鉄血もグリフィンも争わない平和な世界を死に損ないが満喫するだけ 作:葉桜さん
そのため、内容自体はそこまで濃くないと思われます。
《……実弾……!?》
演習用弾は下手な破損をさせないように出来ている。
弾頭の材質、火薬の量。
ただ凹みができただけならば分かる。だが……
事細かに調整されたはずの弾薬で、コンクリートの壁を抉るような穴が空くわけが無い。ここに居る皆が使っているのは演習用弾。
「RO、SOPII、何かに隠れてっ!あたいら……」
グリフィン外部の奴から狙われてる。
そう、狙われたのだ。
何者かに。
その声に反応するようにROがすぐSOPMOD2を抱えて遮蔽物に隠れる。急に抱っこされる形になったSOPは状況が分からないような感じになっていたが、それを気にしている余裕はない。
40がROにハンドサインを送ると同時に、こちらへと無線が飛ぶ。
《ごめん、聞ーーてるなら誰でもいいからーーして!あたいらは今何者かに狙われーー!演習をーーー断しなきゃーーい!》
勿論、指揮官もその状況を見ている。
直ぐにモニターから目を離し、観戦者として見ていた人形たちに直ぐ様出撃命令を出した。
ヘッドセットを取り、素早く対応する。
《こちらクラーー、こっちも今リオーーーに状況を確ーーた!敵情報と被ーー況は分かるか!?》
《ごめんノイズがーー!分かんない、今訓練上で鉢ーーたROとSOPMOーー、あたいはーー!敵詳細はーーだし、他の場ーーも今通信を……》
あまりにもノイズが酷すぎる。
マトモに通信が聞き取れないようだ。
途切れ途切れに加え、大きな雑音。
あまりにも最悪な状況だ。
さらには……
「……!?指揮官、モニターにもノイズがかかったわ!」
「完全なジャミングだ、皆離れないように!」
モニターに砂嵐が映る。
完全に訓練場所の状況確認手段が絶たれた。
あそこにはまだ訓練をしている者がいる。
さらに言えば、あの1箇所だけのみなら他のメンバーが銃撃を受けていることを知らないかもしれない。
少し軽い遊び程度の訓練をしようかと思ったら、あまりに切羽詰まった訓練へ早変わりするとは誰も思わないだろう。あまりにも最悪だ。
酷く視界が歪む。
とても息が苦しい。
恐怖が、絶望のような感情が。
黒い何かが、せりあがってくる。
頭で、ある光景がフラッシュバックする。
ーー”あたいを、忘れないでね”
とても良くない状況。
想定していない奇襲だ。
今回の訓練の1番の目的ではあるが、それが本当に起きるとは誰も思わなかった。
指揮官である、自分でさえ。
……だが、それ以上に大変なことが起きた。
「……?リオン?リオン!」
WA2000が呼びかける先には、もちろん名前の通りの人物がいる。だけれど……
その呼び掛けにも気が付かない。
何時もなら、すぐに対応する筈なのに。
「皆が…………!」
焦点の合わない瞳。
あまりに過剰とも取れる呼吸。
拳銃のグリップを握る手はあまりに震えている。
大きな声でWAが呼んでも、振り向きもしない。
明らかに様子が変だ。
それに……
「40……が……!」
特定の人形の名前を呟く。
彼は、たった1人だけ。
他に縁のある人形は沢山いるのに、ただ1人だけ。
その途端、異常な状態のまま現地へ向かおうとする。
震えた手のまま、金切り声を出しそうな様相のまま。
怯えているような、狂っているような。
何が引き金になったのか、分かりもしない。
だが……この状態で行かせてはまずい。
アイコンタクトで指示を出し、抑えるように命令する。
それを理解したかのように、WAは彼を止める。
「退け!邪魔をするな……!」
「そんな状態でマトモに動けないでしょ!?大人しくしなさい!」
相手は人形、性能を活かせば人間の力で引きはがせるわけもない。わざとそういう風に命令しているのだから。
彼が今のまま現地に赴き、通信が遮断されたまま撃ち殺されでもしたら、大変な事になる。
彼の技術だけでなく、彼の人格を好む人形たちだっている。現に、彼が友人になってくれて良かったという人形たちだっている。
下手な単独行動は二次被害を巻き起こす。
それが物理的であれ、精神的であれ。
俺は指揮官だ。だからこそ、冷徹な判断が必要だと分かって欲しい。彼には悪いが、今は大人しくしていてもらう。
少し手荒い方法かもしれないけれど。
「……WA2000。彼を少し寝かせてくれ」
「いいの!?終わった後の治療はリオンがするんじゃ……」
「今の彼には、時間が必要だ」
一刻も早く、再び正常な判断が出来るだけの落ち着きを取り戻してもらわなくてはならない。
この処断はリオンを信用していないからでは無い。
むしろ、信用しているからこその処断だ。
今は頭を冷やしてもらわなくては。
その後は大変になるが。
「ふざけるな!お前は、アイツらを……!」
「助ける。君には後で治療という重要な役割があるんだ。それまでに君が死んでは意味が無いからね」
WA2000はそれを聞き届け、自分が渡したスタンガンを彼に当てる。勿論、威力は調整してあるが……
動きを止めるのには十分すぎる。
強い電撃を受けたリオンは声にならない悲鳴を上げる。
苦悶の声が響き続けるが、今はそれを気にしている場合ではない。言い分も分かる。やろうとしている事だって。
でも、今は彼の出る幕ではない。
今は、自分に任せてくれ。
「……ってぇ…………」
身体中に駆け巡る痛みで、その身を起こす。
目を覚ましたら、いつもの自室……
という訳ではなかった。
病室の一角のベッドだろうか。
手は一応拘束されているらしい。
「……目は覚めたかな」
隣に座っているのはクラウス。
更には、関わりが有ったという訳か45が座っている。
……今から、実力行使の尋問でも受けるのかと言う状態だ。
扱いは完全に捕虜のソレだろう。
敵を見るかのような目で、指揮官へ向く。
「……拘束して、俺を拷問にでも掛けるつもりか?」
「そんな荒いことはしないよ。45もきっと望んでないしね」
君のついさっきの様子を見てこうさせてもらった。と指揮官は語る。話の話題に出てきた45はそうね、と淡々とした返事。
しかし、その視線はずっと俺の方へと突き刺していた。
そうだ……、40は?
みんなはどうなった?
俺はそう焦る様に聞いた。
何かがあったら、俺の責任だ。
食いつくように答えを急かす。
頼む、答えてくれ。
「焦らないで。私達はみんな無傷。M4A1とAR-15、それと処刑人がいち早く気づいていたみたい。ある程度の先手を打っていてもらったから助かったわ」
誰も怪我人はなし。
その言葉に安堵を覚えた。
もしも、何かがあったとするならば。
マトモな状態で居られなかっただろう。
一時だけだが、安心した。
説明によれば、その3人が気づいた時にはもう既にジャミングが開始されていたらしく連絡が取れなかった。
その為状況を判断して訓練を中断した3人が裏で何とかやってくれていたという訳だ。
いざと言う時のチームワークは非常に頼りになる。
製造元も違うと言うのに、流石だと感心した。
だが、そんな気分にひたってもいられなかった。
「……次は私達からの質問よ」
「君には答えてもらわなくてはならない。君自身の為にも」
第一の質問にして、本題。
ーー何故、あの時に錯乱したのか。
何故、たった1人の名前を口にしたのか。
この場にいる誰もが最も聞きたい話の筈だ。
何も無ければ、ああなるはずが無い。
そんなもの、本人でさえ分かる話だ。
だが……
「……お前らには大して関係はない。だが詳しく伝えられない、伝えるべきじゃない」
平和であるこの世界線で、そんな話をするべきではない。
その内容は、この基地での疑心暗鬼を生み出しかねない……そんな内容を含んだ、最悪の話だ。
毅然とした態度で、そう答える。
思い起こされる記憶は、とても気が狂いそうなものだ。
「本当に私たちに不利益がないって言いきれるの?私たちに関係がないと堂々と言えるの?」
疑いの目を向ける45。
無理もない。1番信用出来る40の名を、あの錯乱した状態で口にしていたのだから。何も無いわけがないと疑うのもわかる話だ。
ただでさえ心理戦にも強い彼女だ。
俺の誤魔化しなど、すぐに見抜く。
だが……それでも俺は答えない。
答えられない。
ただ静かに首を振る。
薄いポーカーフェイスで、何とか取り繕う。
「……別にその言葉を疑う気はないからいいけど」
妹の警戒心故だろうか。
何かあることだけは、きっと掴んでいる。
掴んでいないわけが無い。
それがはったりのようには思えなかった。
その言い方も、何もかも。
俺の頭の中を見透かされているようだった。
わざとらしい咳払いをクラウスがした。
この重苦しい雰囲気を少しでも和らげようとしたのか、それともこのまま聞いていても埒が明かないから別の話題にしようとしているのか。
また別のことを口にし始めた。
「……今回の訓練としては無事終了。本当はもう少し軽い予定だったんだけどもね……こんなことになるとは思わなかった。暫くはまた、奴らの動向を見張っていないと行けないかもしれない」
今回の訓練の結果と、これからについて。
あの襲撃犯の身元は、恐らく前回制圧した人権団体の残党と思われるらしい。こちら側に被害はなし、万が一を考えた上で襲撃者は捕縛ではなく射殺。
持ち物から、例の対戦術人形用弾も確認されているらしい。
……どうも、この因縁は長く続きそうだ。
ただでさえ心理的に安定しない状態で来られるのは辛い。いや、むしろそれを知られているのか?
考えれば考える程、余計に悪循環へと誘われる。
寝かされる前に言われたことは、非常に重要だろう。
俺が焦っては、余計な被害が出る。
逆を言えば、俺が焦りさえしなければ被害を受けてもリカバリーが出来るかもしれない。
そういったことを踏まえると、何とか混乱していた頭が冷静さを取り戻してくる気がした。
それでも、体の強張りが抜けない。
乱れた呼吸が戻らない。
精神は落ち着いているのだろうか。
身体が言うことを聞かないのだけは確かだ。
「……その調子だと、まだ完全に復活するまでは行かなさそうね。警戒は強めにしてあるから、暫くはまだ安心できると思うけれど」
そう言って、45は俺の手の拘束を外した。
身体的な不調はあれど、先程のような錯乱は起こさないと判断したのだろうか。
けれど45の重い声は、未だに響く。
いいや、もしかしたら、俺がそう思っているだけなのかもしれない。それほど、負い目を感じているのだろうか。
「今日のところはここで休んでいて欲しい。明日また身体検査をするからさ」
そう言って大人しくしているように釘をさしてクラウスは医務室を後にした。
同じく、45が後を追って出ようとする時だった。
「きっと近いうちに話してもらうことになるわ。……遅かれ早かれ、ね」
その言葉に、寒気を感じた。
それは優しさなのか、それとも脅しなのか。
それさえ理解するに至らなかった。
只今感じるのは、恐怖だけ。
……今日は、眠れなさそうだ。
クラウスが部屋を出た後。
手元の端末に入っている情報を見ながら指揮官は呟く。
その中身に散りばめられた悪行の数々を見て……
「……人類人権団体。貴様らは、本当にそうなのか?」
彼らしくもない暗く、低い声が廊下に木霊する。
この基地は、正しく異常に巻き込まれそうになっているのだろうか。
・今回は前書き通り、シリアスパートの導入編のようなお話でした。錯乱するリオンの謎や、クラウスの決断などなかなか好まれないような書き方をしているような気も……
・制圧編については後々指揮官視点として書きます。リオンが気絶している間、どうやって制圧したのか、というお話もいるかなと思いましたが今回はリオン視点で。
・未だに多くの人に見てもらえて非常に感動しています……!長い間お休みしていて書き方も鈍った自分ですが、これからも見ていただけると幸いです。
・本来のリクエストと離れてしまって申し訳ありません。でも丁度よくシリアスに繋げられそうだったんです……最後当たりでまた少し軌道修正しますのでお許しください……