鉄血もグリフィンも争わない平和な世界を死に損ないが満喫するだけ   作:葉桜さん

25 / 43
温和日常XII:自分達だけの”秘密”

 

グリフィン基地内、射撃訓練所……

日は既に落ちきっており、月明かりが淡く確かに空を照らしている。

 

 

 

そんな中1人だけ、黙々と拳銃を握りターゲットを撃ち抜いている人物が居た。手には白銀の拳銃。

トリガーガードに付けられた折りたたみのパーツが特徴的なマシンピストル……M93R。

スライドに刻まれた文字の羅列。

Saver……救命者や、助ける者を意味する単語だ。

そんな銘を刻んだ拳銃を持つものなど一人しかいない。もちろん俺だ。あの作戦以降、少し戦闘での実力の無さを自覚しつつあった俺は、密かに射撃訓練場に出向いていた。

 

 

 

「……ダメだな……改善の兆候が見られない……」

 

 

 

自分のスコアと言うより、結果を見て落胆する。

通常の民間人よりも1段2段上程度だ。

戦場に赴くという性質上、多少は訓練を受けている俺だが……それにしても随分と情けないものだ。

人形たちを助け、守ると豪語している人物がこれでは安心できなければ信用もできない。

何度も何度も繰り返しているが、上手くならない。

自分の観察やパターンの考察、様々なことに手を尽くしているはずなのだが。

 

 

 

自分の成長の悪さに呆れる。

知識と技術で仲間は助けられる。

しかし、実戦での実力というのも確かに必要な要素だ。

この前の作戦ではないが、ミイラ取りがミイラになるような自体にならないとも限らない。

その為にも、自分自身と仲間を守れる程度の力は必要となるだろう。

 

 

 

「……情けねえな」

 

 

 

訓練所のベンチで項垂れる。

自分が軍人のようなタマでないことは分かっている。

身体能力で劣っていることも分かっている。

しかし、どこは俺は割り切れないようだ。

 

 

 

最近は何度も同じような訓練をしているが、未だに治らないことの苛立ちと無力さへの嫌悪が混ざりあって余計に頭の中が黒く染め上げられていく。

そんな優れない気分の中、どこか違和感を感じた。

 

 

 

ゴソゴソ、ゴソゴソとどこかから音が聞こえる。

今日皆に訓練場を深夜に使うと言ったのは俺だけの筈……

侵入者か?イントゥルーダーのことではない。

正真正銘、敵性因子の事だ。

今は弾が入っていないが、脅しには十分だ。

咄嗟に構えに入る。

 

 

 

「誰だ……そこに居るのは……!」

 

 

 

先に撃たれれば死ぬ。

先に見つけなければ死ぬ。

そう自分に言い聞かせ、銃を構えたまま動く。

こんな深夜に俺以外の者が来るはずがない。

そんな警戒の中、もう一つの可能性に関しても俺は考えていた。

 

 

 

話は少し変わるが……

俺がこの訓練所を深夜に使うと言った理由の一つに、最近の噂が含まれていた。今度は、夜な夜な射撃訓練所から声が聞こえるという物だった。

うーん、うーんと唸るような声が深夜に響き、怖がりな人形はなかなかスリープモードに移行出来ずに困っていたようだ。自分の密かな訓練のついでに、その真相を確かめようとしていた訳だ。

不可解なものへの警戒も含めて、出てきたら撃つ。それを意識していた。

その筈だったのだが……

 

 

 

「だ、誰もいない……いないわよ……」

 

 

 

そんな間抜けな一言で張り詰めた気が一気に抜けた。

敵がそんな間抜けなわけがない。

ましてや俺達の敵は酷く人形を憎む者であり、それに関わる一切を排除しようとする連中だ。

そんな奴がこんなふざけたことはしない。

少し気の抜けるようなゆるい声。

さらに自分がいないなんて隠したい奴は一人だ。

 

 

 

「……何だ、ティス。お前だったんだな」

 

 

 

警戒を解き、拳銃を下ろす。

安心したかのように、またはバレてしまったかと言わんばかりにため息をついて一人の少女がひょっこりと現れた。

彼女の名前はOTs-12。

またの名をTiss(ティス)

自らを秘密兵器と称するちょっと変わった子だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故よりにもよってこんな時間なのかという疑問はあったが、話を聞くとただ訓練をしにここに来たようだ。

彼女は何よりも秘密を大事にする子だ。

自分の実力も隠したがるし、自分の姿も隠したがる。

自分のことに関してはなんでも秘密にしたがる子なのだ。それほど自分が”秘密兵器”であることに誇りがあるのだろう。だから秘密に訓練がしたかったという所だろう。

 

 

 

しかし、彼女は悩んでいた。

しばらく訓練を続けているところを見ていたが、所々ため息をついたり、落ち込んでいる様子が見える。

ああ、もしかして……

そんな様に思って、彼女の元へ。

 

 

 

「よう、どんなもんだ?」

 

「全然……これじゃ、期待に応えられない……」

 

 

 

そんな風に落ち込むティス。

確かに、結果を見るからにあまり調子が良いとは言えないようだ。彼女の落胆やため息の理由はそれだったか。

だが、何故そこまで落胆するのか。

そこが俺には分からなかった。

 

 

 

とりあえず、同じ訓練をするもの同士だ。

仲間はいた方がお互いの問題点を把握しやすい。

そう思い、まずはお互いに訓練に取り組むことにした。

大して上手くもない人間の射撃と、そういう用途で作られた人形の射撃。全くもって天と地の差だ。

俺が見ている中でも、かなり上手い方だと思っている。

だが、それでも彼女は満足しなかった。

 

 

 

「なんでそこまで、訓練に拘るんだ?」

 

「私、秘密兵器だから……強くなきゃいけないでしょ?……でも、今の私はお世辞にも強いなんて言えない、このままじゃ……って」

 

 

 

話を聞いていくと、何度か自分のミスで仲間を危機に陥らせてしまったことがあるらしい。

その仲間達は全然気にしていなかったようだが、彼女にとっては大問題であっただろう。

秘密兵器ともあろうものが、逆に自分たちを苦しめてしまったのだから。またそんな目に遭わせたくないと言う理由もあった。

 

 

 

成程なと自分の内心で納得する。

彼女は烙印(ASST)の影響もあるからか、自分が秘密兵器ということにこだわりを持っている。

銃本体も表向きにされず、開発段階で消えてしまったという面からも確かに秘密であることに変わりはない。

だが、あまりにも”秘密兵器”であることにこだわりを持ちすぎて、自分の在り方を固定化させてしまっているのだろう。

固定観念が彼女の成長を阻害しているのではないか。

その考えが、俺に何かを気づかせた。

彼女の状態は、俺と似ている。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……強くなることを急ぎすぎてるかもな。俺と同じだ」

 

 

 

そんな言葉にえ?と疑問のように飛んできた。

今の彼女と俺の状況は似ている。

今の彼女は、秘密兵器であるが為に強くなくてはいけないという固定観念が根付いている。

だが、今の現状を見ては自分はそれにあてはまらないと感じて成長を急ごうと空回りするばかり。

俺も全く同じだ。

 

 

 

俺も人形を助ける者であるならば、強くなくてはいけないという固定観念が根付いてしまっていたのだろう。だから俺はドツボに嵌って行き、成長を急いでいたのかもしれない。

結果空回りして、上手くいかないばかりだ。

 

 

 

同じような人物を見て、初めて気付くものだなと知った。何となく、自分だけが焦っているわけじゃないと安心した気がした。ふぅ、と一息ついて、どういう事と分かっていなさそうな彼女にもう一言。

 

 

 

「俺らはもうちょっと、ゆっくり歩く必要があるってことだ」

 

 

 

そっか……とこの例えで何となくわかったようだ。

焦りは周りを見えなくさせる。

周りが見えなくなった次は、自分自身が見えなくなってきてしまう。そうすれば、成長できる部分を自ら潰してしまう要因ともなってしまう訳だ。

まずは焦らずに。

少しずつ少しずつ自分達の改善点を見つけていけばいい。それに、今ここで同じ悩みを持つものが現れたのだ。

それなら……

 

 

 

「協力して、お互いに強くなる……なんて事だって出来るだろ?」

 

「……そうだよね。自分が見えない所は他の人が見えるかもしれないもん。1人で抱えるよりは、2人とかで……」

 

 

 

自分に見えないならば、他人に見てもらう。

基本中の基本だが、驚かせようと思ったり、頑張っていることを察させないようにしようという思いがその行動を忘れさせていたらしい。無理な意地は張るものじゃない。

それに……同じ隠したがり屋なのだ。

お互いに”秘密”にすることだってできる。

 

 

 

「それじゃあ、お互い観察しながらもう一度やりますか」

 

「賛成。ちゃんと見ててね」

 

 

 

お前こそ、見てなかったとか無しだからな。

そんな冗談のようなやり取りを交わす。

肩の力が抜けたような気がして、不思議と結果が伸びている。つい先程よりも、上手く動ける気がした。

向こうも同じようで、少し調子を取り戻したかのように良い成績をぽんぽんと叩き出していく。

 

 

 

「全然上手いな、ここをこうやったらもう少し行けるだろ」

 

「ふふん。秘密兵器ですから。逆にリオンはこうしたら改善が出来ると思うわ」

 

 

 

どや、と言うようなティスの顔。

あまりにほのぼのしていて、少し笑ってしまった。

 

 

 

お互いがお互い、改善点を伝え合う。

別の人物の視点というのはやはり凄いと思わされるばかりだ。自分の気がつかなかった場所に気づくことが出来るのだから。他の人に褒められることでやる気も出る。

欠けている部分を指摘される事で次にすべきことを明確にできる。とんでもなく重要なことを頭から飛ばしてしまっていたものだなと少し反省した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後も少し続けたが、確かに改善の調子が全く違って見えた。指摘されていた部分を重点的に意識して行うことによって劇的に変化するように見えた気もする。

それほどの収穫があったのだ。

もうそろそろ日が登ってきてしまいそうだ。

訓練はここまでにしようと切りあげる。

 

 

 

「ふぅ……今日はありがとな、ティス」

 

「こちらこそ、大事なことに気づかせてくれてありがとう」

 

 

 

お互いに礼を言う。

少し照れくさい気もする。

謎のうめき声事件の真相も分かった。

自分たちの悩みだって解決した。

この一夜だけで、色々と。

深夜の訓練は新鮮だった。

また一緒にやろう、と約束もした。

 

 

 

最後に、一番大事な事を約束しよう。

 

 

 

「今日の訓練やら何やらのことは……俺らだけの”秘密”だ、な?」

 

「……うん、私達だけの”秘密”、だね」

 

 

 

にひひっ、という声が聞こえてきそうな……

2人分の眩しい笑顔が月夜に輝いた。

それはまるでイタズラを考える子供のように純粋な、暗さの欠片もないような笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんか最近、射撃訓練所のうめき声が収まったけど物音が酷くなったって話をよく聞くんだけどさ……なにか変わったことでもあった?ポルターガイストとかさ……」

 

「そ、そんなものあるわけないじゃない!非科学的よ、そんなことなんて起きてないわ!たっ、ただの勘違いじゃないの!?」

 

 

 

その日の昼。

いつも通り指揮官やわーちゃんの所へ遊びに行き他愛も無い話をする。今日は例の訓練所の話が話題だった。

幽霊やら亡霊やら、そんな風に思われているらしい。

わーちゃんはそういう物が苦手なようで、明らかに動揺しているのが見て取れる。

 

 

 

「リオンは何か知ってる?」

 

 

 

そんな質問が投げかけられた。

まぁ、確かに俺が行ってからの話だったな。

でも……残念だな。

 

 

 

「俺は分からない。あれ以降は行ってないからな」

 

 

 

 

 

まぁ、嘘なんだけどな。

だって、あの話は俺とあいつの”秘密”なんだから。

そう簡単に教えてたまるもんですか。

密かに、やんちゃな子供のような笑みを浮かべた。

 

 

 




・ティスかわいい。
今回はOTs-12の話でした。
キャラ紹介。

OTs-12:かわいい秘密兵器。電波系な感じだけど中身はめちゃくちゃ真面目で忠実ないい子。でもちょっと頑張りすぎなタイプなかわいい秘密兵器。大事なことなので2回。


・どうでもいい報告ですが、今回の確率アップで製造回しまくった結果ようやくわーちゃんがお迎え出来ました!
その前にダネルとKarちゃんやらいっぱい出たのは内緒。


・次回は初めてのコラボ回予定。


次の話もお楽しみに!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。