鉄血もグリフィンも争わない平和な世界を死に損ないが満喫するだけ   作:葉桜さん

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今回も1週間ほどかかった上にリクエスト会ではないです。
申し訳ありません。


温和日常XV:プライド高い系女子=ポンコツ

 

 

グリフィン基地内、指揮官の執務室……

もはやいつもの光景が拡がっている。

 

 

 

椅子には指揮官……クラウスが座っており、書類仕事を淡々とこなしている。その隣にはいつも通りにWA2000がいる。

指揮官の仕事が大変そうだから手伝ってやろうとしてるだけなんだからね!とつんつんしている……ように見えるが、つっけんどんになれていない。むしろ本音が漏れている。

さらに掘り下げるなら指揮官と一緒にいたいだけなのだろうが。彼女は実はポンコツなのではなかろうか。

 

 

 

そしていつものように、部屋から抜け出しては執務室で好き勝手やっているいつもの奴……

俺ことリオンだ。

今日も今日とて執務室に入り込んでは適当に寛いでいる。仕方が無いじゃないか。仕事がないんだもの。

いや、あったらあったで困るけれども。

 

 

 

そういえば最近、妙に鉄血ハイエンドたちの部屋が騒がしい。話し声が喧しい、姦しいという訳では無いが……

とにかく物理的に騒がしい。

何かが暴れる音や、崩れたり倒れたりする音。

普通にしていればそんな音出るわけないだろ!と思うような轟音だったり……

 

 

 

「……ねぇリオン、私ちょっと書類ちらっと見たら……最近鉄血の奴らの部屋の修理費が酷いことになってるんだけど」

 

「え゛っ、何だそれは……」

 

 

 

普段出ないような阿呆な声が出た。

ちらりと見たわーちゃんによると、鉄血達の部屋……どこか一部屋という訳ではなく、全体的に何かしらの器物が破壊・損壊しているようだ。

非常に嫌な予感がした。1番に名前が上がるであろうデストロイヤーは名前通り壊す事特化の人形だが、普段からそんなに暴れることはしない。いつも怒られるから懲りているはずだ。

駄々っ子なのは変わらないが。

 

 

 

だが、それ以外では破壊行動を取るような人形は知らない。他の人形達は基本的に大人しく、確かに騒ぎを起こすようなことはあるが部屋の破壊やら何やらまで至ることは無いと思っていたのだが……しかし、現に部屋の修理の支出がある為壊れているなどといったことは本当なのだろう。

一体誰が……?

そんな風に思っていた。

 

 

 

 

 

 

凄い爆音が響いた。

いつも自室にいる時と同じような感じだ。

……まさか、俺が聞いてたあの破壊音が……?

いや、当たり前なのだが。

聞いていた指揮官の目は完全に笑っていない。

目が死んでるよお前。

 

 

 

「ごめん……ちょっと鉄血の部屋見てきてくれないかな?俺はちょっと書類に追われててさ」

 

 

 

見ればわかる。

この基地の財政は大丈夫なのだろうか。

あと、それを処理する担当や責任を問われそうな指揮官の胃も……なんだか、非常に申し訳ない気分になってきた。

実際鉄血のハイエンドたちと1番関わっているのは俺だ。

監督不届きと言われても仕方が無い。

呆れ混じりの溜息をつきながら、部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここ、だよな」

 

 

 

明らかに扉から煙を上げている部屋が1つ。

例に漏れず、この区域は鉄血ハイエンド達の部屋が立ち並ぶ場所だ。そんな中の一室……

確実に誰かがやらかしている。

予想しなくてもわかる。

誰だこんな馬鹿なことをしたやつは。

 

 

 

「……入るぞ!」

 

 

 

そう強く言い放って電子式の扉を開ける。

その目の前に映っていた光景……

なにかも分からないような破片が散乱している。

壁にはクレーター。

床には綺麗な穴がいくつも空いている。

家具も壊れたものが沢山だ。

そんな中に1人、未だに暴れている人形が。

 

 

 

「く、く、黒い化け物は……!?何処へ……殺ったか……!?いやそこか!」

 

 

 

鉄血ハイエンドの1人。

あのイロモノ揃いの中でも特にプライドが高い人物で、同時に救いようのないほどのポンコツ。

彼女の名は……ウロボロス。

旧世代の学生を思わせるような服装と、古風な話し方が特徴的だ。今この部屋には彼女しかいない。

さらにあの物騒な物言い。

手に握られている獲物。

間違いない。

 

 

 

 

 

 

「お前かぁーッ!お前が暴れてたのかーッ!」

 

 

 

 

 

ビクリとなってこちらを向くウロボロス。

こちらを向くと同時に固まる。

さしずめ、彼女は今這い寄る黒光りするものの恐怖から逃れたいが、自分のプライドが許さないと言ったところだろう。

震え声になりながら口を開き始めた。

 

 

 

「り、りりリオンか……あ、ああれごときにおぬしの助けはひ、必要ない……!私一人で十分よ……!」

 

 

 

説得力は皆無だ。

モロビビってるじゃん。

膝笑ってますよウロボロスさん。

こんな時でもプライドが勝つとか凄いな。

 

 

 

そんなことよりもひとつ言わせてくれ。

 

 

 

「お前……殺虫剤は?」

 

「……」

 

 

 

目ェ逸らした。

絶対今逸らした。

このポンコツ、天敵に対する1番の武器の存在を忘れた挙句実弾を使って仕留めようとしていたのだ。

プライドに対して思考が追いついてない。

 

 

 

「わ、忘れていた訳では無いわ!」

 

「嘘つけ!じゃなかったらあんなあからさまな反応するかよ!」

 

 

 

やいのやいの騒ぎ出す。

俺もヤケになっている気がする。

とりあえずこいつが原因なのはわかった。

さすがに俺と言えど、この惨状は看過できない。

まず報告しなくては……

そう思った時だ。

 

 

 

 

 

 

俺の背筋が凍り付く。

後ろを振り向いてはいけない。

振り向いた瞬間、俺達には恐怖が走るだろう。

いや、既に恐怖が走っている。

それでも、見なければ……

仕留めなければまたウロボロスが暴れてしまう。

俺は、恐る恐る後ろを振り向いた。

同じ方向を、彼女も見る……

 

 

 

そこにはもちろん。

黒光りする最悪なモノが……

 

 

 

「で、でで出た!と、おぬしなら倒せるであろう!?こ、ここは手柄を譲ってやる……!だから早くアレを……!」

 

 

 

ああ、もうプライドとか関係無くなっている!

しかもウロボロスは俺にしがみつくし!

というか俺だって見たくないわ!

やだ!うわ気持ち悪ッ!?

 

 

 

「ああ!さっさとくたばれよこの〇〇が!」

 

 

 

人前で言ってはいけない言葉が出た。

これにはウロボロスからも流石にその言葉は控えろ!怒られるぞ!とツッコミが。こんな状況で冷静でいられるか!

言葉にならない悲鳴をあげながら殺虫剤をばら撒く。

さながらこの部屋は下手な戦場より戦場している。

ただ原因を確かめに来ただけがどうしてこうなった。

直に当てられたそれはある程度もがき、少しするとひっくり返りピタリと動きが止まった。

ひっくり返らないで。

余計気持ち悪い。

 

 

 

「や、やったのか……?」

 

「あ、ああ……殺ったんだ……!」

 

 

 

いつの間にか意気投合。

満面の笑みで拳を合わせる。

黒光りする多足の物体は、何時の時代も全ての敵だ。

故に敵の敵は味方。

そういう事だ。

はしゃぎまくる俺達。

しかし、その後の惨状を俺達は考えていなかった……

 

 

 

扉が開く音。

俺達以外の誰かだ。

我々の第六感が告げた。

今度は恐怖というレベルではない。

動けない。

金縛りのような感覚に陥る。

後ろは地獄だ。振り返れば死ぬ。

そんな風に思える程凍りついた空気。

 

 

 

 

 

「……貴方達、何をしていらっしゃるんですか?」

 

 

 

物腰丁寧でありながら、確かな威圧感を孕んだ声。

丁寧な話し方というだけでもかなり絞れるのに、この威圧感で最早個人が特定出来る。

後ろにいるのはおそらく、鉄血の実質トップ。

彼女たちの最も上に君臨する者。

その給仕人のような立ち姿は、見間違えるわけもない。

 

 

 

……代理人。

俺は死期を悟った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……只の虫1匹程度でこの有様ですか」

 

「俺が来た時にはもうこうなっていた……」

 

 

 

俺とウロボロスは正座させられている。

これの殆どは隣のポンコツがやった事だが一緒にいた俺も同罪と見なされてしまったらしい。

畜生、原因を突き止めに来たというのに俺が原因と見なされちゃ意味無いだろうに……

今更足掻いたところでどうしようもない。

大人しく説教を享受するしかないだろう。

 

 

 

「最近指揮官から鉄血の部屋の修理費が酷いことになっているという話を聞きましたが……これもその原因の一つという訳ですか」

 

「いやそれは俺も分からない……というか、俺よりもこっちに聞いてくれよ」

 

 

 

そうやってジト目で横にいる奴を見る。

なんで私を見るのだ!と言いたげな視線。

いや、お前が今回の主犯でしょうに。

元はと言えば殺虫剤なんて言うGキラーの存在を忘れて鉛弾ばらまいてたのはどこのどいつだい。

 

 

 

「い、いや……その……外敵に対してそれ以外の対処法を知らなかったというか……」

 

 

 

さて、ここでネタばらしみたいなことをしよう。

彼女……ウロボロスは、確かに戦闘では群を抜くほど強力な味方だ。戦術面では切れ者であり、本人自身の戦闘能力も高い。だが、ポンコツなのだ。

それはなぜか。

 

 

 

彼女は、日常生活スキルは皆無なのだ。

戦い以外は本当にポンコツなのだ。

大体家事は誰かに頼むというより、呆れられながらもやって貰っているらしい。本人は学習する気がないようだが。

主な被害者は今目の前にいる代理人だ。

 

 

 

「……あれだけ対処の方法は教えたはずですが?全く聞いていなかったと?」

 

「え、そんな話をしておったのか……?」

 

 

 

ダメだこのAI。

話をまるで聞いていないらしい。

どうやら代理人によると、過去にも似たような事例があったようだ。その時はなんとか耐えていたようだが2度はさすがに……

 

 

 

「……ウロボロス。少しお話しましょうか……他の一連の件についても、今回についても……」

 

 

 

プルプル震える子犬のようになってしまったウロボロス。

まぁ、自業自得だよな……

話の中で彼女もいくつか自然に自白しているし。

正直言うと、自分で自分の首を絞めまくっている。

 

 

 

ちなみに、他の件については日常生活スキルの無さを他のハイエンドたちに煽られて沸騰したウロボロスが自力で頑張ろうとしたところ、あんな大惨事が起きたらしい。

唯一例外として、新参者のDはまだ仮の部屋を使っていたために被害を免れたようだ。

元から居た組は全員被害を受けたらしい。

彼女のその後が不安になる……

 

 

 

まぁ、何はともあれ……

 

 

 

「一件落着、か……?」

 

 

 

やっと俺も安心して部屋にいられる……

そう思った矢先だ。

 

 

 

「いでででェ!頭割れる!爪立てないで!」

 

 

 

代理人が貴方も逃がしませんよと頭にアイアンクロー。

割れる!割れる!頭蓋骨壊れる!

人形が力入れたら万力に匹敵してしまう。

冗談だが人よりは力があるからかなり痛い。

というよりなぜ俺も。

 

 

 

「貴方もあの騒ぎの中にいたんです、容疑をかけられてもおかしくない筈ですが……?」

 

 

 

これは有無を言わせない感じだろう。

なにかを悟ったような目をしていたらしい。

襟を掴まれて引きずられていく。

隣のウロボロスはしてやったりのような顔だ。

道連れにされたというわけか。

畜生、覚えてろよ……!

 

 

 

 

 

 

その後、もちろん代理人による制裁が入った。

次の日、顔色が悪いのは指揮官ではなく俺の方になっていたという事が基地内で出回っていたらしい。

俺はきっと今日のことは忘れないだろう……

 

 




・ウロボロスのキャラ崩壊がひどいと感じる今回の話。でも日常回になるとこんな感じになりそうじゃない?と思いながら書いていました。今回のキャラ紹介です。

ウロボロス:エリート(笑)なハイエンドさん。戦闘は凄く強いし頼りになるけど、日常生活は壊滅的に酷い。普段はすごくポンコツ。代理人がいなかったらやばいレベル。そのうち整備士君も被害者になりそう。



・他の作品ともガンガンコラボしたいと思う今日この頃。うちのキャラ出して欲しい!逆にここの整備士くんや指揮官を出したい!などありましたらどんどん送ってください!リクエスト版などにコメント頂けると有難いです。



・次回こそリクエスト回です。



次の話もお楽しみに!

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