鉄血もグリフィンも争わない平和な世界を死に損ないが満喫するだけ 作:葉桜さん
「ーーこえる!?……返事を……」
グリフィン基地内、執務室。
彼女らが作戦中、特になにも変わりのない空気が流れていたこの部屋。今日は珍しく整備士の姿が無く、比較的静かだった。
いつものように指揮官は副官であるWA2000と絡んだり、時々執務室に遊びに来る人形と遊んだりなど、自由気ままに仕事をしていたのだが……
ノイズ混じりの通信が無線機に入る。
憔悴しきった声が彼の耳に入る。
雑音が酷い。それの中でもなんとか言葉を聞き取ろうと意識を集中させて……。
いつも漫才のようなやり取りをしている2人の空気が一瞬にして詰まる。只事ではないことはWA2000も察しているのだろう。
「こちら司令部……FAL、どうしたんだ」
ようやくFN小隊の隊長……FALの声が鮮明に聞こえ始める。しかし、今回現場の指揮を執っているのはスケアクロウのはずだった。
普通ならスケアクロウが代表してこちらに通信を伝えてくるはずなのだが……今回は焦りきった声色のFALがこちらへ無線を飛ばしてきた。余程緊急事態が起きたのだろうか。
クラウスは焦り切っているFALに落ち着いて、と普段からは想像もつかない落ち着き様のしっかりとした返答で返す。
現場で動く者達を束ねるものとして、ここで下手に焦る訳には行かない。彼は何時もそう頭の中に刻み冷静さを保っている。……本当は何が起きたのか容易に想像が付き、焦りが迫ってくる。
それでも、適切な判断を下さなければならない。
それが指揮感に必要な能力だ。
焦るな、息を乱すな……そう自分に何度も頭の中で復唱し、落ち着きを無理矢理取り戻す。
彼女が伝える事象を受け止める用意は出来た。
「……スケアクロウが、撃たれたわ。しかも、大口径のをモロに」
……負傷状況は?続けて問う。
負傷状況もかなり悪いらしく、人工血液の出血が酷い。まだ良かったのは、弾が貫通していることだった。
I.O.Pの人形が扱うホローポイント弾や、今やほとんど見ないがダムダム弾などであったりしたら、治療さえも困難になる。まだそれが救いだったか……そう考えていた。
しかし……
彼女は続けて答える。
「かなり苦しんでるの、救助をお願い!」
撃たれただけでない。苦しんでいる。
その言葉に、さらに不安が煽り立てられる。
指揮官は、それを可能にする手立てを知らない。
人形相手に毒は効くのか……?
それとも、別の何かなのか……。
そうは考えるが、今は時間が惜しい。
追求は後に回し、まずはこの緊急事態の対処に当たらなければ。
……アイコンタクトで、WA2000に何かを伝える。
何も言わずに頷いたWA2000は端末を取り出してそれを耳に当てた。……彼に頼ろう。言葉でなくとも分かった。
彼の静かな指示は確かに彼女に伝わっていた。
「……すぐに救助に向かわせるよ。それまで、耐えられるかな」
「分からない。そろそろ応援が呼ばれてしまうかもしれないもの。……それに、Five-SevenとFN49が感電の影響で少し動けなくなっているわ。できれば、戦力的な補助もお願い」
今回の事例は例外だ。
普段なら鉄血のハイエンドが真っ先に負傷するなんて事は有り得なかった。……自分の警戒が甘かったか。
彼女の力を過信していたとは言わない。
ただ、自分が平和ボケをしていただけだろう。
何としてでも、助けなければ。
……彼女の為にも、彼の為にも。
静かな決意を固めて、もう一度返答する。
「……分かった。戦力補助は遅くなるけど、救助はいち早く向かわせるからね。応援部隊が到着後、戦闘できる君とFNCは作戦を継続して欲しい」
そして、最後に迫り来た下衆共への怒り。
自分の大切な仲間たちに手を下したその愚行を許す訳には行かない。……ただでさえ、見逃してやっていたのだ。
最早、ここで容赦する必要は無い。
連絡を取りながらちらりと指揮官の方を見るWA2000も、普段の穏やかな顔から一変して真剣な顔つきの中に灯る怒りの火種に気付いているようで、少し怯えかけている。
ここまで明確に、自分が感じられるほどの威圧感を放つ所など見た事がない。
……確かに、最近危ない戦闘がなかったからかもしれないが。そんな指揮官が、低い声でもうひとつの指示を出した。
「……そして、作戦内容を変更する」
相手を刺し殺すかの様な鋭い声が響いた。
FALは何も言わず、その指示を待つ。
「……殲滅しろ。1人も生きて返すな。誰に喧嘩を売り、いかに愚かなことをしているか……分からせてやってくれ」
純粋な黒い感情で形作られた言葉が、彼女たちに向けて放たれた。慈悲などもうくれてやらない。
報復の時は来た。
これは、個人の感情だけではない。
ここまで危険化していると言うのなら、そのまま生かして置けばエスカレートしていき、最後には人間さえも騙して殺す狂った獣に成り果てる。
そんなことになれば、ここでさえ混乱に陥りかねない。そんな下等な者如きに、この場所を掻き回されてはたまらない。自己の判断だが、クルーガーも納得する理由は持ち合わせている。ならばもう、後は派手にやるだけだ。
それでも、危なくなったら引くこと。と、付け足す。
こんな状況でも、怒りだけに支配されないのが彼だ。
自分が怒りだけに身を任せてしまえば、実際に戦場にいる彼女らを余計に危ない目に遭わせかねない。
1番は何より、彼女らの生存なのだから。
「……連絡がついたわよ。アサルトライフルとサブマシンガンを何名か貸してほしいって。……あと、部隊は先に派遣しといて欲しいらしいわ。現地集合の方が早いからとのことよ」
連絡の付いたWA2000がそう報告する。
分かったよといつもの優しい声で受け答えをする。
今彼はちょうど出払ってしまっているからか、直ぐに戻って直ぐに現場に向かってくれると言っている。
タイミングが悪い。
どうか、生き長らえてくれ。
そんな祈りを心の中に押し込め、相手を潰す準備を進める。……彼が仲間を救う者なら、俺は敵を殺す者だ。
そんな言葉を呟き、また新たな通信を始めた。
そんな中、俺はグリフィン管理地域市街へと赴いていた。人の営みはこんな荒廃した世界の中でも確かに存在する。
グリフィンの庇護下の街は、荒れてはいるものの確かにこの世界が壊れる前と同じように機能している。
変わったところといえば、昔以上に周りが協力関係を結び互いに助け合っているところだろうか。
第三次世界大戦が勃発した頃や、それ以前のこういった市街地はある意味戦場より恐ろしい場所だったと聞く。
俺は覚えていないから分からないが、ただ街中を歩くだけでさえ殺される危険を持つような場所もあったという。
警察機関の一部はその役目を放棄し、自らの欲望のままに動き。弱者たちは平和の裏で唯ひたすらに苦しめられ続ける。それでもなおそれを平和と言えたのは異常だった。
今が決して平和とは言えない。
ただ、そんなことを聞いてしまえば多少はこんな世界もマシだと思えるのだろうか……
人は、戦争や紛争を通して成長しているのだろうか?
どうでもいいようなことを考えながら、日常の日課をこなしていく。今日の飯はなににしようか。
今日は誰が部屋に転がり込んでくるのか。
そんな予想をしながら色々な買い出しを行う。
時々、予想が当たった時は自慢したくなる。
なんとなく優越感に浸れる気がしたからな。
そんな時、ポケットに入れていた端末が振動し電子音を鳴らす。
「……ハイハイ、リオンさんですよ」
そんなふざけた感じで今回は出てみた。
いつも普通に対応するだけでは面白くない。
適当にふざけて、笑わせるくらいはやってみたいものだ。
どうせいつもの様に勝手に部屋に入っているという事後報告だろう……そんな風に踏んでいたのだが。
「リオン、緊急事態なの。落ち着いて聞いて……」
いつも素っ気なくツンツンしているわーちゃんが珍しく焦りと怯えが混じった声でこちらに話しかける。
……どうにも様子がおかしい。
別にまだ怪談やらお化けの話が出てくる時期でもないだろうに。……いや、もうそんな時期か。
別に大して重要では……
「……スケアクロウが、撃たれたって」
その言葉を聞いた瞬間、一瞬世界が固まった。
あれやこれやとふざけて考えていた思考が一気にシャットアウトされる。頭の中が消えていく。
……あのスケアクロウが?
その言葉が頭に反響する。
どういう事なんだ。俺は余りにも、この言葉に冷静にはなれなかった。焦り、恐怖、困惑。
色々なものが混ざりあって何とも形容しがたい。
「どこで撃たれた!?場所は?何時だ!?」
食い気味に、威圧するような声色で聞いた。
圧されたWA2000はさらに怖がっているようだが、それでもしっかりと情報をこちらに伝えてくれる。
場所は近くのテロリスト……人権団体のアジト。
グリフィンの庇護下に置かれている地区ではなく、それの少し外にあるらしい。この前のVectorの報告により活発化していることが判明して、それを制圧する作戦を近々行うとは聞いていた。まさかその作戦で……
余計なことを考えている暇はない。
救命行動は、時間との戦いだ。
同行していたFN小隊のうちFive-SevenとFN49は拘束するはずだったクズの隠し持っていた高圧スタンガンにより一時的に行動不能になっているらしく、今まともに動けるのはFALとFNCだけ。怪我の状態もかなり悪いということも伝えられた。
提示された座標はここから装備を取ってすぐに向かったとしても20分はかかる。かなりひどい状況だが……
「……すぐに向かう。廃ビル内だったよな?……アサルトライフル、サブマシンガンを合わせて数名程度貸してくれ。それで十分だ」
あくまで俺は生身だ。
一人きりで行く訳には行かない。
そんな事でもしたら、俺は間違いなく死ぬ。
そうなれば、救えるはずの命も救えなくなる。
そんなものはもう御免だ。
状況に適した部隊編成を要望し、それを伝える。
WA2000はそれを伝えておくわと返答を返してくれた。
「……あと、部隊はヘリで先に送っておいてくれ。俺は後でバイクで向かう……現地集合の方が早いだろ」
……クズ共が。
俺の大切な仲間達を。
日常を共に過ごす家族達を。
この身に怒りが燻る。
今は、ただ助けることだけを考えろ。
それが終わったら……
次に撃ち抜かれるのは、貴様らだ。
楽に死ねると思うなよ。
アルケミストのような言葉を内に秘め、買った物の状態など気に求めずに走り出す。
運動能力が無いわけではない。
早めに、早めに。全力疾走を持って基地に帰還する。
取り敢えず、荷物の事などどうでもいい。
手馴れたスピードでさっさと装備を整えていく。
軽量の防弾ベスト、自分用の武器、弾薬。
修理用の工具、応急処置用の携帯医療具。
通信機器を耳に取り付け、無線を繋げるようにする。
……思えば、この世界での初めての出動だ。
本当なら、俺が出ないのが1番なのだが。
だが、こうなってしまった以上は俺が頼りになるしかない。人間も人形も、治す時は時間との勝負だ。
初動をしっかりとした処置で始め、少しでも生存の確率を上げなくてはならない。
怪我の状態が酷い以上、時間に猶予はない。
早いところ、行かなくては。
そう思い、ガレージに向かう途中だった。
「やっほー、旦那ー」
能天気な技術屋……アーキテクトがどこからともなく現れた。
今は変に世間話で時間を潰している暇はない。
そう思い、話は断っていこうと思ったのだが。
「スケアクロウを助けに行くっしょ?……はいこれ、頼まれてた武器のすーぱーばーじょんの完成品ね!」
投げ渡された銃を受け取る。
確かにずっしりした重み、以前よりも増している。
全体的なカラーリングは黒鉄のそれに変わっており、それ以外に変化は見られない。
彼女が言うには装弾不良の可能性をほぼ排除、威力連射力を強化しており、確かに強くなった逸品だという。
ありがとよと軽く返し、もう片方のホルスターにそれを収納する。……こちらは早々使わないが、奴らに1発食らわせてやるには十分だ。
「あと、バイクの方もスピードが出るように改造しといたから!ある程度安定性も強くしといたから心配ないと思うけど、事故んないようにね〜?」
恐ろしい仕事人だ。
いつの間にそんな改造を。
していいなんて一言も言っていないが、非常に助かった。
どうやらまたゲーガーに追われているらしく、私はすぐ戻るからと言って帰ろうとする。
最後にアーキテクトは、スケアクロウをお願いするかんねと一言告げてなに食わぬ顔で立ち去った。
「ありがとさんアーキテクト、今度何か礼の1つでもさせろよ!」
そう告げると、ガレージに止めてある俺の愛車に手をつける。元々はジャンク品で俺が拾い上げ、技術勉強がてら修復したものだったのだが……まさかこんな所で使用することになるとは思わなかった。だが、今はとてつもなく心強い。
キーを差し、エンジンを吹かす。
確かに力強くなっている。
危なげはあるが、これなら間に合うかもしれない。
……待っていてくれ。
前は救えなかった。
だが今は。
「……死ぬなよ、死んだらあの世に行ってまでお説教だからな」
そんな冗談を口ずさみながら、エンジンを強くする。
轟音を轟かせながら、その身を外へと飛ばした。
「……あー、あー。ヘリの中、俺の声が聞こえてるか?」
バイクの轟音が音をかき消してしまいそうだ。
サイレンサーがついているとはいえ、流石に大きいか。
おーい!聞こえてるかー!?と結構大きな声を上げた。
かなりうるさかったのか、ガタガタという音がなりながら1人が答えた。
「聞こえています。そちらの雑音が大きくてなかなか聞き取れませんでしたが」
その声を聞き、借りた1人を把握する。
いつも指揮官にメイド長やら何やらと言われているアサルトライフルの戦術人形、G36だ。
彼女は普段日常に関わる家事などの仕事を行っているが、戦闘の腕も良い優秀な人物だ。
彼女がいてくれるのなら周りは安心して任せられそうだ。今回の作戦は周りの警戒をさらに強めなければならない。遅くなれば応援さえ呼ばれてしまう。
そんな中でのこの援軍は非常に助かる。
他には誰が居る?
そんな風に問う。
G36によると、他のメンバーは彼女の妹であるG36Cや同じ会社の銃を元にしたMP5、G41がこちらの護衛についてくれるらしい。ここまでの精鋭が揃えば心配はない。
だが、それでも撃たれた事例が起きている。
油断はせずに行こう。
「雑音の中悪いが、ブリーフィングを済ませちまおう」
そう言って今回の作戦の概要を説明する。
メインの目的は、制圧作戦に赴き負傷してしまったスケアクロウ、及びFN小隊の救出。最重要となるのは致命傷になりかねない傷を負っているスケアクロウを迅速に救助し治療を行うこと。他の二人は感電が治れば動ける為、軽い治療を行う。
その後、護衛部隊は後の作戦に継続して参加する。
「奴らを見つけたら構わない、撃ち殺せ。そっちの方にも多分殲滅命令が出てるだろ」
俺も思うところは同じだ。
むしろこの手で全員を仕留めてやりたい所だ。
だが、俺の本来の役目は死にかけている仲間を助けること。本来の目的を見失って命を落とそうものなら後悔してもしきれない。
だからこそ、俺はさらに続けた。
「……深追いはするな。最初は先ず救助を最優先に動いてくれ。……その後は俺が言うまでもないが、全部潰しちまえ。奴らのやった事がどんなことか、身をもって体感させろ」
衝動に身を任せたい。
だが、そうしてしまえば救える命を捨てることになる。
俺の気持ちとプライドが、それを許すことはない。
だからこそ、彼女らに任せる。
辛い仕事を押し付けて悪いな。
そんな風に謝罪したが、彼女達は責めなかった。
それが戦術人形の本来あるべき姿であり、本来の役目。だから謝る必要は無いと。
本当はそうかもしれない。
それでも良心が痛むと感じる俺は、やはり異常なのだろうか。……今は、放っておこう。
何れ答えは出る筈だ。
かつて救えなかった人を救う為に。
今度こそは、助けてみせる。
辛い別れはもう十分だ。
決意と覚悟は決まった。
しばらくして、漸く建物の前へとたどり着いた。
そこには既に4人、自分の護衛を担ってくれる人形が立っていた。
「……来ましたね。私達は準備万端です」
「すぐにでも行動出来ますわ。なんなりとお申しつけを」
「みんなを助ける為に……がんばります!」
「すぐに助け出して、悪い奴らを倒しちゃおう!」
そんな各々の意気込みに口角を上げる。
流石、頼りになりそうな奴らだ。
そんな俺も、ホルスターから片方の銃を抜く。
白銀のカラーリングをした拳銃……
そのスライドには、この銃の銘が刻まれている。
『M93R Saver』。
俺の愛銃だ。取り回しが良く、必要な仕事をこなしてくれる。個人的な改造も施しているため、十分な性能を持っている。……さぁ、準備は整った。
全員自分の獲物を構え、突入体制を取る。
「……
扉が壊される音と同時に、戦火の火花が散った。
・救命作戦-Operation Lifesave-編第3話。
ようやくタイトル通りになり始めましたね。
今回はキャラ紹介をしようと思ったのですが、新しく出たキャラたちの紹介をするにはセリフが足りないので次回に。
・UA数10000越えしました!!
まさか……まさかこんなに伸びるなんて思わなかったんです……1ヶ月も経ってないんですよこの小説……!?
やばすぎてやばいです、はい(語彙力)
次の回も、お楽しみに。