鉄血もグリフィンも争わない平和な世界を死に損ないが満喫するだけ 作:葉桜さん
今回はリクエスト回と言ったな、あれは嘘だ。
(リクエストネタなのですが、内容的にこの後入る作戦編が終わってから書きたいと思ったため急遽変更しました。申し訳ありません。)
グリフィン基地内、執務室。
いつも通り俺はやることも無いので執務室に遊びに来ている。仕事中は結構困るんだけどなぁという声が聞こえるが、休み中に人の休息を邪魔するお前に言われたくはない。
それとこれとは違うと言われてしまえばそこまでなのだが。
ここの特等席は指揮官の事務机だ。
就業態度が悪いって?お偉いさんに見られなきゃどうにでもなる。……いや、こういう考えが出てくる時点で後ろめたいと分かってしまっているな。だがやめない。
「……毎回思うけど、リオンは自分の作業部屋とか持ってないの?作業部屋というか、執務部屋?」
そんな質問を投げかけたのはここの指揮官の補佐を務める、副官。指揮官の傍に1番いるであろう人物、WA2000だ。いつもここに来ているのを不思議に思っているのか、それともクラウスと二人きりの時間を邪魔されているのが気に入らないのか。
正直暇なのだ。申し訳ない。
質問に対しての答えだが、特定の作業部屋は持ち合わせていない。緊急整備などもする身だ。全ての環境に適応できねばならないという理由から個人の作業部屋は持っていない。
逆に言えば、個人の作業部屋がないからこそどこでも作業を行えるようにしている……と言いたいところなのだが。
メンテナンスルームや医務室がほとんど自分の作業部屋のようなものだ。自分の持っている器具ではある程度しかできない。
正直言って答えに困る。
「わーちゃん、コイツは自分の部屋を持ってても遊びに来るタイプだから多分あっても無駄だと思うよ」
酷く失礼なやつだ。
全くもって事実なのだが。
地味にわーちゃんと呼ばれて騒ぐわーちゃんの声が聞こえる。しょうがないだろうな、あの指揮官だもの。
机に腰かけたまま、ニヤニヤしながら二人を見ている。
仕事中の態度が悪い?今はまだオフだ。
俺が仕事をする時は本気でマズい時だけ。
……普段の業務や検査?
俺の中では仕事じゃない。
上から金は貰うがな。
そんないつもと変わりのない話をしていると、執務室の扉が開いた。そこには、無口な少女が。
なにも物言わぬまま、執務室へと入ってくる。
そのまま、執務机の前まで歩いてくると、手に持っていた書類を何も言わずに机の上に置いた。
「これ、今回の作戦の報告書だから」
「ありがとうVector。また騒ぎを鎮圧してきてくれたのかい?」
入ってきた少女の名はVector。
名前の元となった銃は非常に近代的なフォルムであり、性能も申し分ないほどの優秀さ。それに見合うように本人も優秀であり、淡々と任務をこなすクールな人物だ。
……少々無口が過ぎるような気もするのだが。
本人は無表情で全くの単調な返事だ。
本当に会話が成立しているか分からないくらいには。
「私は次の仕事があるから。それじゃあね」
「あ、Vector……行っちゃったか」
呼び止めようとクラウスが声をかけたが、その声はどうやら届いていないようだった。うーんと心配そうに唸っている指揮官。それを見ているけれどどこか複雑な気持ちのWA2000。2人とも渡された作戦報告書を見るも、全く抜け目が無さすぎるほどで正直に言うと困惑しているだろう。
彼女は確かに仕事が出来る。
だが、それ以外の所が妙に欠けている……と言うよりは、意図的に欠けさせているような印象を受ける。
整備士の勘という奴だ。
未だにクラウスは怒ってるのかな……と呟いたり、何か不満があったかな……と不安そうに悩んでいる。それを見たわーちゃんは元々あんな感じだったとできるだけ落ち込ませないようにフォローを入れている。……確かに元々あんな感じだが、素があんな風では無い気がする。どうだかは分からないが。
そんな風に少し重い雰囲気の中、もう1人来訪者が現れた。
「失礼します、クラウス指揮官」
そうやって入ってきたのは鉄血ハイエンドの1人、ハンターだ。特に何かを報告することもなさそうし、俺を探しにでも来たのだろうか。ハンターは礼儀正しい。
鉄血の中でもかなりキッチリした方だ。
俺の中での鉄血常識人はハンターとゲーガーが双璧を成して1番だと思っている程だ。
スケアクロウは常識人じゃないのかと聞かれると、少し答えづらい。まともではあるのだが、どこか致命的に抜けている。だから常識人では無いと思っているという理由だ。
……失礼だろうか。
そんなそれた話は頭の片隅に置いておいて、ハンターの言葉に耳を傾けた。
「……今回、Vectorと共に任務へ赴いたのですが……彼女はどうも、無鉄砲な行動が多いと言いますか……自己のことをリスクの計算から外しているようで、どうにか出来ないかと相談に来た限りです」
ハンターはどうやらVectorと共に行動していたようだ。ハンターは仲間意識を大切にする人形である。その証拠が処刑人との仲の良さや、隊員の仲間との円滑な連携だ。そういった集団でのチームワークの適応は彼女に勝る者はそう居ないだろう。そんな彼女がVectorを見かねたのは、Vectorの自己を案じない行動を不安に思っているからだそうだ。
……確かに、優秀である反面、そういった考え方による危険性は十分にありえる。流石に直すことは出来ないだろうが、多少の緩和くらいは出来ないだろうか。
「……うーん、本当は俺が行くべきだと思うんだけどね。まだ仕事があるから……」
それはそうだ。
指揮官は、この部隊やこの地区のトップだ。
そうである以上、多少のことで仕事から離れる訳には行かない。休みでもなければ。今は特に情報整理中ということもあり、離れる訳には行かない。
「……適任がいるじゃない。ほら、そこに人形の話を聞いてあげる専門の人が」
そう言ってわーちゃんが俺を指名する。
まぁそうだろうな。予想は出来ていた。
というか、お前から指名が来るのは思わなかった。
普通の褒め言葉を吐くわーちゃんというのも新鮮だ。
時々罵倒しようとして回り回って普通に褒める言葉を使ってしまっているわーちゃんは時々見るが。
……まぁ、仕事が回ってきたと思えばいい。
ようやく執務室の机から腰を上げ。真面目な体制に入る。これから人形の心に入り込むわけだ。冗談で取り合うのは失礼というものだろう。
ハンターはお前が来てくれるなら助かると安堵しているようだ。前々から思うが、本業は技術屋であってカウンセラーではない……それでもそんな依頼を受けてしまうのは、やはり俺がお人好しなのだろうか?
自分で言うのもなんなのだが。
少し息をついてから、執務室を出た。
「……よう、ここに居たのか」
「……あぁ、整備士さん。何の用?」
Vectorは射撃訓練場にいた。
彼女は戦闘に関しては特に手を抜かない。
故にいつも訓練をしていたり、武器の手入れをしている時間が非常に長い。兵士や兵器としては優秀なのだが、人に近くなっている人形としてはどうなのだろうか。
いつも通りの淡々とした返事にいつも通りの調子で話す。
「何、少し話でもしたくてね。……時間、大丈夫か?」
「別に……時間はいくらでもあるし、いいよ」
私なんかと話して、面白い事は無いと思うけどね。と付け足されてしまったが、以外にも断られなかった。
近くのベンチに座り、射撃訓練をしているところを見ながら話しでもしようかと思った。
彼女からしたら、銃を打つついでに話をする的な感覚なのだろうか。別にそれでも、話を聞いてくれるならいいのだが。
「……ハンターから聞いたよ。結構、自分の事を勘定に入れない奴なんだってな。随分な命知らずだって言ってたよ」
その言葉を聞いて、特に顔を歪めるでもなく、緩めるでもなく。無表情のまま抑揚のない返事を返す。
……会話が続かない。コミュ障という訳では無いのだろうが、彼女はあまりコミュニケーションを取れない方なのだろうか。
続けて、なんで自分のことは勘定から弾いてるんだと理由を聞く。そんな彼女から帰ってきたのは……
「私はただの兵器。商品でしかないから。別に壊れた所で代えなんていくらでも効くでしょ?」
……彼女はそう言った。
自分はただの兵器だと。
商品でしかないのだと。
……ああ、確かにそう言っていた。
あのグリフィンのVectorでも、そんなようなことを言っていた気がする。その時は、まだ何を言っているんだ。そんな程度にしか思わなかったが、今は違う。
自分自身の価値を分からないのは、絶対にいけない。
失ってから気づくでは、最悪なのだから。
いや、彼女はそのままなら気づくことさえない。恐らく、そのまはまにしていたら自分の価値などどうでもいいまま壊れて行く。……それだけは、させたくない。
「……なぁ、恐らくそれは
回りくどいのは嫌いだ。
答えを絞り込みながら、彼女の核心に近づく。
……とは言えど、これは彼女が本心で隠している訳では無いだろう。今までの対話の経験からしてわかる。
彼女は……
「兵器として生まれたから。ただそれだけ」
……やっぱりだ。
戦術人形という名の兵器として生まれたから、自分を兵器として扱うのだ。最近になってなお、戦術人形を兵器としてしか見ない人間が異様に多い。
それ故に彼女のその考え方が助長されているのかもしれない。正直な所を言うと、1番俺が気に入らない考え方だ。
本人が考えているのだから、強くは言えない。
それでもひとつ、伝えたいことがあった。
戦術人形が生まれる頃からずっと思っていた疑問だ。
「なぁ、Vector。兵器に思考回路は必要だと思うか?」
「……何それ。効率的な戦闘をするなら、必要じゃないの」
勿論、普通に考えたらその答えが普通だ。誰だってそう思う。自分で考え最善の戦略を持って行動する……それは確かに、兵器の理想形だ。ただ単純なプログラムに沿って戦闘を行う自立兵器など、ただの的やかもにしかならない。
故に常に思考し、その行動を変える兵器は理想系だ。
だが……それなら俺は、もうひとつ疑問があった。
「なら、何でお前らの生みの親は人間らしい思考回路にしたんだろうな?」
そんな問いに、Vectorは答えられなかったようだ。
全部が効率的に進めるような兵器なのであれば、極力邪魔な機能や思考パターンは排除するべきだ。こう言ってはなんだが、兵器としての力ならば鉄血工造の量産型達の方が良いと俺は思っている。だが、それでも人間らしい思考回路を持つのは……
きっと作り出した人間の勝手なのだろうが。
それでも、人の形を取った以上は……
「せめて、普通の人間と同じように過ごして欲しいんじゃないのか?……戦場でも死なないように生きのびて、戦いのない時はのびのびと過ごして……もしかしたらそんな意図は無いかもしれないが、俺はそう思ってる」
そんな考え方に、訳わかんないと答えるVector。
「私が兵器じゃないなら、私は何なの?」
人間だろ。
そう即答した。
人形も人間も変わりない。
同じように感情を持ち、同じように過ごす。
それのどこに変わりようがあるのか。
少なくとも、俺はそう思っている。
「……私が人間だったとしても、無個性で無価値。それだったら兵器として見た方がマシじゃない?……戦うことだけが、私の意味だから」
そんな彼女にため息を吐いた。
……それだったら、俺は当にお前の所から去って見捨てている。そう吐き捨てた。お前の所に居てこうやって話しているのは、お前を人間として見ているからだ。お前の価値がそれだけじゃないと知っているからだ。そう強く答えた。
戦いのために生まれて、戦いで捨てられる運命だと思っていたVector。だが、彼女のそんな考えが、ほんの少しだけ揺らいだ気がした。
……何処かには、殺しのためだけに生まれてきたと言いながら平和に過ごす人形がいる。本当に殺しのためだけに生まれてきたはずの人形は、今やそこに居ることだけで笑顔を振りまける人物になっている。
そんな人形と同じように、お前にだって居るだけで意味がある。使い潰しの効くような兵器とは全くもって違う。俺はそんな風に話した。
「……あんな風になれなんて言わねぇけどさ。……せめて、自分の命の価値をもう少し重く見てくれ。お前だって立派な人間なんだから」
そんな言葉に、未だに訳が分からないよと言いながらも、ほんの少しだけ表情が柔らかくなったようなVectorがいた。兵器としてだけじゃなく、自分を人間として見ろ。そんな訴えにVectorは少しながらも理解がいったようだった。
固まった考え方はなかなか戻せないけれど、少しは努力してみようかな。そんな声が聞こえた。
「……Vector。ここにいたのか」
「ハンター……どうしたの。次の作戦の話?」
ちょうど話が纏まりそうな所で、ハンターが入ってきた。
Vectorは切り替えてハンターの方へ向いた。
次の作戦の話かと言うと、また戻ってるなと少し思ってしまった。本当に変わってくれるのだろうかと。
「いいや……ただ、つい先程のお礼を言っていなかった。ついさっきの作戦の時は助かった。でも、もう少し自分の命を重く見てほしい」
「……それ、さっきも整備士さんに言われた。すぐは難しいけど、まぁ……何とか頑張ってみる」
そんな答えにハンターも少し驚いた様子だった。
普段のVectorならは何気なく押しのけるだろうが、今日は違った。俺の言葉が、届いてくれたのだろうか。
必死に語った甲斐があったなと少し頬が緩んだ。
「良ければ、次の作戦も一緒に頼む」
「そうね……まぁ、運が良かったら、また仕事しよっか」
その後も、ハンターとVectorは少し話していた。
作戦の話や、行動の話。そのどれもが日常会話とは言えないものだったが……確かにVectorの中でなにかがほんの少しだけ動いたことは感じとれた。ハンターも、どことなく変わったことを嬉しく思っているようだった。
「これ、今回の分の報告書」
「うん、いつもありがとうVector。……少し、表情が柔らかくなった?」
あの後の執務室での一幕。
この前と同じように、Vectorが報告に来た。
その時の表情はほんの少し、多少感じれる程度だが、柔らかくなっていた気がした。まだまだ無表情だが。
でも、指揮官はそんな細かな変化さえも気づいていた。
自分の部下をよく見ている指揮官だ。
「別に……変わってないでしょ」
「そんなことないって!ね?リオン?」
何でよりにもよってそこで俺に振るのか。
変えたきっかけを作ったのは俺だろうから変わったことはわかるが、それを変に外に出すのも嫌だ。
と言うより、Vectorがそんなにいい顔をしないだろう。
俺はとりあえず、言葉を濁して誤魔化す。
「私はこれで……あと、最近は人権団体の活動が活発になってるから、早めに手を打った方がいいかもね」
「……分かったよ。ありがとうVector」
指揮官は、その言葉を聞いてわかったと返事をしてからまた色々な業務の遂行や、対策についてを考え始めた。
そんななにか引っかかるような、耳に残る注意を伝えてくれながら、Vectorは部屋を出ていこうとする。が、なにかを思い出したかのように戻ってきて、こちらの方に一言置いていった。
「この前は、ありがと」
そんな感謝が、少しだけ俺の気分を良くさせた。
……ちゃんとお礼を言ってくれて、何となく嬉しい。
後々の不安はあるが、今はその嬉しさに浸ろうか……
これは別の話になるのだが……後にあのVectorの警告によって、とある窮地を脱する事になる。
……俺の、この世界での初の救命作戦だ。
俺は忘れていた。
あくまでここは、鉄血とグリフィンが争わないだけ。
人間と人形の対立は、終わっていないのだと……
・今回はVectorメインの話でした。今回もまた少しシリアス?少し話の内容がガバガバになってないか不安になる作者←
ハンターもちょっとだけだけど再登場したよ!
今回のキャラ紹介。
Vector:無表情無感情系クールキャラ。でもこの世界では少しだけでも豊かな感情を出して欲しいな〜と思いこんな話に。誓約台詞で思い切りヘッドショットされました。()
ハンターとは作戦仲間。
ハンター:2大鉄血常識人の片割れ。処刑人の手綱引きだったり、温和日常IではROと一緒に部屋の突入を阻止しようとしたり何かと気が利く人。Vectorには助けられているけど何かと心配してる。
・今回はVectorを出したかったというのもあるのですが、次から入る作戦編への繋ぎという意味もあります。10話にして早い気がしますが……
・いつもの事ながら、閲覧、お気に入り登録ありがとうございます!今回は誤字報告もして頂き、ありがたい限りです。スマホの誤変換もありますが、私自身漢字弱者の為誤字がもっと多くなると思います。間違えている所を気づいてくれた方は遠慮せずに報告お願い致します。
・次回は先程も言ったように作戦編。
整備士リオンの本業の話です。
次の話もお楽しみに!