鉄血もグリフィンも争わない平和な世界を死に損ないが満喫するだけ   作:葉桜さん

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消失記録

 

 

「『リオン・アッシュフィールド』、君の名前はグリフィン所属者のリストに載っていない」

 

 

 

彼は、手にしていた端末を手放しかけた。

様々な原因が一気にかかる。

ヘリアンは確かに自分の名前を知っていてもおかしくはない。だが、問題はそこではない。

グリフィンの所属者リストに彼……”リオン・アッシュフィールド”の文字が全く載っていないという事実がのしかかった。さらに言えば、所属していないということは、これまでに会ったことさえないとなっているのかもしれない。

そう考えると、なぜヘリアンが自分の名前を知っているかどうかが余計に怪しく見えてくる。

何もかもが、自分の記憶と食い違う。

落ち着きかけていた平静が、また崩れ始める。

 

 

どういうことだよ、と項垂れて小声で呟く。

自分はグリフィンのIDカードだって所持している。

それにもかかわらず、自分の名前が出てこないというのは明らかにおかしいはずだった。

そうだ、今はグリフィンと鉄血は友好関係だった筈だ。

なら、鉄血に残った記録があるはずだと彼が言おうとしたその時、また割り込んで言葉が放たれた。

 

 

 

「おそらく君は、鉄血工造のデータなら……そう考えたと思うが」

 

 

 

この言われ方は、だいたいもうその先を聞かなくても分かる。彼は自分の考えていた事を言い当てられたことよりも、その先にある返答が確実になったであろうことにまた項垂れる。

 

 

 

「そちら側にも、君の記録は残っていない」

 

 

「つまり言いたいことはこうだろ?『どちらにせよ、お前は所属しているはずがない』……ってな」

 

 

 

溜息混じりで頭を抱えてぶっきらぼうに返す。

本来はそんなことがあり得るはずがないと何度も自分の頭の中で繰り返しているが、未だに整理がつかない。

……俺はどうなるんだ?

そんな嫌な思考が容量を取り始める。

ここで生きながらえたとして、グリフィンにも鉄血にも自分が居た記録はない。その後この世界で生き残ることが出来るのか?自分にあるのは、人形たちのコンディションを整えるための技術だけだ。戦いの技術は並より上程度か、それとも並か。そんな状態で放り出されたら折角拾った命が台無しだ。

 

 

「なんで記録に残ってない男が、鉄血に所属しているかもしれないって考えたんだよ」

 

 

苛立ち混じりで当てつけのように吐き捨てる。

確かに元々グリフィンの一部には元鉄血工造ということは知れているが、ヘリアンはこの事実を知らないはずだ。

吐き捨てたセリフに、ヘリアンは返す。

そこにいる2人が、君のIDカードを見つけてそのデータを送ってきたと。チラリと二人の方向を見る。

 

 

「勝手な行動、申し訳ございません。ですが、所属ははっきりしていた方が良いかと思いまして 」

 

 

「所属が確実と証明しない以上、何かしらの疑いをかけられることもあると判断しての行動です……ですが、本人の許可を得ずに調べたのは確かに失礼でした」

 

 

2人はどうにも申し訳なさそうに謝罪してくる。

本人たちが気を使ってくれたのは非常に良くわかる。

そんな状態の人に怒れるほど鬼ではない。

大丈夫だ、ありがとうの意を込めて軽く手のひらを見せる。

 

しかし、その後は沈黙が続く。

 

 

 

「……なぁ、ヘリアンさんよ」

 

リオンは口を開いた。

この沈黙を断ち切るかのように。

もうこの際、後の事はどうでもいいと。

その時になれば考えられる。

今、自分の聞きたいことを聞くための絶好のチャンスがやってきた。グリフィンと鉄血、両陣営の人物がいるこの状況が、自分の置かれている状況を確かめる問いをするには最適だった。

 

 

「この際、俺の記録に関しては捨ておこう。俺から1つ2つ聞きたい事がある」

 

 

ヘリアンは言ってみろ、と返す。

まず1つ。

一番最初に聞きたいことは……

 

 

「今は西暦何年だ?」

 

 

「?今は2062年だが……」

 

 

正しい。

彼が死んだ筈だったあの状況が生まれた時も、同じ2062年。

本来の死亡した年ならば、時間的に歪みは生じていないはずなのだが……と頭の中で組み立てて行く。

そして、今が2062年ならば、自分の記憶の中で必ず起きた筈の忌々しい『あの事件』が……

恐る恐る、その恐怖の記憶の引き出しに手をかける。

自分の全てが狂ってしまったあの記憶の名を。

 

 

 

2061年。

 

 

 

鉄血工造にテロリスト共が侵入したことがきっかけによる、防衛システムの発動。それに伴う管理AI『エリザ』『エルダーブレイン』の起動。

そして……鉄血工造製戦術人形たちのプログラムに異常が発生し、その場にいる人間全てを殺戮した史上最悪の事件。

 

 

 

「……2061年、『蝶事件』と呼ばれる事件……聞き覚えは?」

 

 

 

代理人とスケアクロウは、彼がその単語を放つ時だけ、やけに重苦しく、恐ろしく暗い声を出していると感じて。

スケアクロウは彼の顔を少し覗き込もうとしている。

ふよふよ浮きながら、その顔を確認できないかと模索しているが……そんなことを代理人が見過ごすわけもなく。

今は真面目な時です。と彼女を抑える。

抑えられた案山子は、何も言わずに頷き何もしなくなった。

しかし、彼は気づくべきだった。

 

その単語は、彼女たちも知っているはずなのだが。

 

 

「……いや、聞き覚えがない。2061年にあった事と言えば、グリフィンと鉄血が友好関係になり始めた年だが……」

 

 

ただでさえ先程の単語が出るまでボケた顔をしていたのに、さらにボケた顔に変わる。なんとも形容し難い表情。

顎は若干しゃくれているし、口は歪んでいるわ、眉間にシワが凄くよっている。簡単に言うならば、完全な変顔だ。

傍から見ていた2人は一見して表情を変えていないが、代理人はすごい顔をしていると内心思っており、スケアクロウの方は顔が半分隠れているおかげでなんとかわからない状態になっている。

ちらっと彼が2人に顔を向けると、その表情は先程のものに戻っていた。

 

一番重要な情報。

何となく、分かってきてはいる。

それを受け入れられるかどうかは、全くの別問題だが。

ひとつ分かるのは、その事実を受け入れ難いのは確かだ。

しかし、彼に余裕が戻ってきている。

彼はふざけているように見えたが、その表情は先程まででは絶対に出なかっただろう。

 

 

『蝶事件が発生していない』

『グリフィンと鉄血が敵対していない』

 

 

その2つの事実によって彼は、安心したのだ。

自分が殺されることがない、それも安心したうちの一つだ。しかし本当に安心したのは、自分が知る友人達が殺し合わなくて済んでいるということ。

彼が最期に願った、『お互いが争わない世界』がここにあるということに、とてつもなく安心している。

 

 

今のこの場所に関しての不安はもうなくなった。

自分にとって1番くるのは、仲間(グリフィン)仲間(鉄血)が殺し合うことが、何よりも自分に耐えられないことだった。

しかし、この場所にはそれがない。

グリフィンと鉄血の友好関係も揺るぎないだろう。

何よりも、目の前の2人が自分を殺さないのが証拠だ。

 

残る疑問は、自分の記録がないということ。

しかしこれに関しては、もうどうしようもない。

しかし、やっておくべきことはやっておかなければ。

ふぅ、と一息ついて、もう一度真面目な表情に戻る。

 

 

「……ヘリアンさん、こっちからもう1つ、今度は伝えたいことがある」

 

そう一言伝えて、深呼吸する。

頭がおかしいなんて言われそうだが、言わなければ理解もされない。ありのままを伝えるべきだろう。

頭を少し掻きながら。

 

 

「……ここで起きている歴史は、俺の記憶と全く食い違っている」

 

 

端末の向こう側からは『は?』という声は聞こえるし、視界に入る2人からも?マークが浮かんでいる。

しかし、これは紛れもない事実だ。

それ以上の伝えようがない。

 

彼はヘリアンと、目の前にいる2人に対して自分が辿ってきた道のりを伝える。自分の知っている、彼の正史を。

グリフィンと鉄血が敵対関係であったこと。

自分の知っている人形たちが、苛烈に殺し合いをしていること。蝶事件がきっかけで鉄血工造製戦術人形が人間を攻撃対象とし、殺戮を始めたこと。その戦いの渦中で、自分は目の前の指揮者に下された命令で死んでしまったということ。

全てを包み隠さず話した。

 

 

しかし、やはりここではありえないと帰ってきた。

聞くに、ここで相手をしているのは人権団体を自称するテロリスト共や、全ての始まりの元凶……『崩壊液(コーラップス)』によって被爆した元人間の異形(バケモノ)達、E.L.I.D.共の相手だけ。

さらに言えば、グリフィンと鉄血達は同じ戦術人形を扱う為に友好関係となった。戦術人形の普及とともに、暴走しかけている人間たちの制圧の為や、増え続けているE.L.I.D.の処理のためにさらなる改良が必要ということでお互いに了承したらしい。

 

本来、蝶事件が起こったその日に、グリフィンと鉄血が友好関係になったらしい。全く持って真逆だ。

彼はその日を呪うほどに嫌っていた。

しかし皮肉にも、ここではきっと祝うはずの日だった。

 

 

ようやく伝えたいことがまとまり、なんとか話すことが出来た。その顔は酷く疲弊しきっており、傍から見てもその様子は分かった。まぁ、色々ありすぎて混乱しているのだろうとヘリアンの方も気を使ってくれたらしい。

彼女曰く、本来ならクルーガーと話をするべきなのだが彼は他の業務で忙しく直接来ることは出来ないらしい。

しかしこちら側も、今の怪我の状態では動くこともままならない。

どうした物かと考えるが、後の事は自分ではどうにもならない。取り敢えず、代理人に変わると言って代理人に端末を渡した。

 

 

 

彼女が話しているあいだ、もう片方が彼に声をかけた。

 

 

「……貴方の記憶では、私が貴方を?」

 

 

申し訳なさそうな顔で彼女が問いかけた。

彼はああと軽く返事をするが、その顔を見るや否や、柔らかく微笑んだ。

気にしていないと言わないばかりに、彼は優しく。

 

 

「大丈夫。お前が悪いわけじゃないから。むしろ、今は俺の命の恩人だ」

 

 

ありがとう、と優しく呟いた。

彼女の目に映るその姿。

自分たちと同じモノクロ調に見えるその容姿。

白く、中途半端に長い髪。

目は青色で、どことなく深い色。

意外と穏やかな顔立ち。

彼女はその姿に見覚えさえなかったが、何となく。

彼の温かみがあるような気がした。

 

 

「貴方を混乱させてしまったと考えると、どうしても申し訳なく思ってしまって」

 

 

今は敵意がないんだし、気にしなくてもいい。

そう彼は語りかける。

最初に脅えたのは確かにそうだ。

死んだ原因が目の前にいたのは誰だって怖がる。

でも、今目の前にいるのは、自分を助けてくれた人。

同じ見た目で、同じ話し方で、おそらく同じ性格でもある。死んだはずの人間が、またこんな光景を見られること自体が奇跡だと心で思っていた彼には、その程度のことが些細に見えた。

ありがとう、と彼女もまた小さく返す。

 

 

 

2回目のはじめまして。

と言うには、少ししんみり過ぎただろうか。

なんとも言えない空気の中、代理人が再び戻ってきた。

 

 

 

「暫くは、鉄血工造の医務室……ここで療養に徹してくださいとの事です。時間を見てクルーガー社長が来てくれるようです。それまでは所属の戦術人形を派遣するそうなので、彼女らにヘリアンさんに伝えた事と同じことを伝えてください」

 

 

 

……これで、暫く身の安全は確保された。

自分が願ったとはいえ、とんでもないことが起きたものだ。

しかし……こんな平和な世界に飛んできたのだ。

今まで家族と呼んできた者たちが殺し合わない、最高に平和な世界。思わず、頬が緩んでしまうほどに。

 

 

 

死に損ないだが、せいぜい満喫させてもらうとしようか……

彼はそう心の中で呟き、再び微睡みに沈んだ。

 

 

 

 

 




・早くもUA数400オーバー&お気に入り登録15件等ありがとうございます……ありがとうございます……!(無駄に洗練された感謝の姿勢)

・今回は早く本編入りたいと思いながら足早で書きました。
非常に読みづらかったかもしれないです……

・スケアクロウや代理人のキャラや口調、ちゃんとあってあるかどうか非常に不安になっています……

・ご意見や評価等頂けたらモチベーションが急上昇してもっと頑張れます、気が向いたらつけてやってください。(露骨)
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