鉄血もグリフィンも争わない平和な世界を死に損ないが満喫するだけ   作:葉桜さん

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温和日常XVIII:量産型だって強くなりたい!

 

 

 

 

「……鉄血製の量産型戦術人形の強化?」

 

「そそ、なんか少しは強くした方がいいだろって言ってたんだよねー」

 

 

 

 

 

 

鉄血工造支部の一室。

グリフィンのメンテナンスルームや製造室とほぼ大差の無い器具が立ち並ぶラボラトリー。

大差がないとはいえど、物理的なメンテナンスを行う器具に関してはこちらの方が非常に大掛かりなものが配置されている。

 

 

 

俺は今日、アーキテクトに呼ばれて珍しく鉄血工造の方へと出向いている。非常に久々なこの風景。

無骨な作りやら何やら、あの時と余り変わらないなと思いながらその場を歩いていった。

 

 

 

今はラボラトリーの中、大きなデスクの上に広げられた資料を見ながらアーキテクトと話しているところだ。

そこの資料に大きく書かれているのは、『鉄血工造製の量産型戦術人形の強化計画』。

どうも、鉄血の上の方はグリフィン製の戦術人形一人一人がそれぞれの思考回路を持ち、効率的に戦闘を進めているという状況を見て従来の量産型そのままでは戦力の向上に貢献できないと思ったのだろう。

 

 

 

「内容としては、指示を受けるだけじゃなく、私たちハイエンドのように自律して行動し、小規模に指揮を摂ること出来るAIを組み込みたいってさ。詰まるとこ、分隊長みたいな感じ?」

 

 

 

つまり彼らがやろうとしていることは、ハイエンド達の仕事の規模を小さくした”ちょっとだけ優秀”なAIを搭載しようとしているらしい。

さすがにハイエンドレベルをどんどん量産できるわけもない。だが、ある程度何人かに搭載できる手頃な規模での開発なら量産型戦術人形を生かせるのではないかと考えたようだ。

 

 

 

鉄血の技術者達も、決して劣っている訳では無い。

しかし、I.O.Pに常に先を越されてしまう。

力になれていないという事実を見せられ、なんとかこの状況を打破できないかと考えでもしたのだろうか?

量産型を急に強化し始めるなどと言ったことは、俺からしたらあまりにも突拍子もない計画だった。

 

 

 

「まぁ、簡単に言うとミドルってとこかな」

 

「成程?……この強化した量産型戦術人形の個体を仮称”Type:ACE”とする……なんて書かれてるな」

 

 

 

つまり、未強化の量産型戦術人形はそのままの呼称で。強化を施された量産型戦術人形をType:ACEと呼ぶようだ。

ACEに抜擢される人形は、比較的破損率が少なく様々な戦場をかけたベテランが選ばれるようだ。

量産型とはいえ、戦闘に関する思考回路は持ち合わせているのだ。長く生き残っている人形は優れた戦闘のセンスを持っているということなのだろう。

 

 

 

ならば、その優秀な人形を格上げするのが道理というものだ。新しい鉄血の力を、経験のない者に持たせるのは不安だろう。

 

 

 

「……という訳で、もう実は抜擢された子達のアップデートは終わってるんだよね〜。入っていいよー!」

 

「随分と手際がいいな、いつもの事だけども」

 

 

 

アーキテクトは色々と問題児ではあるが、その技術や頭の良さなどは他の追随を許さないレベルだ。

それ故、基本的に技術仕事では頼りになる。

……まぁ、何が起こるかわかったものでは無いのだが。

 

 

 

「それじゃ、入っていいよー!」

 

 

 

そんなアーキテクトの一言を合図に、3人が部屋に入ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ〜、挨拶お願いしまっす!」

 

 

アーキテクトがはっちゃけたように言う。

今目の前に立っているのは3人。

1人はサブマシンガンを。

1人はアサルトライフルを。

1人はスナイパーライフルを装備した人形だ。

まず前に出てきたのはアサルトライフルを装備した人物。

 

 

 

「Vespid=Type:Aceであります。今回、私が数あるヴェスピドの中より抜擢されバージョンアップを行いました。これより一層、貴方方のお役に立てるよう活動していきます」

 

 

 

驚いた。まさかハイエンドたちと同じように話せるようになっているとは。鉄血の量産型は基本、コミュニケーションを上手く取れるようには作られていない。どちらかと言うと信号でのやり取りによって命令を受けるため、中々話せるようなタイプではなかったのだ。

 

 

 

それにしても、標準的な子だからか性格は律儀なようだ。と言うより、典型的な軍人の話し方というかなんというか……どちらにせよ、真面目そうで何よりだ。

何処かの変態技術者とは違うな。

そう思ってちらりと横を見るが、当のJK風人形は完全に口笛を吹いてなんのことやらと言わんばかり。

お前の事だよアーキテクト。

 

 

 

「ああ、宜しくな」

 

 

 

穏やかに微笑んで、軽く挨拶を交わす。

ヴェスピドはROやゲーガーに近いのだろうか?

言葉を掛けられれば、しゃっきり直立し敬礼する。

良くも悪くも、兵士だなという立ち振る舞いだ。

アーキテクトの、はい次〜という合図で次はサブマシンガンを装備した人形が出てくる。

 

 

 

「私はリッパー、Ripper=type:Aceです。他の2人と同じく抜擢されて強化を受けました。敬語はちょっと苦手……少し大目に見て欲しい。私も、2人に負けないように頑張るから」

 

 

 

彼女はリッパーの強化型のようだ。

彼女の性格としてはどうだろうか?

まだこれといってハッキリわかるような口ぶりではないが、どちらかと言うと、兵士とは違うだろう。

ヴェスピドのようなタイプではなく、例えるとするなら傭兵に拾われた戦争孤児のような……

具体的すぎるか。

でも、そんな印象を受けた。

 

 

 

こちらにも宜しく、と返す。

リッパーは表情はしっかりしているのか、薄く笑顔で返してくれた。バイザーで隠れてはいるが、彼女は感情表現が出来るようだ。その点、性格としては民生用人形やI.O.P製の人形に近いのだろうか?

彼女はすぐに周りにも馴染めそうだ。

他の2人は時間がかかるという訳では無いが。

 

 

 

最後に、スナイパーライフルを持った人形が出てくる。

 

 

 

 

「……Jager=Type:Ace。よろしく。2人に負けず劣らず、力になろう」

 

 

 

 

無口。彼女はかなりの無口だ。

そんな彼女はイェーガーの強化型だ。

雰囲気からしてクールな仕事人という感じだろうか……?

そう思ったのだが、妙な違和感がある。

彼女は口数こそ少ないが、少ない言葉を発したあとにいい笑顔で大袈裟に敬礼をして見せた。

……もしかして、彼女は口数が少ないだけだろうか?

 

 

 

テンプレートのようだが、彼女にも宜しくと答える。

そんな彼女が返した反応は、力強いサムズアップ。

更には自分の獲物をくるくる回してはストックを地面に付けるように銃を突きたて、また大袈裟に敬礼。

結構なユーモアがある。

恐らく、この3人の中で1番インパクトがあるだろう。

 

 

 

そんな大袈裟なアクションを終えた後でヴェスピドに軽く手刀を頭に食らうイェーガー。

痛いと言わんばかりに頭を抑えている。

 

 

 

「遊ばない。今は上官殿の前でありますよ」

 

「だからって急に手刀はどうかと思うけど……」

 

 

 

この3人組の中で1番苦労しそうなのはヴェスピドかと思っていたが、このやり取りを見ているとリッパーが1番苦労しそうだ。ヴェスピドも意外とズレている所があるようだ。

痛みが収まったのか、イェーガーは口を尖らせながらやっと戻ってきた。

次の話に移ろう。

と言っても、そんな難しい事じゃない。

 

 

 

「今紹介はしてもらったけど、呼び名で判別しやすいようにしたいよねぇ」

 

 

 

アーキテクトは言う。

確かに、Type:Aceとだけ呼ぶのは紛らわしい。

というより、呼びづらい。

かと言って今まで通りでは判別がつかない。

ここは新しく名前を考えるべきじゃないか?

という話だ。

 

 

 

「確かに判別出来ないのは致命的であります」

 

「そうね……私達は元は量産型。元々の名前で呼ぶと混乱を招きかねないけど」

 

「(顎に手を当てて考え込む)」

 

 

 

同じようなことは思っているらしい。

しかし、良い名前が……

うーんと1回唸る。

 

 

 

……そうだ。

いい名前が思いついた。

 

 

 

「……ヴェスピドは”ワスプ”、リッパーは”ジャック”、イェーガーは”イーグル”……なんてどうだ?」

 

 

 

もちろん、理由もしっかり有る。

ヴェスピドの名前の由来は”働き蜂”だ。

しかし、それよりも強力なものとなれば……”狩蜂”と呼ぶべきではないだろうかと考えた。

女王蜂にまでなってしまったら、戦場には出ない。

だから強く、そして敵を穿つヴェスピドは”ワスプ”と呼ぼうと考えたわけだ。

 

 

リッパーに関しては実はあの一瞬で少し悩んだ。

リッパーの由来は”切り裂き魔”。

実は、何処かで旧世代文明の事件を見た事がある。

その時、偶然にも見た犯人の名前が”切り裂きジャック”だったのだ。彼の犯行動機は不明でありながらも、その腕は確かだったのだろう。

ならば、今強くなった彼女に最適ではないか。

良い意味だけ込めて、”ジャック”なのだ。

……元は男性名詞だが、強くなったことも含めてだ。

 

 

 

イェーガーは所謂連想で思いついた。

”狩る者”は”鷹の目”を持っているなどとはよく聞く話だ。

強化の施されたスナイパーには持ってこいの良い名前ではないか。スナイパーにとっては名誉とも言えるこの名前を、彼女につけようと決めたのだ。

だから”鷹の目”から取って、イーグルという名前を。

それを聞いていたイェーガーはうんうんと言わんばかりに頷いていた。

 

 

 

「ぴったり、でありますね」

 

「かっこいい。私は気に入った」

 

「いいセンスだ」

 

 

 

3人にも気に入って貰えたようだ。

咄嗟とはいえ、良い名前と言って貰えると嬉しい。

彼女達は、これから鉄血をさらに支える人物となる。彼女たちの手入れもさらに丁寧に、細かくしてやる必要があるだろう。少しやる気が出てきた。

技術屋の血が騒ぐというものだ。

 

 

 

アーキテクトも何気なく楽しそうだ。

……あいつの事だから彼女たちに何をするかは分からないが。そのうちリッパー……ジャックに何かしらしそうな気がする。ジャックが苦労人な雰囲気がするため、ただの勘ではあるが。

 

 

 

「ありがとね、3人とも!今日はまだバージョンアップしたばかりだから慣れないだろうし、宿舎に戻っていいよ!ダイナゲート達が案内してくれるから安心していいかんね〜」

 

 

 

そんな軽い言葉と共に案内をするいつものマスコット、ダイナゲートが跳ねながら出てきた。

この子は本当になんでも出来るな。

信号で合図を送りながら、3人は宿舎へと戻っていく。

なんとなくだが、仲のいい3人だなぁと言う風に思えた。

少し話せるようになるだけで、あそこまで個性が出るとは思わないものだ。少し、良いものを見た気がする。

 

 

 

「どうよ?うちの新しい子達〜?」

 

「中々だな。面白い奴らだと思ったよ」

 

 

 

アーキテクトがにやにやしながら聞いてくる。

そんなもの、聞かなくたって顔を見ればわかるだろうに。彼女も中々悪いやつだ。

アーキテクトも、最初はどうも不安だったらしい。

量産型の素体でAIを強化しても、それに上手く体がついて行くか、精神がついて行くか。

しっかりと命令を処理できるのか?

そんな不安があったようだ。

だが、彼女もあの様子を見て安心している。

 

 

 

「あの3人、結構上手くやれると思うからさ〜。だから、あの子たちもちゃんと面倒見てやってくださいな」

 

「言われなくともわかってるよ。そこは俺の管轄内なんだ、手は抜かねえよ」

 

 

 

にっ、と自信ありげな笑顔を見せる。

アーキテクトもその顔で充分信頼してくれているのだろうか、なら大丈夫か!と返してくれた。

 

 

 

鉄血の新たなる仲間。

戦場で常々共に戦う兵士が、一段上へと上がってきた。

彼女たちも、ただの兵士ではなく。

1人の人形に、1人の人間にどんどんと近づく。

そんな彼女達はまだ新参者だが……

 

 

 

せめて、彼女たちが怪我をしないように。

彼女たちの帰れる、安心できる場所になれるように。

頑張ってお仕事しますかねと再び意気込む。

 

 

 

晴れて、彼女たちもこの基地のメンバー入りだ。

 

 

 




・今回は鉄血量産型にキャラをつけたいな、と思い出来上がった話!正直イメージと違うところもあるかも……
今回のキャラ紹介。


ワスプ(ヴェスピド):〇〇であります。が口癖の忠実な兵士系人形。
真面目だし律儀だけどどこか抜けてる人物。
恐らく、この中で一番アホの子をしそうなメンバー。

ジャック(リッパー):結構無愛想っぽいような話し方をする。けれども中身は普通に良識人。ちゃんとしてる子。最近の悩みは上手く丁寧な話し方をしようとしているけどなかなか癖で治らないこと。Type:Ace3人組の中の苦労人ポジ。

イーグル(イェーガー):口は大人しく、動きはうるさい。1番キャラとかけはなれているであろう人物。だいたい無口は何考えてるかわからないのが多いけれどこの子は動きのせいで大体わかる。口よりも体で対話する。


・まだまだ話のネタは少ないです。
リクエストなどありましたら活動報告までお願いします!


・次はリクエスト回。
まだ消化してないものもあるけど、それはわざとシリアスに合わせたいから延期しています……申し訳ないです……!


次の話もお楽しみに!
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