鉄血もグリフィンも争わない平和な世界を死に損ないが満喫するだけ   作:葉桜さん

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救命行動VI:大切な友人 -True Friend-

……修理は無事終了した。

あの後、直ぐに医務室を手配した俺は即座に帰投し……彼女の修理環境を整えた。今までにない事例。

普通は撃たれても、痛みと傷が残るだけだ。

しかし、今回はまた別の何かが残っていると言っていた。ただの痛みだけならば、彼女だって抑えるだろう。

だが……何かに蝕まれるような、そんな感覚を覚えたと彼女は言っていた。それが普通じゃないのは明白だ。

 

 

 

傷の処置自体は、完全に終えられた。

だが……彼女が苦しんだ原因が完全に取れたかどうかが分からないある程度の検査も含めて施術中に様態を確認していた。そこには、謎の微弱電流や、謎の信号の残りが彼女の中にあった。

……一体、どういう事だ。

 

 

 

俺が今まで修理してきた中で、こんなものは見た事がない。普通信号や電流なら電子線の傷だろうと推測できるはずだ。電脳を焼き切られる、そんなものだ。

だが、今回は物理的な傷を伴った上でこんな症状が出ていた。彼女が苦しむのも無理はない。

それを継続的にとなると、最悪だ。

体内に弾が残っていなくて良かったと安堵する。

 

 

 

「……見覚えの無い症状、普通なら持ち得ない武装……今回の相手はどうも例外だらけの奴らだったみたいだね」

 

 

 

指揮官も、この事態は予想出来ていなかったと言う。終わった後、酷く申し訳なさそうな形相で謝った。

何もそこまでしなくてもと周りから声が上がっていたが、彼からしたらそれほど重大な失態だったのだろう。

……普通、人間は物事に慣れてしまうと例外を忘れがちだ。最初の方こそ警戒をするが、後になればそんな事を忘れてしまう。仕方ないといえば仕方が無いのだが、確かに割り切れない部分が存在するのも確かだ。

 

 

 

事前に確認出来た情報では、殆ど蔓延している通常の人権団体と変わり無かったはずだ。

しかし、蓋を開けてみれば最悪だ。

通常の人権団体よりも更に悪質な人員、PMCにも匹敵する程の構成員の数。更には違法な武装と来た。

俺らがやっていたのは反社会勢力の排除だったのだろうか?そんな疑問さえ抱くレベルだ。

 

 

 

「彼らは……何故私怨だけでそこまでやれるのでしょうか……私には理解が出来ません」

 

 

 

そう話すのは、殲滅部隊……AR小隊を率いていたM4A1だ。その疑問は誰もが持っているだろう。

人形でさえそう思うんだ。

相当イカれている。

人間の倫理さえ捨てた獣に理論は通用しない。

そう言ってすっぱり諦めるとも考えた。

だが、それではきっと納得がいかない。

……胸糞悪い。

何故奴らにここまで邪魔をされなければいけない。

お前ら人類が勝手に作りだした挙句、出来上がった瞬間に必要ないやら邪魔だと捨てていくのは身勝手の極みだ。

苛立ちだけが込み上げる。

 

 

 

だが、それ以上に。

 

 

 

「……スケアクロウ…………」

 

 

 

苛立ちよりも、不安が強くのしかかる。

今だ、彼女は目を覚まさない。

俺に出来ることは殆どやった。

治療もした。検査もした。

異物は取り除いたし、傷口は塞いだ。

これ以上は、俺ではどうしようもできない。

……この時間が、1番苦しいんだ。

自分が手を尽くしても、生きるか死ぬかを彷徨うこの時間が。確実に俺の精神を溶かして傷をつけて行く。

 

 

 

ただただ祈るしかない。

こんな荒廃した世界に神など居ないのに、こんな時ばかりありもしないものに縋り付くのは俺も人間だからなのか。結局、どうしようもないことに対してはそうやって縋るしかない。

 

 

 

何度も、俺は人形の死を見てきた。

どれだけやったとしても、救えなかった奴もいる。

それを思い出す度、吐きそうになる。

最悪な無力感と虚無感に襲われる。

本能的にそれを抑え込もうとするほど、苦しくなる。

頼む。

もうやめてくれ。

俺の目の前から消えないでくれ。

別れの言葉を聞くのはもう沢山なんだ。

 

 

 

不安そうな目で見る2人。

大丈夫。いつもの事だ……。

もう今更、どうこう出来る事でもない。

何とか落ち着く事を意識する。

大丈夫。手を尽くしたんだ。

彼女は助かる。絶対に。

自分に暗示をかける。

そうでもしなければ、頭がおかしくなってしまう。

 

 

 

「……お前らは戻っているといい。俺はもう少し、様子を見てから戻る」

 

 

 

そう言って、戻ることを催促する。

指揮官も、M4A1も今回の作戦ではかなり体力面でも精神面でも疲弊している筈。

休息が必要だろう。

特に彼らはこの基地の中心だ。

俺なら兎も角、彼らは十分な体勢でいる必要がある。

心配ということもあるだろうが、俺が居る。

安心して休んでくれと作り笑いを浮かべた。

 

 

 

指揮官……クラウスは意図を汲んだかのようにM4A1を連れて部屋を出ていった。済まない。お前達にこんな引き攣った顔を見せるのは申し訳無かったんだ。

……半分は言葉のままだがな。

今は酷い顔をしているだろう。

こんなままで、彼女の前にいるというのも失礼だろうか。それでも……せめて、彼女の目が覚めるまでは……

 

 

 

眠っている彼女の手の上に、優しく自分の手を乗せる。冷えかけてはいるが、まだその温もりは消えてはいなかった。これなら、少しは希望が持てるだろうか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫くの時間が経った。

日はもう沈み、この基地も静まり返っている。

未だに俺はここで彼女が目覚めるのを待っていた。

目を瞑り、何も考えずに。

ただ祈る事は彼女が無事であることだけ。

そんな俺の元に、旧友であった人形が尋ねてくる。

いや、尋ねると言うよりはただ見に来たと言った方がいいだろうか?

 

 

 

「まだ宿舎に戻ってなかったんだ。貴方も嘘つきなのね〜」

 

 

 

先程助けられた、404小隊のリーダー。

死ぬ前の世界での旧友、UMP45だ。

こいつが来る時は決まってなにかを茶化しに来る時が多いと冗談ながらも思っている。

口の減らない奴故、そういう言動が多いのだろう。

これは必要な嘘なんだよ、と軽口で返す。

そういうノリが好きなのか、少し楽しそうにしていた。正直に言えば、俺は気が休まらないのだが。

 

 

 

「……久しぶりに404 not foundとしての任務があったわ。これ、報告書の一部ね」

 

 

 

そんなものを俺に手渡してどうする?

俺は指揮官ではない。これを手渡されたところで……

そう思っていたのだが、その内容に目を奪われた。

 

 

 

そこに乗っていた内容は、交戦した人権団体が所持していた武装の詳細や推測される入手ルート。

及び、それの一部を潰して得た情報に関しての書類。

その中には、彼女を撃ち抜いた弾丸に関しての情報が載っていた。通常の9mmパラベラム弾を改造して作られたその弾丸の特徴はこう書かれている……

『人形に対し、遅効性ではあるが機能の破壊やシステムのバグを引き起こす電磁波を発生させる弾丸』と。

つまりこれは……

 

 

 

「対戦術人形用弾、だと……?」

 

 

 

疑念がさらに抱かれる。

人形の複雑な構造を理解する人間は多くない。

その上、人形に有効なものを作れるなど……

そんな技術者が存在するのか?

ペルシカがそんなことをするとは思えない。

それ以上に、なぜ人権団体如きが……

PMCはおろか、正規軍でさえ持っていない物を……

頭が痛くなる。

こんなになるまで放っておいたのか、あの馬鹿は。

そんなふうに顔をしかめる俺に対して続けた。

 

 

 

「どうもこの人権団体、最近になって急に勢力を伸ばしたみたい。これの前にも、グリフィンと鉄血が手を組む原因になった団体がいるんだけど……それが潰れると同時に成長していったらしいわ」

 

 

 

新興勢力だと言うのに、この有様か。

この世界線はどうやら、人間の凶暴性が余計に強くなっている。むしろ、人間が余計に凶暴になっているおかげでグリフィンと鉄血が協力関係になった様だ。

喜ぶに喜べない。

……だが、本当に何が奴らを駆り立てるのか。

そこまでして人形を壊したいのか。

俺には理解出来ない。

いや、常人には理解できないだろう。

 

 

 

「……訳が分からないな」

 

「同意するわ……あなたの世界線と違って、こちらのグリフィンは民間人に対して被害を被らせたような事例は無いし、鉄血側も同じはずなのよね」

 

 

 

疑念は深まるばかり。

ここのグリフィンと鉄血は人間に対して友好的だ。

それなのにも関わらず、あそこまでの直球な殺意を向けられるだけの何かがあるとでも言うのか。

今回潰した人権団体は完全に鎮圧出来たそうだが、また何時同規模の戦いが起きるか分からない。

何時の時代も、何処の世界線でも。

争いというのは無くならないものだと落胆する。

 

 

 

「……ねぇ、前々から思ってたんだけどさ」

 

 

 

なんで貴方はそんなに人形に肩入れするの?

そんな問いが、俺に投げかけられた。

理由は……最初はわからない。

人形と触れ合い、仲良くなる度に。

それが人間と同じものだと気づいた時からだろう。

だが、こう言った整備士になって……

人形の死を見ていく度に俺は余計に恐れるようになった。今思えば……目の前にいるこの人形が、その発端の欠片だったかもしれないとも思う。

人形の死を病的に恐れる者となった原因の。

 

 

 

だが、今はそれを語ろうとは思えない。

何せ、そんな話をするのは不吉だからな。

分からない、と適当に誤魔化す。

本人が目の前の中で、それを言うのもあれだろう。

 

 

 

「そう……なら別に詮索はしないけど」

 

 

 

そう言って、俺に渡した報告書を回収する。

404小隊でも分け隔てなく接する俺をどうやら信用してくれてはいるが、その裏が知れないのが不安だと呟いた。

……明かす方も辛いんだ。

自分本位で済まない。

何れ、語れる時が来たのなら。

その時は教えてやるとしよう。

それじゃあねと音を立てずに部屋を出ていった。

 

 

 

彼女はまだ目覚めない。

この場を離れるのが、少し怖い。

ここを離れてしまえば、彼女の顔を見れるのがこれっきりになってしまうかもしれない。

そう嫌な思考ばかりが俺を苛む。

大丈夫、大丈夫だけれど……

もう少しだけ、傍に居ようか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………眩しい。

眩い光が、瞼越しに目に差し込む。

俺は……少し眠ってしまっていたようだ。

しかも、傷を負って眠っている人の上で。

傷が痛まなかっただろうか。

悪いと言う気持ちから、直ぐに身体を起こした。

顔を上げれば……

 

 

 

「……おはようございます。君も目覚めたのですか」

 

 

 

微笑ましそうな顔で、彼女が笑っていた。

優しい声で、おはようと声が掛けられた。

これは、夢じゃないよな?

本当に……

 

 

 

「っ、リオン……?」

 

「良かった……!よかった……!」

 

 

 

彼女を抱きしめる。

俺の大切な友人が、また死ぬなんて嫌だった。

もううんざりだった。

また消えないでくれと何度祈った事か。

震える声で、ただ繰り返すだけ。

生きてくれていて、良かったと。

本人の様子など気にすることも無く、ただただそこにある事実を噛み締めるだけで。

余計に酷い顔になっているんだろうな。

人にはとても見せられない。

 

 

 

「リオン……嬉しいのは分かりました……その、少し苦しい……」

 

 

 

その一言でようやく正気に戻った。

彼女は紅くなりながらも、ふうと一息ついた。

急いで離れた。怪我人に対してする行動じゃなかったと反省する。でも、勢い余ってそうなるほど、俺は安心した。

酷く安心したんだ。

決してこの顔が、泣きそうになっている訳では無い。

 

 

 

「ずっと心配で、ここにいたのですか?」

 

「……ああ」

 

 

 

弱々しい笑い方で微笑む。

そりゃあそうだ。傷付いた人が心配じゃない訳がない。

友人であることもそうだが、自分を救ってくれた恩人ならば尚更だ。心配性な俺だ。

ずっとこんな風にもなるさ。

 

 

 

「申し訳ありません。私の失態で、君まで巻き込んでしまいましたわ……」

 

「馬鹿、謝るな……むしろ、謝るのは俺の方だ」

 

 

 

その言葉にどういう事かと言う目をするスケアクロウ。

元々、俺の取り柄というのは人形を治してやる技術だ。

それを戦場で活かすことが、俺の価値だった。

だからこれは俺のやるべき当然のことであり、ここまで手こずるのは本来であれば論外だ。

下手したら、お前を救えなかったのかもしれないのだから。それでも俺は、お前を留め続けてここまでにしてしまった。謝るべきなのは、俺の方だった。

 

 

 

「……何故君は、私をそこまでして……」

 

 

 

 

 

そんなものは決まっている。

理由なんて簡単だ。

 

 

 

 

 

「友人を見捨てる野郎がいるか?……居ないだろ。ましてや、俺の弱みをさらけ出して握らせるほどに信用出来るやつなら、尚更な」

 

 

 

 

 

そんな言葉に、彼女は少し頬を紅く染めていた。

そこまで大切に思われているとは思わなかったのだろうか。確実に言えるのは、俺にとってスケアクロウは他の人形以上に思い入れのある人物だ。

前に本人に語ったように。

今の俺がここにいるのは、彼女のお陰なのだから。

 

 

 

「……ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 

 

 

単調な会話だ。

でも、確かにその一言だけで意図は伝わる。

淡白なように見えて、その中身はちゃんと籠っている。

傍から見れば、ただ一言。

俺達からしたら、一言だけじゃない。

そんなやり取りだ。

 

 

 

心做しか、彼女の顔も嬉しそうだった。

あの時よりも、もっと表情豊かだ。

機械的だと思っていた彼女は、以外にも俺たちと変わりなく近づいてきているのだろうか。

もしや、俺に悪影響でも受けたか。

さすがに冗談だ。

でも、ここでそう問うなら、きっと彼女は冗談で返すかもしれない。ここはそんな場所なのだから。

 

 

 

今回の事件は、一先ずの幕を閉じる。

彼女を無事に救出出来て良かった。

初仕事だったが、失敗をしなくて本当に良かったと安堵する。ここで失敗しようものなら、更に俺は自分を責めるだろう。もう、救えなかったと後悔することはしたくない。

俺の居る意味は、救えなかった事の贖罪か。

それとも、まだ彼女達を救い足りないのか。

……考えるだけ無駄だ。

どれだけ力が無かろうと……

どれだけ人が彼女らを拒絶しようと……

せめて俺は、彼女達(にんぎょう)の味方であり続けなければならない。それが、俺の望んだ事なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝の太陽は、確かな長い日を終えたことを告げた。

朝日に照らされるのは、確かな2人の微笑みだった。

 

 

 

 

 

 

 




・救命行動-Operation Lifesave-編終了です。無事にスケアクロウの救出を完了したと同時に更なる暗い影を垣間見えさせる話でした。
まだ次のシリアスまでは時間があるから安心してね!


・お気に入り数200突破しました!
こんなに見てくれている人がいることに驚愕して腰がヘルニアになりました。(大嘘)(意味不明)

・次回からはまたいつものほのぼのやギャグのある日常へ。殺伐とした後はこれに限りますね!←


次の話をお楽しみに!
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