鉄血もグリフィンも争わない平和な世界を死に損ないが満喫するだけ 作:葉桜さん
心傷潜航編が終わったら復活します。
ーー再生開始。
「……鉄血工造の摘発だって?」
「ああ。何せ、本来違法レベルの機能を有した何かを隠しているらしい。……君には、その作戦に携わる戦術人形たちのメンテナンスを頼みたい。もちろん、現場の仕事も含めてだ」
突然の呼び出し。
それが一番最初だった。
鉄血工造を追われたあと、俺はグリフィンに拾われた。
過去にI.O.P.の戦術人形を助けたということを買われたらしいが……結果として、俺としては助かっている。
だが、それを加味しても断りたくなるような仕事の話だった。内容としては、鉄血工造の襲撃に関わる戦術人形達の整備を頼む、という話だ。
……複雑だ。
俺は今、二者択一を迫られている。
今過ごすI.O.P.の人形を取るのか……
嘗ての友の鉄血を守るのか。
だが、それ以上に……
俺の世話になった場所が、本当にそんな事をするのか。
正直な所、半信半疑では無かった。
ほぼ9割型信じてなどいない。
……残りの1割の可能性はある。
元々俺は、何故グリフィンに来たのか。
謎の疑惑から始まった。
誰も知っては行けない、極秘の計画。
それを知ったという濡れ衣を着せられ、鉄血工造を追われた。その極秘の計画と言うのは、俺を良く思わない奴からのでっち上げだと思っていた訳だ。
だがこんな話を聞いては……余計に混乱する。
「……本当に、鉄血工造は……後ろ暗いことをしていたってのか……」
何時か救ってもらった誰かの背中を追いかけるために……
スクラップ同然の亡骸を弄り倒して、それでやっと生きてきた俺を雇ったあの場所が、本当にそんな事をするのか?
俺の頭の中は、それを理解することを拒んだ。
当たり前だ。
恩があることには変わりない。
それに、珍しく信用できた場所だった。
そんな所が……
しばらく考え込む。
決めかねている。
俺には、どちらかを選ぶなど……
「……一つだけ条件を提示させてくれ。半ば、お願いのようなものだけどな……」
「鉄血工造の人形達に、出来るだけ危害を加えないでくれ。身の安全の保証をしてやってくれるって言うんなら、全力を尽くす」
鉄血工造は俺の居場所でもあった。
作られたハイエンド達とも交友があったし、敵対しなくないという気持ちが強いのは確かだ。
しかし、今の俺は鉄血工造の者ではなくグリフィンの者だ。与えられた仕事を遂行するべきなのもわかっている。
だが、それでも……せめて、彼女達を傷つけたくない。
その一心で、受け入れられもしない言葉を出す。
「……分かった。上手くいくかどうかは分からないが、私の方からも交渉してみよう」
俺の事情を知ってくれているからか、善処すると返答が帰ってきた。良い方向に向くかは分からないが、それでも信じるしかない。
【ここから先は映像が乱れている】
ーー再生再開。
基地の一角を歩いている時に、それを見た。
2人の人形が訓練をしている姿を。
最初こそ、なんの疑問も思わなかった。
ただ普通に動作のチェックや、射撃精度の確認をしているものとばかり。
けれど、繰り返し見る度に違和感があった。
ずっと同じことを繰り返している。
訓練と言えど、息抜きだって必要なはずだ。
他の人形が小休止を挟む中、彼女達だけはそのまま。
少しの不安が、頭を過ぎっていた。
その数日後、上官と思わしき人物に怒鳴りつけられているところを見た。詳しい理由までは聞き取れなかったが……
正直に言うと、胸糞悪いと感じた。
同時に、あの人形には何かがあったんだと察した。
奴らが出ていってから少し時間を置いて、再び訪れる。
適当にそこらにあるであろう販売機で、3つほど飲み物を買ってから……手土産になってくれればいいんだが。
そう思いながら、その場所へと足を踏み入れた。
突然現れた俺に、片や怯え、片や警戒された。
無理もない。あんな怒号を挙げられていたら、怯えもするし警戒もする。俺だとしても同じだ。
何も言うことはしない。
下手に口を開けば、余計に刺激するだけだ。
周りを見て、少しサボっても問題ないかと確認をして……
「……よし、誰も見てないな」
その言葉に、怯えた様子の人形は何が何だか分からないとでも言いたげだった。当たり前だ。
「少し休憩でもしないか?根を詰め過ぎたら辛いぞ」
そう言って2人分の缶ジュースをそれぞれに投げる。
人形は飲み食いでエネルギーを得る訳では無いのは知っている。だが、ほんの少し思考回路をクールダウンさせてやれる効果ぐらいはないだろうかと思った迄だ。
集中して頑張ることは確かにいい事だ。
だが、気を張り過ぎればいつか限界が来る。
そのラインを超えてしまえば、その労力は無駄どころか逆効果になってしまう。
「えっと……ありがとうございます」
おどおどした方はありがとうと感謝の言葉を述べ、逆にもう片方は驚いたような表情をしていた。
俺はなぜそんな顔をされるのかと不思議でしょうがなかった。別に俺は変なことをした訳でもないと思った。
だが、そうでも無いらしい。
「……随分変わった事するわね。何企んでるの?」
「企んでなんかねぇ。失礼だな。普通に疲れてんだろって思っただけだ」
そう吐き捨てては適当な場所に腰かけ、寛ぐ体制を取る。
正直、そんなことをしていいのかと言う意見もあるだろう。
だが、リラックスする程1番の休憩方法はない。
それが一番気の休まる方法なんだから。
当の俺が1番ゆっくりして、休め休めと気楽に言う。
俺が認めるから、と釘も刺して。
最初はまだ続けようとしたが、じっと見つめる俺の視線に耐えられなくなったのか暫くしたら一息つこうとする姿勢に変わった。
「それでいいんだよ。過度な集中は遠回りだ」
「うん……」
もう片方、反抗的だった方もしばらくして少し休憩する。
こちらは元より俺の言葉がなくても良かったようだが。
また、しばしの無言。
けれど、今度は向こうから口を開いた。
「こんな事を認めて、大丈夫なの?」
「大丈夫だ、なんか言われても言い返してやる」
特に迷うこともなく、そう言い放つ。
機械も人間も、適度な休憩を挟むことが最高効率への近道だ。特に、自分の実力を上げようと焦っている奴には。
理屈は揃っている。
文句は言わせない。
まぁ、サボろうが俺は何も言わないが。
死ななく、怪我をしなければお小言は言わない主義だ。
「私、役立たずだから早く人一倍訓練しないとって言われて……」
「馬鹿、役立たずなんていると思ってるのか?」
少しぶっきらぼうな言葉に反抗的な方から睨みつけられるが、怯むことは無い。
それは確かな事実なんだから。
戦場で役立たずなののはそこに立っていることさえ出来ない奴のことだ。
立ち続け、最後まで戦う姿勢を見せるものを役立たずとは呼ばないはずだ。
……それもあくまで、俺の視点からの話なのだが。
「……言い方は荒いけど、良い人なの……?」
「さぁ?それは俺の判断するところじゃねえよ」
若干の警戒が解けたようで、ほんの少しだけ言葉に変化が見られた。敵対視自体は避けられたようだ。
聞けば、彼女らははみ出し者のような扱いらしい。
理由はこの時代、ほとんど用途のない情報戦特化の戦術人形だからだそうだ。
特化するということは、リソースを特化した分野に回す。そうすればその分を別のところから持ってこなければならない。
つまり何が言いたいかと言うと、彼女達の戦闘能力の低さに奴らは苛立っていたらしい。
「知ったことか、自分たちが死ぬのが嫌で任せてると言うのにそこに文句を付ける馬鹿がいるかよ」
聞いてて気分が悪い。そういう悪態を付くとまた驚かれた。彼女らの中での人間像と言うのは、自分達の味方をしないものだと思っていたらしい。
無理もない話だ。
周りにはああいう奴らが殆どなのだから。
俺からしたら胸糞悪い。
そんなに気に入らないのなら自分が行け。
人手など手を尽くせばもっといるだろうに。
呆れた言い分にため息が出た。
「随分と言うけど、大丈夫なの?」
「平気だ、聞かれちゃねえさ」
どうせ聞かれてたところで、それは事実だ。
崩壊液汚染の中で死ぬのが嫌で作り出したんだろうが、結局用途としては体のいい捨て駒のような扱いだって有り得る。
人間と機械の差はある。
だが、今や機械も意思を持つ。
それならば、考える人間と何一つ違わないではないか。
なのに、有機物か無機物かで全てを分け隔てる。
人間ならば命がもったいないといい逃げ、機械ならば使い捨てられるとボロクソに。
不条理であると俺は思っている。
だから、こんな考え方をする人間は嫌いなんだ。
「あんたも同じような立場じゃないの?」
「あんなただふんぞり返って偉そうにしてる奴と一緒にしないでくれ」
そういう手合いが一番嫌いなんだ。
物の価値の分からない馬鹿。
兵を自分の駒として見る阿呆。
ただ実地も見ずに、机上の空論だけで話を進めては自分の思い通りに行かなければ現地の兵士達を罵るクズ共。
そういった奴らが居るから、犬死する奴が現れる。
人には長所短所がある。
それを生かすために作戦を考えるのが上だろうに。
腕の良し悪しで扱いを決めるようなやつとは一緒にされたくない。
「……あんた、本当に普通の人と違うね」
「言われ慣れた。アイツは頭がおかしいだのなんだのって……と言うか、ここまで聞いといて今更か?まぁ、今の”普通”がおかしいだけだと思ってるけどな」
戦術人形だって、人と同じように扱われていいじゃないか。
それが、俺の本心だった。
俺だって、姿も心もほとんど変わらないと感じている。
なら、それでいいはずだ。
だが、そんな言葉を遮る者が……
「ううん、今の普通は間違ってない。私達は確かに人に作られた道具、人の為に戦って、人の為に死ぬ。それが私達の役目でしょ?」
気弱な方が、そんな言葉を零した。
その諦観気味な答えが俺の耳を劈く。
「んな訳あるかよ。少なくとも、道具だったとしても……人の為に捨て駒になるのは間違ってるだろ」
そう教えこまれてきたと、彼女は言った。
俺はそれを否定するが、その考えを塗り替えられるだけの答えはきっと出せない。
いいや、納得して貰えないの間違いだろう。
幾度も怪我をしている者たちを見てきた。
あの基地は違ったが、他の基地の救援に行く時に腐るほど見た。未だに、ただの道具として見る風習は抜けないらしい。
だから死にかける奴が現れる。
死にかけても、代わりがいると見捨てる。
呆れるものだ。
そうしていけば、最後には誰もいなくなる。
道具として見たとしても、この結論に至るのが分からないらしい。
だが……
「いい事言った!そうよ、あたい達だってもっと自由になっていいと思わない?」
活発な方が、そう俺の意見を肯定した。
片方はそういう願望を強く出してくれて助かった。
ただ使い倒されるだけなんて、あまりに酷い。
俺が、戦術人形を”人間”として見る異常者だからかもしれないが……俺は、そんな奴らを救いたい。
ただ戦場で朽ち果てないように。
意志を持ったからには、人になれる様に。
その為に、この役割を請け負ったのだから。
「……そう、なのかな……」
未だに戸惑う彼女に、俺は答えた。
「本当にただの道具なら、わざわざ人に近い形を取らせて、人に近い思考を与えて……そんな事をするってか?本当にただの道具なら、意思なんて必要ないはずだろ。自分の命令だけに忠実に動かすように作るはずじゃないのか?」
俺はずっと、この考えを持っている。
道具は道具でしかないのなら、なぜ思考を与えるのか。
それも、機械的なものじゃない。
人間的な物をだ。
鉄血工造の量産機がそれに値するものだ。
それでも俺は情を持ってしまっているが……
本来、道具とはああ言うタイプの思考までのことを指すと思っている。命令に従い、その為に最善のルートを導き出す。
ただそれだけの人工知能。
しかし彼女らはどうだ?
独立した思考を持ち、それぞれの特徴が現れる。
今のこの2人だってそうだ。
一貫せず、正反対の性格。
更には感情だって持っている。
そんな人間に近しくなる物を、わざわざ道具如きに付けるだろうか?
「全てにおいて合理を求める技術者や科学者共が、わざわざそんな不合理な事をするとは思えねえんだ」
だって、それでは説明がつかないから。
ただ単に俺の頭が悪いだけなのかもしれない。
けれど、それでも納得がいかない。
道具は道具のままで、道具風情の性能でいいはずだ。
そうすれば、あとは自分達の使いよう。
けれど、それを自律させたなら……
その判断は全て、”それ”が行う。
だから俺達が口出しをするのはお門違いだろう。
だが、その矛盾は未だに変わらない。
自律させてなお、それを支配しようとする。
俺から言わせれば、異常者はそういう人間自身だ。
「あたいの言おうと思ったこと全部言っちゃった……いや、正確には違うんだけどさ、でもほぼほぼ考えてる事は同じみたいね」
「らしいな、そういう奴が居るとどうも安心できるわ」
ここまでの理屈を捏ねる気はなかったが、それでも人形が自由であっていいと語りたかったと話す。
姉貴分の方が自由に飢えている。
妹分の方は、どこかまだ縛られたような声だった。
道具であると知っているからこそ、諦めるような。
そんな気持ちが伝わって。
「……少なくとも、俺はアイツらとは違って理不尽にキツく当たる事は殆どねえよ。あったとしたら、馬鹿みたいに無理したり、死に急いだりした時だけだ」
最後だけは、語気が強くなる。
コイツらが、スクラップになるところを見たくはない。
死ぬことだけは絶対に許さない。
どれだけ怪我しても、どれだけ失敗しても、それは取り返せる。けれど、死だけは取り返せない。
替えが効くと言っても、”そいつ”は一人しかいない。
死んだ者に替えはない。
それは俺が1番知っているはずだ。
「その言葉、信じてもいいの?」
「嘘はつかない」
2人は真剣な眼差しで聞いてくる。
俺は確かにろくでなしで変わり者だが……
こんな所で嘘をつくような人間ではない。
そういえばと大事なことを思い出したかのように。
さっさと口を開く。
「自己紹介、まだだったな。俺はリオン。今日からお前達の整備やメンテナンスの担当になった。これから色々関わることが多くなると思う……と言っても、大体は物理的なところだと思うけどな。とにかく、よろしくな」
2人の人形に手を差し伸べる。
にっ、と格好付けのような笑みを浮かべて。
これから一緒になる訳だし、印象は大切だ。
……だが。
「あはは!なにその笑顔、格好付けようとでもした?」
「してねえよ!これが素だ!」
姉貴分の方が急に耐えきれなかったのか笑い出す。
別に変に意識した訳じゃ……ない訳では無いが。
腹を抱えて笑っている所を見るとなんか腹が立つ。
……が、別に笑ってくれている訳だし、いいか。
釣られるように妹分の方も笑ってしまっている。
そんな彼女が、最初に俺の手を取った。
「……UMP45。よろしくお願いします、リオンさん」
「あんまり固くなんな。リオンでいい。俺はお前らの上官じゃねえ。ただの整備士なんだからな」
まだ緊張が解けていない様子だ。
優しい声で、普段の笑顔で答えた。
その内心は言葉のままに。
彼女の微笑み方は、不安が抜けたかのような感じで悪くなかった。
「はー、よく笑った……!」
「笑いすぎだ、そんなに面白かったか」
漸く笑い終わった姉貴分も、同じように手を取る。
満面の笑みで、棘の抜けた顔で俺に向く。
さっきまでの敵意など、何処かに消えたのように。
「あたい、UMP40って言うんだ。よろしく!」
「お前は45と違って遠慮ねえな……まぁ、その方が俺としても楽でいいんだけどよ」
45とは真反対のUMP40。
活発で陽気。
けれどなんだか手のひらで転がされている感があるのは少しなんとも言えない。
なんだか悔しいからと言うだけだが。
UMP40とUMP45。
2人の人形。
それはまるで、人形でなく人間のようで。
俺が出会った中で、最も人間に近い人形達。
よく耐えてくれた。
少しくらい俺がいる時は楽をさせてやりたい。
そんな一心で、不真面目な友人たちができた。
文句やら何やらに従順なように見えて、裏では好き放題。
でも、重要なことは必ずこなす。
そんな集まりが、俺は好きだった。
鉄血工造の皆を”家族”と形容するなら、彼女達は”親友”だった。過ごした時間こそ短けれど、そこには確かな絆があったと信じたい。この奥底に眠る記憶は、決して嘘ではないから。
全ては、あの事件のせい。
悪夢も何も、全ての始まり。
【再びこの先は映像が乱れている】