鉄血もグリフィンも争わない平和な世界を死に損ないが満喫するだけ 作:葉桜さん
タイトルから多分察せると思いますが……
グリフィン基地内。
指揮官の執務室。
「うーん……」
執務室の椅子に座り、デスクで書類仕事をこなしている人物……指揮官ことクラウス。
彼に似つかわしくない唸り声を上げながら目の前の仕事をしている。……いや、それだけならば特になんということは無いのだが。俺が居るにも関わらず今日は上の空のようだ。
いつもは俺やわーちゃん……WA2000などと話していて少しはゆっくり、ゆったりと仕事をこなしている筈なのだが……
今日はやけに指揮官が真面目だ。
ゆるいという感じは抜けていないのだが、普段以上に仕事へ身を入れている気がした。
ぱっぱぱっぱと重なる書類を恐ろしい速度で処理していく。この気合いの入りようには副官であるWA2000も困惑している様子だ。
「……なぁわーちゃんや、アイツどうした?今日俺が居ても不気味なくらい集中してないか?」
「私が聞きたいわよ……指揮官がゆるくやってるのはいつもの事だから、余計に今みたいにハキハキやってるのが恐ろしく見えるのよね……あとわーちゃん言うな」
ツッコミを欠かさないあたり、よく訓練されている。
流石わーちゃんだ。冗談は置いておくとしても、今日のクラウスはやはりどこか違うような気がする。
元より仕事はできる方ではある。
しかし、ここまでやるのは早々見ない。
なぜ彼が上の空なのだろうか。
あの能天気な指揮官に悩みなんてあったか?
……流石に失礼だ。撤回しよう。
そんなふうにコソコソ話しているうちに、クラウスは既に本日の書類仕事の殆どを終わらせた。
「……後はカリーナの管轄内だし、そろそろ動こうかなぁ」
そんな一言が聞こえた。
カリーナ……この指揮官の秘書のような者だ。
副官とはまた別の役割になっている。
様々な補助はほとんどは副官に任されるが、金銭関係や資材関係、契約書などの管轄は彼女がやっている。
あと残っている仕事はどうもその程度らしい。
仕事があまりに早すぎて恐れを抱くレベルだ。
さらに気になる言葉。
そろそろ動こうかな……何か企てているのだろうか?
アレのことだ。アレが考えるのは両極端だからどちらとも言えない。下らない事の場合はとことん下らないし、真面目な事だと本当に真面目な事だ。
今の様子を見るには、真面目側だろう。
「……2人には先に伝えとこうか。実は……」
「……AR、404、ハイエンド達の部隊による擬似戦闘訓練だって?また随分と唐突な……」
彼の行おうとしていたことは、普段彼女達が行っているごく普通の”訓練”だった。
しかし、今回は何かが違う様子。
クラウスはただの訓練にここまで時間を潰すような人物ではない。そうなると、何かしらの特殊性をつけるはずだ。
今の所そういった特異性と言えば……
この基地における重要部隊や重要人物で行われる、ということだろうか。AR小隊は正統派なエリート、404は裏工作や隠密作戦などのプロフェッショナル、鉄血ハイエンドはそれぞれの役割を1人でこなせるほどのスペックを持つ人形。
ここまでのエリートを集め、何をしようと言うのか。
「最近、この前の制圧作戦の様に人権団体の抵抗が異様になってきているからね〜。他の部隊の訓練をするのもそうなんだけど、まずは先達を担ってくれる彼女らをもっと強くしなきゃ行けないかな、という事を考えてたんだ」
確かに、考えてみればそうだ。
彼女たちを先導として他の部隊も動くとするならば、その先導が潰されてしまっては元も子もない。
だからこそ、元より優秀な部隊をさらに強化する魂胆ということらしい。
「それは分かったけど、わざわざあんたがそこまで考え込むって……本当に一体何考えてるわけ?」
一番重要なのはそこだ。
わーちゃんが言う通り、彼が何を考えているのか。
今明かしてくれたこと以外の考えが読めない。
たかがその程度なら、パッと思いついてパッとやってしまうのがこの男だ。俺達は忘れていたが、こいつも大概な処理能力を持っている。
だからこそ、ここまで時間をかけているのが分からなかった。
「そうだねぇ……まぁ、言うならば……ちょっと訓練をする本人たちには意地悪な事をするかな」
申し訳なさそうな顔の裏に、少し悪戯っぽい笑みが浮かぶ。彼は本当に何を考えているのか。
意味の無いただの悪戯なのか、それとも……
その訓練の内容の予想もつかなかった。
本当にただの訓練か?
実弾を使用した、実戦か?
もしもそうだとしたら、当たれば当たるほど死に直面する。失敗をするところであり、そこから学ぶ訓練においてそんな事をするのはあまりにふざけている。
そんなことは無いと思いたいが……
「……そうだねぇ、その顔だと皆に身体的な危害を加えそうだと考えてるみたいだけど、そんなことはしないから大丈夫よ」
「本当か?いまいちお前の腹ん中が見えないんだがな」
ネタばらしをしてしまうと面白くないだろう?
そんな声が聞こえた。
少なくとも、危害が加えられることはない。
その言葉を信じるとしよう。
しかし、物理的でないとするならば……
また他の部分だろうか?
「わーちゃん、それぞれのリーダーに言伝……まぁ端末へのメッセージでもいいんだけど、近い内に擬似戦闘訓練を行うって伝えておいてくれないかな?あ、もしも誰か誘って観戦したいならそれもいいよ〜」
「わーちゃん言うな!……はぁ、わかったわよ……とりあえず定型文みたいにしておけば司令部からっぽくなるでしょ?」
俺はフレンドリーにメッセージは送る派だから定型文はアウトなの!知らないわよそんなの!などというまたまた騒がしい声が響く。
今回の訓練の特異性を俺は完全に知らない。
かと言って、その詳細を知るのは指揮官のみだ。
しかし、今回の訓練は改めて精鋭たちの戦闘力や行動パターン、そしてもしも負傷をしてしまう際の癖やよく攻撃を受ける被弾箇所など、様々な事を観察し知ることが出来るチャンスかもしれない。詳細は分からないが……
この機を逃す手はないだろう。
「……その訓練、俺も見物させてもらうわ。俺も少し、アイツらがぶつかったらどうなるか興味があるからな」
この訓練の観察で何かが掴めたならば、彼女たちの救助がより迅速に、容易に行えるようになるかもしれない。
救命行動は速さが大切だ。
それを迅速に行えるということは、彼女たちが負傷した際のシャットダウンの回避……つまり、生存確率に直結する。
これ以上ない絶好の機会だった。
奴の思惑は分からない。
しかし、せめて悪い事でないとは思いたい。
そう祈りながら、準備に奔走する指揮官を眺めていた……
数日後。
グリフィン基地敷地内。
旧司令部の廃墟。
「……私たちが呼ばれた理由は、擬似戦闘訓練ですよね?」
そこに佇む5人の人形。
口を開いているM4A1を筆頭とするグリフィンの精鋭部隊……AR小隊だ。彼女達は、指揮官からの命令によってここに待機している。彼女達が今から行うのは、別の人形との戦闘訓練だ。
しかし、彼女達の目の前には誰も映らない。
「その筈だけど……私達以外のメンバーが見当たらないわ」
AR小隊の参謀役とも呼べる人形……AR-15がその事実を口にした。見渡してもそこに居るのは自分達のチームメイトだけ。本来、相手となる人形もまずは集合すると思ったのだが。
どうやらそうでは無いらしい。
いくら待っても、ここにいるのはAR小隊のメンバーだけだ。
「おかしいな。私達の相手をしてくれるハイエンド達は何をしているんだ?」
今度は小隊内で最も頼れると言われている人形……M16A1が口を開いた。彼女の言い方からすると、鉄血のハイエンド達が彼女達の相手をしてくれるようだが……
全くもってなにも反応がない。
何故だろうか?ハイエンド達と言えど、指揮官の命令をすっぽかすような真似はしないだろう。
すっぽかしてもあの指揮官だ、直ぐに許してくれそうな気はするのだが。
「ねえねえ、まだなの〜?やるなら早くしようよ〜!」
「SOP、これは遊びじゃないんですからね。……彼女達にも、何かあるのでしょう。それに本当に忘れているなどしていたら、指揮官が何も手を打っていないとは思えません」
残酷な一面が控えめになったとはいえ、戦いを楽しむ節があるSOPMODII。早くしようと駄々をこねるが、隣にいるRO635がなだめている。相手がいないと言うのに、どうやって訓練などを行おうと言うのか。
しかし、あの指揮官の企画だ。
そういうことをするとなったら抜かりはない。
ただの遅刻とは思えないようだが……
各々が口々に呟く中、それは響いた。
全員がよく聞き慣れた、緩い男性の声。
「あーあー、聞こえてるかい? 」
今回の騒ぎの犯人にして首謀者。
指揮官、クラウスの声だ。
緩い雰囲気はそのままに、ノリノリで放送をしている。
「指揮官、未だに相手である鉄血ハイエンドたちが来ていませんが……」
M4が代表してその事実を伝える。
しかし指揮官は、特に焦ることも無く。
「君達は相手の小隊が居ないと困惑しているようだけどご心配なく、そこに居ないだけでちゃんと来てるからね」
M4の言葉が聞こえているのか居ないのか、微妙な答えだ。しかし、彼は特に気にすることも無く続ける。
まるで、全体に言い聞かせるように。
”全員”に対して言葉をかけているようだ。
「さて、いきなりで悪いんだけれど……君達にはすぐに擬似戦をしてもらう。場所はこの旧司令部の廃墟」
これからの戦闘は屋外戦ではなく、室内戦がメインとなるだろう。相手は戦術人形でも兵器でもない。軍人でも無ければPMCでもない。
これから敵対するであろう相手は、突き詰めれば経験の無い……あるいは浅いただの武器を持った民間人だ。
彼らを鎮圧するとなれば、必然的に自分たちが有利を取れるであろう室内を選ぶはずだ。
こちらから居城を潰すこともある。
そういった意味で室内戦をメインとして、廃墟が選ばれた。
「君達のやることはただ一つ。敵小隊の殲滅だ」
彼女達の行動は逐次ステルス迷彩をかけたダイナゲートによってこちらで確認している。
敵の小隊メンバー全員に対し、擬似銃弾を1発でも当てれば良いのだ。1発でも当たったら、それは死亡と見なされる。全滅とは、これ以上に分かりやすい勝ち方もないだろう。
「ちゃんと擬似銃弾の準備は出来ているね?訓練とは言えど、怪我をしないように。怪我したらしっかりリオンに伝えるんだよ!」
クラウスがサラッと俺を巻き込んだ。
俺が救護班として参加するなんて聞いていないぞ。
まぁ、言われなくてもやるのだが。
怪我したやつを放っておくほうがおかしい。
任せろ、と小声でボソリと呟く。
「やる気旺盛だね……整備士さん」
「ああ……って、Vector。お前もこれを見に来たのか」
後ろからVectorに声をかけられた。
辺りにはVectorだけじゃない。他の人形達もこの訓練を見に来ている。それはそうだろう。エリートの小隊3部隊が撃ち合う光景など、そう見れるものでは無い。
正面切っての戦闘技術や連携など……
この擬似戦で参考になるものが山ほど出てくるのだろう。それは是非とも、他の人形達にとっては得たい知識の筈だ。
しかし、何か引っかかる。
指揮官は特に何事もなしに話しているが、違和感が抜けない。彼女達に対する”意地悪”とは一体……
「最後にもう1つ。今回のキーワードだ。……『不測の事態を想定する事』。どんな者が出てこようと、”チームメイト以外は全員敵”だと思って戦闘をするように」
その言い方には、明らかに含みがあった。
「それでは、そろそろ始めようか。制限時間は1時間。1時間を過ぎたら、残りの人数によって勝敗を決める。……カウントダウン開始。3……」
その合図とともに全員が銃に弾を込める。
弾倉を押し込み、しっかりとロックをかける。
「2……」
コッキングレバーを引く。
内部に擬似弾が押し込まれる。
擬似とはいえ、確かな銃弾だ。
「1……」
ストックを肩に当て、その獲物を真っ直ぐに持つ。
グリップは確かに握られ、トリガーに指がかけられる。
「……行動、開始!」
その合図とともに、廃墟は精鋭達の戦場と化した。
・まさかの分割。
今回のお話は長めですが、一応日常編のお話として。
戦闘訓練の開幕まででした。
本番は次から。
・UA数20000突破致しました!こんな拙い文章を読んで頂き本当に嬉しくて嬉しくて作者は非常に混乱しながら泣いてハイになって執筆しております……(投稿ペースは?投稿ペースは?)
閲覧してくださる方、お気に入り登録して下さる方、感想をくれる方、ありがとうございます!
・次回は開戦直後から。
次の話もお楽しみに!