鉄血もグリフィンも争わない平和な世界を死に損ないが満喫するだけ   作:葉桜さん

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今回からまたシリアスパートに入ります。


心傷潜航0:悪夢 -nightmare-

『45、40!無事か!無事だろうな!?』

 

 

 

目の前には、力無く倒れた1人の人形。

それは確かに、彼女自身の手で撃ち抜かれている。

夥しい量の流血。生々しく写る風穴。

 

 

 

それは確かに、俺のかけがえのない友人であり……

それは確かに、彼女の唯一無二の姉だった。

そこに落とされた彼女の銃が、それを物語っている。

傍に崩れている妹の銃と瓜二つ。

 

 

 

おびただしく流れる人工の血液。

 

 

 

 

 

『……嘘だろ、40……待ってろ、今治してやる……!なぁ、おい頼む、返事をしてくれよ……!』

 

 

 

 

その日、俺は壊れた。

その日、俺は知ってしまった。

……真に、人形の死という物を。

 

 

 

心の奥底に付けられた深い傷。

未だ脳裏に焼き付く赤、赤、赤。

何時も馬鹿やって、笑いあって。

時に激励し、共に戦った。

そんな俺達の支えであった彼女が……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……ッ!!』

 

 

 

 

 

自分の妹によって、撃ち殺された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーあたいを、忘れないでね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ッッ!!」

 

 

 

唐突に、意識が現実へと引き戻された。

周りを見渡せば、慣れた光景だ。

何時もの俺の部屋。

騒がしく、そして何時もの日常が広げられる。

そんな平和な場所だ。

まだ周りはとても暗い。

月光と、今にも切れそうな街灯だけが外を照らしている。

 

 

 

 

……酷い悪夢を見た。

最近は、良く夢に出てくる。

どんな夢か。それを語ろうとは思えない。

額にも、頬にも、身体にも。

酷く冷たく感じられる汗が張り付く。

顔には、何かが流れた跡。

酷く不快だ。

 

 

 

あの時から、ずっとだ。

最近は収まりかけたと思っていたが、どうやらそんなことは無いらしい。一体、何時まで苦しめばいい?

そんな物を問うても、答えは同じだ。

 

 

 

……一生。

 

 

 

落とされた命は、再びその元へ帰ることなどありえない。

救えなかった命の代償は、一生背負い続けなければならない。恨まれようが、呪われようが。

それは自身の力不足故招いた結果だ。

自分の行動ゆえに招いた結果だ。

文句など言えない。

言って良いはずがない。

 

 

 

「大丈夫?随分と魘されてたみたいだけど」

 

「40…………!?」

 

 

突然現れた人影に気が動転する。

すぐ側にある拳銃に手をかける。

震える手で周りへと銃口を向ける。

指は確かに引き金へ。

弾はしっかり込めているか?

そんなことを気にするほどの余裕などない。

 

 

 

敵は何処だ。

彼女に死ぬように命令したクソ野郎は。

きっとここにだって居る。

居ないはずがない。

 

 

 

また誰かが、きっと彼女が死ぬように仕向けている。

そんなことになる前に殺してやる。

45も40も、絶対に……

 

 

 

「何処だ、出て来いよ……!ブッ殺してやる、今度は、今度はコイツらを死なせたりしない……!」

 

 

 

焦点の合わない目。

憔悴し切った声で叫ぶ。

鼓動と脈拍は加速していくだけ。

居る訳も無い、知るはずもない黒幕の幻が見える。

すぐにでも、あらゆる場所に銃弾を打ち込まなくては。

どこに潜んでいるかなど分からない。

絶対に……!

 

 

 

「リオン!?大丈夫、あたいは大丈夫だし狙われてもないから!」

 

 

 

肩に強い力を感じた。

落ち着いてという確かな声と、ゆさゆさと変に揺さぶられる感覚で意識が戻ってくる。

酷い過呼吸だ。

とても苦しくて、息ができているかも怪しい。

腕は震え、肩で呼吸をしている。

それほど、錯乱していたのだろうか。

 

 

 

「よ、40……」

 

「落ち着いて、まずは呼吸を整えるよ」

 

 

 

そう言って背中に彼女の手が載せられる。

優しく摩られる事に少し情けないと思いながらも、漸く何とかまともな状態へと戻ってくる。

言葉さえ満足に発せなかった状態よりはマシになった。

 

 

 

落ち着いて横を見ると、非常に顔が近い。

40は、どうやら寝顔を観察していた様だ。

……俺が涙を流していたことも、見られていたのだろうか。急に恥ずかしくなってくる。

いつも頼りになる様に立ち振舞ってきているのに、こんな所を見られてしまうとは。情けない限りだ。

それもそうだが、なぜこんな時間に40がいるのだろうか……

 

 

 

「なんでお前がここに……」

 

「昨日の状態を聞いたからだよ。あたいが襲撃された所を見たら、あたいの名前を口にしながら壊れたように動いてたって指揮官から聞いた」

 

 

 

あの馬鹿。

下手に心配をかけさせるようなことを言うな。

確かに事実だったのかもしれない。

あんな所まで追い詰められるんだ。

どんな行動をしようとおかしくない。

だが、余計な情報の開示は混乱を招く。

それはアイツ自身が言った事だろうに。

 

 

「何か、辛いことでもあったの?」

 

「……いいや、何も無い。今はな」

 

 

 

心配そうな質問に、すぐに分かるような嘘で答えてしまう。その程度で取り繕うことしか出来なかった。

こんな頭の中で、出来上がった完璧な嘘など作れるわけが無い。嘘をつく理由は簡単だ。

彼女には、伝えるべきではないからだ。

 

 

 

明るく、それでいて優しい瞳。

そこには曇りなんてひとつもなくて、ただ澄み渡っている。昔にあったアイツとは、全く持って違う。

もちろん、辿った歴史が違うから彼女も確かに俺の知っているUMP40だということは分かっている。

……彼女には、もう陰を見せたくない。

 

 

 

この世界線は、彼女が死ななくてよかった世界線だ。

それなのに……

あまりに恐ろしい凶兆に感じられた。

また再び酷い動悸が襲う。

目の前が歪む。

強い吐き気が喉まで出かかる。

激しい頭痛が走る。

嫌だ。そんなことを言わないでくれ。

怖い。お前がまた、そんな目にあってしまったら。

 

 

 

一緒に笑いあって、バカしたような中の友人の最期が、また脳裏に浮かんで……とてもでは無いが、まともな状態ではいられない。気が狂いそうだ。

声にならない声が、辺りに響く。

その場から逃げてしまいそうなほどの恐怖。

収まりかけていた狂気が、また蠢き出す。

体の震えとして現れる。

 

 

 

「……!?大丈夫!?と、とりあえず落ち着いて……あたいも大丈夫だから!」

 

 

 

40に何とか支えられて、再び一時の平穏を取り戻す。

あの襲撃から、あまりにも不安定すぎる。

歯車が1つ壊れたかのように。

今の俺は硝子より脆いのだろうか。

少し安定してきたかと思えば、すぐにヒビが入る。

どれだけ外面を鉄の仮面で覆おうと、変わりはない。

壊れかけのまま、動いているだけ。

 

 

 

「……悪い」

 

「大丈夫、分かってる。今は落ち着く時間が必要だよ」

 

 

 

幸い、あれ以降まだ襲撃は来ていない。

まだ落ち着くことは出来る。

まだ時間はある。

その間に、少しでも安定しないと。

自分でどうこう出来るものでは無いと知っているが、それでもやる他無い。

出来なければ、悪夢は繰り返すだけ。

 

 

 

「あたいはまだリオンの事を完全に知ってるわけじゃないから、どう言葉をかけていいか分かんないけど、不安なら言って!」

 

 

 

元気な励ましの言葉。

昔と変わらない言葉だ。

45に掛けていた言葉も、俺に掛けてくれる言葉も。

彼女らしい優しさの籠った言葉だ。

 

 

 

「今は大丈夫だ。だから心配しないでくれ」

 

「そっか……分かった。でも、何かあったら必ず言ってよ、必ずだからね!」

 

 

 

ここでも親交があった事を嬉しく思いながらも、後悔もしている。この言葉で救われたと思うが、同時に苦しめられているとも思う。なんとも分からない奴だ、自分は。

40は言い残して、俺の部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは全ての始まり。

俺の悪夢の根源。

 

 

 

誰にも見えないところに隠された、跡形も無い物。

俺のみが知る、心の奥底に刻まれた後悔の残滓。

決して癒える事のない、深い傷痕……

 

 

 

身を焦がすほどの恐怖と絶望。

今でも縛り付ける後悔と共に……

再び、奥底の記憶の鍵が開く。

悲劇を隠すことも、忘れることも……

決して赦される事ではないのだから。

 

 

 

これは俺の罪。

何も出来なかった、俺への罰。

……きっと、語らなければならないだろう。

救えなかった記憶。

殺してしまったという恐怖。

殺させてしまったという罪悪。

 

 

 

その全てが、ここに投影される……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

心傷潜航 -Dive Hurt-

 

 

 

 

 

 

 




・今回から深層映写の時間軸を整備士の記憶として追憶して行くお話になります。性質上かなりのシリアスになることが予想されます。終わったらもっと反動でほのぼのさせるんだ……


・今回のシリアスパートは404小隊(主にUMP40、UMP45)がメインのお話となります。鉄血組も上手く出していきたいところ。


・今回は文字数的に心傷潜航lではなく、心傷潜航0として投稿させていただきます。本格的なストーリーは次から……?
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