ」

 

 

 

君のいる意味は、兵器としての意味だけじゃない。

兵器としてなら、不良品だって俺は構わないよ。

 

そう語りかけるように話す。

まるで、妹をあやす兄のようだ。

 

 

 

「自分で自分に価値を見つけるのは大変。だから他人に必要とされたがるのが人だ。……必要なのは自分の中の意識もそうだけど、他人の手によって自分を肯定してもらえるのが、一番大切なんじゃないかな」

 

 

 

リベロールを離さないまま、微笑んだ。

彼女にその表情は見えないけれど、彼女の顔は心なしか泣きそうになっていた。辛くて泣くのではなく、嬉しくて泣きそうになっている。

優しい指揮官は、そんな心の鍵にトドメを指した。

 

 

 

「だから面と向かって言わせて欲しい。君がどれだけ劣っていたとしても……君がいなくなったら、俺は辛い。使える道具としてではなく、一人の友人として」

 

 

 

 

だから……君がよければでいい。諦めないで、必ず元気になろう?

 

 

 

彼女を離した指揮官は、再び満面の笑みを見せてそう言った。暗く固まっていたその表情が崩れおちていく。

今度は、指揮官に彼女が抱きつく。

嗚咽を漏らしながら、目の前の聖者に縋りついた。

 

 

 

自身に見えるものは欠点が多い。

自分自身をまともに評価出来る人間は恐らくこの世に存在しないだろう。灯台もと暗しという言葉があるように、自身にはその全貌が見えるわけがない。

だからこそこういうタイプの人物は暗く足元に目が行きがちで、自分の欠けている所ばかりが目に付いてしまう。

そんな人に必要なのは、他人からの肯定。

全くもってその通りだと納得が言った。

他人から肯定をされるということは、自分の価値がないということを否定できるということだ。

何せ、相手からのお墨付きなのだから。

1番の効き目のある薬とやらは、こんな簡単な言葉一つだったのかもしれない。……まだまだ、俺は学ばなければいけないようだ。

 

 

 

 

 

「……やはり、あの指揮官様も変わっておられますね」

 

「全くだ。……あれが本物の道化ってやつか?」

 

 

 

さぁ、どうでしょうかと答える代理人。

何となく、代理人もクラウスが切れ者だということは察していたようだ。そうでもなければあそこで俺を止めることはしなかっただろうな。……誰かからの肯定、か。

 

 

 

「どうされましたか?」

 

「いいや?何でもない」

 

 

 

適当に誤魔化した。

こんな空気を汚しては悪いからな。

……人を救うのは、あそこまで考えられるお人好しなのだろうなとつくづく思わされる。

人など、殆どが私利私欲で全てを利用するものたちの事の総称だと思っていたんだがな。

俺が友人と言った男は、例外であってくれた。

その事が、少し嬉しかった。

 

 

 

そんな風に、感動の空気が流れている中に端末の通知音が鳴り響く。どうやら指揮官のもののようだ。

ごめんねと一旦リベロールを退けて、鳴り響く端末に耳を当てた。

 

 

 

「……うん。……うん。……えっ、本当!?」

 

 

 

その反応に一同はキョトンとする。

そこまで嬉しいことがあったのだろうか。

ありがとうと礼を言い、嬉しそうにリベロールの方を向いた。

 

 

 

「ペルシカさんが、完治とまでは行かないけど日々の容態が良くなるような物を完成させられたんだって!これでまた1歩進んだよ!」

 

 

 

吉報と言うのも、意外と連鎖するものだ。

ちょうどいいタイミングでの報告だったからか、つい吹き出してしまう。……なんというか、本当に。

ここは良い事ばかり起きるものだ。

1番幸せな基地ではなかろうか、ここは。

リベロールも、静かながらに喜んでいる。

 

 

 

「……その、ありがとうございました。……指揮官も、整備士さんも、代理人さんも……ワタシ……いえ、私はもう少し頑張ってみようと思います」

 

 

 

ほんの少しだけ、光が戻ったその姿にどこか安堵を覚えた。……こりゃあアイツ、また好かれた人形が増えただろうなと思うと、このあと茶化す話題に困らなさそうだ。

……まぁ、あの天然タラシは気づかないのだろうが。

頑張れよ。こいつを落とすのは大変ってレベルじゃないからなと内心応援になっていない応援を送った。

 

 

 

「……まぁ、また何かあったら言え。修理やらメンテなら腕を振るわせてもらうさ」

 

「もしも困ったらグリフィンの人だけでなく、私達も頼ってくれて構わないのですよ……ですから、困ったら私達にもご相談を」

 

 

 

また1人、この基地で救われた人物が現れた。

ここはもしかしなくても楽園、皆が救われる為の場所なのかもしれない……そんなふざけた考察をしながらも、今広がる優しい空気にはやはり勝てない。

ここの指揮官は、やはり優秀だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勿論後に、指揮官大好き人形のメンバーにリベロールが入っていたことは言うまでもない。あいつはいつか刺される。

間違いなく刺される。

 

……ただ不安なのは、刺されてなお笑って死にそうという所が不安で仕方がない。あの器がデカすぎる男はやりかねない。そんな冗談さえ、頭に浮かぶほどであった。

 

 

 

 

 




・今回はリベロールちゃんが救われるようなお話でした。ここの指揮官はぐう聖。いい人。めちゃくちゃいい人。故にモテる!故にタラシ!←←
今回の話中に出てきた一部の解釈は個人の意見のため、他の意見を持つ人もいるかもしれない所ですね。
いちばん怖いのは話がいつの間にか変わっていたり、辻褄が合わなくなっていないかが不安です。

今回のキャラ紹介。

リベロール:医務室に専用ベッドを持つ入院ガチ勢。殆ど原作と変わりないような話し方や性格にしたつもりだけど間違っていないかが不安。今回のピックアップでは出ませんでした。おのれIDW。


・今回はリクエスト回でした。
まだリクエストは受け付けております。
本シリアスはもう少し先かな?


・いつも通り閲覧、感想、お気に入り登録ありがとうございます!もはやあとがき恒例になっていますが、それでもまだ感謝します!


・次回も恐らくリクエスト回。


次の回もお楽しみに!
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